旅記録
2007 夏 北東北
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0日目 宇都宮 −東北新幹線・やまびこ→ 盛岡
2007/08/07
 仕事を切り上げて帰ろうとする俺のPHSには容赦なく電話がかかってくる。連休直前に駆け込みで仕事をしても連休明けに回しても大差ないだろうと心を鬼にして会社を後にした。出発に必要な荷物は全て持って自転車で会社に来て、家も戸締まりしてきた。今夜中に出発地である盛岡まで行くつもりだ。夕日を浴びながら駅へと向かっていく。
 駅の西口側に着いたら、さっさと自転車をばらして袋へと詰め込む。10日前に輪行したばかりなので手慣れたものである。切符を買って弁当とビールを買ってホームへと上がっていく。しかし、蒸し暑いホームで30分近く待たされる。
 時間通りに来た やまびこに乗り込んで、席に座ってビールを開ける。何はともあれ 今年も無事に迎えた夏休み そしてこの旅に乾杯。最後の一日 仕事をして輪行の新幹線に乗り込んで飲む一杯のビールの旨さは何にも代え難い。だんだん輪行の楽しみの定番になりつつある。チャリ仲間達にメールしながら新幹線は北へと向かっていく。
 盛岡は さほど遠くもなくたどり着いた。駅を降りて早々、雨が少し降っている。新幹線の中で そして降りたそばから波乱の幕開けを予感させる。自転車を組んでホテルへチェックインして荷物を整理して、すぐに出発できるように備えて、出発から続いているバタバタした状態も片付いてやっと眠りにつけるかと思ったら、ケータイの充電器が壊れている。慌ててコンビニへ買いに行ったが、どうもケータイの本体側が接触不良になっているようだ。少し傾けてテンションを掛けながらでないと充電できなくなっている。このケータイの寿命も長くないと思いながらも、何とか充電できるようにはなった。そして明日の予報は雨… 波乱の予感がするが、ベテランらしく楽しみを見つけながら乗り切っていこう。

旅の出発に乾杯


1日目 盛岡 → 雫石 小岩井農場 → 西根 → 松尾 69.58 km
2007/08/08
 予報通り朝から雨が降りしきる。ホテルの焼きたてパンで朝食を摂りながら今日の作戦を考える。部屋から台車で荷物を持ち出し、ロビーの前の軒下でキャリアを組み付けて、パッキングし完了したところでチェックアウトする。雨のホテルの軒先からの出発 何とも味気ない旅の始まりである。雨の出発というのは盛り上がりに欠けるものだ。最初からゴアのカッパを着込んで帽子をかぶってフードを洗濯ばさみで帽子に付けて走り出す。…すると洗濯ばさみがポキッと折れた。何だか上手くいかない出発である。
 盛岡から雫石の方へ向かう。少しアップダウンの多い国道を雨の中で耐えながら走っていく。途中、大学生の集団を2つほど追い越しながら力強く走っていく。大学生を追い越せるだけ30歳としては上出来である。相変わらず止む気配は無いが、多少は小降りになってきた雨に打たれながら進んでいく。
 10:30頃には小岩井牧場の方へと曲がる交差点まで来た。まずまずは 想定通りのペースで来ている。小岩井牧場へ向けて道は徐々に上り始めてきた。ホントはこの道の向こうには岩手山が見えているはずなのだろうがガスっていて全く見えない。それでも緩やかに登っていく牧場沿いの道を楽しんで走っていく。北海道のような、どこまでも広がっているゆるい丘の牧場という感じはしないが、本州では圧倒的な広さを感じる。山に登りながらだからか長く感じる牧場である。 観光するための施設があるところに立ち寄る。土砂降りの雨だが入場券を買って意地で観光する。何はともあれ屋根のあるところに入って昼食としたい。名物となっているジンギスカンと牧場の鶏の生卵での卵かけ御飯で昼食にする。臭みのないラム肉がうまい。卵も味がしっかりしてて良い。
 食を満喫した後は、牧場内を歩いてみる。ここも北海道と同じで真夏だというのにヒマワリが満開である。真夏といっても土砂降りの雨なので梅雨っぽい精神的状態なので違和感は無いが時期だけは不思議に感じる。そしてお腹をヒクヒクさせながら草を食べたり寝たりしている羊たちを可愛く思いながら通り過ぎていく。雨を避けるように土産物屋に入って物色するも、さすがに旅のスタートから自宅宛に何かを送るのも困りそうだし、実家に送るのにちょうど良いものも見つからないし後にする。併設されている喫茶店で乳製品系のデザートをいただく。チーズケーキとホットミルクで体を温める。牛乳を飲めない俺でも美味いと思ってしまう。レアチーズケーキも甘酸っぱくてこくがあって美味い。

盛岡 R&Bホテルを出発


小岩井牧場沿いの道


小岩井牧場のジンギスカン





 古くからある牧舎や博物館、小岩井乳業を見学して、さらに坂を登っていく。一度、岩手山を途中まで登って周りを回りつつ北へ向かおうという狙いである。どこまでも続く森と木の向こうに見える牧場を眺めつつ降りしきる雨の中を登っていく。雨で冷える体と蒸れて熱気の篭もる体に苦しみつつ進む。明日もハードなヒルクライムを控えているのに疲れがたまりそうだ。坂を上り詰めると予定通りに下り始めた。雨でブレーキも濡れているので効かないし、そんなにスピードも出せず不完全燃焼な下りとなってしまう。岩手山でも見えていれば気持ちの良い下りなんだろうけど、物足りない。
 坂を下りきると雨も止んで路面も乾いてきた。しばらくは交通量の多い国道沿いなので何の楽しみもない走りが続いていく。幅も狭いし、寒冷地ならではの荒れた轍が走りにくさを作っている。
 ある意味では東北特有の走りにくさを越えると、西根の道の駅にたどり着く。このあたりから徐々に買い出しをしていかないと今日の宿泊地は田舎なので食い物が調達できなくなる。食材と米とガスは最低限 手に入れる必要がある。まずは西根の道の駅で野菜や麺類を買う。ついでに西根名産のほうれん草を使ったほうれん草ソフトを食べてみる。ミルクの味に若干 負け気味でほうれん草の味はあまりない。まあ あまり青臭いソフトクリームもいやなので、こんなところだろう。
 西根の街でカセットコンロのガスを調達し、徐々に八幡平へ上がっていく道を進んでいく。微妙な上り坂が俺の足を苦しめる。徐々に暗くなっていく道、相変わらずさえない天気… 何とか今日キャンプしようとしていたキャンプ場にたどり着いたかに見えた。しかし、キャンプ場は閉鎖されている。ぱっと見 キャンプ場は使えなくもなさそうだが、誰もいない。ロープが張られていて車は入れない。当然ながら照明も点かない。一応、炊事場を見ると水は出るようだ。
 テントを張って荷物を放り込んで、すっかり暗くなってきた道を風呂に向かう。これが結構 遠い。しかも風呂は坂をユルユルと3km以上も下った後。つまり風呂の後で登ってこなければならない。これはきつい展開だ。温泉で疲れを癒してキャンプ場に戻ろうとしたら雨が降ってきた。どこまでも、思い通りに行かない旅に苛立ちすら感じ始めてきた。雨の中をキャンプ場に向けて登っていく。
 キャンプ場に戻って晩飯を作る。西根の道の駅で見つけた冷麺、野菜、豆腐、ジンギスカンで夕食にする。まずは冷麺を茹でて冷やす。そして火をそのままにフライパンを載せてジンギスカンを焼く。最初は豆腐を入れてみようかと思ったが、豆腐を一口つまんでみると、やたら美味いので冷や奴にした。醤油など要らないかと思うほど豆の味が濃い。具はキュウリしかない冷麺をツルツルと食べつつ、ジンギスカンを焼く。たれの沁みたラム肉がうまい。夕食でしっかりスタミナも付いたような気がする。誰もいない真っ暗なキャンプ場で食器を洗って眠りについた。

小岩井牧場から登る道 …雨


道の駅 西根 ホウレンソウソフト


盛岡冷麺(具はキュウリのみ)


自作ジンギスカン

西根の青豆豆腐の冷や奴


   出発(岩手県盛岡市)から 69.58 km

2日目 松尾 → アスピーテライン → 見返り峠 →大沼 35.15 km
2007/08/09
 誰もいないキャンプ場で雨は止んで晴れていた。夜中にパラパラと降った跡はあり、テントはわずかに濡れている。バサバサと水を飛ばしてしばらく放置しながら他の荷物を片付ける。テントが少し乾いてきたところで畳んで誰もいないキャンプ場を撤収した。さらさらと流れる小川がある道を徐々に八幡平へ向かって上っていく。さきほどのキャンプ場はトイレが無かったので、大はしていない。博物館など寄ってはみるもののトイレはない。峠に登り始める前の道の駅もトイレが開いていない。ややピンチではあるが、道の駅が開くのを待たされる。何とか開いた道の駅でトイレを済ませて情報収集をして、坂へのアタックを開始する。
 スタートから容赦なく厳しい傾斜が襲いかかる。徐々に日も高くなり熱気が増してくる。軽く10%は越えようかという傾斜が続くが登れば登るほど目に見えて下界の展望はひらけてくる。岩手山や他の山々に下界の盆地が見えてくる。時々、足が止まれば景色を振り返りつつ楽しんで登っていく。時折、車で旅する人に励まされながら坂を登っていき、雨上がりで蒸し暑いシェルターを抜けつつ進んでいく。ここまで本格的なヒルクライムは久しぶりであるが、旅の始めの方に設定しておいて良かったと思うほど、体力は残っているし、足は動く。
 しばらく登っていくと松尾鉱山の廃墟とひらけた下界…というミスマッチの美というか不思議な景色の場所へとたどり着く。峠の見返り峠にたどり着くまでには、おそらく最後と思われるドライブインで休憩しつつ昼食にする。店もあって食えるモノも売っているので助かる。ただ、風が強くなってきたので昼食の容器が飛ばされないように注意が必要だ。
 昼飯の後にも容赦のない傾斜が続いていく。見下ろす草原と松尾鉱山跡の廃墟、そして下界の眺め… いろいろなミスマッチが合わさって不思議な景色を醸し出している。そんな景色を心底楽しみながら傾斜と戦っていく。10%を越える傾斜が続くが、豪快な傾斜と鋭く曲がるカーブ 見下ろす眺めだけは豪快。でも走りは なかなか進まない苦しさ。そしてたどり着いた標高1300mの展望台からの眺めは豪快そのもの。さっきの松尾鉱山跡も遠くに斜面沿いに広がる笹の草原、その先に見える松尾の盆地。右の方は岩手山(上半分は雲に覆われていたが)が見える。開放的で豪快な眺めにしばらく見とれる。こういうのを眺められて、体力でここまで来た歓びがあって歓びは増幅されるのだ。だからこそヒルクライムはきつくてもやめられない。そんな景色を楽しんでいると、関西人の老夫婦と話が盛り上がった。新車のESTIMAで楽しみながらドライブしている。見送って原生林側を眺めていると今度は別のどこかの会社のお偉いさんっぽい人にも話しかけられる。一般人にかわいがられるサイクリストでありたい俺としては嬉しいことである。
 しかし、ここからは傾斜は緩くなるモノの天気が崩れ始めてきた。坂の上は霧に包まれている。リフレクタを点滅させてライトを点滅させながら進んでいく。時々、視界は完全に消えてしまう。また時々、下界に原生林が広がる。小さな沼が見えたり、何も見えなくなったり… そして本格的に雨も降り始めてきた。さっきまでの好天に炙られながら登ってきた前半戦と異なり緩い傾斜と悪い天気の中を進んでいく。途中にある湿地帯で少し休憩しつつ観光していく。天気が天気だけに盛り上がりに欠ける。高低差的には終わりが近付いている峠ではあるが、天気に不安を感じるばかりである。霧の中で後ろから来る車に轢かれないようエンジン音に細心の注意を払う。
 そんな寒く暗い峠も、いよいよクライマックスを迎えつつあるのか、最後に少し厳しい傾斜が来たあとで平になってきた。霧の向こうの気配は山ではない。左側には駐車場が見えてきたが車が止まっている気配はない。そんな駐車場の横を越えると前に分岐の看板が見えてきた。そして看板を抜けると交差点とドライブインがあり、八幡平アスピーテラインのピークである見返り峠にたどり着いた。この旅で最大の山場を越えた達成感と、この年でまだまだこれぐらいの本格的なヒルクライムを余力を残して走りきれる歓び、いろんな感情がこみ上げてくる。しかし、もう少し天気が良ければ最高なのだが…。霧の中を走る車に轢かれないように気をつけながら見返り峠の看板に自転車を止めて写真を撮る。
 割とそそくさと峠を後にして下りに向かう。しかし、ここから自転車の姿勢を維持できそうもないほどの横からの突風に見舞われた。もちろん雨も厳しく降りしきる。一度足を止めて端に寄せて風がおさまる隙を待つ。ゆっくりと進みながら下って行く。しかし、あまり遅いと風に煽られて姿勢を崩すので程よくペースを保ちつつコントロールできるスピードを維持する。
 少し進むと風上が山だからか風は少しおさまった。容赦ない傾斜と雨で効かないブレーキ。とにかく自転車のコントロールに苦戦しながら下っていく。どんどんブレーキシューが減っていくのを実感するが傾斜が厳しいのでスピードを殺すことが最優先である。節約しながらも、どんどん減っていくのを実感し不安を覚えながら下っていく。やはり雨の日はすり減りやすい。全く展望もない、というより眺めを楽しむ余裕など全くない下りを進んで、いくつかの温泉があるもスルーして進んでいく。
 土砂降りの雨の中でたどり着いたのは、今日キャンプする予定でいた大沼。広い沼も見えるしキャンプ場もある。しかし、こんな雨の中でテントを張る気は起きない。スルーして下るのも良いが、明日の天候回復を待って下る方が賢明だ。宿はちょうど温泉旅館もあるし、そこに泊まれないか検討する。どうやら部屋に空きはあるようなので大沼温泉の宿に落ち着くことにして今日の走りは終了とした。
 部屋に入ってずぶぬれの服と荷物を全て置いて荷物は干す。そして着替えを持って風呂に。沼を眺めながら風呂に入って体を温めて疲れを取る。一日頑張ったというか頑張らざるを得ない状況だったため気持ちのいい風呂である。風呂上がりに部屋でのんびりしながらケータイでBLOGを書こうと思ったら、見事に圏外。たまには、そんな人里離れた暮らしというのも良いだろう。
 そして待望の夕食だ。まずは今日の最大の山場を乗り切った自分に乾杯。昨夜は寂れたキャンプ場でビールレスだったので、うまさはひとしおである。焼き魚に豚肉にきりたんぽと郷土料理が続く豪華な夕食にビールも飯も進む。
 しっかり栄養補給をして部屋に戻り、眠りについた。猪苗代で初日にわずかだけ晴れたのをのぞくと東北地方で8連敗中。明日こそ天気の回復を 心からの祈りもむなしく窓の外は雨音が鳴りやまない。

誰もいないキャンプ場の朝


大沼と下界の眺め


松尾鉱山跡


源太岩展望台からの眺め@


源太岩展望台からの眺めA


おそらく熊沼


黒谷地湿原


岩手-秋田県境 見返り峠



   出発(岩手県盛岡市)から 104.73 km

3日目 大沼 → 玉川温泉 → 田沢湖 65.11 km
2007/08/10 (レンタカー) 田沢湖 → 盛岡 → 田沢湖
 連敗ストップへの願いもむなしく、朝から雨が降りしきる。気分的に冴えないとかそういう次元の話ではなくブレーキシューの残りが少なく、しかも予備が無いのだ。これからも急な下り坂が続くことが予想される山岳コースでありながらブレーキを節約しないといけない難しい状況である。とにかく田沢湖町まで下って、どんな手段を使ってでも予備のブレーキシューを手に入れる。そう心に決める。
 旅館の朝食を満喫して、準備してゴアのカッパを着て出発。とにかく先を良く見ながらメリハリを付けながら走っていくしかない。当然、下りはこがない。傾斜は昨日の下りほどはきつくないのでブレーキが節約できる。下りきって国道に出ると上り坂が始まった。そんなに上り坂が好きなドMではない…と言えば嘘になるが、今日ほど下りではなく上り坂で距離を稼げるのが有り難い日はない。土砂降りの雨に打たれながら深い森に包まれた道を上っていく。傾斜は昨日のアスピーテラインと比較したら全く大したことのないレベルなので助かる。体も昨日は余力を残せたからかキレがある。どこまでも続くブナの森を楽しみながら進める。
 峠には湿原があり少し開放的な景色を楽しんで、一応ブレーキをチェックしてから下り始める。迫力がありすぎる傾斜の下り坂が始まった。急なカーブと坂が続く。雨は多少は止んだのでブレーキの減りは少ない。ここでもスピードにメリハリを付けて最小限のブレーキで下っていく。玉川温泉のあたりも通り過ぎて、川沿いの道に出たところで傾斜が落ち着いた。交差点も通行車両もほとんどいない道で、やっと安心して進める。そして惰性で止まったところのドライブインに立ち寄って昼食にする。
 秋田県といえば稲庭うどんでしょう。細くつるつるした柔らかい麺の食感が楽しい。冷たいつゆによく合う。素麺よりボリューム感もあり満足である。稲庭うどんは秋田を走っている間に何回かは食べそうなほど美味い。
 また雨が降り始めた道を走り出す。ゆるい下り坂が続く川沿いの道。ブレーキも必要ないし力強くこぐ必要もない。ブレーキが不要なのがとりあえずは助かる。しばらく走ると雨も止んできた。安心してカッパを脱いで走ってダムの展望台でチャリステレオの電池を入れ替えようとしたら、また土砂降りの雨が降る。今度の土砂降りはハンパじゃない。粒の大きさと密度。まさに土砂降り。そしておさまる気配も感じられない。強行突破で再び走り出す。道は平らだが一部では冠水している。雨の中でも力強く走り抜けていく。雨に対する怒りをぶつけるかのように進んでいく。
 そんな熱いような寒いような走りが一段落して田沢湖へ近付くと雨も小降りになってきた。湖畔へ行く道へは向かわず田沢湖の駅へ向かう。何はともあれブレーキシューの予備が欲しい。久々に街が見えてきた。そして田沢湖駅へ到着。

大沼の八幡平レークイン


森の中を進む道


稲庭うどん 細麺の食感が楽しい

 まずは駅前で自転車屋を探す。そう何軒もないので回ってみる。しかし、MTBのVブレーキシューを扱ってそうな店などない。これは盛岡へ行って買うしか無いだろう。まさか自転車で行って帰ってくる時間と体力はない。ここは金持ってる社会人の意地で何とかするしかない。自転車を駐輪場に置いて、電車で行くかレンタカーで行くか考える。電車もそこそこ本数はある。何しろ秋田新幹線が何本も来る。しかし、万一 店が郊外しか無い場合も考えるとレンタカーの方が良さそうだ。ということで駅前のレンタカー屋を回って車を借りる。
 よりによってHonda Fit(05M)だ。開発に携わっていたので運転しなれた車を転がして盛岡へと向かう。昔、日本縦断したときに行った田沢湖から盛岡へ抜ける仙岩トンネルを通っていく。峠を越えて長いトンネルを下りながら抜けたあの日を思い出す。あのころよりは路面もよくなって下りきったところに道の駅ができたりで、走行環境も良くはなったが道の狭さは相変わらずである。当時は車より速いぐらいのスピードで下っていた怖いもの知らずな若者だったのだが、これは迫力のある峠である。
 峠を下りきって、盛岡から雫石に向かった懐かしい道を抜けて盛岡市内へたどり着いた。駅のすぐそばに自転車屋が見つかった。しかも、見るからにロードやMTBを取り扱っていてVブレーキぐらいあっさり手に入りそうな店だ。車を駐車場に置いて、自転車屋へ入る。無愛想なおじさんと話をして何とかVブレーキと、さらに予備を前後1セットずつ手に入れた。街中のアウトドアショップに立ち寄ってランタンのマントルを買おうとしたが、石井スポーツ盛岡店は見つからず。それは断念して田沢湖へと帰っていく。先ほど降りてきた峠をFitで登りトンネルを抜けていくと、すっかり日が暮れた。運転しながらラジオで予報を聞くと、ついに明日から晴れるようだ。未だに信じていないが、希望を託す。
 車を返したら、駅前の食堂で夕食にする。何の変哲もないトンカツ定食で腹を満たしてからコインランドリーへ洗濯しにいく。明日は秋田市まで行くのでコインランドリーには困らないと思うし、まだ着るものはあるが何となく流れを断ち切りたい そんな思いで汚れた洗濯物を全て洗濯する。雨上がりの湿気はあるものの空には星が見えている。盛岡を出発して星空を見たのは初である。
 ブレーキシューを買いに行くのにやっとで、何の段取りもしていないがケータイで銭湯と公園を探す。明るいうちにやっておかないと、どうにもならなかった数年前と比べたら世の中は本当に便利になったものだ。風呂を見つけて入って体の汚れを落とす。そして公園へと向かう。ちょうど大学生の集団もキャンプしようとしていた。軽く挨拶をして、元気な挨拶を返してもらえて 今時の学生にしては好感もてる奴らだなぁと思いながらテントを張り眠りについた。


   出発(岩手県盛岡市)から 169.84 km

4日目 田沢湖 → 田沢湖畔 → 角館 → 秋田 108.84 km
2007/08/11
 久々にテントの天井にまぶしさを感じた。黄色いテント越しに空の青さが分かるようだ。期待を胸にテントのファスナーを開けると雲一つ無い快晴。この天気を待っていた。久々の太陽に濡れたものを浴びせて乾かす。あっという間に色んなものが乾いていく。すり減り尽くしたブレーキシューも交換する。あと2mm程度しかゴムが残っていない部分もあり危機的な状況だったようだ。新しいブレーキシューにしてワイヤも調整しトーインも付けてブレーキのメンテナンスは完了した。厳しい試練の続いたスタートだったが、良い意味でベテランとしての手応えを感じるし、頭も使えるだけのお金も使いつつよく乗り切れたと思う。これからの走りも前向きに力強く、ベテランらしく乗り切っていきたい。
 安心したところで手を洗いに行きつつ、手洗い場の前に置いてある大学生達のランドナーを見ると見覚えのあるワタナベのエンブレムシールが貼ってある。もしかして静大生? 話しかけてみると、どうやらそうだったようで驚きだ。こんなところで後輩達(…と言っても俺は部活は半年でやめてしまったのだが)と会うとはホントに世の中は狭いものだ。静岡大学のサイクリング部の良い意味での伝統というのは受け継がれていて、話しているだけで俺の若い頃を思い出してしまう。良い意味で刺激をもらって、一緒に記念撮影もして撤収してそれぞれの旅路へと旅立っていった。
 俺も公園を後にして昨日は土砂降りの雨のためスルーした田沢湖畔へ向かう。ヒルクライムや雨で足に疲労がたまり始めてきたか、少しずつ走りに重さを感じ始めてきた。久々の田沢湖の湖畔に出た。真昼の太陽と青い空を写して明るい青に湖面は染まっている。これは湖畔の走りが気持ちよくなりそうなコンディションである。
 …と思って走り出したらチェーンが外れてロー側へ落ちてしまった。1996年の日本縦断で泊まったキャンプ場の前で修理する。どうもツキが戻ってきたのか、相変わらずツキに見放されているのか分からない。致命的な事象ではないのでさくっと直してまた走り出す。
 風もなく静かな青い湖面を眺めながら湖畔を走り抜けていく。乾いた路面、十分なブレーキシュー、晴れた空… こういうサイクリングをできる日を待っていた。盛岡から続いた雨の日々が振り返っても長く感じる。湖畔の道をのんびりと流しながら進み、途中にある1カ所だけの峠を越えていく。ここのところ山岳コースが続いていたので、上り坂は足の疲労が響く。そして久々の夏の日差しは容赦なく暑い。暑さと雨…どちらを選ぶかというと暑い方が俺としては雨よりマシだ。
 そして田沢湖で一番有名なビュースポット 辰子像に到着。湖の向こうにそびえ立つ駒ヶ岳もよく見えるし、金色の辰子像は輝いている。静かな湖面は美しく神秘的である。人が多い中で人のいない写真を撮る苦労しながらも、何とか一枚をおさめた。日陰で休憩して涼みながら湖を眺めていく。

田沢湖畔を走るランドナー


田沢湖の湖面と駒ヶ岳


田沢湖 辰子像

 そんなモチベーションの高さからか、割と早く角館に到着した。駅で市内地図を手に入れて、観光がてらまずは昼食だ。比内地鶏とか食べたいところだと思っていたら、ちょうど郷土料理屋っぽい店が見つかり、看板には「比内地鶏」と書いてある。古い農家を模した雰囲気でこぎれいな感じでいい。ライダーの集団が入っていきそうな感じだったので自転車でソロという身軽さを生かして先回りした。そして、頼むものは比内地鶏の親子丼だ。比内地鶏の卵と鶏肉を使っていて、御飯は当然ながらあきたこまち。秋田県の味を凝縮したものになるだろう。そんな期待を載せて親子丼はやってきた。蓋を開けると良い香りが立ち上る。鶏肉も卵も味がしっかりしていて美味しい。鶏肉の心地よい歯ごたえを楽しみながら、親子丼の美味しい感激は通り過ぎていく。付け合わせで出てきた小茄子のみそ汁も茄子の風味が夏を醸し出す。そして冷や奴の豆腐もさりげなく美味しい。東北らしい素朴な漬け物もいい。味に関しては満足であったが、一つだけ不満がある。庶民の味方のはずの親子丼ではあるが量が少ない!! やはり比内地鶏は高級品だから仕方がないのだろうか。
 満足して店を後にして、角館の武家屋敷街を自転車で散策する。冬に来たときは、武家屋敷に雪が積もっていて風情の良さがあったが、今は真夏の太陽と新緑の木々。あのころとは違う良さがある。きっとここは季節によって違う良さが楽しめるのだろう。春や秋など休みが取りにくく、少し寒い時期だとどうなるのだろう。うっそうとした樹齢と木の大きさに歴史を感じる柳などの木々が続く古い家々が建つ町並みの雰囲気はいい。こういう小京都といった感じの町並みに行くことは歓びである。いくつかの武家屋敷を見物し、街の雰囲気を味わいながら、ゆっくりと自転車で流していく。
 とは言っても暑い。小豆を煮込んで固めて乾燥させる角館の銘菓もろこしの店が建ち並ぶところを歩いていると、もろこしソフトというものを発見。美味しそうに頬張る人を見たら我慢できず店に駆け込んだ。あまりの暑さにとけるのも早い。急いで写真を撮って頂く。ソフトクリーム一本でだいぶ回復してきた。店主と色々と話しながら、お茶ももらいながら、もろこしを試食させてもらいながら休憩していく。せっかくだし、もろこしは保存が利くので買っていくことにした。店の表でくみ上げている井戸水をボトルにもらって角館を出発した。
 残りの距離を見誤っていた。まだ秋田まで50kmもある。すでに時刻は14:30。そして気温は34℃ まだまだ真夏の日差しは厳しい。ここから地獄のロードが始まる。下り基調なので多少は走りは楽だが、自転車が止まると体の回りにまとわっている熱気が汗を誘う。そして、チャリステレオから流れるBGMはB'z。真夏の灼熱の太陽と燃える気持ちと燃えそうな音楽で熱い走りが続いていく。B'zのメロディーに乗ってランドナーは力強く秋田へと向かっていく。
 秋田市内へ入り、国道がバイパスとなって道路構造に伴うアップダウンが増えてきた。今日は久々の100km越えを果たしそうな走行距離だ。疲れも出てきた。最後の力を振り絞って秋田の市街地を目指す。やや太陽も傾き掛けた頃、秋田駅前に到着。色々な想いがあったがまずは秋田での中〆までをしっかり決めれた歓びがわき上がってきた。ドリンクをフレームに当てて軽く乾杯である。
 歓びの余韻に浸りながら携帯電話で調べ物をする。まずは風呂… これが遠くて分かりづらい。そして携帯の充電がいよいよ無理になってきたので、auショップを探す。これも何故か遠い。そしてランタンのマントルが弾切れなのでアウトドアショップを探す。石井スポーツが近くにあるようだ。閉店時間が早そうで優先度が高い携帯電話屋へまず向かう。閉店間際の店に駆け込んで機種変更を申し込む。モノはやや大きいが今回からPにしてみる。携帯屋のお姉さんもあきれるほど適当な機種選択である。盛岡から仙岩を越えてここまで来たんですか!?とお姉さんに驚かれたが、「いや、八幡平から回ってきました」と言うと絶句。
 そんな心温まるやりとりを終えて、石井スポーツへマントルを買いに行く。マントルは売り切れで見つからず。ランタンは諦めるしかなさそうだ。すっかり真っ暗になった秋田の街で銭湯を探したが、もう見つからない。公園も少しやばそうなところしかない。意を決して駅前でホテルを確保して宿に泊まることにした。繁忙期ではあるものの、飛び込みで宿を確保し、自転車は公営の地下駐輪場に置いて着替えなどの最低限の荷物を取り出してホテルへ行く。チェックインしてシャワーを浴びてサッパリした。
 ホテルを出て飲みに出かける。ホテルのすぐ近くに長屋のような形をした居酒屋を見つけた。秋田の郷土料理もいっぱいありそうな感じで入ってみる。真ん中にいる女将を囲むように作られたカウンターは少人数の旅人ばかりのようだ。そして一角に一席だけ空いていたので、そこに座れた。まずはビールで乾杯である。真夏に旬を迎える秋田の岩ガキや比内地鶏料理や魚など秋田の味覚を満喫する。隣に座っていた大学の講師や逆の隣に座っているカップルなどと会話が盛り上がってしまう。そして感じの良い母のような女将とも意気投合した。カウンターに座る旅人たちと会話が盛り上がり楽しい夜となった。明日からの旅へモチベーションがさらに上がった。ひとまずは、真夏の東北 山岳ステージはこれにて終了。明日からは海中心のコースだ。アップダウンと暑さが厳しいと思われるが頑張ろう。
 割と遅くまで飲んでしまったが、ホテルに戻って眠りについた。

美味!! 比内地鶏の親子丼


角館 武家屋敷街


武家屋敷


角館銘菓 もろこし


もろこしソフト


もろこし屋の井戸水


秋田長屋酒場 (次の日の朝の様子)



   出発(岩手県盛岡市)から 278.68 km

5日目 秋田 → 男鹿 寒風山 → なまはげライン → 北浦 58.90 km
2007/08/12
 今朝も順調なまでに天気は良い。ただ、疲れは少し残っているような感じがある。やはり昨日の100kmは足に残る。何はともあれ出発だ。真夏の日差しを浴びながら秋田の街を駆け抜けて海へそして北へと向かっていく。海沿いの自転車道を目指していく。少しでも内陸だと照り返しが暑いので、さっさと海沿いに出たい。
 そして、日本海に出た。海無し栃木県から出発して内陸・山岳ばかり続いた今回の旅で初の海である。海の開放感と明るさが気持ちいい。これだけ天気がよければ日本海も穏やかな青い海面である。高い波で荒れているイメージなど欠片もない。海沿いの細い自転車道を走って行く。どこまで、こんな調子で走れるのかと期待したら自転車道はすぐに終わってしまった。結局、車道を進んでいく。防風林が邪魔で海は見えない状態が続く。まあ仕方がないか。
 平地を順調に走り、男鹿半島の入り口へ徐々に近付いていく。寒風山に日本海沿いのアップダウンが楽しみだ。男鹿半島の観光情報案内所には巨大ななまはげ像が立っている。徐々に男鹿半島の雰囲気が出てきたような感じである。
 秋田県を北に上がっていく国道から男鹿半島へ行く交差点を曲がる。コンビニで水などを買って、最初の観光スポットであり山場の寒風山(かんぷうざん)へと登り始める。冴えない体、どんどん上がっていく気温、灼熱の太陽、意外と急な傾斜に体の底から参ってしまう。久々にグロッキーな状態で坂を登っていく。きついと感じる上り坂は今まで何度もあったが、ここまで体にも神経にも応える坂は本当に久しぶりで対処に困ってしまう。
 何度も休憩しながら登っていくと昼には展望台に到着。すでに足もフラフラしているし、頭もくらくらする。売店が建ち並ぶ日陰で休憩し、昼食にする。店で飯は売っていたので、買って日陰で食う。だが、そこからの景色は素晴らしい。八郎潟や日本海が見渡せる。店からお漬け物を差し入れしてもらえた。塩分が今の体には有り難い。食事で少し体力が回復したところで、小高い丘を歩いて登って景色を眺めに行く。パラセーリングの練習している人たちを見つつ登って景色を眺めると、その見事さに吸い込まれそうな感じである。晴れた秋田平野と八郎潟と日本海。緑と青が美しい。丘を歩いて折りながらパラセーリングの練習をしている女性と話をして、続きの厳しい坂を登って寒風山の山頂を目指して動き出す。
 ここからの傾斜はハンパじゃない。GWに行った小豆島寒霞渓の坂の比ではない傾斜が続く。確実に20%は超えていると思われる。足を止めたら自転車が後ろに下がるし、止めようにもブレーキを掛けないと止まらない。短く繋ぎ全力でペダルを踏みしめて登っていく。そして、頭も体もフラフラになって寒風山の山頂にたどり着いた。より景色が開けた感じで、今度は寒風山の火口跡のお椀が見事に見える。そこにパラセーリングが舞っている。そしてその先には男鹿半島を見渡せる。振り返ればさっきまで見ていた八郎潟もより全体像がハッキリと見え始めた。頑張って登って来た甲斐があったと思える景色だ。山頂で他の客からは驚嘆の目と口調で話しかけられる。
 急過ぎる坂に気をつけて下る。ブレーキはフルに掛けても停止はできないほどの傾斜だ。火口の周りを回りながら下って、一度登り返しがあったが、登り返す体力もないに等しい。時間帯もさっきの登りでロスが大きく既に15:00を回っている。目標としている場所までは距離もあるしアップダウンも多い。そして風呂は17:00までに行かないと入れない。体は付いてこないが焦りのようなモノも少しあるのは事実。そして、下っていく。相変わらず急な傾斜が続く。

なまはげ像


寒風山 山頂からの眺め@


寒風山 山頂からの眺めA


寒風山 山頂を望む


寒風山からの下り

 左への急なカーブを曲がろうとすると、Rが急になるところで傾斜が変化しコントロールを失った。全力で左に倒しながら曲がるが曲がりきれず対向車線に飛び出した。対向車線にはエルグランドが。この一瞬に死を覚悟した。全力で体重移動で左に倒してブレーキをフルに掛けて回避したが、正面を除けたモノの相手のサイドに激突。転ぶ瞬間をスローに感じるほどではあったが転倒した。完全に死ぬかと思ったが意識はハッキリしている。そして動けなくなるほどの激痛はない。肩、腕、腰、首、股、膝、足首、指どれも問題なく動く。肩と腕を軽くすりむいているぐらい。頭を打った記憶もないし転ぶ瞬間もハッキリ覚えている。後で腫れて来るところもあるのか不安だが体は問題なさそうだ。自転車の方はフレームは曲がっていない。ホイールも普通に回転する。ペダルも回る。ただ、フロントキャリアの差し込み固定部分がずれてしまっている。力業で戻したら簡単に戻った。自分の状況を確認していると相手の運転手が降りてきて声をかけくれた。どうやら大丈夫なようだ。相手の車は運転席ドアより後ろの右側面に傷と凹みができてしまっている。とりあえずは警察を呼んで事故処理を行う。土地勘もないのだが、相手の方が対応してくれて何とか事は進んでいく。警察の話が終わったところで、保険会社にお互い連絡を取り指示を仰ぐ。何とか連絡先は交換して、最大限 介抱してもらって俺の救急セットで傷口だけ消毒して、自転車を軽く直して荷物を整えた。今のところは何とか継続して走れそうな状況ではある。事故処理をしながら、懲罰的な意味で旅を打ち切るべきかと考えたが、警察の方も事故の相手の方も俺の旅を応援してくれる言葉をかけてくれた。これは体と自転車が無事である以上は腐った終わらせ方をしてはいけないと考えた。相手の方に近くのキャンプ場まで教えてもらい、とりあえずその場はお詫びをして別れた。
 ゆっくりと坂を下って、海沿いの道は断念して半島の真ん中を貫く なまはげラインを10kmほど走った場所にあるキャンプ場を目指す。夕暮れのアップダウンが続くまっすぐな快走路を進む。事故の精神的ショックで考えることも多いが今は走りに集中しよう。上り坂も力を入れすぎず、ほどほどに流していく。下りは細心の注意を払ってスピードを殺す。どう考えてもコントロールを失うことはあり得ないというスピードで走る。
 そして日も暮れかけた時間帯にキャンプ場へ到着。芝生のサイトにテントを張り、やっと落ち着きを得た。考えることは多いが、まずは風呂へ入りに行く。時間を追うごとに痛みが出るかと思ったが、そういう雰囲気もなく安心している。温泉で体の汚れを落として湯船に浸かろうと思ったがすりむいたところが痛くて入れないので断念。さっさとあがった。温泉で夕食の簡単な食材は売っていたので買っていく。
 考えることは多いが、あえて考えず夕食にした。比内地鶏の炊き込み御飯の素を御飯に入れて炊く。キュウリに男鹿半島の塩を付けて夕食にする。舌が肥えているからか、あまり炊き込み御飯がうまいと感じないところが残念。

男鹿半島の塩


買っておいた比内地鶏 鶏めしの素


比内地鶏の鳥飯

 夕食の食器を洗い、洗濯と乾燥を終えてやっと落ち着いたところで考え始めた。何はともあれ結果として体も自転車も無事、そこは不幸中でありながらも最大限に幸いと言える。サイクルツーリング歴10年を越えてベテランでありながら…というより、ベテランとしての驕りが事故を招いたと思える。やはり、あのタイミングでは焦っていた。昔から考えているのは事故の起こる回数というのは、距離あたりで事故に遭う確率×距離なのだ。距離は長い。ということは確率をいかに下げるかが大事なのかということだ。いつでも細心の注意を払って走る。そうすることで確率を下げて、距離が4000kmだろうと5000kmだろうと事故に遭わずに走る。そんなことは19歳の俺ですらできていた。30歳の俺ができていたか? いや、あのときはどう考えても忘れていただろう。決して調子の良くなかった今日にして登り返しで疲れ切って集中力が落ちていることを忘れていた。そこは30歳という年齢で体力も峠を越えて、落ちる体力、付いてこない体とどう付き合うかを考える年齢である。そして、俺はこの旅で何をゴールにしているか? 最後に青森まで走りきること この先では距離を縮めてショートカットする案はいくらでも立つコース設定にしているはずだ。今日の夕方の目標がそこまで大事なのか? 焦って走らなければならないほど大事なのか? 決してそうではないはずだ。やはり社会人になっての自転車旅というのは計画の守りきりというのは無視できない。とはいえ、それを無理してカバーすればこういう結果に至るのである。明日からは、最大限ショートカットの青森ゴールでもいいじゃないか、最悪は走りきれず どこか近い街をゴールにして撤収して次回以降に回してもいいじゃないか そんな気持ちで走ることにしよう。日々の目的地・ゴールなど忘れよう。目の前の走りだけに集中しよう。そんな19歳や20歳の頃に考えていた初心を思い出した。俺のゴールは明日 ある街にたどり着くことではない。体が動かなくなる年齢まで何らかの形で自転車を楽しんでいることだ。今一度、1mずつでも集中して走っていた初心を思い出そう。
 いろいろと考えた夜は過ぎて眠りについた。まだ体には痛みはない。骨折とかは、一応なさそうだ。

 この場を借りて、交通事故に際して、相手の方、事故処理に当たって頂いた秋田県警・男鹿警察署の方々に心よりお詫びと同時に心より感謝を申し上げます。


   出発(岩手県盛岡市)から 337.58 km

6日目 北浦 → 入道崎 → 北浦 → 大潟 67.79 km
2007/08/13
 朝起きてみて、気になるのは体の痛み。やはり打った肩などは打撲はあったものの骨に来るような痛みはない。朝食に稲庭うどんとギバサを合わせて食べる。秋田の居酒屋で〆に食べたギバサうどんが忘れられず作ってみた。しかし、つゆの味が足りずいまいちなものとなってしまった。それでもネバネバしたギバサは体に良さそうな感じでいい。事故まで少し頑張りすぎていた精神面が楽になったような気がする。
 多少は気楽な気持ちで走り始めた。今日も天気は良い。キャンプ場を出たら、いきなり坂が始まる。少し丘の上にあって湖の眺められる八望台へ向かう。急ではないが、そろそろ疲れのたまってきた足には重くのしかかる。展望台の駐車場はキャンピングカーがいた。昨夜のキャンプ場もキャンピングカーが多かった。男鹿半島が集まりやすい場所なのか、静かなブームが来つつあるのか、少し気になる。湖側の眺めより背後の男鹿半島の海岸線を見渡せる景色が素晴らしい。
 そして、下り。これほど怖いと思うことはない。さほど急ではないのだがトラウマが頭をよぎる。インベタ、アウトベタをきれいにトレースしながら曲がれるスピードまでしか出さないように走っていく。海沿いに岬へと向かっていく。厳しいアップダウンが続く。左側には岩で複雑な形になった日本海らしい海岸線が続く。真っ青な海、黒い岩、緑の草… 複雑で開放的な景色を楽しみながら意外とアップダウンに耐えられている体に手応えを感じながら進んでいく。左に海、右に草原を眺めながら、意外と順調に走って気になれば写真撮影を容赦なくしながら進むと、正面は開放的な草原になってきた。駐車場や売店そして岬の灯台が見えてきた。ようやく男鹿半島の先端である入道崎にたどり着いた。そして、この入道崎はちょうど北緯40度 思えば遠くに来たモノだ。

ギバサ 稲庭うどん


八望台からの眺め


男鹿半島の海岸線


北緯40度線 入道崎

 平らな岬の草原を散策する。草原から切り立った崖の向こうに広がる真っ青な日本海が気持ち良い。こういう草原と岬という風景は珍しい感じがする。普通は日本海側の岬というとハードな坂を登らされて険しい崖の上にあるようなところが多い。ここは、散策するのも平で楽だし、草原でごろ寝したくなるような雰囲気だ。真夏の日差しは相変わらずだが、270度広がる海から吹いてくる風は多少 涼しさを感じる。せっかくなので灯台に入場料を払って入ってみる。長い螺旋階段を上って頂上にもあがってみる。高いところの苦手な俺はキンタ○が縮みあがるような恐怖を覚えながら岬の眺めを満喫する。草原と岩と岬 そして海という感じの景色がいい。岬の博物館を見物していると保険会社から電話が来て昨日の事故の件で話が進んだ。
 いろいろ思うところはあるが、昼食にする。岬には店が多くて何でも選べそうだ。当然、俺が欲するは魚介類。海鮮系になる。男鹿半島のウニで作るウニ丼とサザエの壺焼きを頼んでみる。確かにウニは美味い。しかしウニのボリュームで言えば去年の奥尻島を知る俺にしては物足りない。それをここで求めるのは酷だったか。サザエの壺焼きは醤油にとけたサザエの出汁は一滴も逃せないうまさ。貝も歯ごたえと香りと味が良い。店は昼時で混み始めたので、店の表に出て一服しようと思ったが、貝やイカを焼く熱気と外の日差しで暑い。男鹿半島入りしたときから気になっていた、サイダーを買ってみる。豪石サイダー 超神ネイガー と書いてある。「泣く子はいねぇがー」というなまはげをもじっているのだろう。味は至って普通…。

入道崎の海岸 東北版 橋杭岩


ウニ丼とサザエ壺焼き


入道崎灯台


超神ネイガー 豪石!サイダー

 半島の内陸部にあるなまはげ伝承館に向けて走り出す。なまはげロードを進んで行く。相変わらずアップダウンが多い。そしてなまはげ伝承館へと曲がる分岐。田舎道で凄い傾斜が見えてきた。底に備えてシフトダウンをした そのとき、またチェーンがロー側に落ちた。どうもディレーラーの調整がよろしく無いようだ。汗だくになりながら直して、また登っていく。ハンパじゃなく急な坂をヒィヒィ言いながら登っていく。森に面しているので日当たりは避けているのだが、熱気と傾斜による体温上昇がきつい。へとへとになりながら、なまはげ館にたどり着いた。古い民家のような伝承館ときれいな博物館が建ち並ぶ。まずは伝承館へ行ってみる。ものすごく人が多い一室へと入っていく。しばらく待っていると、説明員が説明を始めた。そして、窓や壁をドンドンと叩きながらやってくる男達がいる。がらっと戸を開けて四股を踏んで入ってくる。そう、なまはげである。観客のいる一室を歩き回りながら「怠け者はいねぇがー 泣く子はいねぇがー」と叫びながら、時々 泣き叫ぶ子供を抱きかかえたりしている。そしてなまはげ問答と呼ばれる、なまはげによる家族への取り調べが始まった。会話もなかなか笑える。そして、また観客のところへ駆け込んできたら、子供からもすっかり懐かれてしまっているところが笑える。
 なまはげの伝統を生で味わったあとは博物館を見物していく。いろんな地域の なまはげの蝋人形が並んでいる一室が不気味だ。なまはげや男鹿の文化を学んで、邪気を払うためにお守りとストラップを買って、なまはげ館を後にした。俺につきまとって思い通りにさせない邪気を払いたい。博物館の外は真夏の熱気に包まれている。先ほど登ってきた坂を慎重に下って、またなまはげロードへ戻ろうかと思ったが、さらに先の海沿いの国道へと進む。ここも、負けず劣らずアップダウンはしつこい。どこまでも続く。坂道の一つ一つがボディーブローのように堪えている俺にはきつい。時々 見える日本海を楽しみながら進んでいく。
 男鹿半島を抜けたかと思っても、まだまだアップダウンは続く。早く八郎潟沿いの平らな道に出たい。そんな願いもむなしく坂は続く。八郎潟の水辺が見えてきたところで、水辺に沿って走ってみるが、何の目印もランドマークもないので現在地が完全に分からない。野生の勘で進んでいく。八郎潟沿いにキャンプ場があり温泉も近いのでそこを目指しているが、進捗が全く掴めない。またも越えた北緯40度線で写真を撮り、少し走るとキャンプ場が見えてきた。
 男鹿半島を抜けたかと思っても、まだまだアップダウンは続く。早く八郎潟沿いの平らな道に出たい。そんな願いもむなしく坂は続く。八郎潟の水辺が見えてきたところで、水辺に沿って走ってみるが、何の目印もランドマークもないので現在地が完全に分からない。野生の勘で進んでいく。八郎潟沿いにキャンプ場があり温泉も近いのでそこを目指しているが、進捗が全く掴めない。またも越えた北緯40度線で写真を撮り、少し走るとキャンプ場が見えてきた。
 八郎潟…といっても干拓されていて池程度の水しか見えないが、湖を見れるようにテントを張って荷物を放り込む。買い出しと風呂のため出かける。物寂しい大潟村の街中を駆け抜けるが店は一軒たりとも開いてる気配がない。頼みの綱のA-COOPすら今日は昼で営業終了。全く使えない街だ。温泉へ入るも、ここには露天風呂はない。風呂で怪我した肩を揉みながら疲れを癒して、温泉にある簡単なレストランで夕食をとる。生ビール、カレー、唐揚げで腹を満たす。ここまで来て 何でこんなもんを…と思ってしまうが仕方ない。何するにも思い通りに行かない今回の旅に苛立ちを感じてきた。明日から、相当 頭を使わないと この流れは変わらないだろう。真っ暗な大潟村を抜けてキャンプ場に戻った。晩酌も無いまま眠りについた。

真山(まやま) 伝承館


怠け者はいねぇがー!!


この蝋人形はキモい!


北緯40度線



   出発(岩手県盛岡市)から 405.37 km

7日目 大潟 → 能代 → 八森 69.62 km
2007/08/14
 思い通りに行かない日々をいつになれば脱出できるのか。今朝も暑苦しい朝を迎えた。近所に店らしい店はないので朝から自炊だ。キャンプ場の炊事場でスパゲッティーを茹でてミートソースのレトルトを温めて頬張る。店もゴミ箱も無いのでゴミはいつまで持ち続けるのか不安なので、なるべく出ないように気をつけながら食事を済ます。
 まずは大潟干拓地の中にある北緯40度と東経140度の交差する点を目指して走っていく。キャンプ場から近い場所にあるようだ。田んぼの真ん中の何もない道を進んでいくと、モニュメントが見えてきた。日本の陸地で唯一 下一桁が0で緯度・経度が交わる点である。だから何というわけでもないが、こういうポイントは外せない。
 そのまま野生の勘で干拓地を抜けて国道を目指すべく走り出した。それが不幸の始まりだった。道はダート。行けども行けども行きたい方向に抜ける道はなく湖というか水路を渡る橋がないのだ。灼熱の太陽の下でダートを走り続けること15km。雰囲気を満喫したが行きたい場所には行けず、昨日の風呂のところに戻るのに1時間半を要してしまう。体力も順調に消耗。
 相変わらず何もかもが噛み合わない日が続いているのに絶望を感じる。少しは頭を使いながらやっていかないと回っていかない気がする。国道をまっすぐと能代へと向かう。能代の市街地まであと10kmというところで久々のコンビニがあった。コンビニを見かけたのは、男鹿半島の寒風山を登り始める前にあって以来なので、かれこれ150kmぶりということになる。3日も使い回したミネラルウォーターのボトルがあり、その水を全身に浴びて体温を下げて、新しいミネラルウォーターをボトルケージにはめて続きの走りへ向かう。浴びた水もすぐに乾くほどの熱気がある。今日も道路に表示された気温は35℃ 厳しい走りが続いている。
 能代の街で昼食がてら休む…にしても、美味しそうな感じの店は見つからない。駅の前にスーパーがあったので、そこで何か食材を買って簡単な飯ができないか考える。今日の宿泊地は田舎になりそうなので、軽く買い出しもしておきたい。このスーパーで御飯を買って、筋子を買って、筋子丼にする。夜のために野菜なども買っておく。あとは、生鮮食品が買えれば最高だが、まだ半日走るので腐るモノは買わない。能代駅の待合室で筋子丼を作る…といっても、筋子を御飯に載せるだけで完成だが、それで昼食にする。これが塩気が効いてて筋子独特の味が濃くて美味しい。駅の中には秋田の地酒・喜久水を作るのに使う水で淹れた麦茶が振る舞われている。それなりに工夫した昼飯になったので満足である。

北緯40度-東経140度 立合点


能代で作った筋子丼


喜久水の麦茶

 能代の街を出て、また北へと向かう。ここからは頭を使いたい。夕食の買い出しなども店を見つける限りでやっておきたい。目的地としては八森の温泉とキャンプ場ということで、そこまでに何かを買えそうな場所でいうと現地以外は途中にある道の駅しかなさそうだ。
 10kmほど走ると道の駅に着いた。ここで学生のチャリダーと話しながら買い物をする。ミニトマトや蜂蜜など地元の生鮮食品を色々と買って行く。御飯を炊こうかと思っていたが、地元産の美味しそうな蕎麦も見つけたので、今夜はキャンピング・ざる蕎麦と行こう。地元産のメロンが売られていたので、カットメロンを買って その場でおやつとする。夏で旬と言うこともあり、甘みも瑞々しさも十分な感じである。
 しばらく大学生チャリダーの背中を追う形だったが、上り坂で追い越した。30歳ぐっさん。まだまだ捨てたもんじゃない。距離でいうと1日150km近く走る人が多い学生には全然かなわないが、走り自体は負けていない。ここからアップダウンが多い日本海らしく険しい地形が続いていく。学生の頃に北から逆走してきた経験はあるので、少しは記憶がある。しかしながら、学生時代はこのアップダウンに辟易して苦戦させられていたものの、今は体力はあのころより落ちているはずだが、それなりに逞しく走れている。これが経験というものなのだろうか。少しだけ走りに手応えを感じ、何もかもが噛み合わない旅も徐々に俺のペースで俺らしく流れ始めているような気がしてきた。
 途中の展望台で休憩しながら、海を眺める。店も2軒あって土産物などを扱っているが、生鮮食品はないので買い物するものは無さそうだ。気になったのは、おばあさんが売っている「ババヘラアイス」だ。秋田県に入ってから路肩のチェーン着脱場などで炎天下のなかパラソル一つで暑さをしのぎながらアイスを売っているお婆さんを何カ所かで見ていた。俺も暑さにバテながら自転車を漕いでいるので寄り道はしなかったのだ。ここでは閉店前の最後の客として買っていく。お疲れ様と言葉をかけて、アイスを頬張る。シャーベットが熱気を帯びた体をさます。日本海側を走っておきながら夕日を一度も見ていない今回の旅 今日は天気も上々で日本海に面したキャンプ場なので楽しめそうだ。
 そんな期待を持って展望台をあとにしてキャンプ場を目指していく。あきた白神駅のあたりにある ハタハタ館と温泉がありオートキャンプ場が併設されている場所だ。国道を外れて八森の漁港と街の方へ行き海沿いをゆっくりと流して、風呂の場所や買い出しできる場所を確認しつつ海を満喫する。すると、また大学生と会った。話の流れで、一緒にキャンプすることになって、キャンプ場へと一緒に向かう。
 最後に坂を登ってキャンプ場へ入った。受付をすると、どうも受付の中でビールも自家製のはたはた寿司も売っていた。この分なら風呂に入って冷え冷えのビールとハタハタを買えば、立派に晩酌できそうだ。ぬかりない俺は営業時間も確認する。やや連休で混んでいるサイトで寝床を探してテント2張り分の空きを見つけた。ささっとテントを張って、俺はキャリアのネジを増し締めしたり荷物を整理する。彼の方は先に風呂に入りに行った。俺は、夕日を眺めてから風呂に入ることにする。
 少し視界が開けているフェンスの上に腰掛けて日本海へと沈んでいく真っ赤な太陽を眺める。広い日本海に沈む夕日 この雄大な景色こそ日本海ツーリングの最大の醍醐味だろう。色んなトラブルなどに巻き込まれて、やっと今日になって見るに至った夕日に感動そして安堵感を得た。秋田県で過ごす最後の夕方は最高の形で演出された。
  温泉で久々の露天風呂を満喫する。傷口も癒えて日焼け痕も痛みが消えて、やっとお湯に思いっきり浸かれる。体の疲れを落として、風呂をあがってビールを3本ほど買っていく。そしてはたはた寿司も買う。テントへ戻って炊事道具を持って炊事場へ行き飯を作る。大学生は御飯を炊きレトルトのカレーだ。今となっては、ここまで来てカレーかと思ってしまうが、俺も学生時代はそんなもんだった。俺の方は、まずお湯を沸かして塩を入れる。塩は男鹿半島の塩だ。その塩水に入れて茹でるのは秋田産 湯上がり娘という品種の枝豆。さっと茹でながら、はたはた寿司とビールで乾杯。多めに買ったビールを1本大学生にあげて はたはた寿司も一緒につつく。学生時代の旅では多くの社会人のサイクリストやライダーにご馳走になったので、旅先で出会って一緒に走るなり一緒にキャンプするなりする時は社会人である俺は地元の美味しいモノは振る舞ってあげるようにしている。はたはた寿司が意外と美味しい。鮒寿司ほど強烈な臭みもなく酒とよく合う程度の酸味と香りがいい。そして枝豆もゆであがった。というよりはゆで加減を何で見極めれば良いのか分からないが、さやを一つ取ってみて 豆を実際に食ってみた。程よく柔らかくなって甘みも出ている。ていうか、美味い。ハンパじゃなく美味い。俺の心と舌では満場一致で茹で上がりを認めた。お湯を切って特大コッフェルの蓋にざっと上げて、これもビールの当てとして合流である。はたはた寿司と枝豆で豪華な晩酌となった。秋田では最後の夜に秋田の味覚に乾杯。一緒に晩酌している大学生は東京の明治大学。学生時代から明治のサイクリング部とは何度か行動を共にしたことはあるが、なかなか好感もてる人が多い。今回もそんな感じである。話も盛り上がりつつ、俺の方は特大コッフェルで2度目の湯沸かしに入った。次は 蕎麦である。これも なかなかの美味。
 出会いもあり、狙い通りに夕日も見れて、体の痛みもなくなってきて、工夫して美味しい食事にもありつける。ようやく、思い通りの流れになりつつあります。思い通りに旅を進めるには自分の努力と工夫による分もあるものだと実感するばかり。明日からの青森県 いよいよ旅も大詰め。頑張って楽しみたいところで、明日からの旅に思いをはせて眠りについた。

八峰のメロン


八森の海岸線




秋田県の名物 ババヘラアイス


日本海へ沈む夕日


はたはた寿司と枝豆・湯上がり娘


八峰の 石川そば



   出発(岩手県盛岡市)から 474.99 km

8日目 八森 → 十二湖 → 深浦 61.02 km
2007/08/15
 今朝も順調に暑い日差しにやられている。昨日 買ってきたミニトマトをつまみながら、テントを撤収してトイレのために はたはた館に寄ると、ちょうど店も開いていたので、日持ちしそうな野菜やキノコだけは買い込んでおく。この八森という土地 何に驚くかというと魚も野菜もキノコも肉も果物も何でも地元で採れるようで、どの売り物を見ても地元産なのだ。こんなに何でも取れる土地というのは珍しいですねぇなどと会話を交わしながら買い物をしていると地元の店主は得意げであった。
 売っていた焼きおにぎりでホタテ串で、ちゃんと朝食をとる。しかも、焦げ目の付いた焼きおにぎりとホタテが美味い。お腹も満たしたところで出発。スタートから激しいアップダウンに振り回されるきつい展開が続く。アップダウンを越える度に景色が変わっていく楽しさはあるものの、そろそろ疲れがたまってきた足には重い。それでも先を急ぐこともなく途中の岬(チゴキ崎)に立ち寄り景色を楽しむ。少しレトロな雰囲気の小さな灯台と広がる大海原と緑の草原と複雑な岩の海岸線。やはり日本海は見応えがあって好きである。
 また走り出し、今度は御殿水(おとのみず)で休憩しつつ、栃木のMTB仲間がバイクで向かっているようなので待つ。彼はバイクで青森まで一気に北上して津軽を回ってここまで来ている。俺の行程をBLOGでチェックしながら、ここまで向かって来てくれることに歓びを感じる。色々と話して、それぞれの旅路へと向かう。俺は御殿水で水を汲んで十二湖を目指して走り出す。御殿水は甘みがあって地下水としての冷たさもあって、真夏には気持ちのいいわき水だ。
 雨でスタートし、ブレーキシューを買いにレンタカーで走ったり、35℃を越える猛暑の中を駆け抜けて、残念ながら事故にも遭い、色んな厳しい想い出を残した秋田県を抜けて青森県に突入。この県境は旅としての流れを変えることになるか。色んな思いをもって県境を越えて行く。相変わらず続く猛暑と海岸線。しかしわずかにアップダウンはゆるくなってきた感じがある。真夏の暑い南風に吹かれて、追い風で十二湖を目指す。

朝食 焼きおにぎりとホタテ串


チゴキ崎の灯台


チゴキ崎から眺める日本海


御殿水


秋田→青森 県境

 割と順調に十二湖へと登っていく分岐と十二湖駅にたどり着いた。情報収集して水分補給をして十二湖へと登っていく坂に備える。事故の痛みは完全に無いが体は冴えないため、全くと言ってもいいほど らしさは無く、ヘロヘロになりながら登っていく。森の向こうに見える白い岩が続く日本キャニオンを眺めて写真を撮ると、ますます傾斜が厳しくなってきた。そして十二湖というだけあって湖が森の中で突如 表れる。といっても湖と言うよりは大きめの池という感じの大きさだ。森の中で水をたたえる池を横目に少しずつでも登っていく。連休もピーク後半とあって車の数は多い。俺を追い越しながらすれ違うのに苦慮しているようで、それが俺のペースをまた乱す。冴えない体、自分のペースにならないきつさ、暑さ… いろんな要因が俺を苦しめる。
 ビジターセンターに自転車を止めて休憩しつつ、昼食のために そこにあった店に立ち寄る。地元の野菜も含む生姜焼き定食でパワーを付けて、また登り出す。すると、途中にわき水が沸いている十二湖庵という場所があり、そこでは十二湖のわき水で淹れた抹茶が飲める。さらさらと流れる川とブナの森の中で抹茶ともろこしをいただきながら、粋な風情を満喫する。いろんなものを五感で楽しめる。
 また続きの坂を登っていく。最後は青池を目指したい。まだまだ続く池の畔の道を上って、青池へと歩いていく遊歩道の手前で自転車を止めた。そこからは原生林の中の道を歩いて行く。青池の手前の広い池を通り過ぎつつ山と池と原生林の眺めを楽しむ。そして歩きつめると、青く透明な水に落ちたブナの葉が浮かぶ神秘的な青池が現れた。折れたブナの枝が底に沈んで、その奥から水がわいている。池は何故か濃い青である。不思議な美しさに感動する。
 青池を満喫したら慎重に下っていく。行きと少し違うルートで行くと、先ほどの日本キャニオンをより高めの場所から眺められそうだし、同じ道を走るのは嫌いなのでそっちに行ってみる。しかし、結構厳しい登り返しだった。ヒィヒィ言いながら登ると、確かに少し高い位置から森の上にそびえる日本キャニオンがよく見える。白い屏風のような岩である。こんな自然のモノが真っ白というのが何とも不思議だ。写真を撮ったら、登り返しも終わり下りに入って、また国道へ戻る。

十二湖を登っていく道


十二湖庵のわき水


十二湖庵の抹茶ともろこし


青池とブナの森


ブナの森を駆け下りてくる沢


十二湖 青池


日本キャニオンの眺め

 今日はどこまで走れるものか気になったが、結構 既にいい時間になっている。鰺ヶ沢まで45kmはとてもじゃないが無理っぽい。明日以降のことを考えると無理をしそうなので、今日の体力でいけそうなところにゴールを決める。深浦の不老不死温泉では近すぎる上に泊まる場所もなさそうだ。学生時代に行った時は駅前の駐車場で野宿だった。深浦の街ぐらいまでを目標にするしかなさそうだ。日本海沿いの道は再び厳しい傾斜を帯びてきた。いきなり長い上り坂を迎える。もう足は売り切れである。情けないことに十二湖の登りで使い果たしている。登り切ったところの展望台から白神山を振り返って日本海越しに見える山々の写真を撮る。
 息が落ち着いたところで、また深浦の街に向けて走り出す。おそらく、もう2〜3本は坂があるだろう… そんな覚悟をする。一本目がどきつかったせいか、下り基調でアップダウンしながら進んでいく。斜面沿いの田んぼや草原、海岸線、五能線の線路そんな眺めを楽しむ。日が傾いてきたからか全ての景色の輪郭がくっきりしてきた。意外と時間も体力も要さずに深浦の街へとたどり着いた。
 ちょうどお盆だからか、お祭りのようだ。漁港の近くの大きな公園が祭りの会場となっている。まず一つキャンプ予定地が無さそうな雰囲気である。ただ、田舎の祭りなので夜が早くて人がいなくなれば不可能ではない。走りながら丸見えながら小さな公園も一つ見つけた。温泉も街から少し坂を登ったところにありそうだ。そろそろ洗濯をしたいところだが、この町にはコインランドリーはないようだ。だいたい今夜の状況が見えてきたところで、海鮮市場ピアハウスの横で焼いている焼きイカを食いながら海を眺めてのんびりする。内陸人の俺は絶対に味わえないほど、柔らかくて香りの良いイカが味わえる。本当に美味い。
 すると、そこから灯籠流しの受付を見つけたので、去年末に亡くなった祖父さんに宛てた灯籠を書いて受付を済ませた。夕日を眺める場所を探してから、風呂へと向かう。ややわかりにくい道に迷いそうになりながら行くと、坂を上り始めた。足が売り切れ状態の俺には厳しい。疲れ果てて風呂に入り、まだ熱気の残る深浦の街へと坂を下っていく。夕日が沈みそう… というか、沖には雲が出ているので早めに見に行かないと太陽を見ずに終わってしまう。何とかたどり着いたものの、中途半端な夕日しか見れずに終わった。
 祭りの会場に自転車を置いて、まつりに参加する。露店のものとビールで簡単に夕食を済ませて、灯籠流しの会場へ向かう。たくさんの灯籠を載せた船は沖へ行き、我々は岸壁からそれを見守る。地元の和尚さんがお経を上げてくれる。そして沖では灯籠が流れ始めた。日本海の強い風に どんどん灯籠は遠くなり消えていく。初盆だというのに帰ってこない俺を詫びながら、空で見守ってくれる爺さんを送ってあげる。そんな気持ちで沖を見ながら手を合わせる。自他共に認める爺さんっこだった俺だけに初盆である今年は思うところは多い。
 灯籠流しが終わると花火大会が始まった。海に向かって どんどん花火が打ち上がる。そして最後の花火があがって祭りが終わった。やはり田舎の祭りだけあって会場から人がはけるのは早かった。まだ余韻の残る会場の隅の築山の裏にテントを張った。夜中には雨も降ってきた。そして蒸し暑くなったテントで寝苦しさを覚える。そして、疲れに負けて眠りについた。

岬から眺める白神山地


深浦の海岸沿いの道


深浦の焼きイカ


深浦の夕日



   出発(岩手県盛岡市)から 536.01 km

9日目 深浦 → 鰺ヶ沢 → 十三湖 → 小泊 95.83 km
2007/08/16
 キャンプしている場所が場所だけに朝の目覚めは早い。5:00には目覚めた。荷物を片付けて出発だ。7時前には撤収してしまう。朝早く出ていれば距離をだいぶ稼げそうだ。できれば竜飛崎に登り始める手前の小泊まで行きたい。そこまでいければキャンプ場にコインランドリーもあるし、次の日以降の選択肢も増える。十三湖までしか行けないと、最悪の場合は青森での打ち上げはできないかもしれない。ただ、何か一つを諦めれば青森までの完走は決めれそうなので無理はしない。
 走り出すと、幸運にも今日は追い風だ。早朝出発で実走時間もあり、コンディションもいい。予報では雨と言っていたが、今は曇りにとどまっている。雨が降る前に距離が稼げれば御の字だ。そして20kmあまり走ったところで、節目を迎えようとしている。ランドナーの初代からの通算走行距離が、ついに39999kmに達した。ここからメーターを見ながらゆっくりと走っていく。そして、深浦の海岸沿いの道で40000kmを達成。メーターや達成ポイントの写真を撮りながら歓びを一人でかみしめる。思えば色んな事があった40000kmである。でも、この地球一周の距離でもある40000kmは通過点でしかないと思う。この足が動かなくなる年まで走り続けることが俺の目標。動かなくなる年をできるまで遅くして、この足でたくさんの歴史を作っていきたい。まずは節目である40000kmを迎えたことを喜びと自信としてこれからの走りへつなげていきたい。
 さらに10kmほど走った千畳敷で休憩していく。畳を敷き詰めたように平らな一枚岩の海岸が沖の方へ続く。潮が満ちているせいか広さはあまり感じられず、空も曇っていて海の眺めも昨日までと比べると鮮やかさに欠ける。焼きイカとウニを食べていく。ここでも焼きイカは柔らかくて美味い。やはり鮮度が良いからだろうか。

通算 40,000km 達成!!


40,000km達成地点


千畳敷のイカ焼き


千畳敷の海岸

 その後も順調すぎるほど順調に走りは進んでいく。海は曇り空の下で鉛色となっており、今日は走りに集中するしかないようなコンディションだ。追い風ということもあり、朝の10時には鰺ヶ沢まで走る。ここからは津軽半島へと入っていく。ここで買い出しやお金をおろしたりというような作業はしていかないと後で困る。イカ焼き屋の並ぶ通りを通り過ぎて、海の駅わんずで買い出しです。まだ距離はいっぱいあるので肉や魚は買えませんが、野菜などは買い込みます。それにしても驚きはりんごジュースの種類の多さです。りんごの品種ごと、複数メーカー いずれも果汁100%です。
 鰺ヶ沢の街中で、今まで逃げ切れていた雨が降ってきた。レインウェアを着ないと走れないほどの雨になってきた。雨が降る前に十分 距離は稼いだので、あとは運を天に任せていけるところまで行くだけ。雨の中、津軽半島を北上し始めた。広域農道は車も少なく道もまっすぐで走りやすく俺をぐんぐんと北へ導く。途中にいっぱいある湖を眺めつつ、雨に打たれながら北へ北へと力強く進む。追い風に任せて進んでいたはずが、今は風がない。それでも走りは軽い。久々に走れる自分というのを見たような気がする。途中のメロン直売所などを過ぎながら、どんどん進む。
 昼過ぎ13:00の時点で十三湖まであと10km。最低限目標の十三湖は楽勝ムードになってきた。やはり小泊を目指すしかないだろう。体力的にも余力がある。喫茶店で昼飯を食って出たら雨はあがっていた。レインウェアを脱いで、北上していく。アップダウンもほとんどなく順調に走り、十三湖が見えてきた。湖を渡る橋の上から湖を眺めつつ、湖畔のシジミ汁の店でしじみ汁をすする。雨で少し冷えた体はシジミの暖かさと栄養で回復。そして、シジミ味噌というシジミエキスが入った味噌を買っていく。これをお湯に混ぜて沸かすだけでしじみ汁の味になって、御飯に付けて食べるにも良いらしい。

鰺ヶ沢 イカ焼き通り
道に焼イカの香りが漂う


りんごジュース


鰺ヶ沢街中 祭りに遭遇


十三湖へ向かう道 湿原が続く


十三湖 橋の上からの眺め


十三湖のしじみ汁

 どんよりと曇った雲の下を北上する。今日は体の調子が良い。海岸に面した道のアップダウンにもたえながら走っていく。十三湖から小泊のキャンプ場まで峠は2個ある。まずは一つめの峠をあっさりと越えた。小泊の街の方へ下り、途中のコンビニで買い出しをして、2つめの峠に挑む。このとき突如 強い追い風が吹いてきて楽々と越えてしまう。そして峠を越えて下るとキャンプ場への案内看板が見えてきた。最後は神がかった何かすら感じながら、目標に対して満額回答という形で小泊のキャンプ場にたどり着いた。
 受付をしてテントを張ろうとすると、ファミリーの人が話しかけてきてくれた。たくさんの話をしながらテントを張り、子供達にも そこそこの人気を得る。デイキャンプだった家族達はキャンプ場を後にした。ラッキーなことに余ったおにぎりをいただいてしまった。明日の朝食として助かります。相変わらずさえない天気で夕日が見えそうな雰囲気は全くない。衣類と風呂道具を持って管理棟へ行き、コインシャワーで体を流す。汚れ物をコインランドリーであらいながら、道の駅でビールを買って、食事を作る。炊事場で米をといで野菜を切ってテントサイドへ持って行く。まずは御飯を炊いて蒸らす。蒸らしている間に青森産アスパラガスを塩ゆでする。昨日買った八森のブナシメジと、コンビニで買ったベーコンを炒める。しゃきしゃきして香りがあって美味いブナシメジはベーコンに負けずに良い味を出す。アスパラも柔らかくて甘くて美味い。御飯とあわせた シジミ味噌がまたうまい。
 久々に走りが強かった。そして洗濯など生活に必要な部分もきっちり決めれた。終盤に来て、完走を決める大きな布石を打てた一日に満足である。

十三湖のしじみ味噌


しじみ味噌と御飯


秋田八森のブナシメジ
ベーコンのソテー

青森産アスパラの塩ゆで



   出発(岩手県盛岡市)から 631.84 km

10日目 小泊 → 竜飛崎 → 三厩 → 高野崎 51.68 km
2007/08/17
 朝には雨もあがった。夜中にぱらついた気配はあったが大降りした雰囲気はない。昨日 隣の家族からもらったおにぎりを朝飯に頬張りながら準備をする。今日の始めからそびえ立つ竜泊ラインの峠を越えれば今回の旅での最後の山場を越えることになる。トラウマになりつつある下りも慎重に行きたいところだ。色々なことを考えながらテントを畳んでキャリアへパッキングしていく。
 キャンプ場を後にして竜飛崎を目指していく。しばらくは海沿いの平らな道を進んでいく。昨日とはうってかわって波も穏やかだ。この分だと今日は天気が回復しそうな気配を感じる。坂を上り始める直前に滝があるので眺めて一服する。
 そして始まった最後の山場へ向けてのヒルクライム。スタートから12%の傾斜で容赦なく疲れのたまる俺の足にのしかかる。全身の力をペダルにこめて漕いであがっていく。耐えながら楽しみながら、どぎつい傾斜の坂に立ち向かう。見上げると壁のような坂が続いている。13年前に来たときは、こっち側の斜面を下ってきたが、確かにチャリをコントロールするのが難しいほどの傾斜、そして道の端には粗末な縁石が並んでいるだけでガードレールもない道だった。今では整備されて広さも増して舗装もよくなってガードレールもちゃんとあるが、傾斜だけは容赦ない。途中で力尽きそうになれば、チョコで糖分を補給して、またあがっていく。登れば登るほど背後の日本海の景色に広がりが出てくる。
 ようやく目の前に展望台らしきものが見えてきた。余力は多少あるのでラストスパート気味にグイグイと坂を登って、頂上を極めた。この旅の最後の山場を制した喜びが突き上げてくる。そこからは走ってきたワインディングも日本海も見渡せる。そしてこれから下る竜飛崎に海の向こうの北海道も見える。霧がかかったり晴れたりを繰り返しながら、徐々に天気は晴れへと向かっていくようだ。
 展望台でしばらく景色を眺めた後で、坂を下り始める。スピードを追求すれば記録も狙えそうな傾斜と直線 そしてテクニカルなコーナー。メリハリがあって楽しそうな峠だが慎重に下る。ライン取りは常にイン側ベタかアウト側ベタで回れるスピードを心がける。そこまでのスピードを維持しようとするとブレーキを掛けている時間が長いので手が疲れてしまう。そろそろブレーキングに飽きたころに、下りきった。

竜泊ライン 七つ滝


竜泊ライン鳥瞰台からの眺め


竜泊ライン上り坂


鳥瞰台から竜飛崎を眺める

 まずは、青函トンネル博物館に立ち寄る。工事の様子やトンネルの内部の様子などが展示してある。そして、こちらはケーブルカーで地下へと入っていけるのだ。ケーブルカーの乗車時間までに博物館を見ておく。そしてオレンジ色のケーブルカーに乗り込み地下へと入っていく。急な傾斜をぐんぐん下っていく。そして観光用のトンネルを歩いて巡る。工事についてのリアルな展示があり、青函トンネル坑道への入り口の前を通り抜けて、またケーブルカーへと戻る。そして力強く傾斜を登っていくケーブルカーに揺られて地上に戻る。青函トンネルは何度も18切符での輪行で渡ったことはあるので、色々と思うところもある。これほどまでに旅ロマンを感じるトンネルもなかなか無い。
 博物館を出ると岬へ向かう上り坂がある。やはり、どこに行っても岬というのは厳しい山の地形が続くモノだ。国道339号線を下る入り口の前で店があったので昼食にする。地元の海産物での定食を頼んでみる。津軽海峡といえばマグロが有名だが、売り切れだったので津軽海峡の生タコとツブ貝を満喫する。歯ごたえ舌触り 味 どれも本当に素晴らしい。ツブ貝も汁も逃せないほどのうまさだ。貝殻に入ってるツブ貝は、栃木ではまずお目にかかることがないだけに感激だ。
 そして国道339号線を観光する。前に来たときはスルーしてしまったので今回はきっちり楽しんでおきたい。ここは自転車を降りて歩いていく。自転車で行こうとするとリアサスが付いているMTBでもないと厳しいだろう。そう、かの有名な階段国道である。しかしながら、疲れの来ている足には厳しいほどの石段が続く。石段沿いには季節はずれとも思ってしまうほどアジサイが満開である。きれいに整備された石段と鮮やかなアジサイに包まれた道を楽しみながら下っていく。362段も続いた階段を下りきると漁村に出る。なぜ階段が国道になってしまったのか最後まで不明だったが、またこれを引き返して登っていく。登りは下り以上に足に来る。復活した日差しに炙られながら上がっていくと、完全に疲れ切ってしまった。

青函トンネル ケーブルカーもぐら号


青函トンネル入口 この向こうは北海道へ


竜飛のたこ刺しともずく


ツブ貝


階段国道の上側入り口


階段国道 下側

 階段国道の入り口からさらに坂を登って行くと、竜飛崎に着いた。ドーム型のレーダーの向こうに津軽海峡と北海道が見える。アジサイが咲き誇り、緑色の草原と開放的な景色にしばらく見とれてしまう。右を向くと陸奥湾の向こうに下北半島もハッキリと見える。何となく本州の果てまで来たという気持ちにさせられる風景である。ここでは、自転車で来ている母子に話しかけてみる。お母さんの方は俺の親と同じぐらいの年格好である。息子の方は見た目は若いが年は俺と少ししか違わない。自転車での旅行が年を取ってからの趣味になったようで都内から京都に行ったり、東北に来たりというのを少しずつ進めているようだ。といっても、今回の旅では東京から竜飛崎まで走っているから立派なモノだ。旅とか自転車というものに対しての価値観や人生観について熱く語り合って、俺も続きの旅路へと進んでいく。俺のゴールは、青森まで走りきったところにある。
竜飛崎の眺め

竜飛崎から背後を望む
アジサイと風力発電の風車


竜飛崎灯台


 俺の記憶では青森から竜飛崎までは、そんなにアップダウンがきついイメージはなかったので、気楽な気持ちで高野崎あたりを目指していきたい。10kmほどはアップダウンは無かったが向かい風に苦戦する。なかなか、楽はさせてくれないものである。三厩を過ぎたあたりで、青函トンネルの入り口があるはずなので探してみる。ツーリングマップルを見て、ここだというところで曲がってみると、急な坂を登らされて工事現場に突き当たる。完全に迷子になりながら、工事現場の人に青函トンネルの場所を聞いてみると、もう少し先だと言うことが分かり、また行ってみる。確かに、道路に看板も出ていた。変なところで体力を消耗しながらも、何とか青函トンネル入り口にたどり着いた。ちょうど公園になっていてトレインビューをしやすくなっている。しばらく待っていると線路を列車が走る音が聞こえてきた。そのカタカタンという音が徐々に大きくなってきたところでカメラを構える。トンネルから出てきた特急 白鳥の姿をとらえたところでトンネルを後にする。
 おそらく最後の店であろうコンビニで今日もベーコンと明日の朝食を買って、高野崎キャンプ場までの残り12kmあまりの道に向かう。三厩からの海岸線は想定外にアップダウンが厳しくなってきた。高低差は大したこと無いのだが、もはや俺の足は売り切れ。踏みしめるたびに疲労感が足に響く。日も傾いて来て薄暗くなってきた。複雑な地形の海岸線を楽しみながら走ると、海の向こうに見える竜飛崎にだけ雲の隙間から日が差し込む「天使の梯子」が見えてきた。その神秘的な風景に気を取られたので立ち止まって写真に収める。それが見えると言うことは明日は晴れるのだろうか。
 何とか高野崎キャンプ場に到着。ぱっと見 コインシャワーもあって入浴はできそうだ。受付らしき場所は見あたらない。まあ、時間が時間だしテントを張ってしまう。がけの上のキャンプ場の眼下には箱庭のような海と海の向こうの天使の梯子が相変わらず見えていて楽しい景色が続いている。
 テントを張ったら、米をといで水を吸わせている間に、コインシャワーでシャワーを浴びる。そのころには真っ暗だったのだが、照明をつけるスイッチがどこにあるのか分からない。仕方が無いので扉を開けて光をとりながらシャワーを浴びる。ヘタしたら猥褻物陳列罪だ。いろいろ見渡したが、結局 どこにあるのかは最後まで分からないまま入浴は完了した。真っ暗になると沖にはイカ釣り船の明かりがいっぱい見えてきた。津軽海峡の夏らしい風景である。そんな景色を楽しみながら飯を炊く。蒸らしている間に青森らしい一品を仕立てる。昨日 鰺ヶ沢で買ったアスパラとニンニクをベーコンと一緒に炒める。アスパラも甘くて柔らかく、ニンニクも柔らかく香りがあって美味い。ベーコンに負けないものがある。バッグの中に残っていたカレーを温めて御飯にかけて今日の晩餐は終了。おとといまでとはうってかわって夜はだいぶ冷えるようになってきた。
 明日の最終日、何とか走りきって歓喜のうちに旅を終わらせたい。そんな決意を持って眠りについた。

青函トンネル 本州側
出てきたのは 特急 白鳥


竜飛崎にかかる天使の梯子


高野崎から眺める竜飛崎


青森産アスパラとニンニクの炒め物


   出発(岩手県盛岡市)から 683.52 km

11日目 高野崎 → 蟹田 → 三内丸山遺跡 → 青森 68.27 km
2007/08/18
 天気は良いが、やや寒い朝を迎えた。このぐらいの気温なら昼間は気持ちよく走れそうだ。テントを片付けていると、ライダーが話しかけてきた。何と、このライダーも静岡大学のサイクリング部 やはり俺に同じにおいを感じたのだろう。彼にも静大の伝統を感じる。なかなか面白く自分の旅を追求する人が多いのも、この大学の特徴かもしれない。そんな後輩に元気をもらって出発。
 高野崎から10kmぐらいは昨日までの流れと同じでアップダウンが結構 多い。ただ、昨夜のニンニクによるスタミナからか、体のキレはある。蟹田へ近付くにつれてアップダウンの幅も狭まって、ほぼ平地ばかりになってきた。左に不思議な色を帯びた陸奥湾を眺めながら調子よく走っていく。途中で道の駅に立ち寄るも特に買うものもなくスルーしていく。蟹田へ向けて、ある意味では単調な走りが続いていく。最終日なんてのは、こんなものだろう。
 淡々と走り、蟹田で昼を迎えた。何か美味しいモノ…と最大限工夫をしてみたが店がなく地元の食材もあまり売っていなかったので、コンビニの弁当で済ませる。何だかあっさりとした最終日。こういうところにまで表れてしまう。
 静かな漁村を駆け抜けると、ついに青森市に突入。今回ほど旅が長く感じた時はないと思える。そんな最後の青森市突入に今までの旅には無いほどの達成感が胸を突き上げた。その後も淡々とゴールを目指すのみの走りが続いた。でも、体力的にも時間的にも余裕はあるので青森市内にある三内丸山遺跡には立ち寄りたい。地図で見る限りは市街地からも遠くはない。地図でルートを探しながら走るも、結局は道路に出ている案内標識に従って行く。車向けに出してる案内だから遠回りのような気はするが迷うぐらいなら従った方が楽そうだ。国道7号沿いに走っていく。車も多くストレスのたまる走りが続く。
 大きな国道沿いに遺跡はある。警備がやたら厳重で、駐輪場以外に自転車で進入するといちいち止めに来る。少し不便で止めにくい自転車置き場に自転車を置いて、遺跡を見物する。かなり立派な建物があって博物館併設? かというとそういうわけでもないが、建物の奥の広場が遺跡となっているようだ。縄文時代・弥生時代あたりの家や倉庫が復元されている。広々とした芝生と遊歩道に建物が並ぶ。そして太い木で作った櫓 これが三内丸山遺跡という感じがする象徴ともいえるものだ。北国の縄文文化ってどんなもんかと興味はあったが、あまり北国独特のものは見あたらず期待はずれという感じはある。ただ、遺跡の規模の大きさは見応え十分である。資料館を見学して、おやつにソフト栗ームを味わってりんごジュースを飲んで、残り5kmのゴールを目指す。 

蟹田の海岸線


青森市 突入!


三内丸山遺跡 ソフト栗ーム


三内丸山遺跡 この櫓が特徴的


三内丸山遺跡 大きい住居が目立つ

 青森の街中を駆け抜けていく。三内丸山遺跡から駅までは下り基調のため、苦労はない。最後の1mまで事故に気をつけながら自転車を走らせていく。もう何回も来た青森の繁華街だ。あとはこれを1km弱走れば駅に突き当たる。車道を目立つように走り、駅へのカウントダウンが始まった。商店街の向こうに駅舎が見えてきた。右後ろの車、左から出てくる車、地面に気をつけながら残りを慎重に走る。そして、最後の信号は青になって青森駅の前にたどり着いた。今回ほど苦しかった旅は無かっただろう。だが、いろんな試練を頭と気持ちと体で乗り切った。そして何とか体と自転車は無事のままにして目指していたゴールにたどり着いた。こんな濃い達成感を味わうのは久しぶりで喜びは大きい。フレームと乾杯し余韻を満喫する。
 ホテルを予約し向かう。まずはホテルへ行き、最低限の荷物だけを部屋に持ち込む。シャワーを浴びて、青森の街へ打ち上げに出かける。自転車は置いたまま繁華街を歩いて行く。ガイドブックなど読まず俺の野生の勘だけで店を探す。だいぶ奥まで歩いたところに、しゃれた感じの店を見つけた。ちょっと高級そうな雰囲気ながら青森の食材を満喫できそうだ。居心地の良さそうなカウンターもあるので、ここに決めた。最初は一人で飲んでいたが、同じカウンターに来た親ぐらいの年齢の夫婦と話が盛り上がった。こうして旅先で知らない人と飲んでしまうところが俺らしさで、これがあるから一人で旅をすることが人と一緒に旅をすること以上に楽しい。青森の山海の美味しいモノを満喫して、打ち上げは満足のうちに終わった。
 酔っぱらいながらホテルへ歩いて向かう。やはり、難しい旅だったからか飲んではじけた具合もハンパじゃない。あまり覚えていないうちに眠りについた。

完走を祝して フレームに乾杯



   出発(岩手県盛岡市)から 751.79 km

12日目 青森市内 10.70 km
2007/08/19 青森 −特急つがる→ 八戸 −東北新幹線・はやて→ 仙台
−東北新幹線・やまびこ→ 宇都宮
 昨夜の余韻は軽い二日酔いという形で俺にのしかかった。朝からホテルを歩いて出て朝市へ出かける。ここで実家と元上司に送る土産を調達する。地下の朝市という感じで開放感はないが、割と清潔感も活気もあっていい。見回る前に、寿司屋さんでマグロ中落ち丼を食べて行く。これが、めちゃめちゃ美味い。おみやげ候補に大間のマグロは欠かせないだろう。色んなモノを扱っている店があるが、試食して驚くほど美味かったホタテはおみやげとして決定だ。この貝の甘みとかすっきりとした味わいは産地だからこそ味わえるモノだろう。旅の最後の楽しみは土産を選ぶ楽しみであり、それを満喫できた。
アウガ新鮮市場(朝市)


大間産 クロマグロ


アウガ新鮮市場 マグロ中落ち丼


旬のホタテ



試食用に剥いてもらう
甘みがあって美味い

 ホテルを出て郵便局に向かう。まずは荷物を送り出して身軽になってしまいたい。駅からさほど遠くもない郵便局の前で荷造りをする。今日は天気が良いので作業ははかどる。いつも通り国際サイズの段ボール3個を買って、その場できつきつに詰めてキャリアが曲がらないように荷物で力を受ける形にしてやって発送が完了。
 次に棟方志功記念館へ向かう。青森出身の盲目の版画家で柔らかいタッチでありながら力強い作風が特徴だ。前々から気になっていて青森市内で時間がゆっくり取れたら行ってみたいと思っていたのだ。多くの棟方志功作品を目にして、絵というのは目で書くものではなく心で描くものだと、絵の苦手な俺は思ったのである。
 祭りで盛り上がる青森市内を駆け抜けて、昼食にする。しばらく青森まで来ることも無いだろうから、せっかくなので寿司屋に入ってみた。これが正解だった。美味しい魚に大間の大トロ きっとこれは高かっただろうが、大トロというと脂の味しかしないのかと思うがマグロの風味にとろけるような脂の感覚。今、日本で最も贅沢な寿司を食べた瞬間だと思ってしまう。酒が進んでしまいそうだが、我慢して店を後にした。

青森観光物産館 アスパム

 おみやげにアップルパイとアップルジュースを探す。アップルジュースは青森の海に向かってそびえ立つAの形をしたアスパムの中で確保した。リンゴの品種ごとにある果汁100%。しかも結構な高級品である。次にアップルパイを探す。まずは、るるぶを見る。一軒だけ地元のリンゴにこだわった店を見つけた。ケータイで口コミなんかを見ても評判が良い。他はアウガなどのデパート地下とアスパムも見て回ったが、やはりるるぶに掲載されている店が一番よさそうだ。そこで買って、形を崩さないように慎重に運んで、駅へ向かう。
 駅に着いたら自転車をばらして撤収し始める。もう今年の夏はやり尽くした。思い残すことは無い。そんな思いと、ここまで壊れることもなく走り抜いてくれた自転車への感謝と愛情をこめて袋へと収めていく。自転車とアップルパイを手に特急つがるへ乗り込む。連休最終日で東京方面へ向かう人が多いからか混雑している。立ち乗りになってしまう。
 八戸で新幹線に乗り換える。アップルパイをわける相手が増えてきたので、リンゴ丸1個使用のアップルパイ 気になるリンゴも追加だ。新幹線は指定席が予約できたので座って行く。八戸で買った駅弁を頬張りながら、新幹線は進んでいく。仙台で再び乗り換えなので、割とあわただしい移動となった。仙台で乗り換えて、あとは宇都宮到着を待つばかりだ。連休最終日の20:00過ぎともなると東京行きの列車も混雑が終わりつつある。そして宇都宮駅に到着。アップルパイの件もあり迎えに来てもらっていたので雨でも、自転車を組んで乗って帰る手間は省けた。自転車屋に行きアップルパイを味わう。さすが本場の青森だけあってリンゴの味がしっかりしている。色々と会話を交わすも、俺自身の疲れがそろそろ隠せなくなってきたので、家まで送ってもらった。良い意味でも悪い意味でも最後まで波乱の連続だった旅は完全に終わった。

青森を撤収



   出発(岩手県盛岡市)から 762.49 km


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