旅記録
2012 GW 奄美大島・沖縄本島
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0日目 宇都宮 −東北本線→ 上野 −京浜東北線→ 東京
−東海道・山陽新幹線→ 博多 −九州新幹線→ 鹿児島中央
2012/04/28 鹿児島市内 10.53 km
鹿児島 → 奄美大島 名瀬
 今年も旅の季節を迎えた。少し思うところもあり、今年は前々から暖めていた計画を実行に移すことにした。この旅の前に沖縄県以外の46都道府県を全て走り抜いていた。その記録についても、残り1県を制覇しようと思う。とは言え、沖縄という場所は走ってたどり着ける場所ではないので船や飛行機などの交通手段での上陸をもって達成となる目標である。今までの軌跡としては屋久島と種子島は走ったので、奄美大島を走って、その後に沖縄に上陸したい。そして、上陸は自転車にまたがったままフェリーのゲートブリッジから降り立ちたいと思っている。
 どうやって鹿児島までたどり着くか悩ましいところではあるが、飛行機での輪行は繁忙期に入ると意外と面倒が多い。マロニエ号も嫌がられるし、混み具合によっては拒否されてもおかしくない。鹿児島空港から鹿児島港までの道は長いし狭いし車も多い。ということで、新幹線で行くことにした。輪行も大規模なものになる。
 夜中の3時半に家を出発し宇都宮駅へと向かった。宇都宮駅前で自転車をばらして輪行袋へと詰め込んでいく。今回も手慣れた作業は順調に終わった。始発の鈍行でリッチにグリーン車を確保して眠りについた。上野駅に降り立って、山手線・京浜東北線のホームへと向かう。都会の輪行では、いちいち体をぶつけて舌打ちをしてくる面倒な奴もいたりする。東京駅で新幹線に乗り換える。7時発の博多行きに飛び乗って、一番後ろの席も取れた。自転車を席の後ろに入れて、座席を最大に倒しても当たらないように位置を調節して、また眠りにつく。とにかく体力を温存したい。
 時間が経つごとに新幹線の車内は混み合ってきた。乗り換えが忙しすぎて朝食もお茶も買いそびれた俺は少しひもじくなってきた。混み合っているせいで車内販売は来ない。高速に順調に進んでいく新幹線に揺られながら、西へ西へと向かっていく。広島を過ぎて少し空いてきた。そして小倉を過ぎて博多に辿り着いた。
 ケータイで調べると、小倉での乗り換えを推奨している。博多駅だと一度、3階のホームから2階に下り、また3階の九州新幹線のホームへと駆け上がる。この間がわずか7分。また弁当を買う暇もなく慌ただしく乗り換える。新大阪から来たさくらから乗客は大量に降りてきた。そして乗り込むと席は確保できた。今までは博多南線としてのんびり走っていた路線で新幹線がどんどん加速していく。そしてトンネルに突入。初の九州新幹線(博多〜新八代)の乗車に少し喜びもある。新鳥栖や久留米など馴染みの地名の駅を通過し熊本へ。熊本を過ぎたところで、やっと待望の車内販売がやってきた。天草の地鶏の弁当を買って頬張れたこの時で既に昼の1時過ぎ。ずいぶん遅い朝食だ。
 熊本からは各駅停車で鹿児島中央へと向かっていく。2時前には鹿児島中央に辿り着いた。長袖のTシャツにフリースという格好では暑すぎる。エスカレーターを降りたわきで自転車を組み立てるが、まずはフリースを脱ぐ。袖をまくる。そこまでしても暑い。近くに表示していた温度計を見ると31℃と出ている。真夏並みだ。天気も良く日差しも強い。
 自転車を組み立て終えたら荷物をザックに詰め込む。フリースだけでザックがパンパンになり輪行袋をフロントキャリアの横に取り付ける。駅前の商店街とダイエーで買い物をしに行くが捗らない。米やガスや1.5Lのボルビックなど島に渡ると買えないかもしれないものを一通り買っていく。天文館通りでフェリー内で食う夕飯と朝飯を買おうとしたら、天文館通りにたどり着けないまま港に着いてしまった。ちょうど鹿児島に来ていた母と会う暇もないほど忙しいままに時間だけが過ぎていった。港で乗船手続きだけを済ませて、再び買い出しに行く。谷山港なら買い出しが近くでできたが、今回は苦戦する。屋久島や種子島に行くためのフェリーターミナルに店がいっぱいあったので、ここで買い物だ。待望の薩摩揚げやおにぎりや寿司を買う。ソフトクリームで体を冷やして、また港へ向かっていく。
 フェリーに乗り込むときに買い物袋が重さに耐えきれず破れるトラブルに見舞われたが乗船は終わった。長距離なのでスペースは指定されており寝床は安心だ。まずは起きる時間を目覚まし時計にセットして、デッキに出る。ようやく落ち着いて錦江湾にそびえ立つ桜島を眺められた。出発に向けて貨物を積み込むフォークリフト職人の見事な動きを見つつ出港を待つ。途中でチケットを海に落としたライダーがいて係員がチケットを掬い上げようとしていた。ロープや竿や網やいろんなモノを駆使して苦戦しながら取り上げるとデッキから拍手が上がった。
 そして汽笛とともに船は港を離れた。夕日に照らされる鹿児島市内と桜島を眺めながら錦江湾をゆっくりと船は進んでいく。デッキを渡る潮風を浴びながら、ビールを飲む。金色に輝く錦江湾を眺めつつ、頭の中が少しずつ旅へと切り替わっていく。1年ぶりに感じる旅情と何かとしんどかった1年が少しずつリフレッシュされていく。
 すっかり日も暮れる頃に錦江湾を出て外海へ走り出した。ここで船室に戻る。もう少し飲みたい気分でもあるので売店に行くと、ピーナツかつおみそと梅酒を売っていた。島味噌をからめて鰹出汁が利いていて黒糖の甘さもある。中は香ばしいピーナツ… この組み合わせを考えた島民と奄美大島に深みを感じる。すっかり酔いが回って力尽きるように眠りについた。

九州新幹線 弁当 天草大王


鹿児島港 マルエーフェリー


フェリーのデッキから見る桜島


フェリーのデッキから見る錦江湾の夕日


ピーナツかつおみそ
やばいぐらい美味い。



   出発(鹿児島県鹿児島市)から 10.53 km

1日目 名瀬 → 龍郷 → 笠利 → 名瀬 110.51 km
2012/04/29
 意外と早寝早起きで目覚まし時計がなる寸前に目が覚めた。降り遅れないよう放送も流れた。顔を洗って下船に備える。まだ真っ暗な名瀬の港に着岸したところで車両甲板に降りていく。車の列に続いて自転車で奄美大島へと上陸していく。フェリーターミナルのコインロッカーに輪行袋やフリースやザックなど今日は使わない荷物を入れて、できるだけ軽くしていく。まだこの時点で6時前。早朝の出発となるが、名瀬の街を抜けていく。街は意外と都会であり、店もいっぱいある。大きいスーパーもある。こんな事なら鹿児島市内でもっとのんびりしても良かったかもしれないと後悔。
 街を抜けると、上り坂が始まった。幹線国道で一気に島の北部を目指しても良いのだが、あえて大回りをしていく。名瀬からいきなり上り坂だ。しかし、今日の山場はここが唯一と言っても良いので、苦手な朝の走りでキレが全くないのを認識しながらも上っていく。少し登り切ると名瀬の市内と湾が見渡せて気持ちのいい展望台に出た。全然走れていないが、ここで休憩する。もう一頑張り坂を越えると本格的に下り始めた。奄美大島の海岸線のアップダウンの多さをここで垣間見たような感じもある。
 一気に坂を下ると、もう1本上るかと思ったら、ほぼ平らなままトンネルに突入した。ゆっくりとトンネルから海岸線へと下ると、しばらくは平らな海岸線が続いた。外海に洗われた海は青く澄んでいる。岬の先端の方に走っていくと、ソテツの森が見えてきた。斜面に広がるソテツの大きな葉が見事だ。亜熱帯植物が生い茂る山を見ていると、ずいぶん南へ来たものだと実感するばかりである。
 平らで静かな湾を国道目指して戻っていく。地形が複雑な奄美大島だからか深くえぐれた入り江は静かな海が続いている。まだ先が長い俺にとってはありがたいことに道も平らで走りやすい。静かな漁村を抜けると国道に合流した。日も上がってきて気温も高い。国道合流してすぐに上り坂が始まる。このあたりからアップダウンが増えていく予感はする。奄美大島の地形を地図で見る限りでは避けられないことで覚悟をしないといけないようだ。まず1本目の峠をトンネルで抜いたところで見える海は今までと雰囲気が違った。遠浅で底が透き通って見えておりさんご礁の塊の黒い部分もはっきり見える。さんご礁の海に来たのは初めてのため興奮してしまう。道の左で海を眺める展望台に自転車を置いて、しばらく眺めを楽しむ。眺めも楽しみ体も少し休めたところで、また走り出す。しばらく海の眺めを楽しめる道と眺めのない道が繰り返されたあとで国道を離れる。鹿児島から続いている海上も含む国道はここでいったん終わりだ。ここからは左に遠浅の海を見る開放的で気持ちのいい海岸線が続いていく。

名瀬新港をスタート


峠の途中から名瀬の眺め


龍郷の海岸線 遠浅の珊瑚礁










ソテツの群生


GWだというのにアサガオ

 海の眺めがいったん無くなったところから、長い上り坂が始まった。坂自体は大した傾斜ではないものの、徐々に上がっていく太陽と気温に炙られる戦いになってきた。笠利崎を横にちぎる峠に苦戦する。坂自体が急なわけでも長いわけでもないが暑さと体に力が入らない不調に苦戦する。坂を上りきると、急な下り坂に入ってきた。下り坂の途中に展望台があったので立ち寄っていく。展望台から見下ろす土盛海岸はスケールが大きく気持ちがいい。外海と薄い水色の海岸とさんご礁がどこまでも続く。
 坂を下りきると左に海が見えてハイビスカスも咲き誇る。ゆるくアップダウンしながら海の眺めを楽しみながら走っていける。海岸線を走りきると、あやまる岬に向かう上り坂に差し掛かった。土盛海岸に下りてくる峠の上り坂からそうだが、相変わらず体にキレが全く無い。岬への上り坂に苦戦し何度も地面に足を着いてしまう。荷物が載っていない状態でこんな体たらくでは先が思いやられる。岬まで上りきると岬の南にも北にもさんご礁が広がっている見事な眺めである。空は曇り始めているが海の青さは際立っている。ここで体を思いっきり休めるために芝生でしばらく横になる。体に力が入らないときは、こういう全身を休める方法が効果がある。
 あやまる岬から観光公園に下ると、大きな公園もあり変わった自転車などの乗り物もある。自然の公園としては意外な景色でもある。公園の周りはソテツが自生していて南国の雰囲気も感じられる。さっきの完全休養が利いたか公園から戻る上り坂では比較的力を取り戻せた。しばらく走ったところのペンションで昼食にする。外の風が心地よいのでテラスで海も眺めながらの昼食する。店の入り口で奄美大島の黒糖を使った かさんもちざた を買っていく。少しもちもちした黒糖のお菓子だ。屋久島を回ったときも糖分補給で効果的だったので、少し楽しみでもある。待っていると、定食が出てきた。あおさの天ぷらと豚骨の煮込みと刺身と充実している。豚骨はコクもあってさっぱりともしていて美味しい。魚も新鮮だし、あおさも揚げられたら香りが立って美味しい。昼食に満足する。
 お腹も満たして体の疲れも少し取れたところで、快調な走りが始まった。ここからはサトウキビの畑や草原が続いて、その向こうに広い海が見える。雲も出てきて午前中のような炎天下ではなくなってきた。気温も落ち着いて調子を少しずつ取り戻し始めた。奄美空港でトイレに立ち寄ろうとした時に雨が降ってきた。レインウェアを着ないとしのげない量の雨だ。空港でレインウェアを着込んで、また走り出す。
 奄美大島の自然や歴史を展示している奄美パークに立ち寄っていく。雨を防げるトイレの軒先に自転車を置いて奄美パークの展示館へ入っていく。なぜか俺とタイミングを合わせてついてきた子供たちの入館料も払わされそうになりながら入っていく。ハブやアマミノクロウサギやリュウキュウコノハズクなど自然の森を再現したところでは、森がリアルすぎて何がどこにいるのかリアルに分からない。奄美大島の文化も見て回ったところで、さっきまでとはスケールがぜんぜん違う土砂降りの雨になってきた。
 大雨の中を強行突破で走り出していく。途中の原ハブ屋に立ち寄ろうと思っていたが、雨で面倒になってきたのであきらめた。本当はさんご礁の眺めがいいはずの道だが、ウェットの路面と視界をさえぎるほどの大雨と、体に打ち付ける雨粒の痛み… 完全に余裕はない。
 国道58号線に戻っても雨足は収まる気配は無い。この時点ですでに90kmを走っている。ホームセンターの前で少し体を休める。ここで入念にストレッチしていく。残り20km弱というところで時間帯も16時。日没まで時間はあるものの天気が悪いので暗くなるのは早いだろう。早めに名瀬まで走りきりたい。ここから本茶峠のトンネルに向けて上り坂が始まったが、午前中のグロッキー状態とは対照的に力強く走れている。ここ数年の傾向として不思議なのが前半が半端ではないほどグダグダでも後半に入って80km過ぎから力を取り戻す。今日もそんな感じになってきた。峠を下り、海沿いに出てからは朝走った道の逆走ルートになってきたので終わりが見えてきた。相変わらず降り続く雨の中で名瀬の街にたどり着いた。町で唯一か島で唯一のコンビニを物色しつつホテルの場所をケータイで探して少し迷いつつも何とか見つけた。

土盛海岸を見下ろす展望台


あやまる岬


豚骨の煮込み


奄美大島の黒糖菓子 かさんもちざた
少しモチモチしている


雨の用安海岸

 名瀬の港へ行きコインロッカーから荷物を引き取る。ザックにすべて詰め込んで背負って雨の中をホテルへと戻る。ホテルにはコインランドリーもくっついていて雨に一度も打たれずに自転車置き場とコインランドリーを行き来できる。自転車も雨をよけた軒先にきっちり置ける。部屋で荷物を開梱してサイドバッグやフロントバッグに詰め込む。キャリアの取り付けまでやったところでシャワーを浴びる。このときに部屋のテレビで衝撃の事実を知る。まだ4月の末だというのに奄美地方の梅雨入りが発表された。明日以降は4日連続で雨という予報だ。
 今回の旅は試練の旅になりそうな予感と雨ばかりの旅でどうなってしまうのか、何を楽しめるのか不安になりながら、部屋を後にした。ここで汚れ物を一度洗濯する。洗濯物がたまっているわけではないが、コインランドリーは走行ルートでは名瀬しかなく戻ってくるのは4日後なので全て使い切ってしまうのだ。
 洗濯しながら買い物を済ませて、夕飯を食いにいく。郷土料理を味わえそうな明るい居酒屋を見つけたのでそこに入る。今日は110kmを走りぬいて無事に名瀬まで戻ってくる初日を終えたし、これからの旅で奄美大島を楽しめるよう色々と頼んでみた。黒糖焼酎が意外とすっきりしてて美味しい。黒糖の甘みと香りを生かしたものから、すっきり仕上げたものまで種類はいっぱいある。魚も新鮮で美味しい。やはり島旅はいい。すっかり酔っ払ってホテルに戻り眠りについた。


   出発(鹿児島県鹿児島市)から 121.04 km

2日目 名瀬 → 住用 → 網野子峠 → 瀬戸内 48.26 km
2012/04/30
 昨日は荷物なしの身軽な走りだったが、今日は荷物満載での出発だ。雨はやんでいるが、蒸し暑く重苦しい空気が漂っている。まずは最初から峠越えと思われるトンネルへと向かって登っていく。傾斜も長さもそうでもないままトンネルに突入し、トンネルの中で上って下ってという道が始まる。地図で見る限りでは奄美大島の道の特徴としては長いトンネルを掘りまくって峠ののぼりを回避している地形だ。
 1回目のトンネルを抜けると、景色が一変した。大きなシダ系の植物と思われる木がいっぱい生えた山深い道になってきた。蒸し暑さと亜熱帯植物の森に南の奄美大島の風情を感じながら2番目の峠に入っていく。これも大きく上ることも無くトンネルに入っていく。トンネルも2kmと長い。後ろからの車に気をつけながら自転車を進めていく。峠を下ると海が見えてきた。今日はカヌーで遊ぼうと思っていた住用の5kmほど手前の内海にたどり着いた。もしかすると宿泊地になるかもしれない場所なので様子見と買出しできるかを考えつつ産地直売の小さな店に立ち寄っていると雨が降ってきた。時間ごとに雨脚が加速してきた。
 やっぱり来てしまったかという気持ちでレインウェアを着込んで、再び走り出した。13時半までに住用にたどり着かなければならないが、10時半の時点で残り5kmほどと楽勝ムードではあるので気楽だ。そして3番目の峠をトンネルで越えて住用の道の駅にたどり着いた。道の駅でマングローブ館が見物できそうだし、駐車場のはずれにある東屋でテント一張り分ならスペースもありそうだ。土砂降りの雨の中でも冷静に判断していく。駐車場はすっかり水浸しで5cmぐらいの深さまで水がたまっている。
 まずは現実を忘れてマングローブ館でリュウキュウアユや奄美の野生動物を見て、今回のガイドツアーと違うカヌー乗り場にも行ってみた。女性ばかりの10人ぐらいの集団が土砂降りの雨の中で戻ってきた。この調子なら雨が激しくても乗れてしまうか? 少し期待もする。公園自体は見所が少なく少しがっかりな感じではある。てるてる坊主で晴れを願ってくれる地元の子供に見送られながら出発する。
 道の駅から少し坂を上るとマングローブ茶屋があり、そこを過ぎると下界にはマングローブの雄大な森とゆったり流れて蛇行する川が見えてきた。この絶景には感動が。坂を下ったところに待合所があるはずだが、坂を下らずに引き返してマングローブ茶屋で昼飯を食べていくことにした。土砂降りの雨で俺はずぶぬれなので座敷には座れず椅子を出してもらった。濡れてるので奥で着替えを進めてくれたりと気を使っていただいてはいるが、これからカヌーに乗ってもっと濡れる予定だ。ずぶぬれのまま豚骨カレーを食べる。コクのある豚骨がカレーとよくあって元気が出そうな一皿だ。マングローブ茶屋の窓からの眺めもすばらしく、屋上からの眺めもいい。土砂降りの雨に打たれながら景色を眺める。集合時間まで30分以上もあるが、カヌーの集合場所まで坂を下っていく。意外と近すぎて時間はあまりまくった。靴下を脱いで濡れた靴を軒先で水抜きしつつ借りたサンダルに履き替えて、徐々に準備を整えていく。その間に川の流れを見ると、かなり早い。インストラクターの判断だとギリギリいけそうとのことだが、正直戻ってこれる気がしない。いよいよ出発の時間となったところで川の水はさらに流れを増していて、インストラクターが一度漕ぎ出して戻ってくる様子を見てると全力で漕いでやっと帰ってこれる状態だ。ということで中止となった。痛恨である。しかし、相手は自然なので仕方がないと割り切るしかないだろう。
 雨はいったんはやんだので、このまま先に進むことにした。網野子峠へのアタックを開始する。奄美大島の国道58号線の峠の中でここだけは峠をトンネルで抜けずに山を越えていく。高低差360mと奄美大島にしては厳しい峠である。昨日の疲れもあるが、俺にしては調子よく登っている。重い荷物を抱えての走りは実質の初日となって、体のできは全然のため登り始めると苦戦が続く。しかも途中で再び大粒の雨が降ってきた。レインウェアを着込んでの走りが続く。途中でアマミノクロウサギへの注意を促す標識や標示が多くなってきた。この網野子峠もアマミノクロウサギの生息地帯である。夜行性なのでこの時間帯に見ることは無いが、今年の旅の中で是非見ておきたい動物であるため楽しみになってきた。
 雨だというのに1.5Lの水を飲み干すほど、なんだかんだで苦戦した網野子峠を何とか越えた。峠の南側は複雑な岬や島が点在する絶景が広がる。景色も楽しめるし、旅の直前に乗せ変えたブレーキも調子がよく、峠の下りを楽しめる。奄美大島に来てからは初めてお目見えする厳しいワインディングの下り坂である。自転車をギリギリで小気味よく操る喜びはあるし、見下ろせば景色もよい。ブレーキがよくなったおかげで信頼感も出るしストレスが減ると気持ちがいいものである。
 坂を下りきったところで休憩しつつ、明日以降の朝食や非常食にもなりそうな150円ほどのサーターアンダーギーを買っていく。かぼちゃを練りこんであるようだ。これが香ばしくてカボチャの甘さも出てて黒糖のコクも感じられて本当に美味しい。この店の母さんはいい人で、おまけにどら焼きをくれて、奄美の島味噌で作ったおにぎりと漬物もくれた。親切に「こういう梅雨入りして雨が降ってる蒸し暑い日はハブが出る」とも教えてくれた。年寄り(私の親の世代以上)だということが大げさで、実際はそんなにニョロニョロ出てくるわけ無いだろうと思いつつ、どんなところから出やすいかなどは教わっていく。しかし、これが年寄りの大げさトークではないということを後々に知るのである。
 最後に軽い峠をひとつ越えて古仁屋の街にたどり着いた。ここは事前に調べた限りでは銭湯もあるし、スーパーなどもある。公園も港のそばにある。加計呂麻島に渡れる港になっており、拠点としては非常に良い場所で名瀬の次に栄えている場所である。今は旅が便利な時代でケータイで銭湯を探すこともできる。スーパーでの買出しを済ませて銭湯で風呂に入る。雨と汗に汚れまくった体を洗い流し、さっぱりした気分で公園に行く。でかでかとキャンプ禁止と書いてあるので、テントを張るのは完全に日が暮れて人通りが消えたあとにする。公園のすぐそばにはクルーザーを乗り付けて宿泊してる人もいるが、それはOKなのか? まあ財力があれば何でも許されるのであろう。
 地べたにレジャーシートを1枚敷いて、まずはご飯を炊く。炊いている間に刺身を準備する。今日は奄美大島産のキハダマグロとウブス(かつお)の刺身で料理をする。まずはキハダマグロを醤油と酒(黒糖焼酎れんと)で漬けにする。そこに喜界島産のゴマを入れて、しばらく待つ。続いて、オリオンビールで乾杯しながら、ウブスの刺身をいただく。味は完全にかつおだが、気持ち癖が強い気はする。品のある日本酒でいただくよりは、それこそ焼酎なんかがぴったりかもしれない魚である。そこで買ってきたれんとをロックで飲みながら、ウブスの刺身を堪能する。ご飯の蒸らしが終わったところで、茶漬けをご飯にかける。最近、海沿いではかならずやる定番メニューになってきたが、魚が美味しいと本当に美味しい一品だ。
 いつまで経っても人通りは減らず、ちょこちょことトイレだけを使いに来る車中泊と思われる人たちがいたが、土俵の軒先にテントを張って眠りに着く。夜中にも少し雨が降ったようだ。

フル装備の旅のスタート


奄美大島らしく亜熱帯植物が生い茂る


マングローブ茶屋 豚骨カレー


住用マングローブの森の眺め
(マングローブ茶屋屋上から)


網野子峠への上り坂
アマミノクロウサギ生息地に入る


網野子峠から見下ろす


カボチャのアンダギー


ウブスの刺身、オリオンビール


黒糖焼酎 れんと

近海産キハダマグロの茶漬け


   出発(鹿児島県鹿児島市)から 169.30 km

3日目 瀬戸内 → 宇検 42.55 km
2012/05/01
 思いっきりキャンプ禁止と書かれているのにキャンプしてる気まずさもあり、土俵の周りのゴミを全てかき集めていく。どこかに捨てようと思ったら、ちょうど公園の清掃をしていた地元の人に回収してもらえた。一日一膳、一宿一飯のなんとか不成立。公園のすぐそばのフェリーターミナルでは朝から火災報知機がけたたましくなっているが、誰も気にもとめず出入りしている。誤報だろうか? その様子を見守りながら撤収していたら20分ほどで警報はとまった。
 奄美大島ではおそらく2軒しかないであろうコンビニで朝食にする。奄美大島のEVERYONEは店内にイートインスペースもあって焼きたてパンや弁当やおにぎりが充実している。北のセイコーマート、南のeveryone 愛すべきコンビニである。朝食を済ませて出発すると、昨日までの疲れがどっぷり溜まった足では、全然前に進まない。それでも視界の左側は島に囲まれた静かな海やさんご礁が見えていて気持ちがいい。急ぐ意味はさほどないのが救いだろう。高知山展望台に上るのをあきらめた分、行程は短くなっているので、多少は気楽に走っていく。久慈までの道は岬をまたぐところは少しだけ坂を上るが、基本的になだらかな道が続いていて走りやすい。頑張りどころが見やすいのは助かる。静かな海がどこまでも続いていて気持ちがいい海岸沿いの道を走っていく。
 小名瀬のちょっとした峠を頑張って越えたところで、メーターの走行距離が49997となってきた。もう少しで積算距離50000kmを達成である。峠のくだりで距離はどんどん進み、坂の途中で49998を越えて、49999になったところで、一応メーターの写真を撮る。そしてさらに下って下りきったところで、ついに50000になった。50000という数字は大きくキリが良い数字であり、ものすごい達成感はあるが、まだまだ通過点でありたい。これから老いて行く体とそうはさせまいと盛り返したい気持ちを戦わせながら距離を伸ばしていくだろう。そのせめぎあいの中にたくさんの思い出と記録を積み重ねていきたいものである。
 写真を撮ったりしていると、一人のサイクルツーリストにさーっと追い越されていった。予備のタイヤなんかも積んでいて、いかにも長距離を行こうとしている雰囲気でもあり、強そうな感じだ。追いかけても追いかけきれず視界から消えていった。
 久慈から名柄に抜ける峠道の手前の公園で昼食をかねて休憩にする。昨日のサーターアンダーギーを頬張りながら体の回復を図る。峠の上りなので心して立ち向かいたいものである。香ばしくてうまいサーターアンダーギーで腹を満たし、昨日の出来事に心を満たし、足回りのストレッチも済ませて出発する。この峠は坂自体はさほどハードでもないが、熱帯ムードがすごい。バナナの木のような木が生い茂り、道も狭くカーブが鋭い。車の量も少なくほとんど見かけることはない。亜熱帯とはこういうものかと思う峠である。太陽は出ていないが、蒸し暑い。そして頂上が近づいてきたころに大粒の雨が降ってきた。あわててレインウェアを着込む。そして大きな雷の音も鳴り響く。雷を受けるような高い建物や鉄塔はこの辺にはない。せいぜい回りには木が生えているだけだ。落雷の恐怖と痛いほどに打ち付ける大粒の雨に耐えながら、残りの道を走っていく。このコンディションでは上りきれば安心かというと全くそんなこともない。瀬戸内から宇検に抜けたら下るかと思ったら上り坂が続いていた。今は坂のきつさより雨のつらさのほうが上回る。上りきった実感や達成感は全くわかないまま、そそくさと峠のくだりに入った。雨は加速し地面は水が流れている。光ってから音が出るまで時間がほとんどなく近くに落ちているのが分かる雷も響く。坂を下っていくが、傾斜やカーブも鋭い。そして雨のせいで地面が滑りやすいし水が横にも後ろからも流れている。不安定な中でスピードを上げすぎないように常に強いブレーキをかけていく。そこはロード用のスイスストップは信頼感が強い。安定してブレーキが利いてくれている。
 そして名柄の集落へと下った。突き当りを右に曲がればこれからの進行方向、左に曲がるとタエン浜と呼ばれてるきれいな浜辺があるが、寄り道をしている余裕は全く無く宇検のほうへと走っていく。ここからは、ほぼ平らな道が続いている。海も静かで雨粒で波立っているだけだ。コンディションが悪いほうが俺は燃えるのだろうか、集中して宇検へ向けて走っていく。そして1時間とかからずに宇検の街についた。さっき追い越された旅人は産直の店員と思われる女性と軒下で話していた。一度、そこを通り過ぎて運動公園に寝床がないか探す。運動公園の中も雨水が冠水しまくって10cm以上も水深がある。ジャブジャブと走りながら寝れそうな場所を探すが、冠水していない場所が見つからない。唯一見つけたのは野球場のベンチ。ここは屋根もあってスペースがあり、なぜか3塁側だけは水はけがよく無事だ。風呂もあるし、飯を食べるところもある。この先の大和とかまで走ってもいいし余力も時間もあるが、もう面倒になってきた。
 俺も雨宿りと買出しと情報収集を兼ねて産直に立ち寄った。その旅人は日本縦断中で北海道を目指していた。今日のフェリーに乗るため名瀬に向かっているようだ。産直の女性は東京から移住してきた人で気さくである。産直自体は品揃えが一人旅向けではなく、あまりに大量過ぎて買いにくい。野菜にしてもなんにしても今は谷間の時期でそれほどそろわない。ここでも言われたのは、今日みたいな日はハブが出やすいので気をつけないといけないようだ。地元の人は捕まえて保健所に持ち込むと1匹4000円で買い取ってくれて、後に競売にかかるそうだ。年寄りの大げさトークかと思っていたが、俺と同世代か少し若いぐらいの人もいってるぐらいだから、やはりそうなのだろう。
 産直をあとにして、昨夜そのうまさにはまった黒糖焼酎れんとの工場である開運酒造に見学へ行く。工場見学は今日は終わってしまったので、試飲だ。いろんな種類があるが、黒糖焼酎を今まで飲む機会は全く無かったのだが、こんなうまいものがあったのかと感動。芋より優しいが、ちゃんと焼酎らしい癖があって好きだ。少し酔っ払ったので開運酒造のはっぴを着て記念撮影をしてもらい、調子に乗って自宅宛に焼酎を何本か発送してしまった。ここで、れんとの仕込みに使っている水をペットボトルに汲んでいく。
 最初は面倒なので飯は風呂のところで済ませようかと思ったが、汲んだ水で飯を炊いてみたいという欲求にかれて、基本的に自炊する方向に変更だ。宇検の街にあるスーパーと魚屋で買い物をする。スーパーでは店主の孫をあやしながら買い物をし、ふと外を見ると近所の犬が雷に驚いて逃げ出したようで、ミニチュアダックスが3匹ほどうろうろしていた。地元の人と一緒にあわてて捕まえに出る。何とか事なきを得たところで買い物を済ませて、魚屋に行く。見たこと無い名前の魚が並ぶケースに戸惑っていたら、サンノジという白身を勧めてくれたので、それを買っていく。
 野球場のベンチにテントを張り、荷物を干せるだけ干す形を作ったところで、道路の向かいにある風呂へ行く。入浴している間にまた土砂降りの雨が降ってきた。さっきは水はけがよかったのだが、今回の雨に耐えてるか心配ではある。土砂降りの雨に打たれながら、露天風呂も楽しんで、風呂をあとにした。相変わらず降り続く土砂降りの雨の中をテントに戻る。まずは米を研いで炊く。その間にサンノジを裁いて刺身にする。量は多いので半分は茶漬けにして、半分を刺身。もちろん、れんとで晩酌だ。刺身と島豆腐の冷奴をつつきながら酒が進む。島味噌であおさの味噌汁を作ってみたら、島味噌はすりつぶさないと味が汁に出てこないようで、水っぽいものとなった。何とか具だけは食い尽くして、飲むに耐えない汁は捨てざるを得なかった。サンノジの茶漬けも脂の乗った力強い白身が心地よくて美味しい。天然水で炊き上げた米はふっくらと甘くそれも美味しい。
距離はそれほど走っていないが厳しいコンディションの1日を乗り切った喜びをかみ締めながら眠りにつく。ケータイで天気予報を見ると明日からずっと晴れで梅雨の中休みに入るようだ。あたって欲しいと願いつつ眠りについた。

瀬戸内町と加計呂麻島の間の海


積算距離 50,000km達成


50,000km達成地点


バショウの木が生える峠道


土砂降りの雨が降ってきた峠


奄美大島開運酒造
黒糖焼酎 れんとの製造元


開運酒造の開放的な店内


試飲し放題
親切におつまみも出してくれる。


サンノジの茶漬け



   出発(鹿児島県鹿児島市)から 211.85 km

4日目 宇検 → 大和 → フォレストポリス 37.04 km
2012/05/02
 果たして予報は当たったのだろうか。空は曇っている。雨は夜の早い時間帯でやんだようで地面はそれほど濡れていない。時間が許す限り荷物を乾かして出発する。1つどうしようもなくなっているのが濡れたまま乾かない財布だ。入れてるお金もよれよれだし、財布自体もからっとしない。ここで金とカードをジップロックに入れて、財布を荷物に挟んで乾かしながら走ることにした。今日の目的地であるフォレストポリスまでは距離にして35km程度と少ないので、出発はのんびりする。チェーンに油をさしたり、ブレーキの遊びが増えた分をつめたり自転車のメンテもきっちりやっていく。
 9時半頃に運動公園をあとにして、まず開運酒造に行ってボトルに水を汲んでいく。やはり水分補給はミネラルウォーターがいい。ついでに工場見学に行くことにした。1組目が終わったところなので、ちょうどいけた。黒糖に熱をかけて溶かした液と米につけた酵母をまぜて発酵させて黒糖焼酎はできる。れんとはタンクにクラシックを聞かせて振動をかけながら発酵させる。面白いことに本当に音楽がそこに流れているのだ。工場見学を満喫して、宇検をあとにした。
 焼内湾に沿った道は平らで気持ちよく走れている。昨日の距離が短かった分、足が少し回復している。坂は短く急だが少しショートカットできそうな峠へ入っていく。かなり急な坂が続いたが、何とか越えていく。県道に再び合流すると宇検村から大和村に入るので、そこが頂上だろうと思ってたら、まだまだ上っていた。こういう読み間違いは体力と気力を意外と消耗する。不思議なことに峠の雰囲気が昨日の熱帯ムード満点のものとは違い、本州で見かけるような何の変哲も無い植物ばかりとなっている。一山越えるだけで、こんなに変わったのかと思うと不思議である。蒸し暑さも昨日と比べたら収まっている。
 今里に向かって豪快に下っていく峠は気持ちがいい。上った距離と標高が長かった分、下り坂のボリュームはある。昨日の雨のダウンヒルと比べたらブレーキも路面も乾いている分だけ気持ちの余裕もある。今里から先はさんご礁というわけでもなく外海にさらされた荒い海が続いていく。地形も険しく海に削られた山である。その分、道もトンネルでアップダウンしないように処理してあって走りやすい。
 戸円から大棚に越えるところが、一つ大きな山場と見て構えたところで、上り始める手前にアメリカンテイストの小さなカフェが見えた。オープンテラスもあり、向こう10kmで最後と思われる店だ。通り過ぎようかと思ったが立ち寄ることにした。少し早いがここで昼食にする。手作りのカレーを堪能していると、オーナーの自由すぎる感じのおじさんが話しかけてきた。ユニークなキャラクターのため話は盛り上がった。早めのはずの昼食がすっかり長居してしまった。

宇検でのキャンプ
野球場のベンチで大雨をしのぐ


宇検から大和への下り坂


ハンバーグカレー


ハンダマのゼリー

 ここで教えてもらった商店に買い物に行き、ニンニクとベーコンを手に入れた。午前中の走行中にひらめいたアイデアで、今夜は島味噌を使ったアーリオオーリオにしたいと思っていた思惑は何とかかないそうだ。インゲンも手に入れたので、喜界島産のゴマと島味噌であえてもうまそうだ。
 カフェをあとにすると厳しい上り坂が始まった。地図で見る限りでは200m近くまで上っている。途中にある展望台の眺めも楽しんで、少しずつ高さを稼いでいく。左は山の斜面を時々見下ろしながら海まで斜面が続いている風景である。それはそれで楽しみながら走っていける。時々、右に曲がるとフォレストポリスに行けるとの標識が出ているが、舗装されてるかもあやしい道に曲がっていくか、一度は大棚まで下ってから上るか迷うところでもある。こんなに上ったのであれば下ってから上り直すのはもったいない。上りきったところに展望台があった。断崖絶壁にソテツの木々が自生している。その眺めも見事だ。ここで強い風が吹いてヘルメットが崖下に向かうフェンスの向こうに落ちた。あとちょっとで崖下に落ちそうなところで止まっているが、フェンスを越えて拾いに行く勇気はなく地べたから手を突っ込んで何とか回収。前のメットは風で飛ぶほど軽くは無かったが今のやつは軽いので気をつけないといけないものだ。
 ヘルメットをかぶって坂を下って大棚についた。大棚からフォレストポリスに向かう本格的な上り坂が始まった。坂の途中で話しかけてくれた地元の人の情報では、フォレストポリスにたどり着く前に一度 山を登って下ったところの谷にフォレストポリスがあるようだ。坂は厳しくて長く終わりが見えてこない。フォレストポリスが標高200m程度なので大したこと無いだろうと思っていたが、全然終わらない。しかも見下ろす風景が明らかに100mとか200mの雰囲気ではない。かさんもちざたでエネルギー補給しながら、上り坂に耐えていく。すっかり日も傾いてきたところで、3方向に向かう分岐があった。これで峠かとおもったら、下り始めた。この時点で夕方の5時。ギリギリではあるが残りが下りとちょっとした上りだけなら何とかなるだろうという安堵感がある。しかし、下りは思ったより長い。ていうか明日はこれを上るんだが、それを思うとげんなりするほどに下る。昨日の雨の痕跡か山から流れてきた小さな石が道路を渡っている。それを踏み越えながら走っていく。コンディションがこんな調子なのでスピードは出せない。浮石で流れたりしたら大変だ。
 その慎重さがあだになったか、砂利を乗り越えたところで自転車の挙動が荒れ始めた。そしてリムが地面に当たる衝撃が後輪から来た。まさかのパンクである。ちょうど路側帯が広いところだったので自転車を端に寄せて倒してパンク修理をする。今回の旅でブレーキを換えたので、従来はホイールをフレームにはめてから空気を入れないといけなかったのが、空気を入れてからフレームにはめれるようになったので気楽だ。早速、タイヤをはずしてチューブを入れ替えていると、フォレストポリスから帰っていこうとする職員の方に話しかけられた。フォレストポリスまで自転車ごと車で運んでくれることを提案してくれたが、そこは断って修理することにした。親切にもキャンプ場に連絡を入れてくれた。そしてパンクは直って再び走り出したときにはすでに18時。日没も近い。
 下り坂の途中でとぐろを巻いてる蛇を見かける。もしかしてハブ? とも思ったが、あとから考えてみると毒のないアカマタだろう。マテリアの滝に立ち寄るのは蛇が活動し始めてる時間なので危険だろうと考えて、キャンプ場へ急いだ。滝からはわずかに上り坂だったが、日没で真っ暗になる前にたどり着きたい欲求のほうが圧倒的に上回って平地のように力強くこなして走る。
 そして、フォレストポリスのキャンプ場に着いた。早速、チェックインをしているとナイトツアーのチラシを見つけた。このキャンプ場で車に乗せて連れて行ってくれるようだ。夜一人で歩くか、誰かほかのキャンパーが居たら一緒に歩くかなどと考えていたが、いかんせん毒蛇のハブがいるような山奥なので素人の一人歩きは危険だ。今日の今日でも受け付けてくれたので、ツアーに連れて行ってもらうことにした。親切にも職員用の風呂も貸してもらえた。テントを張って、まずは風呂だ。サイトとサイト間の通路は全て木道が整備してあり、地べたに直接は張らない。風呂を済ませて、さっぱりしたところで夕飯の準備を軽く済ませておいた。
 19時半になったところで説明を受ける。職員の人はハブ狩りで山を回っていることもあり、自然観察のプロということもあり非常に詳しく面白い。ハブやアマミノクロウサギの生態や奄美の山奥にいる動物や事情を教わって出発だ。四駆のSUV系の軽で山奥へと入っていく。まずは、来た道にも行く。意外と自然の宝庫でヒメハブやアカマタなどの蛇がいっぱいいる。アマミノクロウサギの糞も落ちているし、オットンガエルやサソリモドキなども居る。日没後に走ってたらどうなってたのだろう…と思うとぞっとするものがある。それだけ自然豊かな場所なのだ。ここではアマミノクロウサギを見ることはできず、引き続き別の方向へと踏み入っていく。聞きなれないカエルの鳴き声や鳥の声を聞きながら進んでいくと、茂みが不自然に揺れてアマミノクロウサギの鳴き声が聞こえてきた。会話に夢中になっていたが、俺は見逃していなかった。しかし、姿をみたいものだ。さらに進むと、ついにアマミノクロウサギの姿を捉えた。車からそっと降りて写真を撮る。まだ子供のウサギだからか警戒心も弱く逃げる方向も効率が悪く側溝の中をトテトテと逃げていく。姿が見えなくなるまで挙動を見て楽しめた。こんなに接写できるケースは珍しいようだし、こんな弱肉強食の山奥であんな可愛い生き物が生きてるという事実を目の当たりにして自然の奥深さを感じる。シリケンイモリやヤマシギなど夜行性動物をたくさん見ながら車は進む。アマミノクロウサギをもう1匹見ることもできた。こちらは大人だからか素早く逃げてしまいズームで写真を撮るのが精一杯だった。ここまで来たら、せっかくなのでKing of Snakeのハブも見たい。ガイドさんはハブ狩りの名人なので、ハブ取りセットは常備している。噛まれないような分厚いゴム長も履いている。途中からはガイドツアーというよりはハブ狩りについていくような感じになって、いつもより明らかに多めに走ってもらえた。今日は天気が良すぎたからかハブが出てくることはないまま時間は過ぎていった。奄美大島の大自然を心から満喫できたアクティビティに心から感謝したい。キャンプ場に戻るとオットンガエルが出迎えてくれた。

戸円から大棚に上る峠からの眺め


険しい海岸線が続く


フォレストポリスへの上り坂
深い森が続く


オットンガエル

アマミノクロウサギ
こんなに接写できたのは奇跡的

 そして夕飯だ。まずはオリーブオイルでニンニクを揚げ炒めして香りを引き出す。ここに半練りにして粒感を残した島味噌を入れて少し焦げ目をつけるぐらいにいためる。ベーコンも投入して味をなじませる。ここでソースを止めて、コッフェルでパスタをゆでる。茹で汁をソースの方に入れながら茹で上がりを待つ。麺が茹で上がったらフライパンを火に戻してソースを温めて乳化させる。そこに麺を入れて絡める。これで島味噌のアーリオオーリオパスタの完成だ。島味噌とゴマをあえたインゲンを副菜にして、れんとを飲みながら楽しむ。パスタが神が舞い降りたかと思うほどの旨さだ。甘くてコクのある島味噌と焦げ目、そこにニンニクの香り。絶妙の一皿に仕上がった。
 走り、海、ナイトツアーで出会った野生動物、神が舞い降りた夕飯… 今日は刺激も満足感も多い1日で、いつもより夜更けまで遊んでしまったが満足である。リュウキュウコノハズクとオットンガエルとイシカワガエルの声を聞きながら、大自然の中での夜は更け眠りについた。

奄美の島味噌
すりつぶして使う。キュウリにつけてかじる。


島味噌のアーリオオーリオパスタ
料理の神が舞い降りた美味さ。


インゲン豆の島味噌ごま和え
ごまも喜界島産



   出発(鹿児島県鹿児島市)から 248.89 km

5日目 フォレストポリス → 大浜 → 名瀬 37.11 km
2012/05/03
 どっぷりと昨日の疲れを身にまとって目が覚めた。いかんせん今回の計画は距離が小刻みすぎて、今日も30kmちょっとしかないし全体的には下り基調である。峠らしい峠もフォレストポリスから戻るところと、その後で2本だが昨日ほどの高低差はなさそうだ。まあ何とでもなるだろうと、客のいないキャンプ場で音楽を聴きながら、ゆっくりと準備をしていると、少し必死な形相のバードウォッチャーの人が話しかけてきた。キャンプサイトと道路の間の木に珍しい鳥がいるようだ。音楽を止めて鳥を探すと、すぐに見つかった。奄美大島に生息するキツツキであるオーストンオオアカゲラが巣作りをしていた。つついた木の中から木屑を出して穴を掘っている。あんな小さな体でよくこんな大穴を空けたものだと感心する。
 昨夜はお世話になった職員の方に挨拶をしてキャンプ場を後にした。まずは坂を下ってマテリアの滝によっていく。亜熱帯植物ときれいな水の滝が良い雰囲気を出している。思わず泳ぎたくなるような滝だ。水の色もミネラルを帯びているからか単なる透明ではなく水色に見える。ここから長い上り坂が始まった。やはり、昨日のアップダウンはきつかったようで、足の蓄積疲労は隠せない。こんなにきつい坂だったかなぁと思い返しながら、真夏のような日差しに炙られながら上っていく。今日は日光が容赦なく照り付けてくる。予想外に苦戦しながら坂を上りきった。ここからは注意が必要だ。明らかに昨日の上り坂で苦戦したぐらいなので、傾斜もカーブも鋭い坂だ。
 慎重にスピードを殺しながら、カーブの向こうに気をつけながら走っていく。そして、大棚に下ってきた。上り坂の途中ぐらいからずっと圏外だったケータイでメールを送受信して、また走り出す。大棚から大和村の中心部まではトンネルで峠が作られている。ここは比較的楽に越えて、ふと右側に島味噌ラーメンと書かれた看板を見つけた。下り坂の途中だし、昼食には少し早いし、暑い日にラーメンは嫌だしと思い通過する。その直後に群倉(ぼれぐら)が昔のままの姿で残っていた。太い木の柱の上に倉庫があり、開放的すぎる下回りが不思議な形だ。
 ここを過ぎて、大浜海浜公園まで我慢するのも嫌なので次のポイントで昼食を…と思いながら走っていると、そういうときに限って店は無い。外海に洗われる荒っぽい海岸線ときれいなさんご礁が交互に見れる。そして1つ目の峠を上り始めた。高さ自体は昨日と比べたら全然低いので、何とか越えていく。ただ、蓄積疲労と暑さでやられているので効率は思ったより悪い。これを下って漁村があるが、ここでも昼飯にはありつけない。そろそろ腹が減ってきたが、大浜海浜公園に向けて上り坂が始まる。雄大な海の眺めを楽しみながら坂を越えて、下り始めるところで左折。海浜公園は海の高さにあるので急な坂を下る。後で上りなおすことを考えると、一つも楽しくない下り坂だ。下りきったところで昼食にしようと店に立ち寄ると、びっくりするぐらい何も無い。海洋科学館のほうに行こうとしたらタラソテラピーをやっているところがあり、そこのレストランがよさそうだ。しかも暴飲暴食サイクリストの俺に優しくヘルシーメニューがそろっている。でも、島の食材をふんだんに使ったメニューが充実していて好感が持てる。テラス席で海を見ながら昼食にする。島豚と島野菜のハンバーグも紫の出るハンダマのご飯も美味しく満足。デザートの黒糖シャーベットもさっぱりしながらコクがあって美味しく満足の昼食だ。
 昼食で腹を満たしたら、水族館に行く。まず出迎えてくれる奄美の海を再現した水槽でウミガメが泳いでいてさんごが飼われているのが印象的だ。さんご礁ができるまでの展示やウミガメの餌付けができたり、見所は多い。しかしながら、観光ハブセンターでハブを見たいと思っていたので、餌付けの無料券は返して水族館をあとにした。また厳しい上り坂を上らされる。ここは傾斜が半端ではないので、ウェイトリフティングでもしてるかのように脚力を持てる限りペダルに押し込んで自転車を上に押し上げていく。そして県道に戻って名瀬へ下り始める。坂を下りきってトンネルを抜けると名瀬の街や港が見えてきた。
 観光ハブセンターに立ち寄ってみたら、営業時間は18時までのはずで見れると思ったら、早仕舞いするからと言って断られた。ゴールデンウィークに早仕舞いしてしまう商売っ気の無さと、客に謝りもしないところが最高に気に入らない。行くなら原ハブ屋のほうがよさそうだ。こんなことなら、水族館でウミガメに餌付けしたり、もっと遊ぶ余地があったような気がしてもったいない。

マテリヤの滝


大和村の群倉(ぼれぐら)


国直海岸


大浜海岸


ハンダマの炊き込みご飯


黒糖シャーベット


島豚と島野菜のハンバーグ


餌を求めてやってくる
アカウミガメの子供たち


ウミガメの子供
手で触ることも可能

 そして港を過ぎてホテルへ戻ってきた。これで奄美大島の1周が完走だ。梅雨入りしてしまったついてない気候、厳しい坂、ちょっと油断するとハブが出る恐怖… 史上最も厳しい島旅だったかもしれないが、人の優しさは多く感じられた旅でもあった。この島では自転車や歩行者がいたら、スピードを落としてゆっくりと安全に追い越し、決して煽ったりしない。その理由をフォレストポリスで聞いて知った。道の端にはハブがいるので、基本は道の真ん中を歩くよう子供のころから習う。だから人や自転車がいても寛容なのだ。厳しい自然の中に生きる人間もまた自然の一部。自然が厳しいからこそ人が優しいのかと実感する。この島に惹かれて移住するのも、その優しさの一部ではないかと思う。島旅の醍醐味を存分に味わえた奄美大島の旅であった。
 ホテルにチェックインしたら、シャワーを浴びて洗濯をする。汗と雨水を吸って重く汚い洗濯物をきれいさっぱり洗う。乾燥機に仕込んだところで、飲みに出かける。今日は雨ではないので店を探す余裕はあったが、結局は出発時に選んだ居酒屋に行く。オリオンビールで島一周を走り終えた喜びを飲み込んだら、刺身にえびや貝に豚肉… そして黒糖焼酎。奄美大島の魅力を存分に味わい尽くした。最高の打ち上げとなった。酔っ払ったまま洗濯物を圧縮袋に詰め込んでサイドバッグに入れる。荷物は全部自転車にくっつけたままにしている。ほとんど身一つで部屋に戻り眠りに着く。フェリーは朝5時には入港して5時半には出る。寝坊は絶対に許されない。気が緩みっぱなしの俺だが次の旅路へ確実につないでいく必要がある緊張感を持って眠りに着いた。

大浜海岸を見下ろす


黒糖焼酎 れんとで乾杯


刺身が美味しい


あおさの天ぷら



   出発(鹿児島県鹿児島市)から 286.00 km

6日目 奄美市内 1.20 km
2012/05/04 奄美大島 名瀬 → 沖縄本島 本部
本部港 → 備瀬崎 17.37 km
 朝は4時半に目が覚めた。というより、ほとんど寝れなかったというのが正しい。二度寝だけは絶対に許されない緊張感の中でホテルをチェックアウトした。まだ暗い名瀬の街を港へ向けて疾走する。距離にして1kmもない走行で港にたどり着いた。まずは乗船手続きを済ませて、自転車を載せる手続きも済ませる。ゲートブリッジの前まで行き、相変わらず職人芸で荷物をどんどん詰め込むフォークリフトたちの合間を縫って乗り込む。自転車を置いて船室へ向かう。
 船室で自分の居場所を確認したところでデッキに出て奄美大島を眺める。フェリーで出港するときの、この寂しさとか達成感とか振り返る感覚がなんとも言えず好きだ。島旅の最後はフェリーから島を眺めながら去っていく…これは欠かせないイベントになりつつある。徐々に明るくなる名瀬の街、フェリーが出るころには朝焼けが見え始めてきて日の出も見えてきた。楽しかった奄美大島に心から感謝しながら船に揺られて海へと出て行く。
 フェリーの中で朝食を食おうと思ったら、時間外だった。売店も出港直後までしか開いていない。ここでは買いそびれた。しばらくはフェリーの中で寝て過ごして、次に徳之島に着くときに、おにぎりを買い込んだ。徳之島をデッキから眺めて出港したところで朝食にする。何せ沖縄本島まで全体で12時間の長旅だ。のんびり過ごすしかない。マリックスのフェリーには客室乗務員の女性が3人いるが、3人とも揃いも揃って美人だ。
 続いて、沖永良部島に寄った。ここでもデッキから島を眺める。奄美大島、徳之島、沖永良部島と進むにつれて、フェリーターミナルも小さくなり島の大きさも見た目にわかるほど小さくなっていく。このあたりの島もいつかは行き急がない旅をしながら立ち寄ってみたいものだ。そして、フェリーは鹿児島県最南の島 与論島に着いた。ここは簡素なターミナルと小さな島だ。島の端から端までフェリーから目視できるぐらいだ。でも遠くに見えるさんご礁がきれいで楽しそうな島である。ふと、何か大事なことをやり忘れたまま船旅は7割程度が終わろうとしていた。フェリーで日記を書こうと思っていたのを忘れていたのだ。あわててノートを開いて日記を書き込んでいく。奄美大島での旅を全て書けているのが理想的だったが、全然そこには及ばなかった。
 そうこうしているうちに窓から沖縄本島が見えてきた。本部への上陸が近づいている。もうすぐ接岸するところで、全都道府県制覇の喜びをかみ締めながら着岸を待つ。そして放送が流れたところで、車両甲板へと降りていく。固定ロープをはずして自転車へまたがった。係員の指示に従って、ゲートブリッジの向こうの明るみへと走り出していく。でこぼこした路面に気をつけながら勢いをつけてゲートブリッジを降りていく。そして港のコンクリートにタイヤは接地した。この時点で最後の1県として残していた沖縄県に上陸し、47都道府県全てを自転車で走り抜く大記録を達成した。不思議と、この瞬間に何が終わった感覚はなく、突き上げてきた達成感とともに、何か次の目標を探したい気持ちにもなってきた。もともと、これが目的だったわけではなく、旅を楽しむプロセスで成しえてしまっただけのものでしかない。沖縄だって入り口に立っただけで、どこまでも広がる新しい旅路がまだまだ待っている。また新しく楽しい旅を続けていく入り口にしたいものだ。
 本部の港で情報収集を試みるが全くない。沖縄本島ではない他の島への渡航欲求が沸き起こるだけとなった。ちょうど、ゆり祭をやっているようだ。思わず渡ってしまいたくなったが、ここはぐっとこらえた。港を出発して本部の市街地を目指して走り出した。海の雰囲気、道路の色、家々の風情…全てが九州までと違う感覚がした。徐々に西へと傾く太陽の光を浴びながら、自転車を進めていく。市街地には何故か下りずに、一気に美ら海水族館の方へ向かっていく。冷静に考えると水族館の近辺はテントを張れる場所なんて無いに等しい。それでも何故か足がそっちへ向いてしまう。渋滞してる車のわきをぐんぐん走って坂も上っていく。水族館の前を通り過ぎて下る。下りきったところで左に曲がり海岸へ出た。
 曇っていて夕日は見れないものの、黄昏に染まるさんご礁の海とのんびりした歩道に小さな民宿が立ち並ぶ。道を進んでいくと、小さな島がそこに見える。遠浅の海を歩いて島に渡れる。雰囲気は確かにいい。非常にいい。今日は1日何もしてないので最悪は風呂に入れないのは許容だとして、泊まる場所がない。何とか探さないといけないが、ビーチはそれほど広くはなくテントを張れる雰囲気ではない。途方にくれながら道の端まで行くと駐車場があって、駐車場にテントやタープを張ってバーベキューをしている人がいっぱいいる。ドサクサにまぎれて泊まっちゃおうかと思ったら看板を見つけた。「4月よりテント1張り2000円 駐車料金500円」と書かれている。しかし、誰に払ってよいのかイマイチ分からないが、この場所は宿泊OKというのは事実のようである。土壇場で大逆転ということで安心したので海を眺めながら、のんびりとテントを張る。ペグは打てないので荷物をテントの中に放り込む。
 自炊しようにも買出しをしていないので今すぐにはできない。近くで夕飯を食べれるところがないか探しに行くことにした。フクの木の並木を走っていく。うっそうとした並木道が良い雰囲気を出している。並木沿いにリゾートじみたペンションがあっても食事できるところは見つからない。並木道を抜けると1軒だけ店があった。店の表では宴会をしている。店の中に入ってみても誰もいない。店の表にも店主はいない。なんだかよく分からないのでスルーした。そのまま美ら海水族館の方へ行き、水族館を過ぎたところにあるタコライスがある店に入る。結構好きなメニューだが本物を食べたことが無かったので、タコライスを頼んでみる。ピリッと辛いひき肉と新鮮な野菜とトマトソース(サルサソース)とチーズがよくあって美味しい。結構、食が進む一皿だ。
 真っ暗な道を備瀬海岸のキャンプ場に向けて走り出す。美ら海水族館にこんなに近いテントサイトは貴重だ。テントに戻ったところで、割と早く眠りについてしまった。

奄美大島 名瀬港を出港


名瀬湾の朝焼け


沖縄本島 本部港に着岸


いよいよ沖縄本島へ上陸


本部港に降り立って
全都道府県 走破を達成!!


備瀬崎の海岸


ふくの木の並木道


タコライス



   出発(鹿児島県鹿児島市)から 304.57 km

7日目 本部 → 古宇利島 → 名護 → 恩納 → 北谷 95.49 km
2012/05/05
 誰に払ってよいのか分からない料金で、このまま出て行っても誰にもばれない気はしたが、この場所は維持して欲しいので払う相手を探して支払う。おそらく地元の子供と思われる子がカニを捕まえていて、話しかけられる。南国らしく大きなカニで少し驚く。沖縄の人は大雑把で気さくな感じがする。
 まずは、美ら海水族館へ向かって坂を上っていく。昨日が安息日だったおかげか足取りは軽い。駐車場に自転車を置いて鍵をかけて水族館へ向かう。今日はゴールデンウィークのピークとあって人も車も多い。朝8時半と開館と同時に入る。いろんな支払いが全部EdyでできるのでEdy派の俺としては助かる。入場券を買って入っていく。まずはヒトデに触れる水槽でヒトデやナマコに触って遊んでいく。
 そして、いろんな魚の展示を見た先に見えてきたのは、圧倒的な規模の水槽だ。有名といえば有名だが黒潮の海をゆったり泳ぐマンタとジンベエザメに圧倒される。自然を超えた自然がここにある。まだ空いていたので一番前でじっくり見ることもできた。朝飯を食っていなかったので、黒潮の海を眺めながら食事のできるカフェでパスタを食べながら満喫していく。入場した時間帯がよかったようだ。ここから出て行くころには人波が押し寄せていた。人工物にはあまり感動しない俺でも十分に感動し迫力に圧倒された。他の魚の展示も楽しんで、水族館をあとにした。屋外に出るとウミガメやマナティを見れる。さらにイルカのショーも見れるが、ここは距離を稼ぐためと込んでいたためスルーした。

備瀬崎でのキャンプ


備瀬崎の海岸道路


備瀬の海岸


海沿いの小道も気持ちがいい


美ら海水族館 黒潮の海


美ら海水族館 ウミガメ

 今日は水族館を見物しながらも北谷まで100km近く走りたいところである。10時には水族館を出れたので、タイミング的にはちょうど良い。まずは半島をぐるっと時計回りに今帰仁のほうへ向かっていく。ゆるくアップダウンしているが海は見えない。沖縄はアスファルトの色が明るくサングラスをしていないとまぶしいぐらいだ。日差しも本州の真夏のようで暑い。サトウキビの畑や海を遠くに眺めながら走るのは気持ちがいい。
 今帰仁から少し坂を上ったところで、屋我地島へ渡るワルミ大橋に出る。橋のたもとの展望台で端や海峡やその向こうに見える島と古宇利島の眺めも楽しい。眺めを楽しんでいると、地元の1歳か2歳ぐらいの男の子がやたらと俺になついてきた。俺の脚にしがみついてきて、手をつないで車のほうに戻ってあげて、見送ろうとすると大泣きして大変だ。日焼けしてるし髭も生えてるし見た目は結構怖いはずだが不思議である。
 橋を渡って屋我地島に行き、古宇利島大橋に着いた。さんご礁の海を島まで貫く一本道と海の美しさに感動する。しばらく景色を楽しんだ。そして橋を渡っていく。歩道をのんびり走りながら、橋の上から海を眺めて楽しむ。遠浅の海が本当に気持ちよく泳いでいる人たちもいっぱいいる。島に渡りきったところで昼食にする。今帰仁の亜グー(島豚)の豚丼と海ぶどうを食べる。生のもずくも初めて食べたが、これも癖がなくて美味しい。沖縄は豚肉が美味しい土地であることを実感する。
 古宇利島からの戻り道もまた楽しく海の眺めを楽しみながら、のんびり走っていく。屋我地島に戻ると畑道をずっと走って、静かな海を左右に眺めて屋我地島から本島へ戻っていく。ここからは一気に距離を稼ぐような走りに徹したいので、国道に戻ったところで俺自身のスイッチは切り替わった。車通りが多い国道58号線を一気に名護へと向かっていく。車の流れに乗って距離は稼ぎやすい。途中で名護の農協の産直に立ち寄って実家に送れるような果物を探したが、これといって当たりはなかった。強いて言えばちぎって食べるパイナップルの試食が美味しかったので、次で見つけたらこれをはずさずに買おうと思ったぐらいだ。
 名護市内も一気に駆け抜けていく。車道の左を走っていると伸びすぎた街路樹が俺の腕にパシパシ当たって日焼けで火照った俺の腕が痛い。今回はルート選びがよくなく、左側通行してしまうと海が道路の向こうである。沖縄にはまた走りにくる前提で、そこは割り切りだ。とにかく恩納村の万座毛と北谷を目指してひたすら距離を稼ぐストイックな気持ちで走っていくだけだ。それでもリゾート地帯のこの道は楽しい雰囲気はそこらにあるし、道路の向こうだろうときれいな海は見える。ストイックでも十分に頑張れるだけの演出はある。今度は逆方向を走ってヤンバルを目指したい。あまりアップダウンもない沖縄の海岸線の道を快走して恩納村にたどり着く。バイパスから降りて万座毛のほうへ向かっていく。海は時々しか見えないが、さんご礁の遠浅の海がきれいだ。

本島から屋我地島に渡る
ワルミ大橋からの眺め


古宇利島大橋


島豚の豚丼


生もずく

 そして、万座毛にも着いた。ここだけは切り立った崖になっていて、象の鼻のような岩と遠浅のさんご礁が広がる絶景だ。広々とした草地と崖と海の眺めを楽しめる。
 万座毛を観光して、足の筋肉をストレッチする。また国道に戻ってストイックな走りを続けていく。車から風をもらって快調に突き進んでいく。時間があれば真栄田岬や残波岬にも立ち寄りたかったが、これも次回以降に回そう。海沿いのリゾートが終わると嘉手納に向けて軽い峠が始まる。じりじりと長い上り坂を登っていく。俺の苦手なタイプの坂ではあるが、何とか走れている。5kmほど上ったところで読谷から嘉手納に入ると、道は下り始めた。ここも下りの力と車からの風で好調に走りを進めていく。そして左には大きな米軍基地が見えてきた。独特の雰囲気がそこにある。そして古いホンダ車に乗っているアメリカ人が多い。この辺から車道は渋滞が始まる。米軍基地から出てくる車の量も多く、その規模の大きさを感じる。そして嘉手納を越えて北谷に入る。日没は近い。急いでいるのにはわけがある。今日の目的地は北谷でサンセットビーチなのだ。何が何でも日没つまり夕日を見たいのだ。ここから曲がったら近いだろうというポイントを野生の勘で見つけて右折する。その勘はあたっていた。そして海沿いに出てビーチを眺められる防波堤に自転車を止めた。そこはアメリカンビレッジなど観光地になっていて人が多い。息をハァハァ言わせながら防波堤の上に飛び乗って夕日を眺めた。沈むまで15分もないほど慌しい夕日鑑賞になったが、沖縄の夕日は美しかった。しばらく防波堤に寝そべって体の疲れを落とした。
 夕日を楽しんだあとは、ここから「現実」が始まる。まずは寝床を探さないといけない。俺の狙っていたこのサンセットビーチは大観光地だ。そしてゴールデンウィークのピークである今日は宿など取れるはずもない。すぐ近くの北谷公園の陸上競技場などにスペースを求めた。いつ警備員に追い出されてもおかしくないが、遅い時間に闇にまぎれて張ればいけそうだ。風呂はすぐ近くに温泉を見つけた。自炊はしないが、夕飯を食べる店はいくらでもある。これで「現実」とやらは一段落だ。
 露天風呂も完備されてる温泉で体の疲れを落とした。続いて沖縄料理を楽しめそうな居酒屋で夕飯にする。島唄を聴きながら食事できるのだが、島唄の時間は終わっている。前から本物をどうしても食べてみたかった自称 得意料理のゴーヤーチャンプルーの沖縄本場を注文する。俺のやってきた方向性は間違っていなかったが、もう少し出汁を効かせるのが本場流だろう。やはり本場のものは美味しい。ストイックな一日ではあったが沖縄料理とオリオンビールの泡にそれは巻き込まれて消えていった。走りがストイックでも旅を楽しむことはいくらでもできるものだ。
 そして夜も11時。テントを張りに行く。歩道からは距離が離れているピッチング練習場のそばでテントを張る。それでも、時々は警備員の人が自転車で回っているのが見える。そのたびに緊張が走る。今追い出されても行く場所はない。テントからは巨大なイオンと観覧車も見える。道のほうからはパトカーのサイレンの音が聞こえる。決して静かな場所とは言いがたいが、眠りについた。

万座毛の岩


嘉手納のフェニックス並木


北谷 サンセットビーチから見る夕日



   出発(鹿児島県鹿児島市)から 400.06 km

8日目 北谷 → 中城城趾 → 斎場御嶽 → 糸満 → 那覇 82.76 km
2012/05/06
 一度も誰かに起こされることも無く朝を迎えた。そそくさとテントをたたんで準備をする。泣いても笑っても走りとしては今日が最終日だ。もしかすると、このサイクルツーリング活動も長い休みに入るかもしれない。俺の人生で一つの転換期を迎えている俺にとっては今日は特別な意味を持つ1日になるかもしれない。そんな気合とともに出発した。
 まずは北谷から中城を目指す。沖縄本島を横断しようとしているのだ。大した峠越えではないだろうと高をくくっていたが、普天間飛行場のわきを延々と坂が続いていく。上りきったかと思うところに、国道が走っている。これを少し南に走って、また中城へ向けて曲がっていく。そろそろ終わりと思っていた坂が、まだまだ終わらない。そろそろイラついてきたころに、中城の城跡にたどり着いた。どうもここが峠のようだ。まさか、こんな高いところまで行くつもりはなかったが、見下ろしてる景色が広々としている。どうも俺はそういうハードなコースを選んでしまう星の下に生まれてきたようだ。他に楽な道はいっぱいありそうだ。ここまで来て中城城跡をスルーするのも悔しいので観光していく。
 そんなノリで立ち寄ったのが失礼なほどに立派な城跡だ。規則正しいがやや不規則な形に積まれた曲線的な石垣が続く。石垣に囲まれた草地が気持ち良い。城から見下ろす街も海も心地よい。ここに来るまで知らなかったが、中城城跡も世界遺産に指定されている。琉球王朝の城の真髄をここで満喫した。そして、坂を下る。これがまた激しい坂だ。俺みたいなメタボリックサイクリストではない本気モードのロードレーサー乗りと何台もすれ違う。やはりここはハードなルートのようだ。坂を下りきって国道に入ってもアップダウンは激しく続いていく。今日も炙られるような強い日差しを正面に受けながら南へ走っていく。
 与那原からさらに南東へと那覇から離れた知念岬へと向かっていく。本島南部のこの岬を一周して那覇に向かいたいのだ。アップダウンは一時的に少なくはなったが、暑さと白っぽい路面のまぶしさが続いている。時々、左側に海が見える気持ちよさもある。しかし、海は海水浴シーズン真っ盛り。さすがは沖縄のビーチという感じで、今日は気温も高くて日差しも強くて、まさに海水浴日和という雰囲気が漂っている。完全にここは夏だ。
 知念岬への上り坂に差し掛かる手前の集落で、俺の右足に激痛が走って自転車を降りた。自転車に乗っていて足がつるという経験はかつてしたことがないのだが、太ももが激しくつって痛くなっている。ちょうど商店の軒先だったので地べたに座り込んで筋肉を伸ばしながら、スポーツドリンクを自販機で買って水分とミネラル分を補給する。もう俺の体に若いころの常識も通用しないし、いい年こいてきて初めて経験するような不調も次々と襲い掛かってくる。そこに戸惑いがあるのも事実だし、俺の努力不足も否めない。とはいえ、現状から走りきるためには、それを受け入れながら、どうするか考えていく必要がある。30代後半というのは、そういう年代になっているのかもしれない。そういうことを回避するためにトレーニングがあるのかもしれない。
 とりあえずは休憩で足の痛みが少し回復できたので、走り出す。鮮やかな海と沖のほうの小さな島を眺めながら知念岬へと坂を上っていく。足は何度も止まるが今はそれをあせらず受け入れていくしかない。何とか知念岬に着いたところで昼食にする。岬の道の駅のような場所に行くと、与那国馬の乗馬やライブなどやっていたが、食事にはありつけそうも無い。向かい側の沖縄そばの店で昼食だ。昨夜の締めで食べてみたものの、沖縄そばのそぼくな塩味と卵系の麺の味これは美味しい。今日も軟骨そばとジューシーで昼食にする。地元の人の島唄を聴きながら、そばをすする。なんとなくやんちゃな兄ちゃんという感じの若い男が良い声を出して歌っている。地元の文化が若い世代に根付いてるのは良い事だと実感する。
 そばで腹を満たしたら、斎場御嶽(せーふぁうたき)に行く。うっそうとしたガジュマルの森と複雑な形をした岩で厳かな雰囲気がある。観光もそこそこに走り出す。ここからニライ橋・カナイ橋へと上っていく。海の前をくねくねと大きな橋が見事な景色で、この橋の上を自転車で走るとさんご礁の遠浅の海を上から眺め放題で気持ちがいい。写真をいっぱい撮りながら、ゆっくりと坂を上っていく。今回の旅のクライマックスがここにあるような気もする。上りきったところに展望台があるので、そこにも立ち寄っていく。上からこの橋と海を眺めると、心を洗われる。きつい峠を上りきった達成感ではないが、少なくともここに来て上ってきて良かったという気持ちにはなる。そして何故か俺の写真を撮りたがる人がいたので、ピースで応えた。

中城(なかぐすく)城跡


知念岬からの海の眺め


与那国馬の体験乗馬


沖縄そばとじゅーしー




斎場御嶽

 あとは平和記念公園と那覇へ向けて走るだけだ。しかし、ここからが壮絶なアップダウンの応酬だった。この半島をぐるりと回る国道は全く平らなルートがなく、ひたすら上っては下ってを繰り返す。その幅も海を気持ちよく眺められるぐらいの高さなので100m弱ぐらいはいくだろう。地元の本気っぽいロードが何台も走っているぐらいだから格好のトレーニングルートになっているのだろう。日焼けして火照りまくっている体と坂でいじめられてヘロヘロの体で何とか平和記念公園にたどり着いた。休憩も兼ねてはいるが、全都道府県の慰霊碑を回ってみた。多くの犠牲とおろかな時代に考えるものがある。ここに飾られた大量の鯉のぼりと平和の塔のコントラストが対照的である。 平和記念公園をあとにして、ひめゆりの塔にも寄っていく。悲惨な時代を目の当たりすると、当然ながら同じ過ちを繰り返してはならないことを心に改めて刻みなおすものがある。
 ようやくこの厳しいアップダウンも終わりを迎え、糸満へと下ってきた。地図で見る限りでは那覇までは、ほぼ平らと思われる。車の流れに風をもらいながら那覇へ向けて走りを進めていく。そして、やっと那覇市に突入した。今日の走りの完走も見えてきた。
 だが、観光はまだ残っている。那覇空港の近くまで来たところで、日本最南端の駅である赤嶺に立ち寄る。道は分かりやすかった。しかし記念撮影をやりづらい。すっかり日が暮れて「赤峯駅」というのが見えづらくなっているのだ。入場券を買ってホームへ入ってみる。ここにも顔はめ系の写真が撮れる。撮影を済ませたら、駅の外にあった記念碑で写真を撮る。もう真っ暗で写真としては見づらい。
 そして真っ暗な道をひた走り那覇空港に到着した。自転車を置いて空港内を歩いて那覇空港駅へ行く。ここは日本最西端の駅だ。小さな記念碑が改札の横にある。ここで写真を撮っていると、これから飛行機に乗りそうな家族との撮り合いになった。喜びをかみ締めて自転車に戻る。また真っ暗な道を走る。この時点で時刻はすでに19時半を回っている。史上初ナイトランでの完走となる。そして一応はゴールと定めておいた国際通り入り口にたどり着いた。2012年GWの旅も無事に完走を果たした。482kmと島旅にしては距離を走ったという印象である。
 観光客の賑わいは少し薄れた国際通りを走り抜けていく。居酒屋の呼び込みはいっぱいいるが観光客というよりは地元の客がメインだろう。よりによって遠いところを選んでしまったスーパーホテルへ向けて走っていく。少し道に迷いながらも、坂を上ってたどり着いた。
 急いでシャワーを浴びてホテルを出て、打ち上げに向かう。国際通りまでテクテクと歩いていく。歩くと意外と遠いし、蒸し暑いので汗も出る。国際通りに入ってすぐぐらいによさそうな居酒屋を見つけたので入る。客はほとんどいない。ゴールデンウィークに1日休みをくっつけたので観光客が一気にいなくなった。グルクンやゴーヤーチャンプルーをつまみにオリオンビールと泡盛が進む。一つの結果と区切りを導き出した今回の旅を少し複雑な気持ちで振り返りながら、旅の喜びを味わった。
 すっかり酔っ払ってタクシーでホテルへ戻り、力尽きるように眠りについた。

ニライ橋・カナイ橋


平和記念公園


平和記念公園からの海岸の眺め


日本最南端 赤嶺駅


今年も完走!
那覇 国際通り


日本最西端 那覇空港駅
これで日本の4隅の駅を走破



   出発(鹿児島県鹿児島市)から 482.82 km

9日目 那覇市内 15.13 km
那覇空港 → 赤嶺 → 那覇空港
2012/05/07 那覇 → 羽田
羽田空港 → 宇都宮
 すっきりと目覚めて、朝飯を食べながらホテル内のコインランドリーで洗濯と乾燥をする。やはりスーパーホテルは便利だ。9時半頃にはホテルを出る。もう外は完全にGWが終わって平日ムードである。ホテルから近いヤマト運輸の営業所に行き、荷物を発送する。郵便と比べると段ボールが小さい。郵便局なら3個で収まるところが4個になってしまった。そしてガスボンベの発送はできず、ガスの余りまくっているボンベが残った。何とか荷物の発送も終えた。
 まずは首里城へ向かう。首里城まではきつい坂が続いているが、荷物がなくなった分だけかなり楽になった。坂を登り切ると駐輪場に自転車を止めて城内へ入っていく。中城もよかったが、ここは復元が進んでいるからか格が違うからか全体的に華やかさがある。中国からの文化を色濃く残している琉球王朝の建築様式は圧倒される。武家社会がメインの本土の城とは雰囲気が全く異なる。琉球の城は贅を尽くしているのに対し、武家社会は贅を尽くしているわけではなく戦うための拠点としての効率を重視しているように感じる。
 首里城の中に入るまでに写真もいっぱい撮って景色にも感動した。中に入ると、それはそれで作りの美しさや見事さはある。庭園を眺めながら茶菓子を頂ける場所もあるので、休憩してみる。一組一組に丁寧に説明してくれて、お菓子も3種類とさんぴん茶が出る。沖縄のお菓子だからか甘みは強いが、さっぱりとしたさんぴん茶と合わせると良い。首里城をすっかり満喫できた。

首里城 守礼門


世界遺産 首里城


城内でお菓子とお茶が楽しめる。

 続いて国際通りの牧志公設市場へ行く。ここで実家に果物でも送ろうかと考えて、探し回る。市場の周りと中はざっくりは分かったので、昼飯にする。ここは、沖縄に来てはまりまくっている沖縄そばを外せない。足てびちは食べてないので、てびちそばを頼んでみる。そしてゴーヤーチャンプルーを食う。コラーゲンたっぷりのてびちは美味しいし、そば自体があっさりしているので、こってりしたてびちとよく合う。ゴーヤーチャンプルーは店によって作り方も味も異なるので、「これがゴーヤーチャンプルーの流儀である」というものは無いようだ。それだけ根付いて柔軟に発展してきたのだろう。SPAMを使わないといけないわけでもないし、他の野菜が混じっててもゴーヤだけでもいい。汁っぽくてもしっかり焼いてあってもいいし、もっというと豆腐があってもなくてもいい。本物を今まで知らなかったので意地でも本物の神髄をつかもうと力が入りすぎていたのだが、自分は自分の思う味を究めていけばよいかと思うと少し気楽になった。
 市場の中は海産物と肉とお土産ばかりだ。海産物もインパクトは大きいが、今年は違うアプローチを求めているのだ。市場の外には沖縄のフルーツを発送している店がいくつかあった。パッションフルーツ、ドラゴンフルーツ、マンゴー、スナックパイン、ピーチパインこのあたりを詰め合わせて発送したら、自分もおまけでマンゴーとパッションフルーツとバナナをもらってしまった。牧志公設市場の中も周りの商店街も活気があって好きだ。
 那覇の観光も一通り終えたところで、空港へ向かうことにした。名残惜しい限りではあるが、旅の終わりに向かうしかないだろう。昨日の夜は空港から市街地に向かっていたら遠かったという実感しかないが、今日は近く感じる。

てびちそば


ゴーヤーチャンプルー


牧志公設市場


市場のすぐ外も活気のある商店街


トロピカルフルーツの店もあり品数は豊富

 空港で自転車をばらしてしまう。名残惜しい気持ちもあるが、始まってしまえば早いもので、今回も作業はあっという間に終わってしまった。まずは自転車とフロントバッグを預ける。ここでカセットコンロのガスを没収してもらう。残ったガスはこうするしか無いのが島旅の難しさである。これも次回以降の課題である。とりあえずは荷物を預けて身軽になったところで、モノレールに乗りにいく。まずは一駅乗って赤嶺へ向かう。昨日の夜も来てるので気持ちとしてはあっさりしているが鉄道でも最南端と最西端に行ったという事実を獲得したいがためという感じになってしまった。
 那覇空港に戻る。ここで土産を買い込んでセキュリティチェックを済ませて搭乗手続きも完了させる。あとは出発ゲートで待つばかりである。そうしている間に徐々に日は沈んでいく。飛行機越しの夕日の写真を撮って、飛行機に乗り込んでいく。座席に座ると膝の上で書き残している日記を書く。集中して一気にやると集中できるもので、東京に着陸する20分前には書き終えた。
 飛行機は東京に着陸し、GWが終わった平日ムードの羽田から高速バスのマロニエ号に乗って宇都宮へと帰っていく。もうここまで来ると旅のムード自体もない。乗り慣れた路線は宇都宮へと帰ってきた。そのままタクシーに乗って輪行袋ごと自宅に帰り着いて、この熱かった旅は終わった。

ゆいレール


那覇空港を飛び立つ飛行機と夕日



   出発(鹿児島県鹿児島市)から 497.95 km


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