旅記録
2013 夏 北海道
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0日目  宇都宮 → 鹿沼 -東北自動車道→ 川口 -首都高速→ 羽田空港
羽田 -JAL→ 新千歳
2013/08/10 新千歳空港 -快速エアポート→ 札幌
札幌市内 7.95 km
 今年の旅の始まりは壮絶だった。開発機種が大トラブルを抱えて旅の前日は鈴鹿へ出張した。そのため前泊予定で予約しておいた羽田空港の近くのホテルはキャンセルした。連休前最終日の仕事を終えて鈴鹿から新幹線で宇都宮へと戻る。準備をする時間を作りたいので、できるだけ急いで乗り換えていく。22時半すぎに宇都宮へ到着した。自宅に戻って残りの荷物をフロントバッグに詰め込む。自転車は自宅でばらして輪行袋に詰め込む。汚れ物を洗濯してコインランドリーで乾燥する。窓際に作業着も洗って干しておく。一応はこの時点では2週間走る計画で考えている。
 そして全ての準備を整えたのがAM2:30。史上初の車での輪行となる。愛車のインサイトに荷物を入れて、鹿沼IC近くで通信販売のオークリースペアレンズを受け取って、夜中の高速道路を走り出した。体力には自信のある俺だったが、今回ばかりは疲れを感じる。走りながら寝てしまわないよう音楽は大音量でコーヒーを飲みつつ歌いつつ駆け抜けていく。帰省ラッシュとは逆方向の走行なので高速道路の上り線は空いていた。下り線はいつもよりすれ違う車のライトの数が多いように思える。蓮田SAで少し休憩してカフェインを体に入れて、また走り出す。首都高速もさほど混んでいない。羽田空港 第1ターミナルに朝の4時半に着いた。次の不安は駐車場の混み具合だが、まださほど混んでいない。これが連休本番になると一気に満車になるのだが、早めに着いておいて正解だ。隣が空いていてドアをしっかり開けられる枠を見つけて駐車する。
 自転車を車から降ろし駐車場所を写真に撮って思い出せるようにして、出発ロビーへと向かう。さっさと荷物を預けて搭乗手続きを済ませる。8時の飛行機だが6時過ぎには搭乗口へ向かった。そして乗り込みの案内と喧噪が聞こえそうなベンチに陣取って仮眠を取る。少しずつでも体力を回復させたい。あまり寝れないまま搭乗時刻を迎えて飛行機へと乗り込んだ。飛行機に乗り込んだ瞬間にシートも倒さず深い眠りへと落ちていく。離陸のGを感じることも無くCAから飲み物を受け取ることも無く新千歳空港に着陸するまで眠りつづけた。目が覚めた時には下界には苫小牧の港と街が見えていた。もうすぐ新千歳である。新千歳で荷物を受け取って札幌行きの快速電車に乗ろうとして向かっていると出口には横綱 日馬富士の出迎えが来ていて、人が集まっていた。あまり愛想よくもないまま横綱は通り過ぎていった。せっかくなので空港内を見物しようと歩いていると、同じ職場の後輩とばったり会う。北海道の旅で知り合いとばったり会う展開もこれで3回目。世の中とは意外と狭いものだ。
 意外とおもしろい新千歳空港を見ていく。ロイズのチョコレートワールドやシュタイフのネイチャーワールドを見ていく。ネイチャーワールドはシュタイフのぬいぐるみを使った動物園になっている。見せ方といい作りの良さといい楽しめる動物園である。一部は子供が乗れる大きな象などもあり子供は楽しそうにしていた。続いてロイズのチョコレートワールドでチョコレートの歴史展示や工場展示があり売店にはロイズのチョコが売られている。スティック状のチョコを味わい、ここを後にした。そうこうしているうちに、昼になった。今日は走るわけではないので、のんびりと新千歳空港内で昼食を済ませていく。早速の海鮮丼とじゃがバターだ。やはり北海道の海鮮丼は味が豊かである。きたあかりのじゃがバターもうまい。
 快速に乗って札幌へ行き、こぎれいに変わり果てた札幌駅前で自転車を組み立てる。輪行が乱雑だったわけではないが、フレームが傷だらけになっていた。こういうのを見る度に凹まされるが、何を気をつければ100%防げるのか方法論が未だに確立できていない。今度、そこについてもきちんと研究して方法論を決めないとまずいと今さら思い始めた。
 まずは札幌駅近くのデパートで買い物をする。1.5Lのボルビックと非常食を買い込む。そこでスープカレーの素を衝動買いする。今回の旅の中で作ってみたい一品である。それにしても札幌という街は自転車にやたら厳しく、そこら中に駐輪禁止と書いてある。その割に駐輪場はどこにもない。いつのまにか居心地の悪い街になってしまったものである。

シュタイフネイチャーワールド
(新千歳空港内)






ロイズ チョコレートワールド
(新千歳空港内)


きたあかりのじゃがバター


海鮮丼@新千歳空港

 買い物を終えたら二条市場へ向かう。本当の産地で買うよりは割高感はあるものの一カ所で野菜からカニから鮭から全部揃うし、今回の旅は都会らしい都会は全く通らないので、ここで送らないと次がないかもしれないのである。姪っ子の大好きなトウモロコシは白と黄色でどちらも甘いものを選び母が好きな毛ガニを選択して送る。実家に帰らない罪滅ぼしと、姪っ子におじさんを忘れないでもらう布石でもある。
 発送を終えたら中島公園の近くに予約したホテルへ向かう。なぜか見つけにくかったが、何とか見つけた。今年の北海道はホテルがやたら混んでいて、8000円もするツインしか取れなかったのだ。親切にも荷物は部屋に運び入れていてもらえていた。部屋に入り、早速の開梱作業をとする。まず見つけ出したいのが充電器一式だ。送った記憶は無いが自宅に残っていなかったのだ。これがないと札幌を出る前には現地調達しないとまずい。そこだけは荷物の中に見つけた。そこだけは何とかなって安心して一休みしたら力尽きて眠ってしまった。
 捗らない準備をほどほどに諦めて、シャワーを浴びて夕飯に出かける。すすきのに近いのだが、居酒屋は意外と良いところが見つからない。何とか見つけて、ちゃんちゃん焼きやほっけなど北海道らしいつまみで酒を飲む。色々と悩みのつきない仕事の疲れを見事に引きずり、自分を褒める要素は見つからないまま迎えた夏休みだが、一応は夏休みである。楽しみたいところだ。ホテルへ戻ったら、その記憶もないまま力尽きて眠りについた。


   出発(北海道札幌市)から 7.95 km

1日目 札幌 → 石狩 → 浜益 85.99 km
2013/08/11
 朝もしっかり疲れが残っている。やはり絶対的な寝不足と年齢には勝てないのだろうか。荷物を整理していると、ふと足りない物に気づいた。なんとシュラフがないのだ。さすがに、この状況はきつい。札幌市内ならホームセンターなら確実にあるので調べてみると石狩へ向かう途中にありそうだ。何はともあれ準備をしてホテルを後にした。シュラフがないと輪行のバランスがやや悪い。先々で荷物の小型化などを考えたときに、結構大変そうだ。札幌の定番である大通り公園を渡り、時計台を見ていく。もう何度も来てるし面倒にもなってきたので写真はほとんど撮らずに走り抜けた。札幌の住所は分かりやすく、何本目の通り沿いかを表しているので数字が近くなるように走って行けばいい。ホーマックを見つけて入ってみるとシュラフは998円で売られていた。いろんなところで金に糸目をつけずに旅をしている俺にしてはシュラフだけは安い。大きくて荷物を積む土台にもなるし、寒くなければ枕代わりに使える。ホームセンターの前でパッキングをやり直して出発する。
 11時と遅い出発になってしまったが、ようやく旅が始まったように思える。北海道らしくすっきりした空の下を走って行く。札幌郊外だから僻地の大自然ほどのスケールはさすがにないが、それでも広々とした感じは十分に感じられる。石狩まで整備された道を走り、正午には札幌市を抜けた。石狩川の河口から北上を始めようというところで、石狩川沖の鮭を売っているサーモンファクトリーへ立ち寄る。鮭の試食を楽しんでから昼食にする。鮭といくらを贅沢に使った大きなおにぎりと鮭のかまぼこを買い、石狩川の川面が見える店の裏の公園で食べる。今日は日なたにいると暑い。鮭の味はさすがという感じであるが、遮るものが何もないベンチで食べたら自転車に戻る。

札幌を出発…
シュラフを忘れてるので、
いつもより後ろの上段がコンパクト


札幌 大通公園を渡る。


石狩サーモンファクトリー


石狩 サーモンファクトリーのおにぎり

 想定外に遅れた出発だからどこまで走れるか分からないが、とにかく北上する。石狩に入るとアップダウンが増えてきた。最初のうちは広々とした景色が軽く眺められる丘や海に向かってひまわり畑が広がる景色もある。進めば進むほど広々した景色が広がり始めるかと思ったら想像とは真逆に山が迫った狭い海沿いの道になってきた。どうもアップダウンは多いようだ。北海道の海沿いにしては珍しいほどの峠道を含むアップダウンが続いていく。まだまだ仕事疲れの抜けない体に鞭を入れて坂を上っていく。海が見えない海沿いの峠で道沿いに何もない光景は北海道らしいが、こういうのは北海道では珍しい。徐々にピークの高さを増していく峠もあえて重めのギアでしっかり踏み込んでいく。脚力をつけて旅の後半の走りを強くしたいと思っている。その一方ではトラブルを放置して有休消化をするあり方にも疑問を感じ考え事をしながら走る時間が多くなる。そうしてるうちに仕事のことで頭がいっぱいになりながら、峠を登っている自分がいる。
 浜益まで15kmを残して17時。キャンプ場はあるが温泉がなさそうなので、まだまだ走って行く。浜益まで行けばキャンプ場の近くに温泉もある。地図で地形を見る限りでは、峠がもう1本だ。その1本が長い。なかなか頂上に辿り着かないし、傾斜もそこそこきつい。日没も迫ってきて徐々に薄暗くもなってきた。目の前にキツネが横切る。熊は出ないと思うが、動物は見かける。夕方になるとキツネやシカに遭遇しやすいので楽しい。シカは北海道に来れば必ず見かけるが、ここ数回でキツネは見た記憶が無いので久しぶりでうれしい。峠のトンネルに辿り着いたのは18:45になっていた。もう辺りは暗い。ヘッドライトを点灯してリフレクタライトを点滅させながらトンネルを抜けて峠を下る。暗くても路面は何とか見えているので、いっそ車に追いつかれないようスピードを上げて下っていく。カーブはそれほど鋭くないので特に危なくもなく走って行ける。道を広く使って下り切った海沿いに出ると完全に日は暮れていた。
 3kmほど走ると分岐とキャンプ場が見えてきた。今夜の買い出しはキャンプ場の向かいのセイコーマートかと思っていたが、商店が1軒まだ開いていた。入ってみると貝だけではあるが鮮魚も売っているし野菜も売っている。ヒル貝とつぶ貝を買って行く。キャンプ場でテントを張って温泉へ向かう。温泉へ向かう道は街灯もなく真っ暗である。間違えたら国道の峠へ向かってしまう。そもそも温泉は国道沿いなのか一本入ったところなのかも分からないが走って行く。人通りも車通りもない道をやや不安な面持ちで向かっていく。少し遠くに灯りが見えてきたが、とにかく国道沿いに走り温泉に辿り着いた。時間も営業時間ぎりぎりで何とか風呂に入れて一服する暇も無く閉館となった。
 夜風で体を冷ましながら少し下り気味の道をキャンプ場へと戻っていく。セイコーマートでビールとネギを買い、テントの前で夕飯を作り始める。まずはツブ貝に薄い醤油味をつけて煮る。少しネバネバした汁になったのが気になる。その間に米をといでおく。ツブ貝が煮えたところで、ツブ貝をつまみにビールを飲みつつ残りのツブ貝を米の上にのせていく。ツブ貝を茹でただし汁でご飯を炊く。炊けたら蒸らしながら、フライパンでヒル貝を炒めてネギも入れる。焼き上がったのを食べてみると、ごま油や塩こしょうとよく合う味わいだ。おそらく北海道ならではの二枚貝だが、なかなかうまい。ツブ貝の炊き込みご飯も炊きあがった。良い香りが漂っている。出汁もよく出ていて良い感じに仕上がった。味もうまいしわざとつけたお焦げもうまみを出している。
 飯を食ってのんびりしていたら、突然雨が降り出した。慌てて濡れると困る物をテントの前室に入れたら雨は通り過ぎた。あまりのんびりしてられないので食器を洗ってサイドバッグに入れ直して慌ただしく眠りについた。



割と起伏の多い海岸線

 
海に向かって広がるひまわり畑


ヒル貝とネギの炒め物


ツブ貝の炊き込みご飯


ツブ貝を醤油で煮てみる



   出発(北海道札幌市)から 93.94 km

2日目 浜益 → 雄冬岬 → 増毛 46.89 km
2013/08/12
 朝はテントを打つ大粒の雨音で目が覚めた。なんだか憂鬱ではある。色々と考えた結果、半強制的な有休消化とは言え仕事を放置して旅をするのは旅のプロでもエンジニアのプロでもない。仕事をして生きてきたご褒美が旅であるなら仕事を優先すべきとし、旅は距離を大幅に短縮してオホーツク海側を取りやめて1週間で終わる稚内への北上のみとした。北竜のひまわりや幌加内の蕎麦など内陸に回り込むのもショートカットで海沿いのみとする。旅の途中で仕事都合でのコース変更は今までで初めてのことである。それだけの責任の重さが増したということだろう。
 雨が面倒でやむまで待ってからテントをたたんで出発する。朝飯抜きで昼前なので、ここで昼食も済ませる。愛想の悪いレストランで魚介が乗っているだけのスパゲティに少しがっかり感を覚えながらも地元産の杏のジュースだけは美味しい。そして走り出すと、道路情報表示板に衝撃の一言が。「岩尾〜増毛 降雨のため通行止め」と出ている。既に晴れているので、そのうち解除されるのを期待しながら進む。迂回したら150kmが加算されるが、それはさすがに無理だ。
 10kmほど進んだところで再び表示板があったが、状況は変わらない。そして海沿いの道は雄冬岬に向けて険しさを増してトンネルが多く長くなってきた。険しいが坂道はほぼ無いので楽だ。トンネルとは言え交通量がほとんどないので緊張感もそれほどでもない。しかし、トンネルを抜けたら突然雨が降っていたり不安定な天候でもある。雄冬岬の白銀(しらがね)の滝を見て進もうとすると、すれ違いの車の人がみんな「この先は通行止めだよ」と教えてくれる。分かってはいるが、ゲートの前あたりか岩尾温泉あたりで待つしか無いだろう。雄冬岬に小さなキャンプ場はあったが居心地はそんなに良さそうでも無いのでスルーしていく。
 最悪どうにもならなかったら6kmほど無駄だが戻ってくるしか無いだろう。そんなことを考えつつ進んで岩尾温泉の前を抜けて行く。灯りが全くついていないので岩尾温泉も営業しているのかどうか不明だ。何かと不安が多い。そしてゲートはしっかりと閉まっていて警備員が立っていた。復旧の目処が立たないようだ。というより通行止めの理由は一定の降水量があると崩れる危険があるので通行止めにして点検とのことだ。崩れたわけではないので判断待ちというところだろう。現時点で14時半だが夕方までに開通すればラッキーで、だめなら引き返して1泊して待つしかないだろう。大学院1年生のときに上川と層雲峡で開通を待たされた通行止めを思い出す。
 しばらく待とうとしたらチャリダーが来た。まあ、これも一つの思い出だろうと開通を待つことにした。ちょうどゲートの横には広い駐車場のような待機スペースがあって、きれいに舗装もされている。自販機もある。そこで昼寝しつつ待つ。すると地元でトラック運転手をしている話し好きのおじさんが話しかけてきた。16時には開通するという裏情報を持っていた。しばらく話をしながら暇つぶしをして待ち続ける。開通が16時半に延期されたりしたが、何とか開通した。増毛まで10kmほどという道のりなので、増毛で一泊だろう。留萌まで行っても良いが増毛にはキャンプ場も温泉もある。「増毛に一泊すると髪の毛が生えるかもしれないので泊まった」という都市伝説も起こしたい。
 ゲートが開いて車や自転車やバイクが一斉に走り出す。チャリダーの中でも遅い部類に入ってしまう最近の私はあっという間に取り残されていく。まあのんびり走れば良いだろう。長いトンネルを2本ほど抜けたら道がのぼり始めた。色々と疲れている俺にはきつい坂である。大した坂でもないはずが、結構な苦戦を強いられる。坂を登り切るとトンネルがあり、これを抜けると下り始めた。まだ日は沈んでいないし明るいので緊張感もなく気持ちよく下っていく。
 増毛に入る直前にトロン温泉を兼ねたオーベルジュを見つけ、その直後にはキャンプ場も見つけた。風呂とキャンプはこれで確定だろう。一度、そこを通り過ぎてコンビニも見つけて日記帳とスタンプ帳を買っていく。そして増毛駅に着いた。寂れたローカル線の終着駅で増毛と書かれた姿は、寂れた俺の頭に増毛の願いを込めている姿と重なる。情報収集したくても何もない駅をあとにした。キャンプ場方面に戻りつつ店を探す。トマトの直売所とスーパー2軒を見つけた。ふと右の海を見ると天気の悪かった今日にしては意外な展開で夕日が見れそうである。慌てて海の方へ出て漁師の物置のような岸壁越しに眺めていく。増毛から見る海に沈む夕日は雄大で美しい。
 慌ただしく夕日を眺めたところでスーパーに行く。1軒は生鮮食品があまりないので見るだけでスルーした。もう1軒は甘エビの美味しそうなのが500円で売っていた。大きな甘エビがパックいっぱいに入って500円なので破格の安さだ。しかも増毛や羽幌は甘エビの産地でもある。ここで、夕飯のアイデアが浮かんだ。さっきのトマトの直売所のトマトと甘エビでパスタを作ることにした。急いで直売所に戻って増毛産の完熟トマトを買っていく。真っ赤でぱんぱんに膨らんで美味しそうだ。スーパーで甘エビと生クリームとニンニクを買う。オリーブオイルは既に持っている。
 買い物を済ませてキャンプ場に戻ると既に辺りは暗くなってきた。テントを張ったところで着替えと風呂セットを持って温泉へ行く。日帰り温泉とオーベルジュのコラボなので、高級感と庶民感が融合してしまっている。このオーベルジュの料理は写真で見るとうまそうだし、窓からは先ほどの夕日や海が眺められる。その高級感を少し味わいながら温泉に入る。
 入浴を済ませてキャンプ場に戻ったら料理を作る。まずはビールを飲みつつ甘エビを生のまま食べる。身は大きく甘くミソもうまみが十分にある。頭のからとしっぽは残しておく。甘エビのからをむいて頭を取って分ける。一部はパスタのお湯を使って茹でて身を固める。一部は生のまま使う。頭とからを集めたところでフライパンでオリーブオイルで焼いていく。そこにワインの代わりにビールを少しかけて煮詰める。パスタのお湯で湯むきしたトマトを刻んで入れてつぶす。エビの殻や頭のうまみとトマトのうまみをつぶして濃縮していく。それをざるで漉して押しつぶしながらうまみをソースに入れていく。タマネギを炒めてソースとあえて温めて生クリームと合わせる。そしてパスタを茹でてソースと和えて甘エビの身を加える。これで甘エビのトマトクリームソースパスタの完成だ。キャンプとは思えない手間のかけっぷりである。洗い物の数も回数も多く非効率で大きな調理器具で無いと作れない。それでも俺はやる。さすがにかけた手間に見合う美味しさで間違いなく自炊史上最高のできばえだ。トマトのうまみと甘エビのうまみが濃厚に出ている。うまい!と叫びながら夕飯をほおばっていく。夕飯に満足しながら汚れすぎた食器を全て洗う。今日はいきなり雨が降ることもなく平穏に晩餐が終わった。

衝撃の通行止 表示!!


増毛へ向かう険しい海岸線とトンネル
時折 降り注ぐ雨


白銀(しらがね)の滝


ゲートの前で開通を待つ。




留萌線終点 増毛駅


増毛から見る日本海の夕日


甘エビの頭と殻を炒めて旨みを出す


トマトと生クリームで煮込む


はち切れんばかりの完熟トマト



増毛産 甘エビと完熟トマトの
トマトクリームソースパスタ



   出発(北海道札幌市)から 140.83 km

3日目 増毛 → 留萌 → 小平 → 苫前 → 羽幌 69.54 km
2013/08/13
 今日は何とか羽幌までは行きたい。予定通り内陸迂回は取りやめてショートカットで日本海を北上する。テントをたたんでコンビニで朝食を済ませてから出発する。曇り空の下を海沿いに走って留萌を目指す。昨日は安息日に近いほど走っていないのに疲れが全く抜けない。それでも11時過ぎに留萌に着いて駅で情報収集をする。増毛から手塩まで各市町村の手書きマップが配られていた。これをとにかく集める。留萌から本格的に晴れてきた。海沿いは晴れた空に限るし、ありがたいことである。
 増毛から留萌もそうだが、昨日までのようなアップダウンはほぼ無く気持ちよく北上できる。北海道らしい雄大さが景色に表れ始めてきた。北海道らしい澄んだ夏空、波のエッジが少し立ってる青い日本海、緑の丘に白い風車… これが北海道の海だ。この辺りでは風力発電所が多く、その無数の風車が回る姿も北海道の景色の一部になりつつあるように思える。さらに昨日に旅の短縮を決めたら仕事のことは頭からようやく抜けてきた。やっと楽しくなってきたというところだろう。
 日差しが暑いぐらいの海沿いを走っていると、古い鰊番屋の建物と道の駅に着いた。ここで昼食と見学にする。もちろんニシンを食う。ニシンを凍らせたルイベとニシン蕎麦である。ニシンのルイベはさっぱりとした青身の味と凍ったしゃりしゃり感が楽しい。鮭のルイベはよく聞くがニシンは珍しい。ニシン蕎麦もニシンから取った濃い出汁が美味しく、身欠きニシンの身の味と甘い味付けも合う。飯を食べていると1歳ぐらいの女の子がじいじをそっちのけで、じーっと俺の方を見ている。あやしながら飯を済ませる。髭も生えて日焼けもして雰囲気は怪しいのに不思議である。子煩悩とニシンの味を楽しんだところで鰊番屋を見学に行く。寒冷地なのに広々とした建物の中にニシン漁師たちの暮らした痕跡が見える。積丹で見たニシン御殿と雰囲気はよく煮ている。写真に撮りきれないほどの大きさの建物を撮って、また走り出す。

すっきり晴れた空と海




小平 鰊番屋


濃厚な出汁 ニシンそば


ニシンのルイベ

 小平を抜けて苫前まで行くところは地図上で見ると標高100mの等高線をまたいでいる。そこそこ上るはずだと覚悟しながら走って行く。峠を登っているとは感じないがアップダウンが緩く何度も繰り返すこれも北海道らしい海岸道路である。まっすぐな道で左に海を見つつ道は緩やかに上って下ってというのを繰り返す。前で見ても気持ちいいが最も気持ち良いのはしばらく無心に走って、ふっと後ろを振り返るとまだ見ぬ雄大な景色が突然現れる。その雄大な景色のど真ん中にまっすぐ伸びる道は俺が走ってきた道である。この瞬間が意外と好きであり、北海道の楽しみ方でもある。
 苫前の役場の前には熊の像が置いてある。苫前と言えば史上最悪とも言われる三毛別ヒグマ襲撃の現場の街である。郷土資料館にヒグマの剥製や家が襲われてる様子を展示してある。ヒグマの恐ろしさが最も分かる展示物である。350kgもあるヒグマの前で記念写真が撮れるようになっている。パイプいすの大きさと比べたら勝てる気はとてもしないものである。苫前の道の駅に行ってみたが大きい割に何も売られていないので、今日のゴール目標である羽幌へ向かう。
 いくつかのなだらかな丘を越えたら羽幌に入った。そろそろ日が沈みそうだし、今日は天気がよくて夕日が見れそうなので羽幌サンセットビーチへ向かう。このビーチはキャンプ場にもなっている。砂浜には海の家もあり賑やかである。北海道の人は海水浴といえばテントを張ってキャンプをしてバーベキューやジンギスカンをする習慣がありテントがいっぱい張られている。賑やかな海はそんなに好きでは無いが海へと沈む夕日を見る。沖には焼尻島と天売島が見えていて島の向こうに夕日が沈むのが見える。海水浴場が賑やか過ぎるの以外ではロケーションがいい。
 夕日を見届けたらテントを張る場所をだいたい決めて出かける。今夜は忙しいのだ。まずはフェリーターミナルへ行き明日のフェリーの時刻を確認する。自転車なら漁港をショートカットできる道も見つけた。それが終わったら温泉へ向かいつつコインランドリーを探す。しかし、ケータイで探してみる限りだと見つからない。ネットの情報だと羽幌にコインランドリーがあるはずだったが実際は見つからない。単独で営業していない場合にありがちなのは、ホテルがやってる日帰り入浴とかオートキャンプ場だとあることが多い。温泉を調べてみるとありそうだ。

風力発電の風車が並ぶ海岸線


苫前郷土資料館 ヒグマの剥製


夕日@はぼろサンセットビーチ
天売島と焼尻島の間に沈む

 フロントで聞いてみると使わせたくないニュアンスを漂わせながら、あると答えてくる。とにかく温泉に入るために風呂セットと衣類用のサイドバッグをそのまま持ち込む。コインランドリーは宿泊者以外は21時までと書いてある。乾燥まで含めたら確実にオーバーするが、ここは確信犯だ。まずは汚れ物を脱いで着替えてコインランドリーで洗濯を始める。洗濯しながら風呂に入る。露天風呂もあるしのんびり出来る。洗濯してるので急いでも仕方が無い。洗濯する時は同時に日記も書くのが旅の習慣になっていたが痛恨である。ノートはあるがペンはフロントバッグにしまったままだった。一度出てしまうと営業時間を過ぎてるので入れない。仕方なくテレビを見ながら待つことにした。
 すると俺の送ったカニとトウモロコシのお礼を言うために電話がかかってきた。電話越しに子供をあやしつつ酔っ払いの相手をしつつ暇はつぶせた。乾燥機に洗濯物を移して22時前に終わりそうな金額を入れて動かした。まあ追い出されはしないだろうから、そのまま乾燥する。中途半端にやって生乾きで終わるのも嫌なので先に金を入れた方が勝ちだ。乾燥も長いもので見てるテレビにすら飽き始めてきた。天気予報は昨日も今日も含めて雨だったし、明日からも連休終わりまでずっと雨。果たしてどうなるものかと心配でもある。こうも雨続きで来ると、さすがに旅はつまらない。しかし、俺は自転車の旅だと最近では晴れ男である。そこがどう出てくるのだろうか。
 乾燥を終えて休憩室で洗濯物をたたんで圧縮袋に詰めてサイドバッグに入れてホテルを後にした。さすがに今から買い物して料理して片付けて、明日の7:30に出るフェリーに乗るのは寝不足が確実なので外食だ。こんな時間なので居酒屋しか開いていない。羽幌の美味しい魚でビールと増毛の地酒 国稀を飲む。たこも甘エビも美味しい。さすがである。キャンプ場に戻ると、もうすぐ0時だというのに海の家ではカラオケをやっている。なんだか自由すぎる海水浴場だ。


   出発(北海道札幌市)から 219.12 km

4日目 天売島一周、焼尻島一周、羽幌町内 37.13 km
 2013/08/14 羽幌 → 天売島・天売島 → 焼尻島・焼尻島 → 羽幌
 寝坊した。起きたら既に7時前だ。慌ててテントを片付けてパッキングしてフェリーターミナルへ向かう。何とか7:25に到着して乗船手続きをする。まずは遠い方の天売島から行く。フェリーに乗ったとたんに大粒の雨が降り注いできた。ある意味では天気予報通りではあるが、思い通りに行かない旅がここから続きそうな予感である。いつもならフェリーのデッキで風を浴びながら島へ向かい、そこで日記を書くのだが雨なので船室へ入り込んだ。黙々と日記を書き進めつつフェリーが天売島に辿り着くのを待つだけだ。焼尻島に着いたところでは雨は降っていない。そのまま天売島に渡っていっても雨は降っていない。島に降りたら、ターミナルの前にあるオロロン鳥の像の前で写真を撮って情報収集を…と思ったら大粒で土砂降りの雨が降ってきた。今日は諦めるしかないようだ。レインウェアを着て走り出す。途中で島の野鳥の写真を展示してあるカフェがあったので立ち寄る。ダメ元の雨宿りだ。DVDを45分見ても雨は止む気配は全くない。
 濡れた体の上に濡れたレインウェアを着て走り出す。生活圏内を抜けると道は一方通行で狭くなってきた。結構な急坂を上る。坂の途中で雨はやんだのでレインウェアを脱いで上っていると、視界の横を鳥が飛んでいく。何となく鳥と一緒に飛んでるような錯覚に陥るような気持ちのいい道が続く。この時間帯はカラスやカモメしかいないが、ウトウやウミウなんかと一緒に飛べる感覚になれば野鳥好きにはたまらないだろう(野鳥は好きだが知識は無い)。岬には展望台があって運がよければオロロン鳥が見れるはずだが、何も見えない。ただ強い風がつきだした岬の展望台では怖い。土の上に掘られたウトウの巣が象徴的である。
 この岬がピークかと思ったら坂はまだまだ上っていく。上るとガスのかかった木の生えていない丘や崖の眺めが雄大である。途中で野鳥が目の前を横切ったりで自然の豊かさも感じる。崖の展望台に500倍の望遠鏡が置いてあり野鳥が見れる場所もあるが今日は風や雨が強いので崖際の遊歩道を歩くだけでも少し怖い。野鳥を望遠鏡で探すのは難しく、結局は肉眼で野鳥の位置をとらえて望遠鏡で種類を見極めるという感じのやり方になる。肉眼で見つけられる時点で俺も野生だと思う。
 野鳥の島という様相の天売島も残り3kmほどとなった。1周走っても12km程度しかないので、あっという間に終わってしまう。最後は急な坂を下ったら大きな道に出た。俺の勘で右折してみたら、なんか見覚えのある店とカフェが出てきた。危うくもう1周しそうになる。逆の方に曲がって港へと戻った。意外とハードな島だったので1周したときの達成感が高い。
 焼尻島へ行くフェリーの乗船時刻まで時間が少しあるので昼飯にする。港の前にある店でウニ丼だ。夏の天売島はウニが旬。いつ食べるか? 今でしょう。たっぷり乗った柔らかい濃厚なウニはうまい。これ以上の贅沢は無いだろう。ただ、値段は安くない。そしてフェリーに乗り込む。日記の続きを書いていると、すぐに焼尻島に着いた。ここに来て空が晴れてきた。路面も乾いていて安心して走れる。16時半のフェリーが戻りの期限だ。もともとはキャンプして夕日と星でも見てのんびりしようかと思ったが、予報では雨だし雲はそこそこあって星は見れないので羽幌に戻ることにしたのである。

羽幌-焼尻-天売を回るフェリー


天売島に生息するオロロン鳥


天売島周回道路 道は狭く一方通行


ウトウの巣穴


この崖に向けてバードウォッチング


天売島のウニ丼

 まずは島一周の旅へ走り始める。案内表示に従って、おんこの原生林へと向かう。せっかくなので軽くトレッキングしてみたいところである。原生林のフットパスの入り口に自転車を置いてハッカ油を持って歩いて行く。おそらくアブが迫ってくると思われる。風雨にさらされた不思議な形の木が生えている。ほとんどは北から南に倒れるように生えているが、北に大きな木がある時は違った形にもなっている。自然の豊かさも厳しさもも垣間見える。谷まで歩いたところで引き返す。大きなカタツムリを踏みつぶさないよう気をつけながら戻っていく。
 再び自転車に乗り込んで海沿いの道を走っていく。島の端の坂を上る前に黄色いハンカチのある家が見えてきた。阿部寛バージョンの「幸せの黄色いハンカチ」のロケ地である。見てないので特に印象は無いが、この映画は高倉健でしょう。ものすごく厳しい坂が始まった。坂の途中からは海の向こうに天売島が見えて、島と島の間に鳥が渡っているのが印象的である。頂上まで登り詰めたところで、島の海岸線か尾根伝いを行くか考えて尾根伝いに行ってみる。右と左に牧場を見て両方とも海を見下ろせる。グラスロールが転々と並ぶ牧場と広がる海の眺めが気持ちいい。牧場を抜けて最後の方には、毛以外は黒いサフォークが飼われている。この島のシンボルのような動物である。牧場から海沿いに下って、少しアップダウンのある道を走り抜けると、港の近くの住宅地に戻ってきた。古い学校の写真を撮り、海をゆくフェリーを上から眺めて、港へと戻っていく。
 フェリーの時間まで1時間以上も余ったので、サフォークの肉を買えないか探してみるが、買えそうな店は無い。ただ、その場で食べれそうだったので食べていくことにした。七輪の上でさっと焼いて食べる。脂は全くしつこくなく肉の旨さがある。癖や臭みは一切ない。こんなに旨い羊肉は初めて食べる。ビールと肉で優雅に夕飯にしてしまう。となりのテーブルの兄妹の方と話をすると、この羊肉はフレンチの世界では有名と言っていて、その方は札幌の藻岩山の山頂でフレンチレストランを経営しているオーナーシェフで、かなりの食通のような感じであった。フェリーの時間まで話しながら飯を食べて時間を過ごした。少しウニもいただけた。
 そしてフェリーに乗り込んで島を後にする。帰りにはフェリーから夕日も見れて印象的な景色となった。これだけ毎日のように天気予報では雨と言われながらも、増毛、羽幌、天売島/焼尻島と3回目の夕日を見ることができた。港に戻ったら、まずは風呂に行く。その近くで盆踊りが開催されているはずなのだ。風呂を済ませて参加したいと思っていたが、盆踊りをやっている気配がどこにもない。キャンプも砂浜は何かと面倒なので、もう1個あるはずの公園のキャンプ場を探す。真っ暗な道を走っても走っても辿り着ける気がせず、7kmぐらい無駄に走ってサンセットビーチに戻る。今夜もカラオケをやっている。自由すぎる海の家を見ながらテントを張って眠りについた。

焼尻島 オンコ(いちい)の原生林


枝の伸び方が独特なオンコの木


幸せの黄色いハンカチ


焼尻島 周回道路 すげぇ坂。


焼尻島の尾根伝いの道
牧場に並ぶグラスロール


焼尻島のめん羊



草を食べる羊たち


サフォークの肉


シンプルに炭火で焼くだけ
これが一番うまい食べ方

夕日@焼尻島から戻るフェリー



   出発(北海道札幌市)から 290.55 km

5日目 羽幌 → 初山別 → 遠別 → 天塩 68.98 km
2013/08/15
 天気予報は雨というだけあって空は冴えない。ただ、雨は降っていないので濡れることも無くテントを片付ける。まずは、道の駅のすぐそばにあるはぼろバラ園へ行く。ばらはいっぱい咲いていて見応えはある。バラ園を歩いて抜けて、バラ園のすぐ隣にある北海道海鳥センターへ行く。海鳥の生態や歴史も展示してあっておもしろい。何はともあれ自然を守ることとオロロン鳥の数が復旧していってほしいものである。
 出発は11時と出遅れ気味ではあるが、少し晴れ間が出てきた空の下、北上していく。地図上では海沿いの道であるが、海はほとんど見えない。たまに草地の向こうに見える程度で海沿いや海際という感じの道では無い。時々見える海と緩く削られた丘と草原を見ながら北上していく。この緩く削られた丘こそが北の寒冷地の特徴的な地形にも思える。さほどアップダウンもなく気持ちよく走れる道を進んでいく。
 初山別まで走ったところで道の駅に立ち寄っていく。道の駅へと曲がったところで空は晴れ間が見えるが雨が降ってきた。レインウェアを着ずに道の駅まで飛ばしていく。とにかく雨宿りでしのごうと思ったら止んできた。どうも今年の旅は雨が降ったり止んだりの不安定な天気に振り回されるようだ。北海道の夏には雨ばかりの年と晴ればかりの年があるが、今年は予報では雨年と思われる。その中でも、まずまずの晴天率を誇っているので多少の通り雨は我慢するところだろうか。
 道の駅自体はやたら広くてゴーカートやスポーツ施設もある豪華な道の駅だが建物自体は小さな物である。ここで昼食にする。やはり地物の甘エビを食べたいところなので、甘エビ丼にする。甘エビのとろけるような甘みが美味しい。ご飯と醤油と渾然となっている。増毛から初山別あたりにかけての甘エビは本当に絶品である。北陸のものより大きいような気もする。
 昼飯を終えると走り出す。雨は止んでいるし空は晴れている。今日はひたすら走るだけのコースで見所らしい見所はない。国道自体はきっちり海沿いというわけではないので海はあまり見えない。途中で遠別から広域農道らしきものが海沿いに出てそうなので、そっちに期待したいところである。
 淡々と走っていると遠別の道の駅まで辿り着いた。この辺りからは利尻富士を遠くに見れるはずなのだが空は曇ってきたので見える気配が全くない。ここで糖分補給で遠別産の小豆が乗ったソフトクリームを食べていく。豆の味が出ていてあんこの甘さがありがたい。入念にストレッチをして天塩までの残りの道を走っていく。この辺りはツーリングマップルで距離が細かく書かれていないので進捗が分かりづらいが、20km程度だろう。海沿いに出れそうな農道を探したが見つからず国道に戻る。

はぼろバラ園


道の駅 初山別の甘エビ丼


道の駅 富士見(遠別)のソフトクリーム
地元の小豆がのってる。

 左は夕暮れ空で薄い雲の中に太陽が透けて、その手前には草原と海… 時折、空と海の気持ちいい景色が広がる。そうなるタイミングがほんの一瞬のため、なかなか写真を撮れない。良いのか悪いのかイマイチよく分からない晴れと曇りを繰り返す空を左に見ながら走る。緩くアップダウンするまっすぐな道なので前方の景色は気持ちが良い。たまに立ち止まって振り向いて見る足跡も気持ちのいい眺めであり、道北らしい景色である。 
 天塩町に入ると気分的に安心する。少し薄暗くなってきた中で道の駅に到着した。駅もバスターミナルもないので、ここで情報収集が必要だ。近くにキャンプ場も温泉もありそうだ。道の駅の近くはちょっとした街になっていて買い物も出来そうだ。そろそろ厳しくなってきた財布の中の残金も、天塩なら下ろせるだろうか… そこが心配どころである。農協ATMか信金あたりがあればよいのだが、見当たらない。ただ、今日はお盆まっただ中なので、おそらく三井住友銀行は下ろせない。せっかくコンビニATMとか普及してきているのに、こういうのが嫌だ。Edyなど電子マネーが使える店なんて、セイコマぐらいしかない。
 まずは天塩町を自転車で流しながら買い物できる店を探す。一軒のスーパーを見つけた。ここでラインナップを見ていると鮮魚はほとんどない。お盆だから漁に出てないのだろうか。冷凍のシジミがあっただけだ。それでも天塩川はシジミの産地らしいので、魅力的だ。肉は安い北海道産のスペアリブとブロック肉が見つかった。札幌で衝動買いしたスープカレーをここで作ってしまうのが良さそうだ。タマネギは既に1個持っている。あとはピーマンとパプリカでも入れたいところである。これで夕食のメニューは決まった。
 買い物袋をぶら下げてキャンプ場へと向かっていると、浴衣を着て歩いてる町民が多い。どうやら今日は祭りか花火大会でもあるのだろうか。キャンプ場はすぐに見つかった。

ひたすら真っ直ぐな道


草原と風車と夕暮れの太陽 

 まずは受付を済ませる。この時点で財布の中の残金は800円。風呂に入ると500円を切る。明日の銀行立ち寄りは必須である。キャンプ場は少し面倒で広いサイトは自転車も含めて車両は入ってはいけないことになっている。自転車くらい押して入っても良いだろうと言いたくはなるが… その奥の方には車もバイクも自転車も入って良い場所があるが、パッキングするために立てかけるための壁とかテーブルがない。
 乗り入れ禁止サイトと乗り入れ許可サイトの境界の杭があるので、そこに立てかけて荷物を外す。ポール1本なので安定はしない。風にあおられつつテントを張ってペグを打ち込んだ。荷物をテントの中に放り込んで着替えを取り出す。ここから5mほど乗り入れ禁止サイトに入るとテーブルがあるので飯はそこで食う感じだろう。キャンプ場は大型のキャンピングカーから大型バイクに椅子やタープやバーベキューコンロまで積んでる豪華ライダーから低排気量のバイクから貧相な自転車一人旅(俺)までバラエティに富んでいる。
 自転車のライトを懐中電灯代わりに持って歩いて風呂に入りに行く。目の前の湖の向こうの丘の上だ。てくてくと丘を登って温泉に入る。少し塩っぽく黒っぽいお湯が独特だ。でも道北の夏は涼しく露天風呂は頭が冷えて気持ちが良い。風呂から出ると花火の音が聞こえていた。丘を歩いて下りながら花火を見ているが、何というか連発の感覚も長く1回で上がる数も少なく高さも無い。田舎の素朴な花火大会という感じで好感は持てるが、感覚が空きすぎている。あれ?上がらないの?と思った頃に、ドンドンドンと3発程度上がって、また間が空く。
 テントの近くのテーブルは空いていた。ここに料理道具と食材を並べて夕食にする。まずはご飯を炊いておく。少し堅めにしたいので水を気持ち少なめにした。この調整がうまくいくか見物である。飯を炊きながら野菜を大きめに切っていく。スープカレーは大きめの具が醍醐味である。ご飯が炊けたら、しじみ汁を作る。貝が開いて味が出てきたところで終了にする。味付けは塩だけだ。
 いよいよ期待のスープカレーだがフライパンで塊の肉をしっかり焼き目をつける。ごろごろと転がして全ての面に焼き目をつける。野菜も軽くオリーブオイルでソテーして焼き目をつける。にんじんも大きめに切って焼き目を入れる。全ての具に焼き目がついたら特大コッフェルに移して水で煮込んでいく。肉から出るアクをすくって、煮えてきたところでスープカレーの素を入れて味を決めていく。また気長に煮込んでいく。
 この手間のかかる料理の間にシジミ汁をつまみにしてビールを飲む。良い出汁も出ているし貝自体が大粒で実もしっかりしている。汁だけではもったいない。シジミを食い終わってビールも半分ほど消費したところで、カレーが出来た。フォークで肉を崩しながら食べていく。部位の違いでうまみの違いも出る。やはりスープカレーは北海道の大地を味わうには最適な料理である。野菜の甘みもしっかりあり、塊のにんじんも中まで柔らかい。堅めに炊いたご飯も良い感じに芯を感じるか感じないかのアルデンテな状態となっている。
 せっかくのスープカレーを楽しんでいる間に雨が降ってきた。レインウェアを着ながら食べる。せっかく降りてきた自炊の神様だ。雨なんてそっちのけで夕飯を満喫した。いつの間にか花火大会は終わってしまったようだ。 降ったり止んだりを繰り返す雨の中で食器を洗って拭いて片付ける。時々、打ち付ける雨に目が覚めるが何とか快適な眠りについた。  

天塩川産シジミの潮汁


ごろごろした肉と野菜を炒める


そのままカレーで煮込む


自作のスープカレー
野菜の甘さ、肉のうまみ
スパイシーなスープの香り



   出発(北海道札幌市)から 325.23 km

6日目 手塩 → サロベツ原野 → 豊富 → 幌延 → 豊富 73.77 km
2013/08/16
 朝は風は強いが雨は止んでいる。地面も既に乾いている。やはり杭1本ではパッキングしづらいのでテーブルまで自転車を押していく。豪華なキャンパーから貧相なキャンパーまでいるキャンプ場の朝もそれぞれである。そんな風景を眺めながら準備を進めていく。まずは天塩の街で金を下ろしたい。銀行は見つからなかったが郵便局ならゆうちょ銀行ということで下ろせそうだ。無事に現金を手にして安心したところで出発する。
 天塩の街を出ると天塩川を渡る橋にさしかかった。空は晴れているが雨の影響からか川面は茶色く濁っているが大きく曲がりながらゆったりと流れる河口付近の天塩川は気持ちの良い眺めである。橋を越えると、いよいよサロベツ原野の海際をまっすぐと突き抜ける道に入る。チャリダーもライダーも憧れる道北の象徴のような道である。まず俺を迎えるのはまっすぐな道沿いの何本も並ぶオトンルイの大きな風力発電の白い風車である。同期するように同じペースで回っている。人工物にはあまり感動しない俺ではあるが、風車は既に北海道の景色の一部になっているようにも思える。
 風車を通り過ぎると、左は草地で右は海その境界線を突き抜けるまっすぐな道… これこそサロベツ原野の道である。今回の旅のハイライトとも言える開放感ある道をひたすら楽しみながら走っていく。しかも強烈な追い風なので走りが楽である。原野を抜ける道沿いにモニュメントがあり、北緯45°を越えた。こういう北緯○○度線というのは、思えば遠くに来た物だと実感する瞬間の一つでもある。
 北へ進めば進むほど右に広がる原野に広がりが出てくる。サロベツ原野を縦に抜く道の中間地点で右へと曲がりサロベツ原野の中を抜けて豊富へ向かう。写真に収まらないほどの広がりで右と左に草原が広がる。釧路湿原でも真ん中を抜ける道はないので、この原野的な開放感を楽しむなら、この場所が北海道で一番かもしれない。先ほどまでのまっすぐ突き抜ける道も良いが右にも左にも原野が広がるのも良い。
 そんな原野の道を楽しんでいると、遊歩道の拠点にあたるネイチャーセンターがある。ここに自転車を置いてトレッキングをする。さすがに原野の植物保護のために木道の上だが、履いてるのがサンダルと短パンなので、これぐらいがちょうど良い。トレッキングの前にネイチャーセンターの展示物にまつわるクイズに答える。子供向けなのに難易度が割と高い。俺としたことが満点を逃してしまう。展示とクイズを楽しんだあとで、真夏の太陽に炙られる木道を歩いて原野に咲く花を楽しむ。さすがに動物や野鳥は見えない。もっと奥の方に入っていく木道が無いと無理だろうか。
 トレッキングを終えたら昼飯にする。今日は簡単に済ませるべく、いももちにする。ジャガイモを練った餅だが、芋としての味とバターと醤油の味がたまらない。タンパク質は地元の牧場のソーセージで取る。これも美味しい。飯を済ませたらサロベツ原野を満喫しながら戻ってこれるエスケープルートを探しながら豊富の市街地へと向かう。カヌーツーリングでもやれば楽しそうなサロベツ川を渡って、しばらく走るとサロベツ原野を抜けて豊富に辿り着いた。 
 今夜はおそらく豊富で一泊なので泊まれそうな公園の当たり付けをしたいところである。まずは峠を越えて幌延のトナカイ牧場に向かう道を走っていく。やたらと広い公園を一つ見つけた。トイレや水道もありゲートボールのための屋根付きの小屋もある。雨もしのげるし良さそうだ。ただ、管理が行き届き過ぎていて張りづらそうでもある。徐々に坂を上っていくと豊富温泉を通過する。ここも公園もあるし、宿も何軒もある。買い出し出来そうな店が一軒もないようだ。ただ市街地から遠いし坂を上ったので、夕方にもう1回来たいかというと気が向かない。
 温泉街を越えても坂はまだまだ続いている。傾斜自体は大したこと無いのだが想像以上に長い。ここが峠だろうと思っていた分岐を幌延市街地方面に曲がっても、アップダウンはするものの登り基調の道は終わらない。しかも、しつこい虻が増えてきた。最強を誇っていると思っていた虻寄らずが効かない。東北だと飛んで来なくなるぐらいに効くのに、北海道だと塗ったところずばりにしか効果がない。峠道でペースが落ちてくると足にまとわりついてきてチクッと刺すというか噛みつくような痛みが走る厄介者である。
 結局、トナカイ牧場まで上り坂が続いたような感じである。トナカイ牧場の前は、これもまた虻の数がハンパない。トナカイ牧場を歩くために虻寄らずを持っていく。建物に貼り紙もされているぐらいなので、ここは多い場所のようだ。長いこと北海道や東北で虻と戦っていたが、ここで初めて貼り紙で名前を知った。「メクラアブ」という虫である。オニヤンマのダミーをぶら下げて走ったり、色々やってきたが対策が求められる相手である。
 フェンスの向こうには大量のトナカイが見える。密集した群れで動いていて、群れから外れて動いているトナカイは一頭もいないのが印象的である。入口の近くと奥の方を何度も群れで往復している。今まで見てきた奈良公園や広島の宮島のシカとは動きが違うし、釧路湿原などで見てきたエゾシカとも動きが違うように見えて不思議である。角が立派なところは、さすがトナカイという感じもする。
 他に飼ってある山羊や豚を見て、山羊と戯れてトナカイ牧場を後にする。このまま続きで幌延に下るかどうかを考えたが、幌延も豊富の市街地も銭湯や温泉はない。昔は幌延に銭湯があった記憶はあるが、今はなくなったようだ。となると、風呂は豊富温泉で入るしかないし、明日の走りを考えると豊富までは行っておきたい。幌延に下るメリットが全く無くなった。来た道を戻るのは好きでは無いが、豊富へと戻っていくことにした。下り基調の楽な道でペースが上がれば、しつこい虻も着いてこない。
 下り坂の途中で温泉に立ち寄る。石油成分が含まれているとのことで油のにおいが温泉街に漂っている。何とも不思議な場所である。入浴施設の入口には温泉と一緒に出てくる天然ガスでかがり火が焚かれている。不思議なにおいの温泉に入りにいく。浴室はアンモニアに近いような鼻をつくにおいがする。お湯は油が浮いているわけではないし、脂っこくぬるぬるべたべたするわけでもない。
 不思議な感覚の温泉を出て、また豊富の方へと下ってく。途中に見つけた環状のひまわり畑に感動して写真を撮る。よく出来てる運動公園は管理棟に人の気配があるのでバックアップのゲリラキャンプ地として押さえておいて、もう1カ所の候補地を探す。公園は近くに見つかった。これだけ押さえれば大丈夫だろう。スーパーを2軒見つけて、買い出しをする。地元の牧場の何かが無いかと探したが、鹿肉のジンギスカンが見つかった。なんとなく癖が強すぎて食えない場面が想像できたので、羊肉のノーマル版も買って行く。買い出しを済ませて盆踊り会場の町役場前を抜けて公園へ戻る。
 東屋の隣にテントを張って、ベンチとテーブルで飯にする。ゲートボール場が立派なので助かる公園だ。屋根があるので雨もしのげる。公園に面する斜面にはとよとみと象られたライトも光っている。なんと電源も見つけて、残り2日の旅で使う電力分ぐらいはモバイルバッテリーに楽勝で充電出来そうだ。
 まずは米を炊いて蒸らしの段階まで来たらジンギスカンを焼いてみる。羊の方はあっさりと美味しい。これぞ北海道の醍醐味である。一方、シカの方はハンパない臭さだ。俺のジンギスカンはフライパンなので汁が流れ落ちない。この鹿肉ジンギスカンは汁をしっかりジンギスカン鍋で落とさないと汁が臭いのだ。シカの方は3きれほどでギブアップし、全て羊の方で夕飯は進んでいった。甘辛なたれと羊の肉ともやしが美味しい。
 夕飯を終えて片付けてトイレに行こうと思ったら、トイレのシャッターは閉まっている。何でわざわざ閉めるのか意味不明だ。仕方なく歩いてもう1個の公園に行くと、こっちも閉まっている。仕方なくテントに戻って自転車にまたがって、セイコーマートに向かう。23時閉店なのでさっさとトイレを済ませて出てきた。豊富の夜間トイレ事情は要注意である。

鏡沼海浜公園 キャンプ場


オトンルイの風力発電所


北緯45度線


サロベツ原野を駆け抜ける海沿いの道


サロベツ原野の真ん中を駆け抜ける


豊富のひまわり畑






幌延となかい牧場の仲間たち


豊富温泉
石油のにおいが独特


エゾシカ肉のジンギスカン

 テントに戻って寝ようとしたら土砂降りの雨が降ってきた。あっという間に周りは水たまりになりテントの床の下にも水が流れてきた。モバイルバッテリーは濡れると危ないのでテント内に持ってきた。テントに大きな音を出して打ち付ける雨に不安を感じつつ寝ようとするが寝れない。そして床下から浸水してきた。どうもボトムの防水が早くも切れているようだ。今時点で塗っているのはワックスのような防水剤で生地にしみこんでいる感じがしない。前の代のテントに塗っていたものは生地にしみこんでいて頼れる感じであった。止まない雨としみこんでくる水に不満と不安を覚えながら眠りについた。


   出発(北海道札幌市)から 399.00 km

7日目 豊富 → サロベツ原野 → 野寒布岬 → 稚内 70.17 km
2013/08/17
 残念ながら浸水した水でマットやシュラフは濡れている。このまま走り出せば臭くなりそうだが仕方ない。出来るだけ干しながら準備をするが、時々雨が降ってくる。しかも雨粒は夜中と同じぐらいの物である。風も南から強く吹き付ける。捗らない準備を済ませて出発する。そのときには雨は止んで晴れている。セイコマで朝食を済ませてサロベツ原野を突き抜ける道を戻る。ここまでは晴れている原野が気持ちいいが、微妙に向かい風気味の横風に振り回される。
 海沿いの道に戻り、気持ちの良い原野を貫いていく。しかし、途中から大粒の雨が降ってきた。レインウェアを着込んで走って行く。今日は、このまま雨が降り続きそうな感じである。空はどんよりと曇ってきた。しかも台風かと思うほどの突風が後ろから吹き付けている。海の向こうに見えるはずの利尻富士なんぞ全く見える気配はないし、海もやや荒れている。たまたま追い風だから良いが、逆に走ってくるサイクリストたちはかわいそうである。
 この雨と風にめんどくささを感じて足を止めていると、親子のサイクリストに追い越された。しばらくは抜きつ抜かれつの走りが続き、ちょうど休憩小屋があったので雨宿りがてら休憩していく。ビオトープとなっている池と海を楽しめる場所らしいので、土砂降りの雨と突風の中で楽しんでいく。
 そして稚内へ向けてのラストスパートが始まる。抜海を過ぎると稚内へ向かう道は峠越えになる。俺の目的地はノシャップ経由なので稚内へは曲がらない。ますます激しくなってくる突風と雨に振り回されながら北上を続ける。もはやペダルを漕がなくても風力だけで進むほどの風になってきた。日本最北の温泉の前を過ぎて岬へと向かっていくが、ここまで来れば残り2km程度だ。
 岬の駐車場付近は自転車を立てかけておける場所も見当たらない。どこに立てかけても倒れそうだ。トイレのひさしの中に風が当たりにくそうな場所を見つけたので、そこに立てかけていく。喜ぶ元気もないが、一応はこれで山口県から北海道の北まで日本海側を完全走破したということになった。達成感より風が強すぎることへの不安感の方が勝ってしまう。
 ずぶ濡れのまま昼飯を食う。せっかくなので海鮮丼にする。ウニもいくらもカニものっている。これぞ北海道の海沿い。飯を食いながら今夜の宿を携帯電話で予約する。これで安心だ。いくらドーム型防波堤があっても、この雨風の中ではテントは張りたくない。風向きからするとドームに吹き込む方向だ。
 昼食を済ませたら、日本最北のノシャップ水族館へ行く。最近、旅先で水族館に行くのが、ちょっとした楽しみやマイブームになりつつある。その地方の海を表現していることが多いのだ。ここも少し楽しみである。手作り感満載の展示が楽しい。そして何より特徴的なのは、水族館ではタブーだと思っていた魚の食べ方について積極的に示している。魚の説明の中に「焼いて食べると美味しい」などと書かれている。
 水族館を楽しんだ後も雨と風が酷いので、隣の科学館も見ていく。南極探検隊についての展示とプラネタリウムが見物だ。今日の最終公演なので、ずぶ濡れの俺が座っても罪は少ないだろう。見ていると寝てしまいそうになった。南極探検隊の展示を見て戻ると、雨と風は依然として酷い。土産物屋さんでトイレついでに物色して、重い腰を上げて稚内市内に戻ることにした。
 さっきまでの強力な追い風は、ここからは向かい風として俺に襲いかかる。時々、横からも吹き付けて自転車ごと振り回されてしまう。ギアを落としてグイグイと踏み込んで進んでいくしかない。ここ最近は抜かれてばかりの俺だが、向かい風の中で一人のサイクリストを追い越す。体力は衰えてるが、経験とかピンチの中ではベテランの方が安定するのだろうか。

大荒れの天気の中稚内へ


雨の中で真っ直ぐな道を走り抜く


日本海側の走破
大荒れのノシャップ岬


ノシャップ岬の食堂で海鮮丼

 そして、この旅のゴールとした稚内駅に到着した。以前の素朴な駅舎は大きく様変わりしていた。きれいなガラス張りの駅舎になっている。自転車を置いて観光案内所でスタンプ収集と情報収集をしていく。飛行機は明後日なので明日はフリーである。島に渡る時間はないが宗谷岬なら行く時間はありそうだ。宗谷丘陵のフットパスを自転車と歩きで回れたら楽しそうである。記念入場券を買ってホームに入って最北端写真を撮りまくる。単線1ホームだけのシンプルな駅である。今年だけで鹿児島県の枕崎、西大山に続いて最北端にも来たとなると、日本縦断の年を思い出す。
 最北端駅を満喫してホテルへと行く。チェックインを済ませて、自転車で温泉に入りに行く。稚内港の南の方に観光施設が出来ていて温泉もあるのだ。近くにコインランドリーもあるようだ。土砂降りの雨と向かい風の中を温泉に向かっていき、それぞれの場所を確認していく。コインランドリーは大学生が押し寄せてるので、すぐには使えないようだ。まずは温泉に行く。港を見下ろせる露天風呂が気持ちいい。休憩所も充実している。風呂を済ませたら、また風と雨の中で洗濯に向かう。洗濯機が空いたので洗濯を始めつつ、そこで地べたに座り込んで日記を書く。サンダルも靴専用ランドリーで洗う。素足で履いてて雨が続くと臭くなってくるのだが、コインランドリーで洗うとスッキリする。
 大学生はいなくなって洗濯が終わるのを待っていると、ロシア人と日本人の夫婦が来た。彼らも靴用のランドリーを使いたかったようで、俺は乾燥機は使わずに自然乾燥だけなのを不思議に思って話しかけてきた。最近は外資系と仕事しているので簡単な英語ぐらいはさらっと出てくるので、「It's not necessary for me. You can use it.」と鮮やかに返したがロシア人だから英語圏ではない。向こうも片言の英語だ。
 洗濯も乾燥も日記の残量も目処が立ったところでホテルへ戻る。ようやく雨は止んだ。風も少し収まってきたようだ。明日はドーム型防波堤でキャンプするので、今夜が打ち上げだ。ホテルに自転車を置いて意気込んで居酒屋を探すものの見つからない。あまりオーラを感じない居酒屋で取りあえずは打ち上げの乾杯が始まった。客は俺一人で店主はおばあさんという感じの店だ。ホッケやタコなど稚内の地物の魚をつまみながら酒を楽しむ。何ともイレギュラー続きの旅だが、途中で打ち切る責任ある決断と打ち切るにしてもそこまで走り抜いた自分を褒めたいところである。
 ホテルに戻って、部屋でマッサージチェアを使って背中の筋肉をほぐしてみると、仰け反るほどの謎の力がかかる。何だろう。やたら広い部屋とマッサージチェアは活躍の場がないまま夜は更けていく。







日本最北端 稚内駅
GWの枕崎・西大山に続いて
北の端っこにも到達。



   出発(北海道札幌市)から 469.17 km

8日目 稚内 → 宗谷丘陵 → 宗谷岬 → 野寒布岬 → 稚内 86.84 km
2013/08/18
 日曜日のフライトは取れなかったので、今日は稚内に戻ってくる走りが出来る。やはり宗谷丘陵と宗谷岬だろうか。せっかくここまで来たら仮に3回目だとしても最北端は行っておきたい。もっと日数を取れれば礼文島でシーカヤックとか利尻富士の登頂も魅力的なところだ。朝から空はスッキリと晴れている。風は昨日ほどでは無いが強い。
 ホテルを出て、セイコマで朝食を済ませて宗谷岬へと走り出す。ペットボトルに水が入っていないので途中の公園かキャンプ場で汲んでいきたいところである。ロシア語と日本語の看板が並ぶ稚内の街を南へ抜けて海沿いを回っていく。海沿いを北東へ走り始めると風向きがちょうど追い風となった。あまり漕がなくても軽々と進んでいく。行きは調子よく帰りは風が止んでいることを願うばかりである。稚内空港近くのキャンプ場に立ち寄ろうとして右折したら、ちょうど向かい風とぶち当たる方向となった。キャンプ場に向かう道もキャンプ場内も思うように進まないためいらついて来るが、水不足は深刻だ。
 キャンプ場で水を汲んで国道に戻る。国道に戻ると快調に進んで行く。宗谷岬に向かう道は右はなだらかな丘と左に海を見て周りには漁村が並んでいるだけで、物寂しげな雰囲気は最果てをイメージさせる。今日は3回目の最北端にして初の快晴であるが、きらきら輝く北の海は本州のものや九州のものとは色が違って見える。
 追い風の力で順調に走って宗谷丘陵の入口らしき場所に出た。フットパス入口と書いてあるが、階段などがあると絶望的に進まないが、おそらくダート道で最後まで行けるものと思われる。ホタテを砕いた白い路面と緑の丘に青い空が映える。ホタテを敷き詰めて平らにしてあるので走りやすいが、傾斜はきつい。坂に力尽きては写真を撮って眺めるの繰り返しでのんびりと進んでいく。頂上近くまで上ると見下ろす景色も雄大さを増してきた。ここでも風力発電の風車が良い味を出している景色が見られる。日本最北の寒冷地だからか背の低い笹や草しか生えていない緩やかに起伏する丘が広がる景色が気持ちいい。高原でしか見れない風景だが、100mも上れば見えるというのが北海道の最北らしさとも言える。丘を縫うように走る道で景色を楽しみながら走って行く。
 そんな楽しい宗谷丘陵はさほど広くは無く上り坂が終わって順調に走り始めると1時間もかからず走り抜けてしまう。宗谷岬に下っていく道を探し、それっぽいダートを見つけて下り始めた。フル装備のランドナーはやはりダートは苦手である。浮いてる石に足下を取られてバランスを崩す。何とか石の少ない轍や露出部をぬいながら下っていく。宗谷岬へ向かうはずの道だが坂の先が観光地として栄えている雰囲気が全く無い。下りきると宗谷岬では無く国道に突き当たった。おそらく宗谷岬を東に通り過ぎたところに降りてきたものと思われるので左折して岬を目指す。

宗谷丘陵へと上る道を振り返る


宗谷丘陵へと上る真っ白な道


宗谷丘陵 背の低い植物の
なだらかな丘が広がる。


宗谷丘陵に立ち並ぶ風車



宗谷岬の東へ下るダート
少し砂利が深め。

 宗谷丘陵から降りて行こうと思っていたのが外れて逆から回ってきての最北端到達となった。このグダグダ感により、3度目の到達も喜びが半減である。相変わらず売店からは物暗い感じの「宗谷岬」が流れていて、岬は交代で写真を撮る観光客が列を作っている。とりあえずは昼食を食べて列がはけるのを待つことにする。観光バスが行けば空いてくるだろう。昼食はカニ寿司と焼きウニという豪華ラインアップである。この辺りの飯は間がなく海鮮丼かラーメンのどっちかである。
 飯を終えて宗谷岬のモニュメントの前に立つと、俺の原点に戻ってきたような気分になる。俺のいろんなことは、この宗谷岬から始めた日本縦断から始まっている。17年経った今もここに立てることは喜びであり、失いかけている何かを取り戻すきっかけにもなりそうである。そんなモチベーションの中でライダーの親子とカメラマンを交代しながら写真を撮りあって岬を後にする。
 ここからが地獄だ。さっきの追い風は全て向かい風として俺に襲いかかる。そして風量は全く収まっていない。白波が立つ北の海を見ながら向かい風と格闘していく。ペダルを止めたらすぐに自転車が止まるほどの風で、ギアも低めに落としてグイグイと踏み込んでいかないと進まない。距離もそこそこあるので気長に走るしかない。
 コンビニで休憩しながらガラナをロックアイスで割りながら飲んでいると、話し好きの感じのロード乗りサイクリストが来た。しばらく話して出発する。俺より少し先に出ていった。見るからに速そう感じの人だが向かい風には苦戦していたようだ。普通に無風で走ればあっという間に視界から消えそうなものだが、俺が意外と距離を引き離されずついて行けている。稚内空港を過ぎて市街地が近づき道路の向きが南西から北に変わる頃に追いついた。やはり厳しいコンディションは経験が勝るようだ。
 しばらく一緒に走って、彼の方は途中の風呂へと寄っていった。宗谷岬から西を見るとノシャップ岬の方は雲が出ていて夕日など見えないだろうと思っていたが、徐々に赤い光が差し込んでくるようになった。ここで夕日を見るためにノシャップ岬までの7kmをラストスパートする。やや追い風気味で力強く走れている。ノシャップ岬近くの自衛隊駐屯地は赤く染まっていた。昨日は台風のような雨と風だった岬は今日は穏やかである。夕日を待つ観光客も押しかけている。あと少しで沈みそうな時間帯ではあるが自転車を止めて岸壁の上に上がり、息を落ち着けながら夕日を見る。旅の最後の最後にしてこの夕日はすばらしい。沖には雲をたなびかせている利尻富士も見えている。しばらく海を眺めていく。  
 何か一つ終わったような気持ちで力が抜けたまま稚内へと戻ってきた。ドーム型防波堤にテントを張るスペースがあるだろうか… と心配だったが、十分に広い防波堤はスペースは十分である。まずは温泉へ向かう。その途中にあるスーパーで夕飯の食材を買っていく。最近はガスの発送が厳しいので使い果たすために、きちんと料理をしたいのだ。地物のタコを見つけた。めんつゆもあるし、和風ペペロンチーノのような感じのパスタにすることにした。しかし唐辛子は見つからないので、単なる和風スパゲッティという感じになりそうだ。
 温泉のあとで休憩室で日記を書き進める。帰りは飛行機だし空港からはバスや電車では無く自分で車を運転するので日記を書く時間は、もうほとんどないのだ。何とか昨日の分までを書き終えたところで、ちょうど22時になって閉館となった。夜の街を走ってドーム型防波堤に戻る。
 バーベキューしながら音楽を流している連中の隣だがテントを張る。あと30mほどでドーム型防波堤も満員になるところだったが大丈夫である。まずはタマネギとニンニクを切る。タコをぶつ切りにしてつまみながらビールを飲む。タコが切れたところでフライパンで炒めて置いておく。すぐそばの公園で水を汲んでパスタを茹るためのお湯を沸かす。ゆで汁が出てきたところでフライパンに入れてソースにする。そこにめんつゆも足す。パスタが茹で上がったらフライパンに入れて和える。そうしているうちに昼間に一緒に走ったサイクリストがテントを張りに来た。なんだかんだで旅人同士の話を楽しみながら夜は更けていく。夕飯のパスタもうまいし、話も楽しめて良い旅の最後の夜になった。

宗谷岬 かにちらし


3回目の到達
日本最北端 宗谷岬


宗谷岬 間宮林蔵像

 
ノシャップ岬からの夕日

 
沖に見える利尻富士


稚内港ドーム型防波堤


まずはキノコとたことめんつゆで和える


稚内産たこの和風スパゲティ



   出発(北海道札幌市)から 556.01 km

9日目 稚内 → 稚内空港 15.72 km
稚内 -ANA→ 羽田
2013/08/19 羽田空港 -首都高速→ 川口 -東北自動車道→ 栃木
-北関東自動車道→ 上三川
 もう帰るだけなので、のんびりと準備をする。日記を書きつつ話をして10時過ぎに撤収する。まずは郵便局に行って荷物を発送する。そうしてるうちに昼前になってきた。徐々に時間が無くなってくる焦りがある。郵便局にスタンプ帳など一式忘れたままフェリーターミナルへ行ってスタンプ収集をしようとしてウェストバッグが空で携帯電話に着信があることに気づいた。郵便局で受け取ってフェリーターミナルのスタンプを押して次へ行く。
 空港に向かう途中で、なるとの唐揚げを食う。鳥の半身揚げがすごい。揚げたてで熱いのを手で崩しながら食う豪快さが良い。昼飯を終えたら空港へ向かう。昨日と違って向かい風も追い風も無く晴れた空の下で快適に走る。
 稚内空港にはすぐに辿り着いた。自転車をばらしていると会社から電話が入った。明日から鈴鹿に出張となった。連休前もハードだったが連休後もハードである。空港でお土産を買おうとしたが、土産売り場の規模がびっくりするぐらい小さい。駅の売店以下である。どうせ1週間は会社にいなくて誰にも渡せないなら、温泉が入ってるところで発送してもよかった…と後悔する。
 自転車をばらして、土産と一緒に手回り品として預けて身軽になったところで、チェックインも済ませる。あとは飛行機に乗って戻るだけとなった。内容としては充実していたが、もっと走りたいと思っていた今年だけに旅の終わりが寂しく感じる。やはり責任ある立場になってくると短い時間で結果を出す旅と、そのために何が必要かを考えないといけないものである。
 飛行機に乗り込んだら、日記の続きを書く。羽田に着く頃には今日の分まで書き終えた。荷物を受け取って駐車場に向かおうと思ったが、行きはJALで帰りがANAなのでターミナルが違う。空港内を転がす台車に乗せて第2ターミナルから第1ターミナルに歩くのは大変だ。エレベータに何度も乗るが自転車を横に乗せた状態の台車が乗れる開口幅がない。傾けたり回したりしながら入って出てを繰り返して、何とか第1ターミナルまで来た。そこから駐車場に上がっていくのだが、ここで夕飯を済ませてしまうことにした。
 夕飯を終えて車へと向かう。最後のエレベータで車の階まで上がったが、車の隣は止まっているのでドア全開にして自転車を積むことはできない。エレベータホールの前に台車を置いて車をそこに持ってきた。ドアを開けて自転車を積む。ようやく完了である。さらに事前精算機の近くに車を置いて精算を済ませる。金額は思ったほど高くは無く、電車とかバスで輪行するより楽では無いかと思うほどである。
 空港から車を飛ばして宇都宮へ向かう。途中で休憩を入れたりしながら走って1時間半ほどで帰ってきた。いつもと違う旅の始まり方であったが、いつもと違う旅の終わり方でもあった。



絶品 なると屋 若鶏の半身揚げ


稚内空港からフライト


やや疲れながらもインサイトを飛ばして
宇都宮へと帰る。



   出発(北海道札幌市)から 571.73 km


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