旅記録
2013 GW 九州
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0日目 宇都宮 −東北本線→ 上野 −京浜東北線→ 東京
−東海道・山陽新幹線→ 博多 −九州新幹線→ 熊本
2013/04/27 熊本市内 10.12 km
 結局、今年も自分の状況は何も代わり映えすることもなくGWを迎えた。一昨年や去年あたりからは前々から行きたいと思っていた腹案の旅を着々と実現させている。今年、どうしても行ってみたかったのは天草と吹上浜だ。平戸あたりから長崎県を縦断して雲仙を越えて付け加えようかと思ったが、近年の俺の実力に見合ったボリュームに下げた。
 そして今年もまた業務は多忙を極めたまま連休明けの仕事に不安を抱えてGWを迎える。普通の会社でいうと遅すぎるぐらいの昇格も果たしたので忙しさも増している。準備もギリギリで荷物の発送も平日の夜中にヤマト運輸に持込みだ。リアハブのガタをチェックで見つけたのも前の週の日曜の夜。必要な部品があったらいつ直せるんだろう…と思わんばかりの破綻ぶりだ。GWの前日はたまりまくっている有休を何とか1日取ったので、そこで自転車屋に行ってハブのガタを取り除く。一通りはバラしてチェックできたので安心感はある。
 そこまでしてても、結局は徹夜での準備の後に出発となる。汚れ物を洗濯してコインランドリーで乾燥させたり音楽をD-SNAPに入れてみたり何かと忙しい時間が夜になっても続く。真夜中の宇都宮市内を走って駅へと行く。こうして今年の旅も始まった。まずは駅前で自転車をバラしていく。自転車はあっさりとばらせた。去年は新幹線が混みすぎて乗り換えも忙しくて食事を取れなかったので、その教訓を生かして電車に乗り込む前にカップ焼きそばをコンビニで買って外で食べていく。何となく無性にジャンクなものが食べたくなったのである。
 朝の4時過ぎに鈍行の始発で上野へと向かっていく。とにかくここでは体力の温存がキモとなる。今週の仕事の忙しさと移動での徹夜で寝不足が積み重なると初日の走りにも影響してくる。グリーン車でシートを倒して眠る。この出発方法はもう4回目なので慣れたものである。熟睡しているうちに電車は上野に到着した。京浜東北線へと乗り換えて東京で東海道山陽新幹線へと乗り換える。熟睡するためにも人の出入りがない窓側で輪行袋を格納しておける最後部席を確保したい。東京駅の切符売り場でもたもたしてる連中の後ろに並ぶといつまで経っても乗り込めないので、昨日のうちに宇都宮で熊本行きの切符は買っておいた。それを改札機に通して、ホームへ向かう。ここで博多へ向かう最速列車より1本遅らせた。今年は微妙に混んでいたのだ。
 この選択が大いに正解で乗客の数は新横浜を過ぎても、さほど増えていない。やはり早い時間の電車は人気があるようだ。万全の体制を確保したところで、博多までの新幹線でもとにかく体力の温存のため眠る。時々は目が覚めたが、るるぶやツーリングマップルを読んで旅のイメージとアイデアを深めていった。そんな穏やかな旅の出発も新大阪から乗ってきた客が岡山を過ぎた当たりから荒れ始めた。子供4人の6人家族だが、とにかくうるさい。子供を静かにさせる努力もしないし、母親もキャビンまで聞こえるぐらいの大声でデッキで電話している。GWの繁忙期だというのにシートを9人分も確保して座っている。若干イライラしながら眠る。
 そして博多へ着いた。去年は必死に乗り換えて鹿児島中央へ向かった。少しでも鹿児島市内での時間が欲しかったからだ。今年は熊本までしか行かないので、ゆったりした感じである。各駅の800系つばめを選んで、博多駅で駅弁を買っていく。相変わらず博多の駅弁はさえない。九州の玄関口でありカリスマでないといけない博多駅なら九州中の美食を集めた弁当や福岡の名産を集めた弁当を期待するが基本的にさえない。知る人ぞ知るもので言えば、かしわ飯ぐらいだ。かしわ飯のおにぎりを買い込んで、おかずにタケノコの天ぷらを買って新幹線に乗り込んだ。各駅なので車内はガラガラだ。木製のシートは4列しかなく広い。快適な九州新幹線の旅が始まった。弁当を食べていたら実家の前を素通りし、筑紫トンネルへと入っていく。トンネルを抜けて新鳥栖やら久留米やら少し懐かしい街に停車していく。時々、すっ飛ばしていく 速達型のさくらに追い越される。ホームドア1枚を隔てた線路をど迫力で通過していく新幹線たちにわくわくする。やはり、俺は自動車メーカーのエンジニアだ。乗り物を見るだけで乗るだけでわくわくしてしまうようだ。 
 そして短い旅は終わり熊本へ到着した。宇都宮を出た時は長袖のアンダーウェアとTシャツを着て、その上にフリースを羽織っていったが、熊本に降り立つと暑い。まずはフリースを脱ぐ。熊本駅前に出ると、工場で研修していた頃とは全く様相の異なる駅に驚く。駅前で自転車を組み立てていると、チラシを配っている観光案内のボランティアのおじさんやおばさんが快く話しかけてくれる。パンフレットもいっぱいもらい、雑談がてらイベントの案内もしてもらえた。コインロッカーに脱いだフリースや輪行袋などを入れて自転車に戻ってくるとフロントバッグの上に大量のパンフを置いてくれた。何というか九州の熱いまでの優しさである。 
 自転車にまたがって熊本市内を走っていると、工場で研修していたころを思い出した。チキンラーメンのラッピングがされている路面電車を自転車で追いかけて写真を撮りつつ熊本城へと向かっていく。交通センターの前に物産館も見つけた。もしかしたら米なんかも見つかるだろうか。熊本城への坂を未だ軽い自転車で上っていき観光する。やたらイケメンの侍に迎えられて熊本城へ入っていく。薄暗い通路を抜けて天守閣へと上ると熊本市内が一望できる。やはり、城はその街の頂点であり天下なので気持ちがいいものだ。城のたもとではイケメン侍と客が殺陣の実演をやっていた。GWらしくのんびりした観光地を満喫して城下町に降りていく。ここで、やはりおやつとして いきなり団子は押さえておきたい。1個ほおばる。サツマイモの甘さともちっとした生地の塩気が妙に合う。
 ここから現実に戻らなければならない。米とこれから水筒代わりになる1.5Lのペットボトルのミネラルウォーターとカセットコンロのガスを確保しなければならない。まずは物産館で米がないか探してみる。都合良く1.5kgの米が見つかった。これを買っていく。ついでに、熊本のだいだいで作ったポン酢も買っていく。ポン酢は何かと使い道は多いし、醤油とポッカレモンを混ぜたものとご当地ポン酢とでは味も格も違う。物産館に流れていたクマモンの歌が頭に染みついてしまう。ダイエーを何とか迷いながら見つけて、ペットボトルも手に入れた。いつもはヴォルヴィックを愛用しているが、今回は見つからず少し長さの長いボトルとなった。なぜかカセットガスが見つからなかった。非常食も手に入れたいところだったがダイエーはなぜか必要なものが必要な時に手に入らない。買い物に手こずっていたら、すっかり日が暮れてしまった。ヴォルヴィックより長くなったボトルはボトルケージに入らなかった。工具を取り出してロック部分を上に上げて入るように位置を変える。
 すっかり夜になった熊本の街を抜けてホテルへと行く。ここでチェックインをする。やたら優しくフレンドリーなフロントの女性に自転車を駐輪場へ押してもらい、GW全く休めない愚痴とGWに浮世離れした旅をする俺の話に盛り上がりながら段ボール3個分の台車まで部屋に持って行ってくれようとしていたが、さすがにそれは申し訳ないのでエレベータから先は自分で自分の部屋へと運び入れた。部屋で荷物をサイドバッグに振り分けて、取り出したキャリアを持って1Fへと降りる。駐輪場で自転車に取り付けたあとで、駅へ行ってコインロッカーから荷物を出して輪行袋もキャリアに付けて作業は終わった。
 部屋に戻ってシャワーを浴びて、1日分の汚れ物だが島旅だと洗濯に苦戦するケースが多いので、ここで洗濯をしていく。すっかり遅くなって既に21時を過ぎているが飲みに出かける。路面電車に乗りに駅まで歩いて行って待つのも面倒だったのでタクシーで街へ行く。やたら親切で話し好きな運転手に連れられて熊本の市街地へたどり着いた。ちょっとオーラを感じて地下にある居酒屋へと入っていく。まずは旅の始まりをビールで祝う。カウンターにオーナーの犬がいたり自由すぎる天草産の魚が豊富な店で美食三昧である。犬は途中で連れて帰られたが、一人で魚も辛子レンコンも味わう。最近はすっかり芋焼酎派になった俺だが米焼酎もうまいものだ。シメは大平燕でつるつるとしめてホテルへと戻った。案の定、疲れで力尽きていつの間にかベッドに突っ伏して気を失ったまま朝へと向かっていく。

九州新幹線 つばめ


博多の鶏そぼろ飯


熊本の路面電車 チキンラーメン

 

熊本城 天守閣


熊本城 城彩苑




熊本の郷土菓子 いきなり団子



   出発(熊本県熊本市)から 10.12 km

1日目 熊本 → 宇土 → 三角 → 上天草・松島 61.07 km
2013/04/28
 やや二日酔いで疲れも残して朝を迎えた。せっかくなのでホテルの朝食を食べて出かけようにも胃がもたれている。自転車に荷物を積み込んだら、気持ちがツーリングへと切り替わっていく。今年の冬ボーナスで新調したオークリーのサングラスをかけてスッキリした視界に満足しながら、熊本を出発していく。二日酔いで疲れをどっぷり背負っているが走りは思ったより良い感触である。サングラス越しでもまぶしい熊本の太陽がそう思わせるのだろうか。南国の日差しに照らされた街と空を見ながらの走りが気持ちいい。
 しばらくは国道3号線を南へと向かっていく。しばらく走っているとホームセンターが右に見えてきた。ここでカセットコンロのガスを何とか調達した。サイドバッグに詰め込んで、また南へと向かうと、右に新幹線車両基地が見えてきた。実家の近くにも那珂川車両基地があるが、ここの方が平面で見やすい感じである。並んでいるN700九州新幹線や800系にわくわくしながら走り抜けていく。自転車も車も好きだが鉄道も好きだ。そして、右に曲がると天草へ行ける交差点に来たが自転車の場合は大幅に大回りをさせられて、左折して1つ向こうの交差点で道を渡って、戻ってきてとやって右折だ。
 天草へ行く道になると狭くて左には三角線が迫っている。右は車道だが交通量は非常に多い。連休前半の初日とあって天草に向かう車はひっきりなしに続いている。しかも草が生い茂っていて草をよけると車道に押し出されていく。無理矢理左に寄せると草が足にピンピン当たるし太い草だと荷物に引っかかってハンドルを取られそうになる。何となく走りにくさを感じながらも順調に進んでいく。ようやく海に面した道を走り始めると少しは道が広くなって走りやすくもなってきた。
海の向こうには青くて静かな海の春霞の上に浮かぶように雲仙が見えてきた。この凛とした姿に心惹かれる。途中の公園で自転車を止めてしばらく眺めたり写真を撮ったりしながら、この景色を楽しんだ。そんな雲仙が見えてきたところで道の駅にたどり着いた。ここで昼飯にする。道の駅の中は鮮魚が充実しているし生け簀もある。このまま買っていって今夜の夕食にしたい気持ちは山々だが、まだ距離がある。もう少し先の方でも手に入ることを願いながらスルーして、このしろ姿寿司とメンチカツを買って昼食にする。海の方を見る芝生の上で食べようと思ったが、刈りたての芝生はツンツンと痛く直接は座れない。コンクリートの上に座って飯を食う。コノシロは寿司屋に行っても好きな方から順に数えて高い位置に来ることはないので、めったに食べることはないが酢漬けの素朴な味わいがいい。
 昼飯に満喫したところで、デコポンの一種と思われるデコマリンを買って出発する。ここからも海と雲仙の眺めが続いていく。そして雲仙が徐々に近づいてくるようなルートである。この眺めを楽しみながらアップダウンはそれほど多くない海沿いの道を楽しんでいく。そして目の前には島と思われる対岸が現れた。いよいよ三角に着いたようだ。明治時代の建物や石垣の港が残る三角西港に自転車を止めて、しばらく古い港を楽しむ。のんびりと釣り糸をたれている釣り人が多くGWの楽しげな雰囲気が良い。ここまでの走りで少し腰が痛くなってきたので、思いっきり寝転んで背中を休める。
 体が休まったところで走り出す。ここから、天草五橋の第1橋に向けて上り坂が始まった。ここからは天草へ一本道のため車が多いし道も狭い。自分のペースでは上れない感じに振り回されながら坂を上っていく。そして橋にたどり着いたら、もっと狭い。車の切れ目を狙って一気に行くしかない。途中で足を着いて止まるスペースもない。もちろん写真なんて論外だ。なかなか切れない車の列の切れ目を見て一気に走り出した。せっかく高いところを抜けていく橋なのに全く楽しめない。そしてあっという間に車の列が後ろから迫ってきた。橋を抜けたら左に待避して車を流す。急な坂を下っていく。ここからはのんびり島の走りを楽しめるかと思ったら、島のど真ん中を抜いていく道なので、海の眺めはほぼ無い。車が多いだけの道でアップダウンに耐えながら南へ向かっていくだけである。
 今日の宿泊予定地としている天草松島までの最後の街と思われるところでスーパーに立ち寄る。残りは6kmほどなので、ここで鮮魚も買っていく。選択肢は思ったより少なかったが、スーパーで鯛の切り身とヒラメの切り身を買う。道の駅で買ったわかめを戻して、刺身の付け合わせにすれば充実するだろう。得意の鯛茶漬けで飯が食えるように醤油と酒とゴマと海苔とわさびも買っていく。味噌汁が作れるように味噌も手に入れた。夕飯の準備は完璧に整ったところで走り出す。久々に海が見えてきた。やはり島旅は海が見えてなんぼである。温泉はここにあったがスルーしていく。
 そして、立て続けに海に掛かる橋を迎える。やはり、橋だけは狭くて走りが捗らない。車の流れを見切って走り始めるしかない。第1橋のような激坂の上というのは無いが、狭いので気が休まらない。海をちらっちらっと見ながら橋を渡るのが精一杯の景色の楽しみ方となってきた。そして第4橋の手前で自転車を止める畳2畳分ほどのスペースがあったので、ここで景色を楽しむ。そんなに高いところにある橋ではないが島がいっぱい浮かんでいる天草松島らしい景色が楽しめる。夕方だからか交通量も多少は減ってきた。相変わらず橋の上では足を止めれる余裕はない。
 第4橋を越えて前島に渡ったところで、情報収集だ。すぐそばに温泉旅館はある。ここで日帰り入浴できるのだろうか。だが、そうはどこにも書いていない。貸し切りの風呂をやっているところで聞いてみると、この辺には日帰り入浴がないのだ。温泉地だというのに。呆れてしまう。貸し切りのキャパがほとんどない使えない風呂なんて当てにする気もないが、こんなに温泉旅館があっても1軒もないとは想像を絶する。仕方無く第5橋を渡って進んでいくことにする。もはや、ここに泊まる意味はどこにもない。天草五橋の象徴とも言える赤い第5橋を越えて、天草有料道路の入り口のそばにパーキングエリアと称して温泉のマークが。そのマークの方に向かい坂を上っていく。ものすごく急な坂をグイグイ上る。登り切ると展望台はあるが風呂なんかどこにもない。本当に使えない。松島温泉は全く使えない。
 俺のいらだちをなだめるかのように、展望台の眼下には小さな島が浮かぶ松島の眺めが広がっている。そして日が傾いてきて海と島は黄昏色の光りに照らされた海と島影の景色へと変わりつつあった。このまま日が暮れたあとで、あと20km以上も先の温泉まで走るか…。そうなればどうせナイトランなので早くでも夕日を見送ってから出ても大差ないだろう。そう割り切ってしまえば、ある意味では気楽なものである。現実を忘れて景色を見ていたが、ふとケータイで調べてみた。キャンプ場にコインシャワーでもあるのだろうか。調べてみると、どうもシャワー(無料)がありそうだ。電話をしてキャンプ場の予約をしてしまう。これで風呂も確保できたし、今夜の宿は決まりそうだ。そう決め込むと気楽なもので、夕日をじっくりと眺めていく。 

有明海越しに見える雲仙の眺め


コノシロの姿寿司


三角西港の石畳堤防


三角西港 浦島屋


天草松島の眺め

 

天草松島に沈む夕日

 沖の方の雲の中に太陽が沈んだところで、第5橋を戻って前島へ行く。キャンプ場へ行く坂を上って下っていく。明日また上るのがイヤになるほどの下り坂を下って、本当にこの先にキャンプ場なんかあるのだろうかと疑問に思うほど狭い道を走っていくと、テントがいっぱい見えてきた。キャンプ場の受付を済ませてテントを張りに行こうとすると、ここの管理人もやたら親切で風呂の場所から何から歩いて案内してくれた。炊事場の壁に自転車を立てかけてテントを張る場所を探す。オーシャンビュー、寝てるときに横に転がらない傾斜、でこぼこが少ない 割と簡単に見つかった。慣れた手つきでテントを張ってペグを打ち込む。サイドバッグから着替えを出してシャワーを浴びてサッパリする。懸案だった風呂は何とか片が付いた。温泉に来たのにシャワーというのが納得いかないところだが仕方無い。
 風呂について自分を納得させたところで夕飯の支度に取りかかる。まずは道の駅で買ってきた乾燥わかめを水で戻す。コッフェルに水を張ってぱらぱらとわかめを入れる。他のキャンパーには本格的ですねぇと驚かれるほどの調理道具を出して、鯛とヒラメを小さい包丁で切っていると大きい包丁を貸してもらえた。切り口が一気にきれいで捗り始めた。鯛の切り身を醤油と焼酎で漬けにしながらご飯を炊く。その間にだいだいポン酢でヒラメの刺身を満喫する。そろそろ戻ったかと思った乾燥わかめがえらいことになっている。まさかのボリュームに増えている。俺のコッフェルは想定外にワカメまみれになっている。ちょっとの刺身のつまとおもったが、へたすると魚より多いワカメとなった。こんなにワカメまみれの味噌汁を作ってもバランスが悪い。よくよく見ると15倍に増えますと書いてある。以前にも乾燥ひじきでヒジキ飯を炊いたときに米からは水が抜けきってヒジキは水を吸いきれないが、やたらヒジキだらけになったりで失敗したこともあったが、どうも乾燥した海藻の取扱には難があるようだ。海なし県民だから仕方無いと思うしかないだろうか。
 魚を切り終えて飯も炊けたところで座りやすいところに行って夕飯にする。すると、隣のテントからは差し入れをいっぱいもらう。イチゴやマテ貝のバター焼きももらえて充実の夕飯となった。マテ貝は買えないこともないのだが、バター焼きは自転車の旅では意外とできないのだ。溶けてしまうので持ち運べないし1回使い切りの小分けサイズは基本的には売っていない。これがあるだけで自転車旅の食は大幅に世界が広がるのだが残念なところである。マテ貝の磯の香りにバター醤油の香りが合って美味しい。そして出来上がった天然鯛の鯛茶漬けもヒラメの刺身も絶品である。ご飯の炊け具合も完璧。充実の夕食となった。だが、ワカメだけは充実しすぎて飽きるほどとなった。  

ヒラメの刺身とワカメ


天草産 天然鯛の鯛茶漬け

 

馬刀貝のバター焼き



   出発(熊本県熊本市)から 71.19 km

2日目 上天草・松島 → 本渡 → 苓北 78.03 km
2013/04/29
 今日はイルカウォッチング営業時間内に目的地近くまで走りきりたいので、朝の早い時間帯に出発する。朝日に照らされる海を見ながらテントを片付けて、海の朝日に面したフェンスに干してある程度乾いたら畳んで出発する。うんざりするような上り坂を上って第5橋を渡る。松島の街に降りたところでコンビニがあったので朝食にする。
 朝食を終えて走り出すも、今日はどうも調子が上がらない。まずは内陸の軽い峠を越えてコンビニでストレッチをする。すると、熊本大学の学生でバイクの人が話しかけてきた。どうも今年の旅は初っぱなから色んな人に話しかけてもらえる旅である。仕事とは真逆で人間関係が順調すぎる旅を楽しめそうだ。また海を見ながらの道が続いていく。アップダウンはそれほどでもなく海と雲仙の眺めを楽しめる。しかし、向かい風ということもあり走りの具合は全く良くならない。
 走りの途中で道の駅に立ち寄る。夕日を見たあとにここまで走ろうかと一度は思ったところであるが、やめておいて正解だったかと思えるほど遠かった。道の駅でデコポンソフトを味わいながら休憩し、ふとサングラスを外すと昨日以上にまぶしい日差しを感じる。また海沿いの気持ちの良い道を捗らない走りをしながら本渡を目指していく。10時にはたどり着きたいと思っていたが、10時時点でまだ10km以上も残している。なかなか思い通りに行かない走りに苦しみ、11時半頃にやっと天草上島から天草下島に渡る橋にたどり着いた。これもループしながらグイグイ上っていく橋である。全く上がらない体調と車の数に苦戦していると、バイクで来た警官に話しかけられる。「体調が悪いんですか?」と聞かれて、あながち外れてないが走る日にしては体調が悪いというだけで、普通の日に普通に過ごすことすらできない体調ではない。
 結局、橋を越えて本渡に着いてコンビニで休憩していたら正午になってしまった。この調子ではイルカウォッチング営業時間内に辿り着けない。遅くても16時には最終便が出航してしまう。しかもGWだから基本的に予約も多いし混んでるだろう。2,3本見送っても乗れるものなのか微妙だ。出来るだけ早く着きたいと焦る気持ちは空回りだったように見える。ここからもアップダウンが続いていく。2つほど坂を越えたら、また海を右に見ながら走る。
 しかしながら、ここからは調子が上向いてきた。10kmを1時間もかけずに走り抜いて鬼池の港まで来た。ここから道が左に折れてまた6kmほど走ったあたりにイルカウォッチングの船がいっぱいありそうだから、もう一踏ん張りである。と思いきや、鬼池港にもイルカウォッチングの看板が見えた。先の方に走っていくより、今この場で乗ってしまった方が良いだろう。そう思って看板に従って右折していくと受付のテントがあって、おばさんがたたずんでいた。何時に出航するのか聞いてみると、何とちょうど出ようとしている船を止めてくれた。その場で金を払ってイルカのストラップをもらって船に乗り込む。
 やや遅れてきた俺を乗せて船は海へと走り出した。港を出ると風の強い今日は波が少し高く飛び跳ねるような揺れに見舞われる。10分ほどでイルカウォッチング船の集まるポイントにたどり着いた。海面にはイルカの背中が見える。どこから出て来るのか分からないから写真は撮りづらい。ただ、時々はジャンプする姿も見れたりで楽しい。白いイルカもいるし群れの数も多い。そこそこは近くでイルカの顔が海面から出る姿も見れる。揺れる船の動きに振り回されないようカメラやケータイを落とさないよう気をつけながら、とにかく写真を連打で撮りまくる。タイミングを狙えるものではない。偶然にでも良い写真が残っていればラッキーという感覚だ。デジカメの時代になって本当に便利になったものだ。フィルムカメラの時代のツーリングでは有り得ない感覚だ。 
 イルカを見るのも写真を撮るのも楽しんだところで船は港へと引き返す。何だかんだと昼飯を食いそびれて既に14時になっている。港へ戻る船から道を見ていると、ちょうどこれから走る先に店らしきものが見えた。車もいっぱい止まっていて盛況だ。そこでなら昼飯が食えそうだ。港からもそんなに遠くなさそうだ。ただ、鬼池もフェリーの港なので、店の1軒や2軒ぐらいあるだろうと期待してみる。
 船から下りてフェリーターミナルに行くが店は一切無い。港の周りにもない。観光客向けの炉端焼きがあったので入ってみるが、「何しに来たの?」という顔で聞かれて「食事ですが」と答えたら予約でいっぱいだと断られた。テンパってる観光地の「申し訳ないです」という気持ちすら感じられない断られ方が大嫌いだ。まあ、ここでこれ以上も探しても意味がないので少し進んで船から見えた店に向かうことにした。とにかく大きい店は炉端焼きもあれば座敷もあり土産売り場もありイルカウォッチングの受付もやっている。観光バスでどんどん押し寄せてくるところだが、昼時を過ぎているので空いていた。ここは豪華に海鮮丼+ウニでいく。ウニがちょうど解禁を迎えて旬である。とろっと溶けるウニに新鮮な魚介類が美味しい。魚好きにはたまらない逸品である。
 遅めの昼食に満足して、今日の目的地の苓北を目指して走り始める。今日の日差しの強さと暑さで汗が止まらなくなってきた。ちょうど日焼けした顔が火照ってしかたのない状態である。右にのんびりと海を眺めながら快調な走りは続いていく。午前中の不調は何だったのかと思うほどに走りは捗る。途中で引き潮の磯に現れるおっぱい岩を見ていく。俺の身長ほどある確かにおっぱいの形をした岩が転がっている。触ると胸が大きくなり乳の出がよくなるという言い伝えがある。触っていく。この御利益は何の役に立つこともないだろう。
 苓北まであと3kmほどというところまで走ったところで観光案内所があった。ここに立ち寄り、買い物ができないか物色しているとアイスが売られていた。地元の柑橘類をミックスして縦長の袋に詰めて凍らせたものである。しかも果汁100%だ。火照りまくっている俺が最も欲しているものだ。甘酸っぱくて冷たくて美味しい。多少は火照りがおさまったような気にもなる。観光案内所でキャンプ場の受付もしているようなので料金を払っていく。キャンプ場から3kmぐらい離れた市街地にしか温泉がないと思っていたらキャンプ場の近くにも福祉センターで入れるとのことで良い情報も得た。 
 まずは苓北市街地のスーパーで買い物をする。今日の夕飯も魚でいきたいところだが、ラインナップが充実していない。天然鯛の加熱用の切り身があったので買う。これを飯に炊き込んで鯛飯にするというアイデアが浮かんだのだ。明日の朝食用に干し芋を餅に練り込んだこっぱ餅も買っていく。おそらく長崎のかんころ餅と同じようなテイストだろうけど、あれはあれで結構好きなので楽しみである。
 市街地近くの温泉はスルーしてキャンプ場へと向かう。少し寂れた漁村と海岸線を抜けて砂嘴の先に突き出た島のような場所に向かう。途中に店らしい店もさほどなく、スーパーで買い物しておくという選択肢は正解だったと実感する。3kmほど走るとキャンプ場の方へ向かう分岐に出た。ここから坂が続いていく。フル装備でもまあまあ上っていけている。少しずつ体が慣れてきたような手応えを感じる。標高差50mほどの坂を登り切ると狭いダート道に曲がっていくキャンプ場の入り口が見えた。切り立った崖の途中にあるような感じのキャンプ場は物寂しい雰囲気で長期滞在者の老夫婦がいるだけで管理人もいない。今夜は雨とのことなので屋根の下とのアクセスのよい場所に張りたかったが、長期滞在の人が東屋の真ん前に張っているので選べない。水がたまりにくそうな土手の上にテントを張ってペグをしっかり打ち込んで荷物を放り込む。崖の下から聞こえる強めの波の音に少し不安を感じつつも、着替えと風呂道具を持って出かける。
 坂を下りて島を少し北に回った富岡港の近くに行く。この辺に風呂があるはずだが、なかなか簡単には見つからない。昔と違って便利なもので今は携帯電話があれば、そういうのは詳細に探せる。それに沿って行ってみると痛恨の祝祭日休み。福祉施設だからある意味仕方がない。仕方無く砂嘴の道を戻って苓北の市街地へ戻る。もう、既に辺りは真っ暗で少し寒いぐらいの風も吹いている。荷物はほぼ空とは言え、ここに来て風呂に向けて急な坂をグイグイ上っていく。何とか坂を登り切っても下界の夜景はない。街が小さすぎるのだ。

朝日に照らされる松島の海とテント


道の駅 有明 でこぽんソフト


天草下島の海岸線


イルカウォッチングへ行く船


野生のイルカ
ものすごい数で白いのも海面下に。


一頭だけ顔が見れてる写真

 

豪華すぎる海鮮丼


おっぱい岩
大きさがわかるようにスマホを乗せてみた

 
 天草の柑橘類100%のアイス

 風呂から出て、まっすぐにキャンプ場に向かおうかと思っていたが、やはりビールの1本でも飲みたくなったのでスーパーに再び寄っていく。ここでビールを1本買って、またキャンプ場へ戻る。また坂を上るが今度は真っ暗である。頂上にある温泉旅館の脇を過ぎて路面の見えないダートを走ってキャンプ場に戻った。何というか辺鄙なところに追いやられたのだが安心する。
 ようやく遅い夕飯を作り始めた。まずは鯛の切り身をコッフェルに入るように切り分ける。骨の部分も出汁が出るので大事に入れる。鯛の味を殺さないように醤油も塩も控えめにして、戻しておいた乾燥ワカメも入れる。まずは鯛飯を火にかけて飯を炊く。いつものように強火で吹き上がらせて、弱火で水の振動がなくなるまで炊く… いつも通りに事は進んだ。その間にすり身をちぎって味噌汁用に仕込む。沸いたお湯に味噌を溶かしてワカメを入れてすり身を入れる。つみれ汁のようなイメージだ。ご飯の蒸らしも終わり、すり身に火が入ったところで夕飯は完成だ。しかし、屋久島の悲劇を今になって思い出したのだ。味噌汁のコッフェルに入っているすり身がやたら水を吸ってふくらんでいる。イヤな予感のする味噌汁になってきた。
 まずは期待の鯛飯から食う。鯛の身にはしっかり火が通っている。でも見た目はパサパサしていない。ご飯も水加減はちょうどいい。蓋を開けたときに鯛の良い香りもする。まずは出汁を取るために入れておいた骨のついた部分を取り出して、身をほぐしてご飯に移す。鯛を形を維持したぐらいのほぐし方で軽くほぐして飯を食う。塩気は何かを見切ったかのように完璧だ。ご飯がもう少し水がなくてもちっとしていれば理想的だが具が入った状態で直火でコントロールするのは難しかったようだ。でも全体がパサパサかりかりするよりはマシだ。このまま鯛飯を夢中でかきこんだ。小さいコッフェルに大きな鯛なので身はたっぷりした感じになる。
 ここで、味噌汁の具に焦点を移してみる。有り得ないほどまずい。すり身は揚げて薩摩揚げのようにして食べるものであって汁物に入れるものではないと屋久島で学んだことはそのままだったようだ。仕方無く入れたワカメと汁だけで楽しむ。すり身から良い出汁が出ているが少し砂糖が入っているので甘ったるい。また九州ですり身を食べることがあれば、今度こそは調理法を考えたい。やはり、印象に残るは鯛飯だ。俺を恨めしそうに見つめる野良猫たちの視線をよそに飯を平らげた。すり身をゴミのトレイに乗せて置いてみたが猫は見向きもしない。そりゃ食えないわけだ。
 昨夜の鯛茶漬けとは違う鯛と飯の食い方で歴史に残るような美食自炊を達成した満足感を持って眠りについた。明日は雨の中で天草終盤のアップダウンを耐える山場が来る。心して臨みたいところである。

仕込みの様子
身の色からも新鮮さがわかる


炊きあがった鯛飯



   出発(熊本県熊本市)から 149.22 km

3日目 苓北 → 大江 → 牛深 69.54 km
2013/04/30
 大粒の雨がテントを打ち付ける。自称晴れ男としては何勝何敗で切り抜けられるか気になるところだが、ここまでガッツリ雨が降った状態での1敗はある意味では気持ちがいいものである。プロ野球でホークスが大負けして笑うしかない1試合を見ているような気分である。まずはテントの荷物を雨の中で屋根の下に移す。重い腰を動かして片付けていく。雨が少し止んだすきを見て一気に片付けようとしたが、テントの中に衝撃の物体がうごめいていた。ものすごい大きなムカデである。慌ててテントの入り口を下に向けて振りながらムカデを追い出した。ちゃんと追い出せたかは追えていないが、テントの中には見つからない。とりあえず、これでよしとして片付ける。
 気の進まない撤収を終わらせて、レーサータイツを履いて走り出す。この時点で雨はやんでいた。まずは下田温泉に向けて一度内陸に入ってから向かうが強烈な向かい風が吹き荒れていて全く自転車が進まない。平地なのに上り坂を走っているような気分にすらなる。海沿いに出ると地形からか向かい風が横風に変わった。今までそんなに苦しまなかったアップダウンが始まる。南へ向かうにつれて徐々に振幅が増してきた。とにかく気長に耐えながら走るしかないようだ。少し高台にあがれて海を見ていたら雨が再び降り注いできた。ケータイで見る天気予報だと昼頃までと言っているので、このときぐらいは耐えてレインウェアを着て走り出す。下田温泉を過ぎたところで展望台があったので、しっかり眺めていく。透明度のある海と大きな岩の眺めがいかにも島の海岸線で複雑な地形を象徴している。
 展望台を過ぎるとトンネルを抜けて高浜の集落に降りる。ここからは国道を抜けて海沿いの町道へと入っていきたい。少し道に迷いながらも、町道の入り口を見つけた。見た瞬間からげんなりするほどの傾斜が始まる。12%ぐらいはありそうな坂だ。道幅は狭く走っている車もほぼ居ない。これだろうと思われる道を上る前に、入念にストレッチしていく。そんなストレッチも無駄かと思うほど、自転車が動けなくなる激坂だ。しかも登りはじめより途中のカーブ付近の方が傾斜がきつい。2,3回転こいだら足が止まる歩くより遅い登りを耐えていく。とはいえ全体でも標高300mも上らない坂なので、ボリュームはたかがしれている。あまり捗らない坂をある程度のところまで上ると傾斜は緩くなってきた。右には木の隙間から海も見える。少し気持ちの良い高さでアップダウンしながら徐々に上っていく道が続いている。激しい坂を過ぎたあたりで再び雨が降り始めてきた。体が温まってきたと思ったら冷えてきてしまい、イマイチ乗り切れない感じである。
 西平の海中公園が右の下界に見えてきたが降りて遊ぶ気にはなれず、そのまま通り過ぎる。小さな分岐を左に行くと大江天主堂の方へいけそうだ。しかし、本当に道が続いてるのか疑問になるほどの狭い道が続く。確かに下界に教会のようなものも見える。坂自体も急な下り坂な上に狭いヘアピンカーブが続く。時々、どこかに曲がる道もあり本当に進むべき道を進んでいるのか怪しくなるが、下り坂をとにかくトレースしていく。途中で教会に向けて上る道も見つけたが、わざわざ上るのは無いでしょう!とスルーしたものの本当に大江天主堂に辿り着けるのか… 首をかしげながらも楽な下り坂に導かれていく。
 ウェットな路面を下りきったら国道369号線が見えてきた。ほぼ天主堂の近くまで来ただろう。国道に併走する町道をなだらかに下っていきながら大江天主堂を目指す。右前に見えてきたが、えらい丘の上にある。どうせなら山の上から丘の上に直接アプローチしてほしかった。また上るのか…と少し面倒な展開に萎える。
 丘を登るのも面倒だしロザリオ館なども事前に見ておきたいので、教会を観光する前に昼食でしょう。ということで探してみる。ツーリングマップルによると天主堂の前にあるメーンの盛りに行ってみるが残念ながら定休日。ていうかGWに店を閉めるな!と商売っ気のなさをつっこみたくなる。少し海の方へ下るとちょっとした街のようなので、そこに期待してみる。メーンの盛りと姉妹店と思われる店を見つけた。ここで自転車を止めて雨具を脱いで昼食にする。レンガでできたおしゃれな外観の店だが、天草はちゃんぽんが名物なので、ちゃんぽんを食べる。店主は話し好きで親切な人で飯についての食欲もあがる。気を利かせてくれたのか野菜がこんもりと乗っていて旅全体いや俺の生活全体で野菜不足気味なのでありがたいものである。あっさりした鶏ガラの出汁に魚介の旨さも野菜の旨さも出ていておいしい。これが本場の九州のちゃんぽんだ!と九州人の俺が感動している。
 昼飯を食べている間に雨はやんだようなので、このまま走りだそうとしたら、止めていた自転車の上に猫が乗って遊んでいる。一見ほのぼのとした様子かと思ったが、よくよく考えてみると今日は昨夜の生ゴミを捨てずに持っていた。それを思いっきり荒らされている。破られた袋の底を結んでゴミが散らからないようにして走り出す。ほんと800円も払わされる割に無管理でゴミすら回収してくれないキャンプ場に改めてむかつく。
 しかも、大江天主堂に近づくと雨が再び降ってきた。脱いでいた雨具をすぐに羽織って雨に耐える。大江天主堂の前の駐車場の隅にあった東屋に自転車を立てかけて雨具を着たまま観光だ。まずはロザリオ館で隠れキリシタンの歴史を学ぶ。迫害の中での信仰を続ける隠れキリシタンたちの歴史と悲しみが印象的だ。それを踏まえて、歩道の坂を上って大江天主堂へ行く。天主堂は花が咲いていて教会を見上げる感じが気持ちいい。教会から見下ろす大江の町並みと海も心地よい。中は作り込まれた建物とステンドガラスが美しい。雨でも十分に満喫できた。



天草の郷土料理 こっぱもち




天草の海岸線


天草のちゃんぽん

 
天草ロザリオ館
歴史展示館だが外観はしゃれている


大江天主堂


大江天主堂から眺める大江の街

 そして雨の降りしきる中、続きの走りへと走り出す。すでに14時半を回ったところだが、牛深への道のりはまだまだ長い。そして雨も降りしきる。残りを計算すると本当にしんどいところである。大江からトンネル一つを越えたところにある崎津天主堂にも寄っていく。ここもキリスト教の優しさと厳かさがある。ここで雨も本格的になってきた。どう考えてもキャンプは無いと思ったところで牛深のホテルを探すことにした。電池を節約しまくったケータイも駆使して探しまくる。1軒目が満室だったので嫌な予感がしたが、2軒目のホテルが確保できた。そうと決まればあとは頑張って走るだけだ。
 意を決して大雨が降りしきる中、崎津天主堂を出て行く。雨具を打ち付ける雨は冷たく痛い大粒の雨である。夕暮れも迫るし、ハードな走りが続いていく。しかし、旅の前に備えておいた撥水スプレーが効果てきめんだ。サイドバッグもフロントバッグも生地に水を吸っていない。ようやく理想としていた防水仕様ができつつあるようだ。雨粒を弾きながら力強く走って行く。 
 
崎津天主堂

 牛深に向けて最後に一山越えていく。少し薄暗くもなってきて気温も下がってきた。しかし、走りの集中力はある。体の中から湧く熱気を冷たい雨で冷やしながらも気合いで坂を上っていく。高低差にして200mも無いだろうから越えること自体は不可能ではないと思うが、終盤に来ての上り坂は結構きつい。ただ、今日のうちに牛深まで走りきるための集中力で坂は順調に上っていく。結構な長さの坂ではあったが薄暗くなり始める頃には越えた。坂を越えると一気に下り坂が続く。カーブは多いし路面はウェットなので気をつけていきたいところだ。雨は止んでいるが風よけのためにレインウェアを着たまま走って行く。
 坂を下りきると、一気に街が広がっている場所に出た。もう牛深の市街地に入ったのだろう。薄暗くなってきた港町を走り抜けていくと、向こうの方に白い大きくうねった橋が見えてきた。もう今日の終わりは近い。橋の方に向かうとフェリーターミナルもホテルもそこに近いようだ。ホテルの前は素通りしてフェリーターミナルへ向かう。フェリーターミナルで明日のフェリーの時刻表を調べる。朝早くからわたれそうである。場所と時刻をしっかり確認できて安心したところでホテルへ行く。あまり混んでいない駐車場の片隅に屋根付きで自転車を置いておけそうなスペースはあった。人通りはそんなに多くないし、ここで大丈夫だろう。チェックインを済ませたら最低限の荷物だけを下ろして部屋に入る。まずはシャワーを浴びて冷えた体を温めつつ汚れを洗い落とす。
 流れを変えるためにも、ここで洗濯をしておきたい。携帯電話で調べる限りでは牛深のどこかに何軒かはコインランドリーがありそうだ。汚れ物を持って下に降りてフロントに聞いてみると近くにはありそうだ。また荷物満載の自転車に乗ってコインランドリーへ向かう。日記を書きながら洗濯と乾燥が終わるのを待つ。集中できたからか日記はだいぶ書き進めることができた。洗濯と乾燥を終えて洗濯物をたたんでいると靴下が1枚ないことが発覚した。周りを見渡しても落ちていないし洗濯機にも残っていない。何とも後味の悪い洗濯となったが、コインランドリーを撤収して飯に行く。21時半とすっかり遅くなってしまったので選択肢は少ない。居酒屋でキビナゴでビールと焼酎を飲む。明日から渡る長島の島美人がうまく、キビナゴの一夜干しとよく合う。やはり天草の魚はうまい。天草の最後の飯は気持ちよく入っていった。ややほろ酔いでホテルに戻り始発のフェリーに乗り遅れないよう目覚まし時計をセットして眠りについた。


   出発(熊本県熊本市)から 218.26 km

4日目 牛深町内
長島 → 阿久根 → 薩摩川内
72.29 km
 2013/05/01 牛深 → 長島・蔵之元 
 昨日までの雨天から打って変わって今日はすっきりと晴れた空と太陽に照らされた静かな海を見ながらの朝を迎えた。まずは、さっさとホテルから撤収する。パッキングを済ませてフェリーの乗船手続きをする。空いてる早朝のフェリーにはすぐに乗り込めた。最上階のデッキに出て天草へ別れを告げる。汽笛とともにフェリーは走り出した。離島の旅の最後にフェリーで離れる物寂しさが何となく好きだ。次はどこの島に行こうかなどと思いながら遠ざかる天草牛深の街を見送る。天草が少し遠くなったところで船内に戻る。席に座って窓から見える通り過ぎる小さな島たちが楽しい。その島々の間に入っていくと長島に着岸した。
 長島に上陸したところで熊本県から鹿児島県へ入ったことになる。この旅で唯一の県境は走りながら越えるのではなくフェリーでいつの間にか越えているのは少し物足りない気はするが、楽しかった熊本県にここで感謝である。フリースを脱いでザックに詰め込んでリアキャリアにパッキングする。フェリーターミナルからいきなりぐいっと上っている坂に少しげんなりしながらも出発する。何度も足を着いてしまう厳しい傾斜の長い坂が続いていく。ほぼ平地で海沿いと計算していた長島の初っぱなからやられる。この坂を上れば上るほど振り返りの展望が広がる。そして何とか越えると、一気に海に向けて下る。そして、また上っていく。どうもこの島はアップダウンが激しいのだろうか、天草以上に厳しい傾斜の坂が続く。それでも今日は天気がよく青く澄んだ海と島の崖っぷちの眺め、道沿いには花が咲いていて気持ちがいい。2山目を登り切ると道の駅にたどり着いた。道の駅の向かいの公園で、夢追い長島花フェスタが行われている。花畑が広がっていて気持ちがいい。広がる花畑と見下ろす海を眺めながら花を楽しんでいく。入り口に止めておいた自転車に戻ると露店のおばさんから長島のジャガイモを1個もらった。ふかしたばかりの芋はほくっとしておいしい。
 花を楽しんで朝食も済ませたところで、道の駅を探索して出発する。ここからも依然として厳しいアップダウンが続くが島の人が道沿いに花をたくさん植えているから花を見ながら気持ちよく走れる道である。坂のしんどさを少し忘れさせてくれるものがある。道路整備で花を植えるのは、花祭りで推していくならありがちな話だが、道沿いの民家に道をトレースするように花が並んでいて地元の人がみんなそうしているのが気持ちいい。おそらく長島を出るまで最後の山場と思われる坂を登り切ると下界に海岸線が広がっていて眺めが楽しい。その坂を下って島の南を東へ少し回ると橋が見えてきた。あの橋で長島の旅は終わりだろう。捗らない走りで既に11時半になってしまった。橋のたもとの道の駅で昼食にしてしまうのが良さそうだ。
 長島の道の駅にたどり着いた。道の駅の前にも海鮮系の定食やどんぶりが食べれる店もあるし、道の駅でも食べれそうだ。道の駅の表は長島産の柑橘類がいっぱい売られている。中も地元の野菜や魚にお総菜もある。ここでご飯と刺身を買って、それを昼飯にする。何となくビールが飲みたくなる昼飯だが、地物の鰯と萬サバがおいしい。鯖を刺身で食べれるのは九州ならでわの光景だし、脂が乗ってうまみも濃い。ここで夕飯の食材にするジャガイモを買い込んで、出発する。
 天草から続いていた連続する海上橋は道が狭く走りづらい。この長島も例外ではないようだ。交通量はそんなに多くなく短い橋なので一気に走り抜ける。本当は橋の途中で写真の一枚でも撮りたいところだが立ち止まるスペースがそこにはない。

牛深港のフェリーから見るハイヤ大橋


天草牛深-長島蔵之元を行くフェリー


夢追い 長島花フェスタ
アンパンマンがお出迎え




夢追い 長島花フェスタ
会場と会場からの眺め


長島の国道369号線沿い
花が植えてあって気持ちが良い


汐見の段々畑と海
澄み切った海と赤土の畑


黒之瀬戸大橋 対岸は九州


長島産 萬さば

 橋を抜けて阿久根に入ると激しいアップダウンは収まった。ここで少しは考えながら走る余裕が出てきたところで、昨日あたりから緩んで両面テープがはがれて握り心地が悪くなっているバーテープをどうにかしたくなった。今日の目的地は順調にいけば薩摩川内で新幹線の駅もあるほどの街だ。大きい自転車屋かプロショップがあればバーテープを買って巻き直せるだろう。そのためには店が開いてる時間に薩摩川内まで行く必要がある。仮に薩摩川内に店がなかったら新幹線で一駅行って鹿児島中央で買って戻るという手もあるだろう。旅の途中でこんなのをやるのは不本意ではあるが、明後日に迎える最大の山場である南薩摩のリアス式海岸へのアタック前までには直しておきたい。
 鹿児島県に入って鋭くなった日差しを浴びて自転車を南へと進めていく。薩摩川内までは国道3号線を走ることになり、分岐まで来た。今さら一桁番号の幹線国道を走るのも楽しくないのだが、今回は一気に距離を稼ぐにはちょうどいいだろう。車の流れに追い風をもらいながら快調に進めていく。
 阿久根駅前に置いてあるツーリングトレインが懐かしい。古い寝台特急を宿として使っている。管理人に声かけて中を一通り見学して出発する。
 道は海沿いに出た。フェニックスの並木も続き海が眺められて気持ちいい道のはずだが、海は右側なので車道の向こうだ。交通量も多くて道も狭くて緊張の走りが続くので、それどころではない。途中の道の駅で休憩してやっと海を落ち着いて見れる状況である。休憩を終えたら急ぎ気味に出発だ。一度、海沿いから離れると軽く上り坂が続く。走りにくい幹線国道の走りではあるが速度だけは出る。着実に薩摩川内への距離を減らしていく。
 ようやく薩摩川内の街に入った。車道の向こうにGIANTなどスポーツ系自転車のブランド名の入った看板が見えてきた。あの店ならあるだろう。店内にはロードレーサーもある。店主に聞いてみたら、残念ながら品切れ。取り扱っていないわけではないようだ。ついでに、市内にもう1つあるか聞いてみると、ありそうだ。意気揚々とそこに向かう。目的地は駅の近くなので色々と好都合である。国道3号線から薩摩川内駅へ曲がる道を行くと道沿いに大きな自転車屋があった。ここで聞いてみると、無事に見つかった。ウレタンの見るからに安っぽいテープではあるが、今のずるんずるんのテープよりはマシである。一安心したところで駅へと向かう。
 駅に着いたところで情報収集だ。観光案内所で風呂の場所を聞くと、少し東北なまりににた喋り方で教えてくれた。目の前のホテルの1Fが温泉で日帰り入浴をやっている。何とも便利な街だ。市内地図で公園を探すといくつか候補地は見つかった。もう行くだけである。駅の中に店があり、店の表に「ちんこだんご」と書いてあったので、ここはHPのネタとして見に行かないわけにはいかないだろう…と思ったら、ちんこだんごは売り切れていた。ちんこだんごがどんな物かここで知ることはできなかった。ついでに明日の朝食にする、けせん団子とかからん団子を買っていく。



阿久根駅前 ツーリングトレイン
(旧 寝台特急はやぶさ・なは)


阿久根市 海沿いの国道3号線


道の駅阿久根 ぼんたんソフト

 まずは公園を偵察しに行く。公園に行く途中でバーテープ巻き直しのための道具を買いそろえる。コンビニでセロテープと両面テープとハサミを買う。公園に向かう途中でスーパーも見つけた。ちょうどいい運動公園でベンチもあればトイレや水道も完備されている。ただ、運動公園でまだ使用時間中なのでテントは張れない。いつものように日没で使用時間が終わった頃、まあ飯食って食器を洗って一段落したあとの深夜になるだろう。買い物はさっきのスーパーに風呂のついでに行けばいい。
 今日のすべての行動プランが決まって安心したところで、暗くなる前にバーテープを巻き直すことにした。今回は旅に出る直前に巻いてきたのに、早速緩んできてしまうこの情けない体たらくに自分でも腹が立つ。まずはテープをすべて外す。残っている両面テープはこすり落とす。まずは買ってきた両面テープをむき出しのハンドルパイプに貼る。特に力のかかるわん曲部にしっかり貼り付ける。あとはテープの端っこを強化する。そしてハンドルグリップの端から丁寧に巻いていく。力のかかるわん曲部はピッチを狭くする。最後は手元の端でセロテープで留めた上で意匠テープで巻き付ける。安っぽいテープで初心者向けとは言え巻きやすいし握り心地も柔らかい。捨てた物ではない。左右両側ともに緩む余地もない完璧な巻き具合で作業を終えた。

薩摩川内で巻き直したバーテープ
左After ← 右Before

  まずはスーパーで夕飯の食材を買い込む。今日は長島のジャガイモで肉じゃがを食いたい。ジャガイモを買った時からメニューは決まっていた。ご飯は炊かずに芋を主食代わりにして楽をしようという魂胆もある。今夜はゆでじゃがと肉じゃがだけだ。肉は薩摩なので黒豚にする。細切れならそれほど高くはない。タマネギも地元の物だ。付け合わせるスナップエンドウも買っていく。これも地元の物だ。鹿児島の恵みを存分に生かした美味しい肉じゃがができそうだ。味付けは絶対に外さないよう麺つゆを買っておいた。やや寒くなってきたが温泉に入る。窓を開けるだけで露天風呂のような気持ちよさがある。たった300円の風呂でここまで幸福感を味わえる、それが旅というものだろうか。
 すっかり暗くなった街を駆け抜けて公園に向かう。もう誰もいない。ベンチに食器を広げて食材をさばく。水道でジャガイモを洗って泥を落とす。新じゃがなので皮はついたままで、まずは塩ゆでにする。茹で終わるまでにタマネギを切って、スナップエンドウの筋を取っておく。茹であがったところで1個だけ茹でじゃがのまま食べる。瑞々しさがいい。フライパンで豚肉を炒めてタマネギを炒めて水と麺つゆを入れて味を決める。そこにジャガイモを投入して煮込んでいく。事前に下茹でしてあるので軽く茹でてあとは味を染みさせるために火から下ろす。無事に完成した肉じゃがは鹿児島の大地の味である。肉も芋も味わいが濃い。夕飯に満足したところで食器を洗って片付けてテントを張り、眠りについた。

長島産 赤土じゃがいもの
塩ゆで


すべて鹿児島産の野菜と
黒豚の肉じゃが



   出発(熊本県熊本市)から 290.55 km

5日目 薩摩川内 → いちき串木野 → 吹上浜・加世田 70.50 km
2013/05/02
 今日も朝から天気が良い。暑いぐらいの日差しを浴びながらテントをたたんでいく。コンビニで朝食を済ませて、また国道3号線を走って行く。すぐにバイパスに入りそうだがバイパスは容赦なく坂を上ってるように見えたので、旧道に逃げていく。またバイパスに戻ったあとで車線が減って上り坂が始まった。今度の坂も道が狭くて交通量が多く苦戦を強いられる。高速道路が開通したのにトラックが容赦なく通過していく。ペースを乱される走りに体力を消耗していくのを実感する。坂を登り切ったらいちき串木野へ下っていく。串木野の駅で休憩して走り出す。本当は薩摩揚げの元祖と言われている店に立ち寄って買っていきたかったのだが通り過ぎてしまったようである。
 そのまま走り過ぎようと思った串木野ではあったが、ふとハンドルを左に切ってしまう俺がいた。焼酎の酒蔵見学という看板に本能が働いたのだ。まあ今日はそんなに大変なわけでもないし、先行して距離を稼げるような場所ではないので寄り道していく。煉瓦造りの雰囲気の良い広々としたきれいな酒造工場だ。それが晴れ渡る鹿児島の空に映えている。暑くなってきた外とは対照的に少し涼しい感じの酒蔵を見学し芋焼酎の作り方を学ぶ。そして俺の大好きなにおいの漂う熟成室に並ぶカメを見て見学は終わった。焼酎の行程を見たのは昨年の奄美大島の黒糖焼酎が初めてで芋については初めてであり、新鮮な驚きと感動があった。俺ほどの酒好きで焼酎好きで鹿児島や宮崎には何度も旅に来ていたのに焼酎の酒蔵見学をしたことが無かったのも自分でも意外である。
 そうこうしていたら、もう昼だ。今日はえらくのんびりしている。今日の走り全体で言うと捗っていない。午後の方が圧倒的に走るべき距離が長い状態になっている。酒蔵についているレストランがやけに美味しそうに見えたので、ここで食べていく。地元の魚を使ったフライが出るが、それ以外のご飯やパスタやサラダはバイキングになっている。そして価格は驚きの650円。要するに650円で食べ放題なのだ。質より量といういかにもな食べ放題では無い。結構、クオリティは高い。野菜不足の俺にはありがたい野菜サラダを楽しんでいく。白身のフライもほこっと崩れる身が美味しい。食事を終えたところで焼酎の試飲をしていく。ここで更なる衝撃で圧倒される。俺の知っている芋焼酎と言えば芋臭いタイプのものといえば黒麹のものだ。銘柄に黒○○ とついてるのが黒麹のもので芋の香りが出ているものだ。それとは違って製造管理が難しい黄色麹の焼酎が初めて味わえた。驚くほどフルーティーで俺の芋焼酎の常識を覆すほどの旨さである。思わず1本買って自宅に発送した。見学から試飲から食事から何までお客様のことを考え尽くしたこの酒蔵は楽しかった。自分の野生の勘で見つけてしまった穴場の名所に満足して走り出す。
 次の楽しみは前から行きたいと思っていた吹上浜である。いちき串木野からは国道3号線を離れて、再び田舎の国道に戻る。幹線国道で車から流れをもらって快調に走れるのも旅の要所にあると助かるが、俺はやはり3桁番号のローカルな国道の方が道としては好きだ。海沿いに出るとぱっと明るい青い海を見ながら気持ちよく走って行く。一度、内陸に入ると鉄道跡を使った自転車道に入る。途中で空豆の畑や松の森を見ながら、そんなにアップダウンもなく車が絶対に来ない道を気楽に走っていく。途中の農産物直売所で空豆を衝動買いして少し走ると吹上浜にたどり着いた。この一帯の全体を吹上浜と呼んでおり海沿いで豪快な砂丘を見ながら走れる場所というわけではない。砂丘の中にできたさつま湖を見て、吹上浜のリゾート地を下る自転車道を走っていく。海に出れる場所がないものかと物色しながら走ってみるものの海岸に出れそうにない。ちょうど車道がぶつかっている場所に出たところで、試しに車道を右に曲がってみた。すると港の駐車場に着いた。ここで自転車を置いて立ち入り禁止と書かれているものの人がいっぱいいる海辺へ向かう。川の河口になっているが川底は砂浜。海の方も砂浜になっている。海の方に出て海沿いに続く陸を見ると確かに長い距離の砂浜の海岸線が続いている。砂丘自体の高さは鳥取のように高くはないが広さはある。俺のいる場所から砂丘の端まで20km以上もあるし、逆側も10kmぐらいありそうだ。弓なりの砂丘海岸の広がりが気持ちいい。眺めを楽しんだあとで走り出していく。
 吹上浜自転車道を走っていくが道からは何も見えない。ただ黙々と松林の中を抜けていく。海沿いなので厳しい峠のような道はないもののアップダウンは続いていく。人と会うこともすれ違うこともほとんどない道は淡々としている。途中には自販機も店も家もない。たまに車道とぶつかっているが、その車道を曲がるとどこにいけるのかもよくわからない。おそらく国道に出れるのだろう。途中に道の駅があるはずだがどこで曲がればたどり着けるのかも分からないので、曲がることも無く淡々と走って行く。ちょっと足が疲れて立ち止まると小さな虫が顔の周りにたかってくる。久々に見た人影は消防士だ。どうも花火の打ち上げの準備をしているようだ。今はGWなので祭りの花火もあがるのだろうか。
 自転車動を走り終えたら吹上浜公園に出た。キャンプ場もあるほどの大きな公園である。雰囲気的にはキャンプ場以外でテントも張れそうだが、張ったら確実に怒られそうでもある。砂像まつりをやっている割に閑散としている。会場はどこなのだろうか。夕方の良い時間になってきたので少し急ぎ気味に探す。公園の中を抜ける夕日大橋を越えてキャンプ場の方を目指す。砂像まつりの会場もその近くにあるのだろうか。キャンプ場の受付で聞いてみると少し離れたところにあるようだ。どうも花火の発射台を準備していた人たちの近くだろうか。そこまで戻るのも面倒なのでシャトルバスでも使うか、せめてキャンプ場に荷物を置いて空荷で行きたい。シャトルバスは今日はないので自転車しかない。しかし、祭りは夜9時までやっている。それなら、慌てる必要はなさそうだ。
 小さい子供にじっと見られながらテントを張って、まずは買い出しに出かける。キャンプ場を出て吹上浜公園を出て温泉を見つけた。これも営業時間は21時までと余裕がある。そこに店もあった。ここで夕飯の材料を物色する。少し心牽かれる阿久根のラーメンが見つかった。ラーメンの具にするものが見つかればラーメンにするが、まずは保留してスーパーに行く。ラーメンとポテトサラダでも良いかと野菜を買い集める。地物のキュウリと総菜コーナーのチャーシューを買う。ちょうど良い少量で売っている。さっきの店に戻ってラーメンを買うと、日没が迫ってきた。せっかくなら夕日をみたいので大急ぎで公園の展望台を目指す。立ちこぎで坂を上って展望台に着いたらギリギリ間に合って夕日を見れた。
 祭りのあとで風呂にいけるように風呂セットだけをテントから持ち出して砂像まつりへと出かける。空荷の自転車は軽々と気持ちよく走れていく。外したフロントバッグの跡地にお風呂セットをいれてるバッグを置いて会場へ向かう案内看板に従って進んでいく。軽く坂を上っていたが荷物が降りた自転車は軽くサクサクと上れていく。警備員の誘導に従って駐車場へと行き自転車を置いていく。すっかり暗くなった会場である。薄暗く街灯ぐらいの灯りしかなく砂像の写真が撮りづらい。見る分にはその造形のすごさとか十分楽しめるが写真的には不満が残る。それでも大きくて繊細な造形の砂の像に感動する。砂の丘の上に並ぶ砂像を見終えたところで場内放送が流れた。光と音と砂像のイベントが7:45から始まるとのことだ。砂の丘がどうも見所のようで人が集まり始めている。どうせならビールでも飲みながら見るかと、つまみとビールを買ってみんなが眺めている方向を見ながら座って見る。そしていよいよ始まった。砂像が様々な色にライトアップされながら音楽が流れる。砂像の中にもライトは仕込まれていた。芸術的な砂像がこのようにライトアップされる様子が何とも美しい。さらに砂像の向こうに花火が打ち上がる。近い距離で上がる花火はど迫力である。このイベントが終わるとすべての砂像はきちんとライトアップされ始めた。あえてライトアップしていなかった理由がやっと理解できた。さっきのイベントとライトアップされた砂像を改めて楽しんで会場を後にした。
 もう完全に夜である。会場から少し離れたら道は真っ暗だ。行きと違うルートで風呂を目指していくが道に迷う。というか暗すぎてどこで曲がって良いのか分からない。ふとぶつかった大きい道で遠くの看板をライトで照らして方向を確認していく。やっと見つけた風呂で温泉を満喫していく。キャンプ場に戻ったら夕飯にする。消灯が22時なのでランタンやライトを持って炊事場に行く。まずはジャガイモを茹でてポテトサラダの準備をする。祭りでビールを飲んでるので空腹感はあまりない。ポテトサラダでジャガイモの旨さを満喫して、衝動買いした空豆の旨さを満喫して夕飯を終えた。ラーメンは食べずじまいとなってしまった。日持ちはしそうなので持って行こう。祭りで遊んだからというのもあるが、すっかり遅くなってしまった23時半に眠りについた。

かからん団子




濱田酒造


濱田酒造でランチ
白身魚のフライ


日置市からの海
明るい青が気持ちいい。


日置-加世田 自転車道


さつま湖


吹上浜 長く広い砂丘が続く


サンセット大橋からの海


吹上浜公園からの夕日






吹上浜砂の祭典


自転車道沿いで衝動買いした空豆

長島産 新じゃがのポテトサラダ


   出発(熊本県熊本市)から 361.05 km

6日目 吹上浜 → 笠沙 → 坊津 → 枕崎 72.44 km
2013/05/03
 寝た時間は遅いが早めに目覚めて準備をする。今日はこの旅で最大の山場である。レーサータイツを履いて走り出す。まずは西に向かって走っていく。海越しに見える吹上浜を楽しみながら走りを進めていく。何とか岬の先端にあたる笠沙蝦夷までは10時とかそんな時間には通り過ぎたい。しかし、走りは全く順調にいかない。徐々にアップダウンも多くなってきて坂の一本一本に苦しむようになってきた。途中に見れる海岸線の景色を楽しみながら走って行くも足がどうにも動かない。海を見下ろす展望台まで上がると、標高にして200m近いところまで上がっているようにも見える。そこから急な坂を下る途中の段々畑も古くからあるようなスケールの大きさに驚く。
 結局、さくっと過ぎないといけない前半戦も想定外の大苦戦で笠沙えびすに着いたのは昼前にずれ込んだ。ここから何も無い田舎道が続くので昼食の調達はここでやらないとだめだ。そしてペダルに異変が起きた。右足のビンディングが入らなくなった。ペダルをひっくり返すと入るがイマイチ入りが悪い。足を振って靴から何かを振り落としたくても落ちない。何かを噛み混んだ症状にしては根が深い。GWということで満車・満員の笠沙えびすに自転車を止めて靴の裏とペダルを見る。ペダルを見ると割れた磁石がビンディングに噛んでいた。きつく挟まっている上に磁力でくっついていてしつこい。近くに落ちてた小さい木の枝でこじり出す。その磁石は割れてシューズ側にもついていた。クリートについている磁石を落とした。そして試しにビンディングをはめてみると無事に入るようになった。このトラブルは新しい。



南さつまの海岸線
高崎山の峠付近から


谷山の段々畑


野間岬へ向かう海


絶品 南さつま 旬の寿司
左上のたかえびが美味


ちょうど旬 たかえびの塩焼き


 トラブルを解決したところで昼飯にするしかないが、笠沙えびすの店は長蛇の列ができていて、確実に1時間は待たされそうだ。一応、名前だけを書いて他の案を探す。笠沙の港町を回っていると1軒だけ寿司屋を見つけた。ご飯もので腹もたまるし、席も1人分ならカウンターが空いていた。すぐに自転車を置いて飯にする。寿司とエビの塩焼きを食べる。寿司で出てきたたかえびの寿司(生)はものすごいうまい。甘エビのようにとろっととろける甘みがありながら、少しぷりぷりした歯ごたえも大きさも十分にある。塩焼きも味が濃いし歯ごたえがいい。
 すっかり満足したところで、もう13時。想定より3時間近く遅い。しかも、地図で見る限りで坂がきついのはここからだ。ナイトランは暗すぎて危ないほどの道だし、絶望的な状況。坊津か途中の港なら民宿の1軒でもないだろうか少しでも前に行くしかない。相変わらず冴えない俺の足と前半戦以上に厳しい傾斜。フロントのギアをインナーに入れて急な坂に対応する。インナーを使って漕ぎ始めてからペースが少し上がってきた。イマイチだった体調も上向いてきた。一つ目の山場をまずまずのペース配分で乗り切った。無理せず軽いギアで坂に対応していく。この走り方になってからアップダウンでの焦りもなくなってきた。傾斜が緩んだ場所では回転数で走って行く。傾斜がきつくなればローに落としてできるだけ負荷を落としていく。
 海の向こうに見える島や入り組んだ入り江の眺めを楽しみながら走って行けるほどに余裕を取り戻した。ペースも午後に入ってからは全く悪くない。体もそれほど疲れている感じも無い。とはいえ、まだ先は長い。笠沙美術館の向かいの酒蔵で水をくんでいこうとしたら水道が使いづらい。その少し先の公園でくんでいく。十分に泊まれそうなほど広い公園でもある。しかし、まだ走れるし時間的には日没まで残っているので頑張っていく。一度、海の方まで下りきったところで民宿もある。坊津の街までは走れそうなので、ここもスルーしていく。また山岳コースという感じの厳しい坂が続いていく。それでも好調を取り戻している後半戦なので集中力で走り抜けていける。きつい坂なので足は止まるが粘り強く走って行けている。2つめの山場も3つめの山場も力強く過ぎて坊津を見下ろす展望台まで来た。坊津の湾と街が夕日に染まる様子を見ているとノリのいい関西人の夫婦に励まされて、また坊津へと下っていく。坊津の湾を見て体を入念にストレッチしていく。今日の目的地としている枕崎へ向けて最後の峠にアタックする。日没後に峠を下るのも嫌だし、上ってる最中に日が暮れるのもいやだ。峠から夕日が見れたりするものか期待しつつ急いだペースで上っていく。終盤だというのに足は全く衰えずラストスパートの様相で坂を上れている。

笠沙恵比寿から坂を上り、
野間岬を見下ろす


笠沙美術館からの眺め


坊津 秋目の港


とても海沿いとは思えない山深い峠


丸木崎展望台から見る坊津の湾


耳取峠から枕崎を眺める

 何とか日没前に峠を越えたものの夕日は山の向こうのため峠から見えるわけではなかった。峠からは枕崎の市街地が一望できる絶景である。日没後まで居れば夜景も見れてしまうのだろうか。この時点で18時45分、我ながらよく粘ってここまでこれたものだと思う。ヘルメットをかぶってライトをつけて峠を下っていく。少し気温が下がってきて寒くもなってきた。自転車のコントロールも安定して車の少ない峠をレーンの中でアウトインアウトしながらぶれること無く下っていく。下りきって枕崎の街に着くと暗くなってきた。まずは駅を目指す。俺の体に疲れは全く感じることは無く、力強く走り抜けていける。
 1996年の日本縦断の時にも西大山から電車でここまで来たがだいぶ風情が変わっている。枕崎駅の入り口は小さな路地のようになっていた。大きな駅舎はそこにはなく無人駅である。観光地的なきれいな小さな待合室と日本の南の終点を表すものはいっぱいあった。鉄道でしか来たこと無かった線路の端っこに辿り着いた安心感が出てきた。鉄道の拠点であって地理的な端っこではないが自転車と鉄道は輪行する関係上で切っても切り離せないもので、端っこに走り着いたことに達成感を感じる。今日は前半がグダグダだったせいでピンチを招いたものの、よくここまで立て直せたと自分でも感心するばかりだし、後半戦の集中力や熱いものが年老いてきた俺にも残っているのかと思うとうれしくもある。駅のすぐ近くに温泉があるので、風呂もここで済ませていく。少し寒くなってきた夜なので暖かい風呂が気持ちいい。
 風呂から上がったら、なんと言っても枕崎の鰹でしょう。駅近くの居酒屋を2軒回ったが、どちらもGWだというのに早じまいしている。何という商売っ気の無さだろう。俺が泊まろうとしている公園に向かう途中に炉端焼きの店を見つけた。ここに入ってみる。狙い通りに鰹はあり、カウンターの前のスペースには氷の上に材料が並んでいて何とも美味しそうだ。鰹は刺身で食べて、ちんこ(鰹の心臓、へそという地域もある)やびんたやはらんぼなど地元でしか食べられないものも楽しむ。またエビの刺身も楽しむ。枕崎のさくら白波が進んで仕方ない。〆には郷土料理の舟人飯を満喫し枕崎の旬の鰹を満喫した。今日は枕崎までの後半が非常に良い走りができた自分に一杯捧げたい。
 すっかり酔っ払って公園を目指す。港の前の丘の上にちょっとした広場がある。ここにテントを張って眠りについた。

日本の鉄道の南の終点
枕崎駅


新鮮な魚と野菜が並ぶカウンター


刺身は薩摩の海の幸がいっぱい。
鰹、きびなご、たかえびが美味。


鰹の船人めし


鰹のびんた(頭)の塩煮



   出発(熊本県熊本市)から 433.49 km

7日目 枕崎 → 開聞岳 → 西大山 → 指宿 59.45 km
2013/05/04
 今日も天気は最高に良い。丘から見下ろす道は鰹祭りで盛り上がっていた。もともと荷物はテントとシュラフとザックしかおろしてないので撤収は早い。祭りで盛り上がる港沿いの道に降りて、枕崎魚センターへ向かう。ここで実家の親に旬の鰹を送ろうかと思ったが、鮮魚店は2軒しかなく冷凍物と加工品がメインである。仕方なく、冷凍のぶえん鰹を選んで送る。もっと鮮魚を推したものが出来てもいいぐらいの日本屈指の漁港なのにもったいない。センター内の食堂で朝飯にカツオ飯を食べる。新鮮なカツオは本当にうまくご飯とも合う。贅沢にカツオ出汁で作っただし巻き卵も美味しい。
 魚センターを楽しんだら、さつま白波の明治蔵へ向かう。正直、酒蔵ならいちき串木野で行ったので、もう良いかと思っているが、大手酒造会社といちき串木野の小さな酒蔵との違いを見てみたいとも思っていた。しかし、白波も大量生産と酒蔵で手作りしている物では別物で、ここも見応え十分な酒蔵である。見学の説明のおじさん(同世代)が良いキャラをしている。なんと言っても工場見学は楽しい物である。そして見学コースの最後は試飲である。俺は車ではないので試飲していく。種類も30種類ぐらい並んでいる。つまみもすぐそこに薩摩揚げや焼き鳥の試食がある。見学コースの案内のおじさんも「つまみもあるから、好きに飲んでいってください」と言ってるので良いだろう。こういう大らかさが九州の魅力でもある。ここでも珍しい焼酎の味に圧倒されてしまう。ここでも焼酎を買って自宅に発送してしまった。晩酌もしない俺がそんなに酒を買って飲める物だろうか…。 
 明治蔵をあとにして鰹まつりに行く。祭りの内容はよく分からないが水揚げするところで露店とステージが出ている。ここが、さすがは美食の港町である枕崎だ。売っているものがバラエティ豊富である。 

枕崎お魚センターのカツオ飯




 白波の工場 明治蔵
試飲もつまみ いや 試食も充実


枕崎 かつお祭り



枕崎 かつお祭り
露店は地域色が強い


たこ焼きが意外とうまい


枕崎駅 車輪止めが端っこ感を出す

 軽く昼飯を済ませて走り出す。いくら何でも遊びすぎた。何も動かないまま昼間で過ごしてしまった。昨日の疲れはどっぷりと俺の体にたまっている。やはり走り出しが重い。最初にそんな俺にかつを入れるように坂が始まる。その坂を上ると右に海が見えて正面には開聞岳が遠く見えてきた。美しい円錐の造形が本当に美しい。俺が日本で一二を争うほど好きな山だ。正面から近づいてくる開聞岳から元気をもらいながら軽いアップダウンが続く道を東へ走っていく。距離が進むにつれて少しずつ体に乗っていた重い疲れが消えていく。
 そして知覧から降りてくる道と合流した。ここから指宿までは過去に走ったことのある道だ。そう考えると多少は気楽になってきた。海沿いに突き出た展望台から開聞岳を楽しむ。海と開聞岳を間近に楽しめて美しい。ここから開聞岳の北側を抜けて行くのがメインルートだが今年の俺は違う。ツーリングマップルを見ると開聞岳をぐるっと一周して南を抜ける道があるのだ。国道でも県道でもない道である。これを走りたいのだ。開聞岳が大好きな俺のためにある道だろうと期待をしている。当然、その道の期待値は走っている最中は左側にずっと開聞岳を見て間近で角度違いの開聞岳を楽しみながら右には海を眺める走りだ。考えただけでもワクワクするし遠回りする価値はある。高低差200mくらい上るようだが苦にならないだろう。むしろ山頂まで登る道があるなら上ってみたいぐらいだ。国道からわかりにくい道へ曲がる。期待通りに畑越しに間近に見える開聞岳を見上げる。その景色を楽しみながら走って行く。しかし、景色が見えたのはその一瞬だけで左はずっと開聞岳を遮るように深い森が立ちはだかる。木の隙間からちらっとちらっと顔をのぞかせるだけである。徐々に道は標高を稼いでいく。右に見下ろす海と大隅半島や佐多岬の眺めは気持ちよくなってくる。しかし依然として開聞岳は見えない。この道がマイナールート扱いなのはそういう理由か… ようやく理解したが、凹む怒るというよりはこの残念っぷりは笑うしか無い。こういう外し方も旅の思い出の一部である。
 坂を登り切ると急な坂で下り始めた。車がほとんど来ない道とは言えブラインドカーブが続くので気をつけて行く。そして屋根が一部あいてて光が差し込んでる少し不気味なトンネルを何本か抜けて国道や開聞岳キャンプ場の方に行く道と長崎鼻経由で西大山駅近くを抜けて行く道に分かれる。かなり悩んだ末に長崎鼻の方を選んだ。小さな集落を抜けて右に松林と左に畑を見て背後から開聞岳に見守られる道が続く。さっきの開聞岳が見えない残念ルートも200mUPの峠道なので少し体に疲れが見えて自販機の前で休憩した。そして体が休まったところで走り出す。
 松林を挟んで海沿いの複雑な地形の道で右に左に曲がって立ち上がって上り坂のところで、ふと背後の開聞岳から気配を感じて振り向いたら山頂の少し上に太陽がある。ちょうどダイヤモンド開聞岳といった状態に近くなっている。あと少し待てば開聞岳にそのまま沈む?と思い見守っていると山頂に沈んできた。言葉では表せないほどの感動が俺を包み込む。これ以上の開聞岳の眺めはあるだろうか。残念ルートを走って時間がかかったこと、枕崎で遊びすぎて出発が遅れたこと、俺の走りがイマイチなこと、残念ルートのあとこのルートを選んだこと、さっき休憩したこと、今日という日(暦)と天気… すべての偶然が重なった結果として俺の目の前に神秘的な絶景がある。旅の神が舞い降りた瞬間である。

瀬平公園からの開聞岳


ぐっと近づいた開聞岳


最大限見えてもこのぐらい・・・


海の眺めはいい
大隅半島 佐多岬まで見える


ダイアモンド開聞岳
ちょうど山頂に夕日が沈む


夕日と開聞岳

 しかし、日没でダイヤモンド開聞岳を見たと言うことは、これから本格的に日暮れを迎えると言うことでもあり、暗くなってくるだろう。そんな焦りを忘れさせる景色の前に自分を現実の下で律することが難しい。西大山駅へ向かう道ではずっと開聞岳ごしの夕日が見えている。黄昏れる空のもとで美しい円錐の山影がはえる。景色を楽しみながら西大山駅を目指す。あまり迷うことも無く駅に辿り着いた。少し観光地的に改修されているが、相変わらずのローカル線の無人駅という風情が漂う日本最南端 西大山駅についた。このホームにある「日本最南端の駅 西大山」という石碑と緩やかにまがる線路と西に見る開聞岳の眺めがきれいである。今回はそこに夕日で彩られた開聞岳がある。そこに2時間に1本も来ない列車がちょうど来るという幸運もあった。今日の俺は何か持っているようにも思える。
 ここからは一気に俺自身を現実に引き戻して、いつも以上の集中力を持って走らないといけない。このあたりの丘の上から見る海など景色もいいがナイトランとなる。指宿まで25kmぐらいある。完全に暗くなってきた道を路面と対向車と後方車に注意しながら走って行く。さらに山川から指宿に向けては峠が1本ある。前回ここに来たときは空荷だったので峠の重みを感じることはほとんど無かったが今回はフル装備でナイトランである。とにかくふらつかないように気をつけつつ坂を上り後ろから車の束が来たら左に寄せて止まってやり過ごす。



JR日本最南端 西大山駅

 峠にあるトンネルはスピードを落としすぎないように一気に走り抜ける。ふらつかないためにはある程度の速度が必要である。トンネルを抜けたら指宿の市街地へ向けて下り坂が始まる。ここは車をやり過ごして、一気に下る作戦に出る。どうせ路面はよく見えない。ライトを2個つけてハイビーム気味にして目線を遠目にして対向車のライトで照らされる路面を覚えながら下っていく。スピードは落としていないが集中力は高く進んでいく。レーンの中でアウトインアウトして安定した走りをする。
 下りきったところで一安心である。低速の市街地に入ればヘッドライト2個ついていて視界は頼れるものである。今夜か明日の朝にでも洗濯したいのでコインランドリーと温泉を探しながら駅へ向かう。途中でどちらも1軒ずつは見つけた。そして完全に真っ暗な20時過ぎに指宿駅に辿り着いた。枕崎や開聞岳付近で遊びすぎてのナイトランだが、何とか走り切れて安心した。
 駅前にできた足湯に浸かりながら今夜の作戦を考える。ケータイで調べる限りでは風呂はそこら中にありそうだし営業時間が遅いところもある。コインランドリーも何軒かある。スーパーも近くにあり、スーパーの裏に大きな公園もある。足の疲れを取ったところで、風呂を探すが駅に最も近いところは既に閉店していた。まずはスーパーで夕飯の食材を買っていく。シビの切り身となまり節と水菜を買っていく。今日は一つひらめいたのだ。今までどうやって食べてよかったのか分からないなまり節を水菜のしゃきしゃき感とあわせてマヨネーズで和えてサラダ仕立てにしてみようという発想が浮かんだ。シビは白身とマグロの赤身の中間的な味なので茶漬けにする。もう21時過ぎで人通りもほとんど無いので公園にテントを張って荷物を入れて風呂道具と着替えだけを持って温泉へ行く。
 あるはずの温泉がなかなか見つからず苦戦した。既にあたりは真っ暗なので目印もわかりにくい。ケータイの地図でナビをしながら向かうと古びた民家のような銭湯が見つかった。タイルやカランもボロボロで歴史を感じる。しかし湯船は掛け流しの温泉が入っているからか熱い。やたら熱い。早々にギブアップして風呂から上がっていく。温泉と公園の途中にコインランドリーも見つけたが明日の朝にでも洗濯するとして今日は飯を食って寝るだけにする。まずはご飯を炊きながら大きなシビの身をさばく。そして半分は漬けにする。半分は刺身としてつまみながらビールを飲む。水菜は葉と茎に分けてまぜて包丁でスライスしてちぎったなまり節を加える。そこにマヨネーズとこしょうをたっぷり効かせる。付け合わせる野菜のチョイスも野菜となまり節の相性もいい。そこにマヨネーズの酸味とまろやかさでなまり節の独特の癖をおさえて良い味に仕上がった。九州南部でよく手に入るなまり節の食べ方をようやく一つ見いだした。シビの茶漬けも良い味が出て力強い味わいになった。かなり遅い時間からの夕飯だが全く手を抜かずにやり切ってよかったと思うばかりである。GW旅で最後の自炊晩餐を満足のうちに終えて食器を入念に洗い眠りについた。

なまり節と水菜のサラダ


シビの刺身


シビの刺身と茶漬け



   出発(熊本県熊本市)から 492.94 km

8日目 指宿 → 喜入 → 鹿児島 47.37 km
2013/05/05
 ここ最近のキャンピングが遅いことによる寝不足のような疲れがどっぷりとたまっている。加世田、枕崎、指宿と3日連続で遅い時間帯からのキャンピングで走りの遅延を招いて結果として宿泊時間も遅れて…という悪循環が起こっている。順調に加齢している上に普段からトレーニングする時間はほとんど取れないから体力はどんどん落ちているので、こういうリズムの狂いは旅のパフォーマンスに表れてしまう。そこそこは行き急がないといけない社会人でありながらも加齢と向き合う俺にとって新たに出てきた課題のようにも思える。そしてテントの中を片付けていると、テント内の隅っこに大きなムカデが居た。天草でテントに忍び込んだものと同じなのか違うのかは分からないが、今回はきちんと追い払う。下手にテント内で生き延びられてもテントは夏まで出さないし気持ち悪い。今回はテントから地面から落ちてきたムカデの姿をしっかり目線で捕らえた。足で追い払うと茂みの中に逃げていった。
 荷物を片付けて出発するが、まずは指宿で洗濯していく。もう着替えが1枚もないのだ。グローブやサングラスのストラップも洗って気持ちがいい状態で最終日を迎えることになる。コインランドリーで書き残してる日記を一気に書き上げる。現在からの遅延は3日。新幹線の中で書けば十分に書き終わる残量になった。ちょうど正午に洗濯と乾燥を終えてどっぷり疲れ切った体に鞭を打って鹿児島を目指して錦江湾沿いを北上していく。日差しはもはや夏である。右に錦江湾を見る快走ルートだが道が狭いので緊張を強いられる。ちょっとの上り坂ですらへばっている俺なので車が来てペースが乱されてしまうと、とたんに足が止まる。
 指宿市内から大して走っていない道の駅いぶすきで休憩して昼飯にする。GWということもあり車も人も混雑している。レストランは名前を書いて待たされるほど混んでいる。ここではお総菜を買って店の外の芝生で食べることにした。鯖寿司と薩摩揚げで昼飯を済ませる。展望台から錦江湾の眺めを楽しんで出発する。道の駅から坂を下るとすぐに鹿児島市に入った。今は市町村合併でえらく南の方まで鹿児島市となっている。一応はゴールにあたる市町村の境界を越えたので喜びたいが風情がない。ここからも狭い車道でペースを乱される走りが続くがアップダウンはほとんどない。景色と言えば右に海が見えて正面に喜入の石油備蓄タンクが見えるだけである。ただゴールを目指すだけのシンプルな走りに徹している。
 喜入の道の駅で休憩して入念にストレッチして出ると一気に調子が上向いてきた。平山動物園へ向けて上る坂もサクサクと上っていき国道から離れて谷山港の方へ曲がっていく。ちょうど交差点に城のような土産屋さんがあったのでHPネタのために立ち寄ってみる。薩摩揚げとかるかんの工場見学も出来るようなので、工場大好きな俺としては立ち寄らずにいられない。しかし、お披露目の時間は既に終わっていて何も見られない。バブリーな雰囲気を楽しんだところでラストスパートに入る。道も車道が広がって走りやすくなってきた。屋久島に渡った時に使った谷山港の前を通り過ぎる。もう残りはわずかだ。鹿児島の市街地という感じの道を淡々と走っていく。車と路面電車に追いやられて走りにくいのが自転車や二輪であるが、それを我慢して鹿児島中央駅を目指していく。今夜、飲みに行くための現金も準備できて残りの距離も5kmも残っていない。時間も17時過ぎで道も明るい。走れない理由がどこにも見当たらないほどの余裕度でゴールを迎えようとしている。

最終日 指宿を出発


道の駅 指宿からの眺め




道の駅 指宿での昼飯
サバ寿司と温泉サイダー


鹿児島市に突入!

 そして18時には鹿児島中央駅に辿り着いた。今年は今年のきつさがあったし何度この瞬間を迎えても満足感は強い。喜びを噛みしめつつ現実に戻って今夜のホテルを確保する。ケータイで探したらすぐに予約できた。階段状になっている鹿児島中央駅の正面に自転車を止めて記念写真を撮ろうとした。この階段は若者が腰掛けて休憩していることが多く、ちょっとした憩いの場になっている。最上段の女性が丸見え状態。下手に写真を撮ると映り込みそうだ。今のご時世は何があるか分からないので居なくなるまで待ちながら情報収集で駅内を歩き回る。鹿児島自体も5回目なので郵便局の場所や港への道から何から全て頭に入っていて今さら調べることなどない。知っている情報を調べて上書きしただけの状態で自転車に戻ると、ちょうど新幹線に乗って輪行して大阪に帰ろうとしていたサイクリストと話が盛り上がった。自転車の旅人もサラリーマンが多くなったように思える。特にGWは短い休みで遅い時間に帰ってでも詰め込んで遊ぶ人が多い。ようやく階段から人がいなくなったので写真を撮るが完走を決めた喜びが新鮮なうちに撮らないとしらけてしまう。
 ホテルに向かおうとしていたら、ビールを飲んでそのエネルギーでペダルを回して車を動かすビアバイクがあった。本職のサイクリストとして思いっきり漕ぎたくなったので乗ってみる。重いだけで自分で進めている感はないペダルだが何となく楽しい。ややこぎれいなホテルにチェックインし、シャワーだけを浴びて、また飲みに出かける。鹿児島中央駅から路面電車で天文館通りへ行く。目についた居酒屋はGWということもあって混雑していた。そこで何とか見つけた店は串焼きがメインの店だ。薩摩地鶏も良いし魚もいい。安納芋の串焼きもデザート感覚で美味しい。芋焼酎も進む。鹿児島での一人打ち上げは美食を十分に楽しめる充実の夜となった。飲んだとたんに疲れがどっと出てきて疲れが隠せない俺は早々に眠りについた。

鹿児島 魔猿城
ちょっとバブルっぽい


今年も完走! 鹿児島中央駅に到着



   出発(熊本県熊本市)から 540.31 km

9日目 鹿児島市内 8.29 km
2013/05/06 鹿児島中央 -九州・山陽新幹線→新大阪-東海道新幹線→東京
-京浜東北線→上野-東北本線→宇都宮
 朝起きたら、まずはホテルの朝食で腹ごしらえだと思ってホテル内の食堂に行くと、満員で行列が出来ていた。どう考えても容量不足で15分ずつに区切られた整理券で俺の割り当て時間は待っているだけで過ぎた。もう面倒になったので食わずに部屋に戻って出発する。まずは郵便局に行って荷物を発送すべく段ボールを3つ買って自転車から荷物を下ろす。段ボールに詰め込んで発送する。最近は郵便の荷物の取り扱い品目のチェックが非常に厳しい。余りまくったカセットコンロのガスや電池などをチェックされるが持ち帰るわけにも捨てるわけにもいかず没収してもらうしかない。パッケージされた電池やガスが危険だと言って陸送すら受けてもらえないと旅先からの帰りは本当に困ってしまう。
 そうこうしてるうちに昼前になった。昼飯を考えつつ天文館通りの方へ向かう。朝飯を食っていないので多少は早い時間でも済ませてしまいたい。今回は豚肉を食べたくなったので、黒豚料理を探して歩き回る。結局、屋久島に渡る前に行ったこともあるあぢもりに行く。今回は豪華にヒレもロースもあるセットを食べる。ヒレは全く堅くなく肉の旨さがたっぷりある。ロースは脂のある柔らかさだが肉のジューシーさはすごい。黒豚のとんかつに満足したところで、まだ時間が少しあるので港の方へ行く。屋久島へ渡る航路の前にあるドルフィンポートでウィンドウショッピングを楽しんで水族館へ行く。港から水族館へ行く道の横にある水路にはイルカやマンボウが放し飼いされている。錦江湾や屋久島や奄美大島の海を展示した水族館はなかなか見応えがあって楽しめた。水族館からドルフィンポートの駐輪場へ戻る途中で海越しの桜島を見て、鹿児島に満足したところで帰りの旅路へ向かうことにした。
 鹿児島中央駅前で自転車をばらす。もう手慣れた作業だが人通りが多くてやりづらい。いつも輪行に使ってるスペースはイベントに使われていて隅に追いやられた。自転車をばらしたら切符を買ってお土産を買いに行く。土産売り場は混雑している。蒸気屋のかるかんは列が出来ている。でも鹿児島の定番なので買っていきたい。土産を買ったところでホームへ行き新幹線へと乗り込む。ちょうど、鹿児島中央発のみずほに乗れそうだ。鹿児島の最後の楽しみを味わうために、しろくまをKIOSKで買っていく。もう思い残すことはない。新幹線に乗り込み出発を待つ。定刻通りにみずほは走り始めた。車両自体は単なるN700九州新幹線バージョンなのでワクワク感はないが、これで九州新幹線については、さくら、つばめ(旧800系)、つばめ(新800系)、みずほ、リレーつばめ と全ての車種に乗ったことになる。
 しろくまの食感と不思議なネーミングと味を楽しんでいると、薩摩川内を通過した。キャンプした公園も窓から見えた。もう何日前のことだっただろうかと思うが、新幹線で通過するときはあっけなく10分少々で走り抜けられてしまう。そしてあっという間に出発地の熊本に到着し通り過ぎていった。博多で東京行きののぞみに乗り換える作戦もあったが、せっかくなので新大阪までみずほで行く。九州・山陽新幹線の最速達型は無駄な駅に止まらずぐんぐんと東へと走っていく。そして新大阪に着いた。ホームに降り立って東京行きの新幹線へ行く。階段越えのホームから交互に出るが最終の1本前のホームへ行くと長い列が出来ていた。GWだから仕方が無いのか… そして列車が入ってきた。立ち乗りでも良いから乗り込もうと思ったが人が邪魔で進めない。まだ余裕があるのに乗り込まない。乗れないまま最終の1本前は出てしまった。3分後に階段の向こうのホームから最終が出るが行く元気は既に無い。諦めて新幹線最終ではなく鈍行最終で宇都宮に着く列車を選んだ。新大阪始発ののぞみに乗り込んで東京へ向かう。ここまで来ると新幹線に乗る感情も鉄道を楽しむ感覚は無くビジネスライクに東京へ向かう感情しか沸かない。出張の帰りに近い気分である。東京で京浜東北線に乗って上野へ行く。上野で東北本線に乗り換える。ここでケータイのSuicaでグリーン席券を買って行く。徐々に現実に引き戻されていく旅の帰りであるが、既に気持ちは現実そのものである。降りなれた宇都宮駅に1時過ぎに到着した。自転車を復元して帰るのすら面倒でタクシーに輪行袋を乗せて自宅に帰る。旅の疲れをしっかり残して旅は終わった。

あぢもりのとんかつ
本場の黒豚が美味!


水族館前の水路にイルカがいる




いおワールド かごしま水族館
旅先で見る水族館は意外と面白い


離島航路の船と桜島
この鹿児島港の雰囲気がいい


昨日思い切り漕いだBeerBike


九州新幹線 最速達 みずほ


鹿児島のアイス しろくま



   出発(熊本県熊本市)から 548.60 km


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