旅記録
2016 GW 沖縄
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0日目   宇都宮 −東北新幹線→ 東京 −山手線→ 品川
−京急→ 大鳥居 −シャトルバス→ 羽田空港
2016/04/27
2016/04/28
羽田 -ANA→ 那覇
那覇市内  10.06 km
 相変わらず航空便での発送荷物はもめるので、果たして到着するのか。ネットの追跡システムを見ても東京で2日間も止まったままになっている。GWを1日前倒しで休みを取り、仕事を終えて羽田空港へ向かう。朝の飛行機なので羽田の大鳥居のホテルに一泊する。通勤ラッシュがやや落ち着き始めた時間帯に東京へ降りて、品川で京急に乗り換える。大鳥居駅に降りて地上へ上がって輪行袋を持ったままホテルへと入っていく。もう空港前泊の典型的な流れとして完成しつつある。以前は高速バスで夜中に移動したりもしたが、前泊の方が圧倒的に楽だ。体力を金で買っているようなものだろう。チェックインしたらシャワーを浴びて眠りにつく。
 びしっと早い時間帯に目が覚めて、ホテルからシャトルバスで羽田空港へ向かう。雨が降りしきる中だが、ほとんど濡れること無く空港の出発ロビーへと入っていく。さっさと荷物を預けてチェックインを済ませる。まずは空港内の蕎麦屋で朝ご飯にする。羽田の充実ぶりはありがたい。セキュリティチェックを済ませて搭乗口へ行き、飛行機への乗り込みの時間を待つ。沖縄へ飛ぶとなると飛行機や宿の予約など事前の段取りが必要なので必然的にプランニングが早くなる。その分、盛り上がりも増してくる。沖縄への気分の盛り上がりがピークの状態で出発の日を迎えており高ぶりが収まらない。
 飛行機に乗り込んだら、何はともあれ仮眠を取って睡眠不足を補う。さすがに東京から那覇となると飛行時間も長い。福岡などだと離陸して眠りについたら着陸の放送が聞こえる感覚だが、国際線に近い時間感覚でもある。高ぶりを押さえながらじっくり寝たら那覇への着陸態勢に入った。モニターや窓から那覇の市街地や珊瑚礁の海が見えてきた。沖縄らしさに早速テンションは上がる。飛行機から降りるとボーディングブリッジの時点でむっとした暑さが漂う。日差しの明るさも栃木とは全く違う。その辺の温度差は想定の範囲内なので既にTシャツ短パンである。
 荷物を受け取ってゲートを出たら自転車を組む前に昼飯にする。ロビー内の沖縄そば屋で食べていく。前に沖縄に来た時も3泊4日の間で何回食べたか思い出せないほどはまった沖縄そばの味は健在だ。カツオ出汁がよく利いた優しい味の麺がたまらない。
 自転車を組もうとして表に出ると、おばあさんが話しかけてきた。電話をかけたいが掛けれないということなのだが、スマートフォンの起動時間が長いだけだろう。と思ったが起動後も電話ができない。船の時間を確認したがっていたのだが、どうもダメそうなので観光案内所に一緒に行って問い合わせる。港に行く手段も聞いてあげてタクシーを見送る。通話できない理由は最後まで分からなかったが、無事に沖永良部島へ行くフェリーの乗り方が分かって、やたらと感謝されてしまう。初っぱなから順調である。

那覇空港の沖縄そばとじゅーしー


自転車を組み上げて出発

 自転車を組み立てて那覇の市街地へと向かっていく。坂も向かい風もない道を軽く走ると国際通りの入口と県庁の前に出た。前に来たときのように国際通りを流してホテルと買い物する店を探す。しかし、以前にも増して外国人観光客があふれているし、観光地感満載の土産物屋が並んでいるだけで地に足付いた感じがない。
 観光案内所や展示館を見てホテルへと入る。部屋で荷物を開梱する。まずは明るいうちにキャリアを取付るため自転車のある地階へ降りる。六角スタッドボルトをブレーキ台座に付けたので輪行からのキャリア取付作業性は非常によくなった。出発直前になめていたネジもリコイルで直したので快適にネジがはまる。出発前の改造内容に満足して無事に取り付いた。また部屋に戻って荷物を整理して夕方には片付いた。残りの体力や時間も十分である。
 空荷の自転車に乗って近所のスーパーや商店街で買い物をする。昔ながらの商店街は活気があってなぜか故郷でも何でも無いのに「帰ってきた」という懐かしい感じがある。何でも揃うしっかりしたショッピングモールもいいが、こういう商店街の雰囲気も好きだ。商店街では買い出しになるものはないが、美味しそうなお総菜や魚など自炊する日なら楽しそうな買い物スポットである。結局、スーパーに行ってガスや米や沖縄そばやお麩やスパムを買い込んでホテルに戻る。荷物に詰め込んで準備は終わった。
 シャワーでさっぱりしたら、ホテルのすぐ近くの居酒屋へ飲みに行く。前に打ち上げで来たことのあるような店だが、今回は時間体が早めなので島唄のライブが聴ける。オリオンビールで乾杯しつつ、島唄を聴くと心にぐっと来る。沖縄料理でビールと泡盛を飲みつつ良いスタートの夜である。ホテルの部屋に戻って比較的余裕のあるスタートで眠りについた。

キャリアをつける
那覇のダイワロイネットホテル前


牧志の商店街
昔ながらの風情と活気


島唄



   出発(沖縄県那覇市)から 10.06 km

1日目 那覇 → 座喜味城 → 残波岬 → 名護 83.47 km
2016/04/29
 朝食無しのプランにしたのを後悔したが後払いでホテルの朝食を頂く。ホテルの1Fが沖縄料理のレストランになっていて朝食バイキングがもの凄く美味そうだ。というか、美味い。このホテルは快適なので最終日も予約する。自転車に荷物を積み込んで、いよいよ出発だ。朝は早めに動けて良い感じである。
 かなり都会じみた那覇から名護へ向かう国道で朝から緩いアップダウンに苦しめられていく。都会的なバイパスを調子よく走って北谷まで来た。前に野宿して中城と知念岬を回ったので那覇から遠いイメージだったが、あっというまに通り過ぎるほど近い。この辺りから米軍基地が並ぶエリアが始まる。どこまでも続く嘉手納基地を右に見て米軍ナンバーの車やアメリカ人も多く見かける。アコードクーペとかインテグラとか古き良きホンダ車がいっぱい走っている光景をみると懐かしい気持ちになってくる。
 日が昇るにつれて暑さも加速してきた。嘉手納基地から上り坂が始まる。前に名護から向かってきたときに、向こう側が長い上り坂だった記憶があるので、そこそこの長さは覚悟しないといけないだろう。朝の11時頃になり本格的に刺さるような強い日差しが背中から来る。長い坂だが、こっち側は嘉手納の基地と街が道沿いに続くので上り坂を走っている感覚はなく足への重みだけがのしかかる。疲れと言うよりは暑さにやられたヘトヘト感で座喜味の道の駅まで登り切った。古い役場で情報収集をして、よく冷えた炭酸飲料で疲れを癒やす。何とか日陰を見つけて休憩すると、日陰はさらっとした涼しさが満喫できる。
 ここから残波岬へと向かう半島の途中にある座喜味城跡へ行く。住宅街を抜ける道を少し上ると、立派な城跡が見えてくる。松林の向こうに琉球石灰岩が積まれた城壁が見える。その手前の博物館に立ち寄ってみたら改装中で休みだ。色んな琉球王国の城を見ているが、琉球王国の歴史のことは全く知らない状態だ。今回の旅で座喜味、今帰仁、勝連と3つの城を回ろうと思っているので、本当はよく知っておきたいとも思う。一時の日陰が涼しい松林を抜けると城跡がある。琉球石灰岩の立派な城跡だが気前よく入場無料だ。晴れた空と生い茂る芝生と石灰岩のグレーと曲線的に組まれた造形美が良いコントラストを出している。本土にはない独特の景色と作りを楽しみながら歩く。城壁の上まで上ると下界に海も見える。岬に突き出た城なので海に囲まれた景色も見事だ。世界遺産だというのに入場無料という手軽さかピクニック気分で来ている客も多く大らかな場所である。

那覇を出発


喜名番所


世界遺産 座喜味城への道


座喜味城の高倉


城壁の上から眺める


座喜味城の城壁と門


座喜味城の門

 城の前で昼飯が食えないか探してみたが、琉球ぜんざいの店があるだけだ。前にいた客が頼んだ琉球ぜんざいを見ていたら、完全に心を奪われてしまった。昼飯そっちのけで、琉球ぜんざいを頼む。暑い沖縄でぜんざいというのが想像つかないところだが、かき氷の下に餡子と白玉の冷たいぜんざいが入っている。氷の冷たさと甘さをおさえた冷やしぜんざいが相性が良い。よく冷えた白玉がつるんと心地よく入っていく。前に来たときは時間がなくて ぜんざいまでは手を出していなかったのだが、これは沖縄独特の風情を感じる食である。
 基本的に水なので昼飯らしい昼飯にはならないが、何となく腹を満たして出発する。気がついたら時間も徐々に押し始めているので残波岬へ急ぎたい。この調子では過去に行った場所は今回はスルーになりそうだ。座喜味城から気持ちよく下って海沿いに出るも、ちょっとのアップダウンが重くのしかかる。カラッとした太陽にしっかり炙られながら残波岬へと向かう。ホテルや海水浴場が続く道を過ぎていくと大きな駐車場と店が右に見えてきた。ここが残波岬の駐車場のようだ。

沖縄のぜんざい
ふわっとしたかき氷の中に金時豆と白玉

 観光客でごった返しているが目立たない場所に自転車を置いて観光だ。沖縄と言えばヤギは欠かせない。餌付けしながら懐いてくれれば良いかと思い、売店でヤギの餌であるニンジンを買う。暑さでヤギ側もモチベーションが上がらないのか座ったまま顔だけで相手してくれながらニンジンを食う。子ヤギもいたりで可愛いものだ。岬の遊歩道を歩いて灯台と断崖の方へ行く。真っ青な海と空に緑の草原と白い灯台が映える。99段もの階段をヘトヘトになりながら上ると、岬の北側は断崖絶壁で南側は砂浜が続く不思議な景色を灯台の上から眺める。GW始まって早々から沖縄の強い日差しにやられ気味だが、灯台のてっぺんまで登ると吹き抜ける風が心地よい。
 灯台から降りてくるとかき氷で満たされるはずのない腹が減ってきたので、ホットドッグを1本食べてやっと昼飯になった。気がついたら15時も過ぎて夕方に迫っている。3日目のヤンバルまでは気の抜けない走りが続くし遅延は許されない。キャンプ場とネイチャーツアーを予約しているので日程の守り切りは特に重要だ。ここからは走りに集中していきたい。海沿いを走って国道58号線に戻るとペースを上げていく。ここからは左に海を見ながらのリゾートが続く。何となく楽しそうな明るい雰囲気のリゾートを気合い入れて走って行く俺の姿にギャップがありそうだ。

残波岬 灯台


俺の手からにんじんをもらうヤギ


残波岬灯台からの眺め(南)


残波岬灯台からの眺め(北)

 バイパスから離れて少し万座毛の方に入る旧国道から見る干潟がきれいだったので立ち寄る。遠浅な珊瑚礁やちょっとしたマングローブの生える干潟など沖縄の海岸は見所が多い。そして、微妙に日没が迫って夕暮れの西日に照らされているという現実も感じざるを得ない。万座毛に立ち寄るのもそんなに大変では無いが心を鬼にしてスルーしていく。スルーした直後のコンビニでコーヒーでも飲んで疲れから来る眠気のようなだるさを解消しようとしたら傘立てに足をぶつけて小指の爪が割れて剥がれてしまう。見ると痛みが来る。通常はGWのツーリングはSPDシューズで行くのが、今年は沖縄ということでSPDサンダルになっている。GWにサンダルを履く習慣がないからか足のガードが弱い。出発前に爪を切らなかったのも失敗だ。
 走れない痛みとかはなく見たら痛いと思い込んでしまう程度の物なので、忘れたことにして走り出す。国道58号線を快調に走っていると、向こうの海に雄大な夕日が見えてきた。まだ名護まで10km以上も残す恩納村で夕日を見てしまうと、落ち着いて眺める余裕はないが写真には収めていく。ここからどんどん周りが暗くなっていく。幹線国道なので秘境感はないが、車は容赦なく飛ばしていくので危険である。ライトを点灯しテールランプも点滅させながら進んでいく。完全に日が暮れて真っ暗になると、もう暑さもないので走りは捗る。暗い分だけ邪念もなく集中できる。

恩納村の海岸線 干潟


恩納村の海岸線から見る夕日

 初日からタフな走りを終えて名護市街地に辿り着くと既に真っ暗で19時半を回っていた。やはり初っぱなは調子が出ず背中も手も足も疲れた。A&Wの駐車場の奥でしばらくぶっ倒れながら頭は回転させてスマホで情報を収集する。出発前から課題にはしていたが名護には日帰り入浴施設が見当たらない。片道10km弱走ったところにホテルがあるのだが日帰り入浴に積極的では無いからかあまりPRしていない。微妙だ。しかも周りに野宿できそうな場所も無さそうだ。ここで野生の勘とインターネット検索能力が物を言う。21時まで営業している市民体育館のシャワーが200円で使えそうだ。今まで体育館のシャワーなど選択肢として眼中に全く無かったのだが日帰り温泉や銭湯のような入浴施設が極端に少ない沖縄で有効な入浴手段になりそうだ。
 風呂が決まれば公園は取りあえずは何とかなるだろう。今日はもう自炊する気は無くシャワーを浴びて念願のA&Wで夕飯を食べて明日以降の秘境に備えた買い出しをして公園に行くというプランが頭の中にできた。まず片道3kmほど走って体育館へ向かう。すっかり夜なので大きい体育館すらぱっと見では探せない。道路の右に見えたので向かってみる。
 体育館の受付には確かにシャワーの料金が書いてある。入館料とシャワーがセットで200円ほどだ。受付に聞いて、それが分かったところで荷物から着替えと風呂道具を出して体育館のシャワールームへ行く。風呂無しが1日でもあると汗臭い状態になる惨劇が目に見えているだけに喜びは大きい。普段からシャワーしか浴びてない沖縄型の入浴なので慣れた物だ。しかもコインシャワーではないので時間制限のプレッシャーもない。汗と汚れを落としてサッパリしたところで、公園を回って寝床の目処を付けたらA&Wへ向かって来た道を戻る。
 A&Wはテイクアウトもイートインもあって深夜営業なのでやっと落ち着いた気分になる。広々とした店内とメニューがいかにもアメリカ的である。たかがハンバーガーだが肉の味と歯ごたえは抜群でポテトも芋感が強くて美味い。夜間まで追い込まれた走りの疲れを癒やしつつ休憩してから店を後にする。24時まで営業してるスーパーに入って米などを買う。沖縄は米の名産地という印象は全くないのだが、売り場もその通りで2kg以下の米となると無洗米しかない。無洗米を買ってサイドバッグに詰め込んでから公園に向かう。
 目を付けたおいたところで4匹ぐらいの猫に見守られながらテントを張る。今年は朝早めに動いて走行時間をしっかり確保するという目標できたが、初日からナイトランでは先が思いやられる。いつもそんなに計画から遅れて走るわけではないが、やんばるまでは遅延無しで走りきるというプレッシャーが重くのしかかったまま、やや不安な夜を過ごす。

沖縄に来たら行っておきたいA&W


ポテトの食感が楽しいカーリーフライ



   出発(沖縄県那覇市)から 93.53 km

2日目 名護 → 本部 → 国頭・奥間 72.50 km
2016/04/30
 今日の寝不足と蓄積した寝不足でどっぷり疲れたまま朝5時に目が覚めた。今日のルートで名護から本部までは走ったことがないが、本部から先は走ったことがある。備瀬のフクギ並木とか古宇利島とか前にも行ったが気に入った場所もある。全部寄っていくか心を鬼にしてスルーしてしまうかは、朝の時点でも心が決まっていない。夜露が降りてくることも無いカラッとした状態でテントを畳んで出発する。
 途中のコンビニで朝飯を食べて、さらに走るとこの辺りで唯一の日帰り入浴をやっている温泉があったが、昨日の夜に来て名護市街地まで戻るのは非常にだるい距離ではある。体育館のシャワーで済ませた判断は正しかったようだ。ここを過ぎると沖縄らしい鮮やかな青い海と珊瑚礁の砂浜を眺めながらの海岸線が続く。しかも自転車道が海岸ギリギリにあるので気持ちよく走れる。観光地っぽく人工的な浮ついたビーチでは無く景色に感動がある。
 しばらくビーチ沿いの自転車道を楽しんで、車道沿いの歩道に出ようとして段差を越えると、輪行袋と一緒にしばっておいたトレッキングシューズのストラップが緩んでズルズルバタバタ音を立て始めたので緊急停止する。今年はやんばるのトレッキングをコースに入れているのでトレッキングシューズを持っているのだがパッキングの仕方が確定しておらず手探りとなっている。ザックに入れたら荷物が収まらなかったあたりから迷走が始まっているのだ。うまく重ねて、またストラップで締め上げて本数も増やす。ようやくガッチリとリジットな形で固定されたような雰囲気になってきた。
 朝で車通りも少ない熱帯的な海岸はあっという間に走りきって本部まで来た。前回はフェリーから下りたら一目散に備瀬崎に向かってしまったため全都道府県踏破の目標を達したフェリーターミナル以外の印象が皆無に等しい街である。まずは朝早くから営業してるスーパーで買い物を済ませて、本部町の市街地を抜けるか橋で一気にショートカットするか思案しつつ走っていると、市街地へ立ち寄りたくなった。目の前をぐいーんと上る坂と橋を横目に市街地へ曲がっていく。素朴な漁村に空に映える鮮やかな青い鰹幟が並んでいる。鰹の街ならではの鯉のぼりならぬ鰹のぼりに風情を感じる。時間帯がよければ本場の沖縄そばでも食べていきたいところだが、とにかく中途半端な朝10時だ。朝飯も食った後だし、そもそも開いてる店もない。

遅寝早起きの朝 植物が南国


息をのむ海の美しさ


名護から本部へ向かう海岸線

 素朴な市場を見て、本部の花見が1月〜2月ってことに驚いて、カツオのぼりの雰囲気を楽しんだら本部を後にする。去年は美ら海水族館や備瀬崎のフクギとか行ったが、今年はやや急ぎ気味に旅を展開するのと、やはり明日のやんばるに遅延は許されないことからスルーしていく。備瀬崎の方へ行く道は混んでる車道の脇で上り坂だったので良い走りの印象は全く無くしんどいイメージしかない。そこをスルーして半島を突っ切ると車は少ないが、それなりに峠道の様相である。本格的に日が出てきて炙られる状態で坂を越えていく。途中でちょっと走るだけで備瀬崎やフクギ並木の方に行けそうだったが心を鬼にしてスルーしていく。
本部港を越えて瀬底島へ渡る橋


本部のカツオのぼり


カツオ産地は鯉のぼりではない

 その分岐からは前に走ったこともある道なので勝手はある程度は知れている。そのときに立ち寄った覚えは無いが産直に寄って休憩していく。この辺りの農業の様子が多少は見て取れる学ぶ要素もある産直で楽しんでいく。また走って行く途中で古宇利島に立ち寄る誘惑もあったが振り切っていく。確かに今日は天気も良いから古宇利島の海も良いだろう。何で、せっかくの沖縄をこんなに心を鬼にしてスルーしまくってるのか理解不能な俺の走りだが、今の実力や俺の置かれてる状況からして仕方無い。
 今日の唯一の寄り道ポイントである今帰仁城跡へ曲がる。嫌な予感がしていたが、しっかりと上り坂が城まで続く。山と谷に囲まれた天然の要塞みたいな地形に城が築かれているので自転車で言うとハードな坂を上っていく。要塞の険しさを少しだけ楽しんだら城跡の駐車場に辿り着いた。レストランや土産物屋のある建物の裏側に目立たないように置いてロックしたら観光に出かける。何はともあれ城を歩きたいところだ。
 お金を払うポイントとチケットを確認するポイントがえらく離れてるので、買いそびれて城に入ると面倒な構造になっている。有料エリアに入る前から見応え十分な城だ。緑の芝生に曲がりくねった城壁と石垣がいかにも琉球王朝の城と思わせる。入口でチケットを見せて入っていくのだが、どうみてもチェックされてない人も入っていく。城壁の外からでも見応えはあったが中に入ると立体的な造形と山を活用した要塞の様子が凄い。城壁から外は深い谷で確かに攻め込めない。唯一、攻め込めそうなのが正に自転車で上ってきた道だけだろう。変化に富んだ要塞の下には海が見えている。これも珊瑚礁の色で美しい。
 展望台では得意のガイドのタダ聞きで観光案内を聞いていく。ガイドの話によると海沿いにあるビニールハウスが今帰仁スイカでこの季節でも普通に売られている。さすがの沖縄でGWは本州で言うところの夏だ。琉球王朝の歴史というのは通常の日本史や世界史では習うことがないので基礎知識が全くなく聞いても正直なところ時代背景とか含めてよく分からないものだ。
 城の造形美を楽しみながら駐車場へ戻り、昼食にする。やはり沖縄に来ると沖縄そばを食いたくなる。そーきそばに島唐辛子の汁をかけて辛さが利いたそばを楽しむ。ソーキの甘辛く煮たものともよく合う。追加したおにぎりもスパムと卵と味噌がよく合う。沖縄の食は独特だが、優しい味なので楽しめる。

山の上に立つ 世界遺産 今帰仁城跡


琉球石灰岩を曲線的に積み上げた城壁


山に建つ立体的な造形


見下ろす海の眺めがいい


今帰仁城跡の険しさが分かる


今帰仁城跡 ソーキそば


ポークたまごおにぎり

 今帰仁城跡から急な坂を下って、あとはひたすら走り続けるのみだ。本当のところは16時ぐらいまでに今日の目的地である国頭村のオクマまで行きたいところである。比地大滝のキャンプ場に行き途中のやんばる野生生物保護センターにも行ってみたい。今帰仁城跡で昼飯まで食ってしまう進みの悪さでは厳しいところだ。やや気持ちに焦りもあり、前に行ってもの凄くキレイな海と橋が楽しめる古宇利島や屋我地島はスルーしていくしか無さそうだ。本格的に暑くなってきたGWの日差しを浴びながら黙々と走り続けていく。左に見える海は屋我地島や奥武島に囲まれて静かな入り江になっている。珊瑚礁や断崖ではない海岸線を見ながら走るのも珍しい。
 505号線を走り続けて58号線に合流する。ここからひたすら北上していく前に休憩をしたいところだが休憩できるような場所もコンビニも見当たらない。小さな商店の前の自販機で飲み物を買って疲れた腰を休めてまた走り出す。16時到着はやや厳しくなってきた。左は海で右は山 徐々にやんばるの方に入っていることを実感する景色になってきた。間に合わないのは確定的になってきたので諦めて道の駅に立ち寄る。ここで、やんばるに向けて日持ちするような野菜を買いだしする。ゴーヤを4本も買ってしまう。今夜は絶対にゴーヤーチャンプルーを自作すると決めているので1本はOKだが4本分というとゴーヤーチャンプルー何回分になってしまうのだろうか。ていうか、ゴーヤーチャンプルー以外のゴーヤの使い道を知らない。1回で2本を頑張って消費するか? 色々と思いを巡らせながら道の駅を後にする。58号の海沿いも徐々にビーチ的な景色から自然の海岸になってくる。途中に深い入り江があったりで景色の変化も大きく楽しめる。しかも有り難いことに道は平地でアップダウンは少ない。時折、俺を追い越していく米軍の車から手を振ってもらう。アメリカ人はやはりノリが良い。この先は何もないやんばるに入っていく道なのに、やけに米軍のプライベートカーが多い。
 16時には少し及ばなかったが、目的地の国頭村に着いた。まずは道の駅で情報収集をしつつシークヮーサージュースを楽しむ。きりっと酸っぱいのがたまらない。売店で島唐辛子など先々に使えそうな食材も買い込む。この近くのJALプライベートリゾートオクマで風呂に入れるようだし、野宿する公園もありそうだ。まずは58号線を少し進んだ国頭村役場近くのスーパーへ向かう。アパートの1Fでざっくりした作りの店で島豆腐と豚肉を買う。豚肉は厚切りのバラ肉しかない。ゴーヤーチャンプルーだと薄切りの細切れの方が扱いやすいが豚肉感がしっかり出て、これはこれで美味しそうだ。卵も買っていく。今回から投入したエッグケースで最終日まで割れずに完走できるかが見所である。
 市街地の方が寝床を探しやすいか期待しつつもオクマのリゾートの方へ回って戻る。米軍のビーチとJALがある。米軍のビーチはお祭りのようで、そこに米軍の人が集まっているようだ。JALも連休真っ只中とあって賑わっている。俺みたいなのが風呂に入りに来て本当に大丈夫なのか疑問になるような豪華なJALのリゾート地を抜けていくと、道路の右側(海側)に別館の風呂があった。本館だと入りづらい雰囲気だが別館なら強気で行ける。一度ここで自転車を止めて情報収集をする。確かに日帰り入浴が1000円ちょっとでいける。通り過ぎると海沿い近くに公園があるが管理がしっかりしてそうなので厳しそうだ。だが海岸沿いの駐車場では車のそばにテントを張る自由なスタイルでキャンプしている人はいっぱいいる。まあ何とかなるだろう。防波堤を上がると広々とした珊瑚が散るビーチもある。まあ、ビーチにテントを張って寝てしまえば大丈夫だろう。水場もトイレも近くにある。宿は決定だ。
 カラッとした珊瑚の上にテントを張って荷物を放り込む。徐々に暮れていく太陽と沖縄の海を見ながらのキャンプは心地良い。こんな所に寝に来る人は誰も居ないのでプライベートビーチ感が満載だ。すぐそこはJALのプライベートビーチ、その先は米軍のプライベートビーチ、ここは俺のプライベートビーチである。しかもJALに風呂を借りに行く。ほぼJALに泊まったと言っても過言ではない。(いや過言だ)

道の駅ゆいゆい国頭
お茶クッキーとシークヮーサージュース


隣はJALリゾートと米軍ビーチ
ほぼJALに宿泊しているのと同じ
珊瑚礁の海岸

 着替えと風呂セットだけを持ってJALの風呂に行く。思ったほど混んで無くて快適に入浴できた。沖縄は日帰り入浴施設が極端に少ないので、ここを最後に当分はシャワーばかりになりそうなので湯船を十分に満喫していく。すっかり日が暮れたリゾートは賑わっていた。米軍からは大きなダンスミュージックが聞こえている。こういう海の形というのも有りだろう。
 テントに戻ると夕飯を作る。静かな海から吹いてくる風が涼しい。米を炊きながら豚肉とゴーヤを切る。豆腐を半分 冷や奴にしてオリオンビールを飲む。沖縄の旅は二度目になるがやっと初めての自炊だ。やっと自分のペースを取り戻したように思える。ご飯が炊けたらゴーヤーチャンプルーに取りかかる。まずはごま油でゴーヤと豚肉を炒める。豚肉だけ一度取り出して鰹節をかけて水をかけてカツオ出汁を抽出しゴーヤに吸わせる。さすがにキャンプ用のフライパンはゴーヤー一本で満杯になる。あと3本もあるゴーヤをどうやって消費するかも、これから重要な課題だ。豚肉をフライパンに戻して島豆腐を切って入れて火を通し卵を絡めて鰹節を振りかけたら完成だ。カツオ出汁がよく利いたゴーヤーチャンプルーを初めて作れた。俺が今まで作っていたのは炒め物だがこれは煮物に近いテイストだ。出汁がよく染みたゴーヤーチャンプルーは美味い。やっと沖縄の味を出せたように思える。次は豚肉の代わりにSPAMを使って、より沖縄に近づこうと思う。
 遅くまで響く米軍のダンスミュージックを遠くに聞き、穏やかな波の打ち寄せる珊瑚礁の海を楽しみながら眠りについた。

念願の沖縄 初自炊キャンプに乾杯


沖縄産の食材と鰹出汁で
ゴーヤーチャンプルー



   出発(沖縄県那覇市)から 166.03 km

3日目 国頭・奥間 → 辺戸岬 → やんばる 59.36 km
2016/05/01
 今日は早く目覚めて出発したい。おそらく今回の旅では1か2を争うハードな山場のコースである。距離もそこそこあり、やんばるの厳しいアップダウンと最後は峠の上り坂が待ち構える。しかも明日はネイチャーガイドによるイベント3連発を予約しているので遅延や不達は許されない。テントをサクッと片付けてコンビニで朝食を食べて出発する。
 国頭村を北上すると一気に人気が全く無い海岸道路になってきた。人もいなければ車もほとんど来ない。天気の良い朝は涼しく快適な走りで距離をグングン稼いでいく。しかも手つかずの海岸は珊瑚礁の独特の色で美しい。これまで見てきたリゾート的な海岸とは全く趣が違う海岸である。自然派の旅人としては、こういう海岸の方が好きである。順調に沖縄本島最北部のあたりまで来た。国道から一度外れて山道を登っていく。茅打ちのバンタは見ておきたい。
 茅打ちのバンタへ上る道は、やんばるの洗礼だろうか、これまでの平らな道とは性格が全く違う急な上り坂が襲いかかる。まだ先は長いので淡々と上っていく。朝の9時頃だから暑さもまだピークからはほど遠い。坂を上れば上るほど亜熱帯の林と見下ろす珊瑚礁の海の見事さで見応えがある景色になっていく。これまでとは違う沖縄の自然の醍醐味が来る。展望台まで登り切ったところで茅打ちのバンタの眺めを楽しみながら休憩していく。

朝のビーチも幻想的


ヤンバル西側の海岸線


茅打ちのバンタへの上り坂


茅打ちのバンタからの眺め



茅打ちのバンタ展望台からの眺め
透ける珊瑚礁

 ここから坂を下ることもなく、大石林山に着いた。元々は予定になかった観光地だが、那覇市内の観光案内所で見つけたガイドでダイナミックな岩やトレッキングコースや眺めが楽しめそうなので寄り道を追加する。駐車場に自転車を置いてチケットを買ってシャトルバスに乗り込む。飛び跳ねるほどのダート道をバスは進んでいく。亜熱帯林を駆け抜けるバスの車窓は沖縄独特の自然を感じて楽しい。自然のど真ん中に入っていくオフロードツーリングにも憧れるところだが体力や技術やパッキング能力などもう1段も2段も上を要求される。まだまだオンロード用の自転車では味わえていないフィールドがある。そこになってくると、さすがに自転車では無くバイクか…。
 山麓のバス停に止まると歩くコースが3つに分かれている。俺の頭の中は既に決まっていて3つとも歩く。順番だけの問題である。岩を満喫するコース、海の眺めを楽しむコース、亜熱帯林を楽しむコース 当然だがどれも外せない。まずは巨岩・石林感動コースに入っていく。トレッキングシューズを新調して持ち込んだが、履き替える時間がなく、うっかりSPDスポーツサンダルのまま来てしまった。観光的な足下なので歩けなくはないがクリートが石に当たってカチカチうるさい。とにかく圧倒される琉球石灰岩の白っぽい大きな岩が並んでいる。迫力と造形が凄い。不思議な削れ方と立ち方が面白い。この寄り道は間違いなく正解で絶対にしないといけない寄り道であった。歩ききってバス停に戻り、次は美ら海展望台コースへと入っていく。こちらも大きな岩を見ながら歩く状況は変わらないが、生まれ変わりの石をくぐったりパワースポットがあったりで一番人気だろう。石の山ができているので見応えも凄い。展望台まで来ると辺戸岬と台地を見下ろせる。空気が澄んでれば鹿児島県の与論島まで見渡せるようだが、そこまでは見えない。それでも崖から生えるソテツなどの亜熱帯植物と琉球石灰岩の切り立った崖と下界の海が美しい。
 またバス停へ戻って一度休憩する。ブルーシールアイスクリームを食いながら巨岩を眺められる。歩かなくてもこれを見て楽しむだけでも来る価値は十分にある。最後は亜熱帯自然林コースを歩く。ソテツやイルカンダなど亜熱帯植物の森の中を歩いて行く。日本最大とも言われるガジュマルは圧巻だ。枝から下がる大量の根は熱帯らしい植物の生え方で本州ではまず見ることがない非日常だ。迫力もあり厳かさもある。精霊や神が宿っていると思ってしまう。バスで駆け上がった林道に歩いて降りて駐車場まで歩いて戻る。
 すっかり大石林山に魅了されて満足して戻ると、もう12時になりそうな時間帯だ。足止めを食らったというつもりはないが、やんばるまでの走りを考えると時間帯がやや厳しくなってきた感はある。16時に保護センターでヤンバルクイナを見て、17時に安波(あは)の共同売店で買い出しして日没前の18時か18時半にはキャンプ場まで登り切るというプランが徐々に苦しくなっていく。何があってもヤンバルクイナを見たいのだが、自然の中で見れない鳥なので保護センターで見るのがやっとだろう。

巨石が並ぶ大石林山


石灰岩に絡みつくガジュマルが印象的


石灰岩の山がそびえ立つ


迫力のある石灰岩の山


ヤンバルの山の方を眺める


大石林山から辺戸岬の眺め


ブルーシールアイス


精霊が宿るとも言われる
ガジュマルの大木

 坂を少し下って沖縄本島の最北端である辺戸岬に辿り着いた。人も多いし風も強い。ここで残念なことに気付いた。今日の宿泊地と明日のアクティビティをやるやんばる学びの森は全部で2万円近い料金を支払うのだが現金がギリギリだ。昨日中に金を下ろしておこうと思っていたのだが失念した。必至に携帯電話でATMのありそうな場所を探したが、オクマまで戻らない限り無いようだ。さすがに戻る気は無いので、頭の中で謝るシミュレーションをしながら辺戸岬の断崖や沖縄最北端を満喫する。天気が良ければ与論島まで見えるのだが今日は霞んでいる。崖ぎわギリギリまで身を乗り出して下を見ている女性たちがいるのを不思議に思いながら岬を巡る。
 岬巡りが一段落したところで昼飯にする。今日もまた沖縄そばの誘惑から逃げられそうにない。食べるところは風が吹きさらしで割り箸の袋とかが飛ばされないように気をつけながら食う。暖かい沖縄のGWだが風が強いので暖かい沖縄そばが妙に体にしみいる。カツオの利いた出汁とソーキの甘しょっぱい味が良い。当分、俺の沖縄そばブームは過ぎそうもない。
 お腹が満たされたところで、また走り出す。ここから再び人気の少ない道が始まる。容赦ないアップダウンも襲いかかる。いよいよヤンバルの洗礼が始まったようだ。奥の集落まで峠1つを越えるのは事前に調査済みなので覚悟を決めて上っていく。鮮やかな海が見えたのは一瞬だけで基本は山道が続いていく。奥に向かう峠を越えようとしたところで前方に黒い大きめの鳥が見えた。カラスにしては胸のあたりが丸っこく足が長い。向こうから来た車を見て鳥らしく飛び立つこともなく路肩の藪に駆け込んでいった。まさかそんなはずは無いと思うものの、ヤンバルクイナだ。もう少し近くまで行って胸の周りの模様とか見えたら確からしさが増すのだが、ここは道路なので思い通りにはいかない。
 この辺りはヤンバルクイナの生息地なので路肩の側溝に落ちても藪側に駆け上がれるようなスロープが所々についてる。流れの方向に付いてるスロープと藪側ののり面がスロープになっているのと2タイプある。ところどころにロードキル(車に轢かれる事故)に気をつけるような注意喚起の看板や怪我をしたヤンバルクイナを見かけた場合の通報先などが記されている。地元として保護に力を入れたい気持ちは十分に伝わるが、飛べない鳥が道路に飛び出して逃げる方向を間違えたり逃げ遅れたりで全ては防ぎきれないのだろう。こういう光景は奄美大島でも見かけたが痛ましいものである。ただ奄美大島は生息地の峠がトンネル化されたりで徐々にアマミノクロウサギ保護ができる環境が進んでいきそうだ。沖縄もそうなって欲しいものである。
 そんな俺がロードキルをやらかすわけにはいかないので、いつも以上に慎重に坂を下っていく。車は少ないのでアウトインアウトで道路をやや広く使いつつ視界を広げつつ進んでいく。坂を下りきると奥の集落に着いた。ここでは鯉のぼり祭りの準備が行われていて川を渡るような大量な鯉のぼりが出ている。大量の鯉のぼりは元気が湧いてくる。ここから山深いアップダウンを走ることを想像するので水の補給はぬかりなくやっていく。1.5Lボトルは水道水で満たし、500mlのスポーツドリンクも買う。共同売店で買い物をしようかと思ったが、一応この先の安波の売店に寄るはずなので何も買わずに行く。
 奥の集落を出るとまた容赦ない上り坂が海沿いに始まる。道が海沿いから少し内陸側に曲がった先にまた地面を歩く鳥を目撃する。さっきより少し大きい。今度こそと立ち止まってカメラを取り出そうとしたら、また走って対向車線側の藪に逃げ込んでしまった。シルエットと動きからしてヤンバルクイナに間違いない。ただ真っ昼間に2羽も見るほど頻繁に現れる鳥なのかは疑問だ。まさかそんなわけは無い というのが頭にある。本物を他で見たことが無いので、似ている鳥を見間違えているだけの可能性もある。悶々とした状態だが、これがヤンバルクイナだとしたら俺の旅における野生生物目撃歴の中に輝かしい1ページを追加したことになる。喜んでよいのかどうか確信がない。
 ヤンバルクイナからもらった喜びもつかの間で、また激しいアップダウンが襲いかかる。奥の集落を抜けると国道は終わって県道70号線になり、とにかくアップダウンが容赦ない。山深い海の見えない道が続いたかと思うと大きく下って海が見える。それでも海岸際まで降りることはほぼなく山の上をひたすらアップダウンしていく。大石林山や辺戸岬で時間をかけすぎた感はあり、やや時間帯が押してきた。ヤンバルクイナ保護センターに16時にたどり着ける自信が徐々になくなっていく。もの凄く暑いので水もグングン消費していくが水道も自販機もどこにもない道が続く。黙々と走って行くも徐々にペースは落ちてくる。安田(あだ)にヤンバルクイナ保護センターがあるものの、16時時点でまだたどり着いていない。途中のランドマークもないので進捗が分かりづらいが、まだ数kmを残してタイムアップと思われる。結局、保護センターへの分岐と思われる場所に着いたのは17時を回っていた。
 もう完全に疲れ切ったところで安田の漁港や集落へ降りていく道への分岐があり、そこにホテルが建っていた。駐車場に自販機とゴミ箱があった。まだ安波の集落と共同売店までも距離がありそうだし、時間も遅くなってきた。まず、キャンセル扱いにされないようにやんばる学びの森に電話して到着予定時間を伝える。受付はキャンプ場からさらに山の上である。げんなりする。休憩も兼ねて自動販売機で水分補給をする。このとき1.5Lボトルの水道水を捨てていろはすの500ml3本分を詰め直す。これで水は満タンになったので、あとは走るだけだ。
 ホテルから急な坂を一つ上って峠らしき場所で、残りの行程と時間と体力を考える。一度、安波の集落に下ってキャンプ場まで上るか、この分岐を曲がって沖縄本島最大の峠を途中まで上ってキャンプ場の裏から下りながらアクセスするかを考える。今時は携帯電話の地図で高低差まで分かるので便利だ。共同売店で買い物しなくても食材は持っている。買い出しはMUSTではない。ここで大胆に決断して峠の方へと曲がっていく。こっちは車通りがほぼない。真正面に夕日を見つつ雄大なヤンバルの森を見ながら走っていく。うねうねと曲がった幹が丸見えのブロッコリーのような木々が印象的な森である。亜熱帯の原生林はこういう物なのだろうか。リュウキュウリクガメやケナガネズミやヤンバルクイナなどの野生動物が出てくれないかワクワクしながら景色も楽しんで徐々に坂を上っていく。
 やんばる学びの森に向かう分岐に着いた時は既に18時半を回って暗くなってきた。ここを曲がれば下り坂だ!と興奮したがなぜか上っている。アップダウンが続く広い道を進むとどんどん暗くなってきた。2つあるライトが頼もしく思えるほど暗い。夜行性のハブなどが怖いところなのでなるべく道路の真ん中を走って端の藪に近寄らずに進む。道は開けているのでハブを気にしながらでも走りやすい。一向に楽にならない道を進むと右に灯りが見えてきた。やっと、やんばる学びの森の受け付けに辿り着いた。とにかくほっとしたというのが感想である。すでに19時半になっている。

沖縄本島(沖縄県) 最北端 辺戸岬
祖国復帰闘争記念碑


辺戸岬の石灰岩と草原


険しい崖が続く東側の海岸線


辺戸岬でも沖縄そば


奥 こいのぼり祭


ヤンバル東側 太平洋の海岸線


手つかずの砂浜と珊瑚礁


ヤンバルの海岸線


ヤンバルの峠へ向かう道


ヤンバルの亜熱帯林

 汗だくで受付を済ませる。心配だった支払いはクレジットカードが使えたので助かった。2泊3日でアクティビティ3連発なので料金もビックリするぐらい跳ね上がっている。明日のアクティビティを楽しむ体力が俺に残っているのかが最大の疑問だ。気遣いで集合場所は至れり尽くせりキャンプ場にしてもらえた。受付からキャンプサイトまでも2km弱あって急激に下る。これを明日の朝5時に自転車で上ってこようと思うときつい。キャンプ場の送迎付きで本当によかった。急な下りでスピードが上がるとキャンプ場の入口を見落としそうで怖い。ブレーキを常に強めにかけてスピードを落としながら道路の真ん中を走って行く。さすがは山の中の熱帯育ちと思えるカエルが5m近くある道路の半分ぐらいをひとっ飛びで横切っていく。ビックリするところだがヘビじゃなくてよかった。自転車のライトだけだと進行方向しか見えないので頭にはヘッドランプを付けて、ライトは2個点灯してテールランプも点滅させて進んでいくとキャンプ場へ曲がる看板を見つけた。暗闇の先にテントの灯りが見えてやっと一安心である。
 オートキャンプ場なのでテントを張る場所は決まっている。テントを張って事務所にサイト番号を連絡する。ヘビ除けのフェンスもしっかり付いてて芝生の上で安心だ。ただ、気を利かせて木の下に張ったのだが枝が低くて何度も俺の頭をクリーンヒットする。荷物を入れて頭を起こすと後頭部に衝撃が来る。疲れてるからか学習能力が皆無な状態である。灯りもAC電源もある至れり尽くせりのサイトで自転車はさすがに俺だけで他は車だし向かい側はキャンピングカーだ。驚くのがトラックベースのキャンピングカーが わナンバーなのでレンタカーだ。キャンピングカーは1台800万円〜1000万円なので所有するにはハードルが高いがレンタルなら楽しめそうでもある。
 テントを張り終えたら、まずシャワーを浴びる。これで汗を洗い流してサッパリしたところで夕飯を作る。食材節約ということで今日はパスタのみだ。フライパンでオリーブオイルを温めて島ニンニクを入れる。唐辛子は買っていないので、ここでは入れない。次にパスタを茹でる。ゆで汁はシェラカップでフライパンに移す。そこに島唐辛子の汁を振りかけて麺を絡める。沖縄そばにピリッとした辛みを出す島唐辛子を泡盛に漬けた汁でペペロンチーノの辛みを出してみる。完成したパスタはニンニクとオリーブオイルのイタリア感と島唐辛子のピリッとした辛さが利いて美味しい。島ニンニクと島唐辛子のペペロンチーノ かなりシンプルなパスタだが沖縄の恵みを存分に活かした味は美味しい。今夜から秘境なのでビールを飲むこともなくシンプルな晩飯を満喫して眠りについた。

島ニンニク、島唐辛子


島ニンニクと島唐辛子のペペロンチーノ



   出発(沖縄県那覇市)から 225.39 km

4日目 やんばる
2016/05/02
 朝の4時半にばしっと目が覚める。ちょうどテントの前に管理人が来て俺の場所を確認していた。朝の5時に車で迎えに来てもらい、いよいよ早朝の野鳥観察へ出発する。ネイチャーガイド職人っぽいおじさんに連れられて受け付けがあった山の上へと行く。自転車で上るのは嫌になるような傾斜とワインディングが続く。よくあんな真っ暗な中を下ってきたものだと自分でも感心してしまう。キャンプ場から車で上がってきた地元の夫婦とも合流しバードウォッチングに出かける。ネイチャーガイドさんの説明を聞きながら車は昨日来た道を進んでいく。元々は米軍の戦車が通るための道だから広々としてアップダウンも多いという説明だった。秘境の道にしては広いのと素直に下ってくれないのは訓練のためという説明に、ここまで自然の奥に来ても米軍の影はあるのかと驚く。
 しばらく進むと、路肩の土手をつついているノグチゲラが見えた。稀少生物をこんなにあっさり目撃できるのは驚きだ。安田の集落に下る途中で道ばたにヤンバルクイナがいる。動きは非常にすばしっこいので写真を撮るのも難しい。集落の家の庭にヤンバルクイナが2羽つがいで居る。かなり興奮する光景だ。先客のプロカメラマンもカメラをじっと構えるほどのスポットだが余裕を持って見ることもできる。稀少生物のヤンバルクイナが今日だけで4羽、昨日の走行中に2羽 これだけ見られれば満足である。

ヤンバルクイナのつがい


希少なヤンバルクイナ

 テントの前まで送り届けてもらって、買っておいたパンと魚肉ソーセージで朝飯を済ませる。AC電源で携帯電話を充電しながら午前中のトレッキングツアーの出発を待つ。今日はアクティビティが4連発である。体力勝負だ。ていうか体力が心配だ。
 また車で送迎してもらって受け付けに行く。ここから、やんばる学びの森のトレッキングコースに連れて行ってもらいトレッキングツアーが始まる。シークワーサーの木や沖縄の固有種がいる池、やんばるの森を歩くのは楽しい。ガイドの説明を聞きながらだと生物に対する理解も深まる。同行していたバードウォッチングが物凄く得意な観察力旺盛な奥さんのおかげでノグチゲラやコゲラなどの珍しい鳥も目撃できる。今回の旅は本当に野生生物目撃運に恵まれている。新しく買ったトレッキングシューズのポテンシャルを十分に発揮できるトレッキングコースは十分に長くて充実し、満足できる。最後は山に面したゲゲゲの鬼太郎ハウスから森を眺めてトレッキングは終わりだ。
 早朝のバードウォッチングから2連発のアクティビティを存分に満喫して昼ご飯だ。やんばるの森を眺められる外のテラスで食べる。俺の席選びとしては当然である。豆腐チャンプルーが絶品である。歯ごたえのある島豆腐に今や沖縄の味として定着しているSPAMとしゃきっと炒めた野菜が合う。自炊で目指したい味つけだ。食後のコーヒーも森を見ながら楽しんでいく。

ヤンバルのトレッキングコース


うっそうとした森の中で整備された歩道


ゲゲゲの鬼太郎ハウス


ゲゲゲの鬼太郎ハウスの中


昼ご飯の豆腐チャンプルー定食


テラスでヤンバルの山を眺めながら昼食

 また車でキャンプ場の方に送ってもらって、次はカヌーに参加する。アクティビティ3戦目 そろそろ疲れが見える。カヌーに対するあこがれや思いは強い。奄美大島のマングローブカヌーは増水で乗れず、釧路湿原のカナディアンカヌーで北の大自然を満喫したので、今度は亜熱帯林を楽しみたい。今回は川遊びもするということでウェットスーツを着てカヌーにのる。ダムのスロープまで車で送ってもらい、いよいよ乗船だ。乗り込んでみるとウェットスーツに上半身が引っ張られて体勢が安定しない。こぎ始めると足もつって思うように進まない。集団から大幅に遅れて進んでいく。時折見るヤンバルの森をゆったりと流れてくる川と底まで見える透明度を楽しむも身体的には余裕がない。船を止めて川遊びをするにしても腰と足が痛いので俺はストレッチと休憩に専念する。さすがに自転車の疲れを抱えたままアクティビティ3発目はきつい。ストレッチの効果もあり帰りはウェットスーツを脱いで漕いでいくと体勢は楽になったが、次の課題はなぜか真っ直ぐ進まず徐々に右に曲がる癖がある。パドルの入れ方と掻き方に偏りがあるのだろう。カヌーについては大きな課題を残して元の場所に戻ってきた。
 車でキャンプ場に戻って充電や荷物の整理をすると今度はナイトツアーに出かける。奄美大島のナイトツアーみたいにアマミノクロウサギや野鳥を見つつハブを探すようなストイックな感じでは無く、小さい子供もいる中で色んな生き物を探す。俺としては固有種のカメやケナガネズミや木の上で寝るヤンバルクイナやハブを期待したのだが、そこまでテンション上がる生き物は見られない。深いヤンバルの森は真っ暗で、その中に見える星空や生き物の様子を楽しみながら歩いて行く。最後はキャンプ場のそばの池でカエルなどを見ているととぐろを巻いて鎮座しているヒメハブがいた。小さいけど毒ヘビだ。

カヌーツーリング 折り返し


亜熱帯林を流れる川

 キャンプ場に戻って空を見上げると満天の星空が広がっている。こんなにスッキリした夜空を見たのは田舎ばかりを巡る旅をしている俺にとっても珍しい。本当は芝生で仰向けになって、ワインでも飲みながらじっくり楽しみたいところだが、風呂も夕食もまだだ。そしてワインなど買っていない。一度 現実に戻ってシャワーを浴びる。温水器の設定の仕方が分からず水で済ませる。沖縄や海外の旅になると水で入浴を済ませるスキルも必要なので良い機会だ。
 炊事場で夕飯を作ろうとしていたら、朝の野鳥観察で一緒になった夫婦から夕飯に誘われた。ここはありがたく頂くことにする。沖縄の地元の方で、良い意味でのんびりとした会話が楽しい。野鳥の後は車で大石林山まで行っていたそうで、県道70号線や裏の山道を走っていた俺のストイックさを褒められる。ヤンバルクイナのつがいが見れるほどの体験が出来たのも頑張ってる ぐっさん。と一緒だったおかげだと言われると、ややこそばゆい感じもする。そんな会話と夕飯を満喫させて頂いて夜は更けていく。
 一段落したところで星空を見ようと思ったら、思いっきり曇ってきて星は全く見えなくなった。やはり天気予報の通りに夜に雨が降るのだろうか。AC電源に何も繋いでないことを確認して眠りについた。


   出発(沖縄県那覇市)から 225.39 km

5日目 やんばる → 東 → 慶佐次 → 宜野座 69.64 km
2016/05/03
 空はどんより曇ってるが雨が降った痕跡は無い。乾いたままで済んだテントを片付けて自転車にパッキングする。昨夜のうちに係員に入門証は既に渡したので坂の上にある事務所まで走る必要は無い。2泊した思い出の詰まったキャンプ場を後にしようとすると、昨夜カレーをごちそうになった家族が森の方から戻ってきてすれ違えたので挨拶して出発する。安波ダムの方へ下ってダムからも急な下り坂が続く。県道70号線に合流すると再び上り坂が始まる。まず朝っぱらから1本峠を越えるのだが、これは地図やネットでの情報で覚悟していた道である。時間帯が早いのでヤンバルクイナが出て来ないか期待しつつ走って行くが見かけることはない。ヤンバルクイナが藪に戻れるよう設置されたスロープも見かけなくなったので、もう生息域を外れ始めたのだろう。
 進めば進むほど霧が立ちこめてくる。亜熱帯の沖縄で霧というイメージは全くないので、左にみる亜熱帯のヤンバルの森と霧、右には珊瑚礁の海が霧に包まれる不思議な景色が続いている。自転車に雨は有り難くないが、晴天続きでカラカラになっているヤンバルの森には久々の恵みの水になるだろう。そんなことを考えていたら霧はますます濃くなってきて2つめの峠を登り切ったところの共同売店で本格的に真っ白な景色になってきたので、一度 休憩する。自販機のジュース1本で長居してしまった。ここからアップダウンの震幅は徐々に少なくなって傾斜も楽になってきた。右側は米軍の演習場なので緊張感のあるバリケードや門も見える。基地反対活動の拠点も並ぶようになってきた。妙な緊張感があり、ヤンバルののんびりした雄大な自然とは雰囲気が大きく変わる。米軍基地横を抜けるとアップダウンも下り基調になりパイナップル畑が左右に広がるが、それも霧に包まれている。パイナップル畑は沖縄以南でしか見られない光景なので、自分には珍しい世界である。 
  長く感じた県道70号線を走り終えてヤンバルと言われるエリアは完全に抜けたことになる。ここで少し早いが昼飯にする。海浜公園でちょうど祭りをやっていたので、祭りの屋台飯で昼ご飯にするのが楽しそうだ。風の強さに屋台の人も苦労している。沖縄らしくタコライスとカーサムーチーを食べる。風で飛ばされないように気をつけながら満喫する。パンチの効いた挽肉にピリッとしたチリソースにしゃきしゃきのレタスとチーズとトマトがよく合う。カーサムーチーは葉っぱの香りがよく移った蒸した餅で甘さは自然に出てくる甘さのみでシンプルな味だ。腹も良い感じで満たされて出発した直後に派手なパイナップル直売所があったので立ち寄る。昼飯はここでも食えたが、パイナップルのアイスと試食を満喫する。沖縄の完熟したパイナップルは濃厚で甘酸っぱくて美味しい。カットしたパイナップルが売られて無くてまるごと1個だったのでさすがに買っていけない。目に入れても痛くないほど可愛い姪っ子&ツインズとかに送ろうかとも思ったがパイナップルは好みが分かれるので迷った末に見送りにした。前回と同じく那覇の牧志公設市場あたりでも十分に美味しいパイナップルは手に入りそうだ。 

赤土の上に広がるパイナップル畑


珊瑚礁の砂浜と霧


東村 雨が降りそうな中で祭り


祭りの屋台でタコライス


沖縄の郷土料理 カーサムーチー


東村 サンライズひがし


東村産の新鮮なパイナップル


パイナップルシャーベット


試食のカットパイン

 どんより曇った海沿いを走って坂道を1本越えると慶佐次のヒルギ林に下り着く。ここは今日最大の見所だ。マングローブの森を散策できるので楽しみにしていた。さすがにGWとあって観光客でごった返している。雨が降りそうだったのでスピーカーを入れてるポケットのチャックを閉めてプレイヤーをフロントバッグに収めて展望台の床下に自転車を入れて見に行く。木道が整備されていて歩きやすくマングローブを直近に見て楽しめる。汽水域の海から生えてる不思議な木は大きくて分厚い葉っぱに囲まれてうっそうとした亜熱帯の森を演出している。カヤックで川を上って下ってというツアーをやっている連中も多く川はカヌーで混んでいる。昨日がさんざんだったが、カヌーに乗るなら、ヤンバルのダム湖より ここも良いかなという気もする。同じ道を往復しながらマングローブを満喫する。
慶佐次のヒルギ林を眺める


マングローブの川
カヌーで進んでいく人たち


塩水に生えるヒルギ



ヒルギの森を歩く道


広がる根っこが特徴的

 走り出そうとしたら雨がポツポツと降り始めてきた。昨年のGW最終日以来 雨に遭っていない俺の強運もここまでだろうか。慶佐次から坂道を上っていると雨を感じないふりをしながら走ってきたが、さすがに体に冷たさを感じるほどの大粒の雨が降り注いできた。俺の強運もここまでだった。封印していたレインウェアを着てまた走る。ヤンバルほどのアップダウンはないが一度海沿いに下って、また上り坂が始まる。雨も加速してきた。前に奄美大島で体感したようなドカドカ降り注ぐ痛いほどの雨を感じる。レインウェア越しでも腕に当たる雨粒が痛いほどの衝撃と鋭さで落ちてくる。帽子を被っていないと目も開けてられないほどの雨量になってきた。時間は降り始めから1時間弱というところだが、何だか体力を削られる感覚であり荷物が吸い込んだ水が重く感じる。上り坂を進んでいるが自分に向かって水が流れてくるのが分かるほどだ。
土砂降りの雨をやり過ごす
道路の向こうは海

 それでも雨に体をクールダウンしてもらいつつ峠を越えた。土砂降りの雨の中で下り坂は恐怖である。沖縄の峠なので長さはしれてるが傾斜とカーブは行ってみないと読めない。速度が上がれば上がるほど雨粒の当たりは当然ながら激しくなってくる。目に入ってくる大粒の雨を防ぐと自ずと視線が下に向いてしまう。速度を落とすのが良いところで、スイスストップのブレーキが頼れる。坂道を下りきって海沿いに降りてきたところで、民族舞踊教室の前に自販機と東屋があって休憩できそうだったので休憩する。ゴアテックス防水袋の防水能力不足は認識していたので財布などはジップロックに入れてあり無事だ。カメラや携帯は既に防水対応のものを使っているので不安はない。ただサイドバッグやフロントバッグには水が染みこんで重くなっている。撥水スプレーはかけてあるが効き目には限界があるようだ。
 しばらく待っていると雨が徐々に小降りになってきた。叩きつけるような大粒の雨は収まってきた。体の疲れも取れて走るコンディションも良くなったので出発する。すると今度は急激に晴れてきた。最近はどこに行っても一気に降って一気に晴れる劇場型の天気が多いような気がする。それは沖縄も同じなのだろう。レインウェアを完全に脱いで荷物の上に縛り付けて乾燥させながら走りを進める。大浦湾沿いは平らで静かな入り江で干潟になっている。沖縄は干潟が多く残っていて、潮干狩りをイメージさせる海もなんだか懐かしい。辺野古に近づいていくにつれて基地反対活動の旗や拠点が目立つようになってくる。観光気分から一気に現実というか沖縄の影の部分に入り込んでいく。
 わんさか大浦パークで買い出しをトライしたが買うものが見つからず単なる小休止となる。ここから二見の橋とトンネルまで坂道を登る。やんばるの疲れが残っていて坂道に苦戦する展開を想像したが意外と好調だ。辺野古岬に向けて気持ちよくまっすぐくだっていく。ただ海の方は米軍基地が控えていて展望は全く無い。陸側は基地反対活動の拠点が目立つ状態で何だか一触即発の緊張感を感じながら米軍基地の前を通り過ぎていく。都会的な眺めとアップダウンをこなしながら、さらに進めていく。
 今日は洗濯MUSTなので絶対に宜野座か金武ぐらいまでは行く必要があったが、18時には宜野座まで走りきった。このあたりは鉄道がないので町の中心部がどこになるのか解りづらい。役場が近いので中心部と思われる場所でケータイを使って情報収集する。コインランドリーはネットで事前に調べていて近所にあるのは確認済みだ。寝床は市街地から海に進むとビーチがキャンプ場になっているのも把握している。問題は風呂だ。市街地にはなさそうだ。また体育館のシャワーを当てにしたが今日は休みのようだ。ビーチの近くにシャワーがありそうだが時間とか詳細の情報が無い。ビーチの近くにタラソテラピーがあるようで、そこで入浴できそうだが明確にならない。他の選択肢はなさそうだ。まずはコインランドリーで洗濯する。コインランドリーの前で日記を書いている間に乾燥も終わる。
 すっかり真っ暗になった宜野座の町から坂を気持ちよく下ると漢那ビーチにたどり着く。痛恨のタラソテラピーが休みだ。GWの繁忙期に開けてない神経が俺には理解できない。うすうすは感じてきたが沖縄はとにかく商売っ気がない。これだけ雨とアップダウンで汚い状態なのに風呂なしはきつい。非常食で夕飯を済まそうとしたら共同売店が開いていた。オリオンビールと沖縄そばと蒲鉾を買っていく。キャンプ場になっていそうなビーチは見つけたものの明かりも水場もなく真っ暗で他のテントも見当たらない。まあ海水浴場の砂浜なのでテントを張れなくもないが快適にはほど遠い状態である。自転車を立てかけられそうな場所も暗すぎて見つからない。少し手前の公園にテントを張ってしまう。たぶん禁止だろうけど気にしてもいられない。早朝に撤収すれば誰も来ないだろう。
 一段落したらゴーヤを刻む。今夜は沖縄そばとゴーヤーチャンプルーにすることは決めている。余りまくってるゴーヤを消費したいし、荷物の中でずっしり重いSPAMもそろそろゴーヤーチャンプルーの具にして消費して軽量化も図りたい。しかし、思ったほど食欲はわかず、SPAMも1缶丸ごとだと大きすぎて1回で消費できず、具は全く無いゴーヤと卵だけのシンプルなゴーヤーチャンプルーになる。それでも家庭用の沖縄そばのタレを入れたのだが味がどうしても単調である。ゴーヤの純粋なうまみを楽しめるシンプルな一品かと思ったが少し物足りない味ではある。続いて沖縄そばをゆでる。家庭用の名護そば 生麺とタレで家庭の味を満喫する。これはなかなか旨い。夕飯には満足したところで着替えて眠りにつく。
名護そば、名護そばのだし


ゴーヤと卵だけのゴーヤーチャンプルー


家庭の沖縄そば



   出発(沖縄県那覇市)から 295.03 km

6日目 宜野座 → 金武 → うるま 46.4 km
2016/05/04
 とにかく朝から証拠隠滅ということでテントだけはさっさと畳む。日が昇ってくると暑さが増してくる。生麺の沖縄そばが半分余っているので朝から自炊をして沖縄そばを食う。お湯を沸かして麺をすするだけの朝食なので片付けも手っ取り早く済ませる。トイレとたぶん来ないとは思うが万一 次回また宜野座に来たときのためにシャワーのある場所を確認するために漁業センターに立ち寄る。ここも商売っ気なく何をしているでもない俺に「ゴミ捨てていくなよ」と言われたので自販機の飲み物ぐらい買ってやっても良いかと思っていたが一円たりとも使うことなく立ち去る。
 金武に抜ける前に道の駅にも立ち寄ってみたが、集めているスタンプもない。昨日から続くイライラがピークに達してきた。どうも宜野座は俺を歓迎していないようなので、ここもスルーして金武へと抜ける。宜野座より金武の方が町としては確実に栄えている。もう一頑張りして金武まで来れば昨日の宜野座みたいに商売っ気も何もない場所でつまらない一泊をせずに済んだのではないかと後悔する。二度と宜野座に来ることはないと思うが次は金武をメインに考えたい。ただ、このエリアは基地が幅をきかせて住民にストレスがたまっているのか雰囲気は全体的に悪い。早く立ち去るのが賢明だし二度と旅行で来ることはないだろう。
 今日の昼飯は俺の中では決まっている。金武にあるタコライス発祥のキングタコス本店に行きたい。走りながら道沿いの店を探したが見つからない。というか時間帯が早すぎて昼飯の気分ではないのが集中力が不足した理由だろうか。市街地を通り過ぎて海沿いに降りてしまった。明らかに通り過ぎたと思われるが、このまま進んでいくことにした。海沿いで遮るものが全く無くなると本格的に暑い。それでも南国の海を左に見ながら走るルートは気持ちが良い。
 しばらく海沿いを走っていると、体に異変が起きた。脇を中心に背中と胸にかけて痛みが走る。痛みの種類は筋肉的な感じで腰痛といえば腰痛なのだが体の奥底から痛む。ちょうど歩道が広くなってリゾートホテルの日陰になっている場所で休憩にする。座り込んだり仰向けに寝転んだりしつつ30分ほど体を休ませる。できる限りストレッチもしてみる。痛いだけなら我慢して走れるのだが呼吸が深くなると痛みが増す。さすがにこの状態はまずいが、どうすることもできず休ませてストレッチを繰り返す。ついでに足や肩なども入念にストレッチをする。少し楽になったようだ。体を休めつつも頭だけは先のことを考えている。浮き世離れした旅に見えるが意外と現実はついて回る。今日は うるまの海中道路を抜けて、さらに先の島の伊計島まで行こうと思っていたが短縮することにする。ネットで調べる限りの情報収集では風呂やキャンプ場の情報があまり芳しくない。というか無いのでは?と疑われる状況である。
 ついでにキングタコスの情報を調べると、この先のうるまへ行く途中にキングタコスあげな店というのがあるようだ。金武の本店には行きそびれたが支店でも十分に元祖の味は楽しめるだろう。いろいろと頭を整理して体も少し楽になった体で走り出す。だんだん海の眺めも工業地帯的になってくる。うるま市の石川に入ると海沿いから道は内陸の市街地になってきた。交通量も一気に多くなってくる。とにかくキングタコス経由うるま海中道路方面という進め方で行く。やや混み合っている石川の市街地を抜けて住宅街を抜けていくと、キングタコスの近くと思われる交差点まで来た。ここでスマホを使って道を調べてキングタコスの方へ曲がっていく。スマホのナビでは目の前に来ているはずだが全く見つからない。ディスカウントストアの回りを何周も回りながら探すも見つからない。つぶれたという情報も無い。
 5分ほど悩んだ末にディスカウントストアの一角に店が見つかった。テイクアウト専門の小さな店だが確かにキングタコスだ。早速タコライスを注文する。できあがるまで店の前で待って受け取る。びっくりするほどガッツリなボリュームだ。パックがこんもりとするほどに盛られたご飯と具はずっしりと重い。駐車場の隅っこの日陰に座って昼飯にする。香ばしく焼けた挽肉とレタスとトマトとチーズがよく合う。ピリッとしたサルサソースと具のまろやかさがよく合う。本場の味は違う。ガッツリな割には意外と食べれてしまう。 
 すっかり満足して出発する。もう目的地のうるま海中道路は近いと思われる。10kmを切っているので気楽だ。今日はこのまま安息日として体力の回復が図れそうである。目の前に海と海中道路が見えてきた。もう今日のゴールは近い。道沿いにあった集合店に立ち寄って休憩と買い出しをする。店の裏の日陰で1時間弱をかけて入念にストレッチをする。今日は気楽に安息日にしたが、明日以降はスケジュールの成立性を左右するような重要な走りが続く。体は少しでも回復させておきたい。気が済むまでストレッチしたところで買い物と情報収集をする。美味しそうなパン屋さんがあるので明日の朝飯はここで買えそうだ。その前に行列ができてる うるまジェラートに俺も並ぶ。地元の食材を使ったジェラートが美味しそうだ。うるま産の紅茶と伊計島産のサツマイモでダブルにする。俺のすぐ後ろに並んでる人のサツマイモが俺で品切れになって気まずいが気にせず食う。イートインで涼みながらアイスコーヒーとジェラートでおやつを満喫する。どっちも素材の味や香りが濃くて美味しい。
 平地で海を見ながら進んで海中道路へ曲がる分岐まで来た。今日の目的地に着いたようなものだ。海中道路の公園でキャンプもできるしシャワーも浴びれる。もう終わったようなものだ。まずは買い出しのために海中道路の手前の町で店を探す。沖縄の魚屋さんで魚を買いたい。白いコンクリートの壁に「さしみ」と書いただけの魚屋さんが何軒もあって沖縄の情緒を感じる。そんな魚屋がこの近くにもあるだろう。途中でヤギを飼っている家でヤギの写真を撮ったり川沿いの鯉のぼりを見たりとゴールデンウィークの沖縄を満喫しながら買い出しをする。
 魚屋だけがケータイのナビで見ても店にたどり着けず、狭い路地に迷い込む。迷った末に神社のようなものが見えたので立ち寄ってみる。変わった風情の境内を歩いて見てると神主さんに話しかけられる。お茶をごちそうになりながら話を聞いていく。やたら目力の強いお婆さんである。お祭りと儀式が始まるところで、ここを後にする。何だか不思議な体験といえば体験である。どうしても魚屋が見つからず、さらに狭い路地に入ると見つかった。さすがに車が通れない道にある店とは思わなかった。希望通りに魚を買っていく。他では見かけないイラブチャーとセイイカとマグロを買っていく。
 夕暮れの海中道路を進んでいくと途中に島とドライブインになっている。そこがキャンプ場なのだが、山で静かにキャンプしている人たちではなく音響やら花火やら持ち込んでドヤドヤしたキャンプになっている。これが沖縄らしいと言えば沖縄らしい。そしてシャワーを見つけたが痛恨の閉鎖。営業時間が終わっている。まさかの2連続風呂無しになるか。必死に情報収集をし直す。海中道路に渡ってくる前に運動場や体育館があったのを思い出す。体育館のシャワーがもしかしたら使えないか? 使えなかったら運動公園の隅の目立たない水道でも使って水浴びをするか… そんな選択肢すら頭に浮かんでくる。体育館は営業していた。受付で聞いたらシャワーも使える。心の底から安心する。自転車から着替えと風呂セットを取り出してシャワーを浴びる。2日分の汗と汚れと加齢臭を洗い流して安心する。

ディスカウントストアの隣
マンションの1Fにあるキングタコス


タコライス野菜チーズ


うるまジェラート


海の向こうが海中道路


民家の片隅でヤギが飼われている


夕暮れのうるま海中道路


沖縄らしい赤い屋根の神社


ちょっと変わった雰囲気の神社

 サッパリすると日は既に沈んで暗くなってきた。同時に涼しくもなってきた。ライトアップされた橋を渡って先ほどのキャンプ場に行く。相変わらずドヤドヤしたキャンプの間を抜けて比較的静かな場所にテントを張る。それでもGWなので隣のテントまで10mも空けれない。
 テントを張って荷物を放り込んだら、海に続く階段の上に炊事道具を広げる。まずは米を炊きながら魚を切る。まずマグロを切って半分は醤油と泡盛とすりゴマで漬けにする。沖縄に来て初めての魚料理自炊にワクワクする。イラブチャーとセイイカを刺身にして醤油とワサビで満喫する。むっちりした食感のイカはかみしめると甘みが出る。イラブチャーももっちりした食感の白身で美味しい。漬けにしてないマグロも美味しい。ここから何度か経験することになるのだが、沖縄のマグロは意外とレベルが高い。ご飯が炊けたら、漬けのマグロをかけて海苔を振りかけてワサビをのせて茶漬けにして食べる。泡盛のくせが香るが、逆それが美味しい。涼しい海風に当たりながら夕飯とビールと泡盛を楽しんで夜は更けていく。

ライトアップされる うるま海中道路の橋


セイイカとイラブチャーの刺身


マグロの茶漬け



   出発(沖縄県那覇市)から 341.43 km

7日目 うるま → 中城 → 与那原 → 南城 → 糸満 53.59 km
2016/05/05
 昨日の痛みは脇から背中と右肩へと移っていた。まあ我慢しながら走れば十分に走れるだろう。深呼吸と連動することは無くなったので、大丈夫だろう。今日はドラッグストアに寄ってバンテリンとか腰痛に効きそうな薬を手に入れることにしよう。これってもしかして四十肩? いずれにしても効きそうなものを探すしかないだろう。体の症状に首をかしげつつ荷物を片付けて出発の準備をしていると、隣のテントの奥さんがホットドッグを作って持ってきてくれた。趣味でやっている旅行ではあるが心遣いがうれしい。しばらくするとお子さんが麩菓子とコーヒーも持ってきてくれた。もう完全に朝飯が済んだのでありがたい。隣のテントの皆さんに手を振りながら出発する。
 一度、海中道路の端まで行って引き返す。昼間に海面を見ると珊瑚礁の海がかなり美しい。夕方だときれいさには気づきづらかったが、日の光を浴びると透き通る海が素晴らしい。まずは、勝連城跡を目指す。半島を横断する坂を越えて下ると勝連城跡にたどり着く。駐車場の隅の日陰に自転車を置いて、ビジターセンターに立ち寄る。スタンプを押して情報収集をして城跡へと向かう。緑の芝生と整った曲線の城壁がいかにも沖縄の城だ。城に登っていくと、うるまの海の眺めと琉球石灰岩の城壁の眺めが美しい。今まで回った城跡の中では整ってる印象が強い城だ。これで首里城、座喜味城、中城、今帰仁に続いて5つめの世界遺産の城を回ったので、世界遺産 琉球王国のグスク及び関連遺産群の城をすべて巡ったことになる。琉球の歴史の知識が全くないのが勿体ないところだ。

朝にはどんちゃん騒ぎも収まった
キャンプ場


朝のうるま海中道路


勝連城跡 見事な造形美


曲線的な作りと登り口


勝連城跡の一番上から街を見下ろす


海まで見渡せる眺めもよい

 ここからは都会的な景色がずっと続いている。沖縄の自然の海はほとんど見えない。沖縄本島で比較的都会的な場所に進出しているアイスクリーム屋がある。路上にアイスクリームのアイコンがちらっと見えると50m先ぐらいに路上販売のBIC ICE(ビックアイス)がある。今日は暑いしアイスは欠かせないので、見かけたら立ち寄ろうと決めていた。こういう売り方のアイスクリームは秋田のババヘラアイスなどがあるが、沖縄のビックアイスはお婆さんではなく若い女性のアルバイトがほとんどだ。いずれにしても炎天下の中でパラソルを広げてお客さんを待っているスタイルには頭が下がる思いだ。しかし、こういう時に限ってどこまで走っても無いのだ。
 そして中城(なかぐすく)村に入る。中城跡から降りてくる道と合流した。この時点で2012年の奄美大島・沖縄の旅との通算で沖縄本島一周を達成した。もう何日も走っているし沖縄本島は広いしタフな道が多い。1回の旅で1周したわけではないが強い達成感と感動を覚える。このあたりから、またアップダウンが多くなり苦戦する。とにかく道沿いで昼飯を食えるところを見つけて休憩したいところだ。
 道沿いの看板で勘が働き左折して沖縄そばの店を見つける。やたら広い駐車場に離れの東屋もあったりで大きな店だ。てびちそばを頼んでみる。大きな豚足がドンドンと2個乗っている。箸で崩しながら上品に食いたいところだが無理なので骨を手でつかんでわしわしと食べるしかない。コラーゲンたっぷりのてびちはコクがあって美味しい。沖縄そばは優しくもしっかりした味で美味しい。何回食べても飽きない味だ。食べ終わったら東屋で情報収集をして出発する。

てびちそば

 次はビックアイスとドラッグストアに立ち寄りたい。沖縄本島を横断する与那原でドラッグストアが見つかった。バンテリン、ボルタレン、サロンパス、四十肩に効く飲み薬などを買い込んで、駐車場の影でTシャツを脱いで背中と肩にバンテリンを塗り込む。塗る度に少しずつ痛みが引いていくような気がする。ここからは追い風に乗って進んでいく。アップダウンが多い内陸の道だが、さっさと国道から県道に抜けて与那原から那覇に向かう車列を避ける作戦に出た。この作戦は正解で迷いそうな県道もさくさくと走って糸満へ向かっていく。追い風とはいえ体の痛みを忘れて快調に走り抜けていく。与那原から糸満まで休憩なしに走り抜いて沖縄本島を一気に横断した。
 糸満に着いたらコンビニのイートインスペースでさんぴん茶を飲みながら情報収集をする。市内に大きめの公園もいっぱいあるし日帰り入浴もあるし買い出しする店も豊富だ。もう今日は楽勝だろう。キャンプするだけなら選択肢はいくらでもあるのだが、天気予報は今夜からずっと雨続きだ。とうとう沖縄も梅雨入りといったところだろうか。ここまで雨はわずかに3時間程度と天気には恵まれていたので、運は使い果たしたといえるだろう。だがテントのアプローチを屋根につなげられそうな場所は見つけた。日没まではテントを張るわけにもいかないので、まずは風呂に入る。久しぶりに足を伸ばして入れる湯船のある風呂だ。日焼け跡ももう落ち着いているので風呂を満喫する。オクマで入ったのを最後にシャワーばかりだったことを考えると、沖縄は本当に日帰り入浴や温泉は少ない。亜熱帯なので湯船に浸かる習慣がないから仕方ないのだろう。それだけに久しぶりの広い風呂がありがたく感じる。
 走行距離は60kmもない程度なので明るいうちに用事をこなすと楽である。スーパーに行って夕飯の食材を買ってくる。今日はゴーヤを使い果たしたい。またゴーヤーチャンプルーになりそうだ。スーパーで地魚のグルクマと作りたてで暖かい島豆腐を買っていく。スーパーの資源回収箱に電池も捨てられる。ここでスピーカーとかに使っていた電池を捨てていく。ずっしり重りになっていたものを捨てて気が楽になる。次世代は充電式のBluetooth防水スピーカーにしたいところだが、電池寿命に課題がある。ライトの電池は安全性と確実性が重要なので乾電池が主流という状況は続くだろう。
 寝床予定地に着いて夕飯を作り始める。まずは米を炊く。その間にグルクマの刺身でビールを飲む。見た目は鯖っぽい青魚だが味は臭みが全くなくて脂ものっていて美味しい。ご飯を炊き終えたら、またゴーヤーチャンプルー作りに入る。今日も鰹だしをしっかり取ってゴーヤを炒め煮にして島豆腐と卵で絡める。ようやく自分の味が出せるようになったと思える。夕方から雨という予報は明日の朝からの予報に変わっていた。天気の強運はまだまだ続くのだろうか。夕飯と旅の内容に満足し、背中や肩にバンテリンを塗りたくり、足の裏にサロンパスを貼り付ける。ドーピングしまくりである。だが、よくよく考えると、若いときは1日あたりで走る距離は今の倍近いが毎日湿布を貼って寝ていたので、多少は薬に頼って攻めの走りをする旅をしても良いのでは無いかと久々のドーピングで思った日でもあった。
この旅 4回目のゴーヤーチャンプルー
やっぱり島豆腐は必要


グルクマの刺身


マグロと山芋



   出発(沖縄県那覇市)から 395.02 km

8日目 糸満 → 豊見城 → 喜屋武岬 → 南城 → 那覇 45.06 km
2016/05/06
 朝から雨のはずが空は青い。改めて天気予報を見ると雨は今夜からになっている。テントを片付けて出発する。まずは、コンビニに寄って朝飯にする。沖縄にしか売ってなさそうな油味噌とチキナーのおにぎりを食う。甘みの利いた味噌が沖縄らしく、おにぎりにも合う。朝飯も気は抜かない。朝飯を済ませたら埋め立て地をまっすぐ南下する道を進む。
 途中にある道の駅に立ち寄る。ここでスタンプを押すと、スタンプ台に「日本最南端 道の駅いとまん」と書いてある。沖縄本島以外の石垣島や宮古島には道の駅がないというのも意外だったが、ここで道の駅の四隅はどこにあるのか気になった。北海道は稚内駅に併設された道の駅わっかないで当然ながら踏破している。東は根室にあるスワン44ねむろだが、ここは道の駅ができる前に通過したのみで行っていない。最南端が沖縄本島ということは最西端も沖縄本島では?という疑問が起こる。この場所は沖縄本島の中では西の端に近い。だが最西端は兼ねていないということは別にどこかありそうだ。調べてみると北に5kmほど走ったところにある豊見城(とみぐすく)市の道の駅 豊崎が日本最西端のようだ。ニアミスしたまま踏破しないのは有り得ない。戻りだが行くことにした。
 広いバイパスを走り海を渡る橋を越えて道の駅にたどり着く。スタンプ台に行くと、確かに日本最西端と書いてある。これで東以外はすべて制したことになる。行きそびれると再び訪れるのが難しい場所なので気づいてよかったと思うばかりである。
 走ってきた道をまた戻るのもつまらないので、ここから豊見城市街地に向かう。街の雰囲気を味わいつつ金も下ろしたい。昨日から熱望しているBIC ICEも市街地の方が遭遇できる可能性が高いと読んでいる。しかし、そういう時に限ってBIC ICEも銀行もない。探しているものに限ってなくて、そうでも無いときに遭遇しまくるツーリングあるあるに巻き込まれている状態だ。それでも豊見城、糸満と都会が続くので銀行は無事にたどり着いた。家賃を振り込んで金も下ろす。今日のおきなわワールドと明日からの久米島に向けての現金が手に入り安心である。

ファミマの沖縄限定おにぎり


日本最南端の道の駅 いとまん


日本最西端の道の駅 豊崎

 沖縄を一周する国道から外れて、沖縄最南端 喜屋武(きゃん)岬へ向かう分岐へ曲がる。市街地を抜けると遮るものが全くなく沖縄の日差しが容赦なく降り注ぐ。しかも、昨日までと違ってもの凄く蒸し暑くなっている。体力が徐々に消耗していくのが実感できるレベルだ。緩い坂すら苦戦してしまう。黒いサンダルの面が日差しで熱くなってくる。こんなレベルの暑さは完全に夏だ。
 暑さでへとへとになりながら南の端まで行くと、途中で具志川城跡が現れた。世界遺産に指定されるほど立派な城というわけではないが、沖縄の城跡にはまっている俺としては見逃せない。城自体は素朴ながらも曲線的な造形は琉球王国の城の様式をそのままである。だが海に面していて、眼下の海は広い珊瑚礁でそれと城との組み合わせが美しい。マイナーな城ではあるが立ち寄って良かったと思える景色を楽しめた。

具志川城跡


海に面して城が建っている


城壁から見下ろす珊瑚礁の海岸

 いよいよ残りわずかな距離を走って、ついに沖縄本島最南端 喜屋武岬にたどり着いた。那覇から沖縄本島最北端の辺戸岬まで行き最南端まで縦断してきた走りも一つの節目を迎えて大きな達成感がわき上がってくる。沖縄の旅というと何だか気楽なものを勝手に想像していたが、全くそれとは違ってハードな走りだ。岬からの眺めも気持ちよく最果てという感覚は十分に感じさせてくれる景色である。ここに立つと、さらに南の宮古島や石垣島への旅に対する想いも出てくる。休日を自分でコントロールできるうちに行っておかないといけない気もしてくる。東屋の日陰で休憩していく。
 火照りが落ち着いたところで再び出発する。次はおきなわワールドへ向かう。途中に、ヒメユリの塔とか平和記念公園などもあるが前回の旅で立ち寄ったので、今回は心を鬼にしてスルーしていく。トラウマになるぐらいきつかった覚えもあるので、寄り道ばかりしてられないという面もある。ヒメユリの塔を過ぎると、なかなか厳しい坂がある。日照りも容赦ない。ヘトヘトになりながらアップダウンを耐えていく。平和記念公園から坂を登ったところで力尽きる。ゴミ箱付きの自動販売機があったので冷たい飲み物で体を冷ます。ちょうど平和記念公園を見下ろすような立地なので、なんとなく厳かな気持ちで休憩する。平和記念公園に向かって手を合わせて出発する。

沖縄本島最南端 喜屋武岬
今回の旅で沖縄本島縦断を達成


喜屋武岬灯台


喜屋武岬から見下ろす海岸線

 坂道を下るとおきなわワールドへ向かう道へ曲がる。少し坂を上り始めたが何とかなるだろう。日焼けで再び火照った体と坂道の熱気でヘトヘトになりながら駐車場までたどり着いた。自転車を置いて、まずは手洗いへ行く。タオルを水で洗って汗臭さを洗い流してギュッと絞る。濡れタオルを頭に巻いていく。玉泉洞と琉球王国とハブ博物公園すべてを回るチケットを買う。向かい側のガンガラーの森にも行ってみたかったが、ここは事前予約が必要なようだ。また来るしかないだろう。一つぐらい宿題を残しておくのがちょうど良い。
 まずは昼飯だ。すっかり遅くなってしまったが、沖縄料理のバイキングへ行く。ガッツリ食べるほどの食欲はないのだが、あっさりしたメニューが多いのでするする入って助かる。ヘチマの味噌煮が意外と美味しくてはまりそうだ。おなかを満たすと多少は元気が戻ってきた。レストランのすぐ外でエイサーの演舞が見れた。本場だけあって迫力が凄く心に響くような音と踊りだ。開館時間が決まってそうなところから順に回る。
 まずはハブ博物公園だ。奄美大島とか沖縄もやんばるにも行ったがハブをまだ見たことが無い。奄美大島だとハブ狩りも兼ねたナイトツアーにも行ったし、やんばるは朝から晩まで歩いたが見ていない。ナイトランでも遭遇しなかった。野生では無いにしても見ておきたい。色んなヘビの生態を展示しつつメインはハブだ。最後はハブのショーも見れる。喋りが面白いお姉さんがハブやヘビを巧みに操っているのは見応えがある。ショーの中で生態も学べたりで満足度が非常に高い。
 次は玉泉洞に入る。今日は暑いので地中の涼しさはありがたい。鍾乳石の石筍や石柱は見応えがある。鍾乳洞が大好きな俺にはたまらない。針天井だったり池だったり変化も大きい。琉球石灰岩の台地は鍾乳洞の原材料そのものなので、鍾乳洞も沖縄らしさの一部といえるだろう。ここも満足して出てくる。

念願のおきなわワールド


蛇使いのショー


玉泉洞 針天井


鍾乳洞を流れる川がきれい


ライトアップされた池


なめらかな鍾乳石の表面を流れる水

 今日ほど暑いと我慢はできず、琉球ぜんざいを食べる。黒糖の蜜をかけた氷にぜんざいが埋まっている。これが沖縄の味だ。徐々に時間が押してきたが次は琉球王国城下町へ行く。昔の町並みも沖縄独特で風情がある。赤い屋根と青い空が沖縄らしい。古い家を移築したものなので建物から来る雰囲気が観光地的な作り物ではない。民家の中身は土産物とかカフェなので中を見ることはなかったが町並みは満足である。
 おきなわワールドを出発して那覇に向かう。元気だったら那覇の港近くの公園とかで野宿しつつ、市場で買った魚とか捌いてもいいのだが、明日はフェリーの時間も早いし疲労も深刻なのでホテルを確保する。出発時に泊まったホテルが快適だったしコインランドリーもあるので、そこにする。もうあとは走りきるだけだ。県道で少し那覇に向かい、途中から国道507号線に入る。この国道は日本で最大の国道番号である。国道番号コレクターではないが、せっかくなら走っておきたい。国道番号が大きいと一車線で山奥の秘境を走る酷道の方を想像するが、507号線は都会を走る一本道である。
 那覇までは車が多く走りづらいだけの道だった。車が混んでる場所を避けて走っていたら何故か無駄に坂道を何本も走りつつ道に迷う。一度、ケータイで調べ直してホテルへ向かう。何とかホテルに到着した。自転車は駐車場裏のスペースに隠しておく。従業員以外はほとんど通らないので安全だ。なぜか出発時の宿泊で意気投合した警備員と話しながら荷物から着替えを出していく。チェックインしてシャワーを浴びる。続いてコインランドリーに汚れ物を放り込んで洗濯をする。洗濯してる間に日記を書いて、乾燥機に移したところで夕飯に出かける。
 今日は何を食うかは俺の中では既に決めている。88のステーキだ。意気揚々と国際通りを歩いて行く。迷いもせず悩みもせず店に入っていく。注文もシンプルだ。一番デカいTボーンステーキだ。前菜のサラダとスープでビールを飲みつつ焼けてくるのを待つ。届いたものを見て一瞬 驚くが骨を中心に2枚分ぐらいの大きさで迫力がある。熱いうちにガツガツ食う。最近、旅も仕事も何もかも小さくまとめ過ぎている自分だが、こういうガッツリな行動も残り2日間の自分に勢いを付けるために必要とも思えてきた。さすがアメリカに鍛えられた店だと思う。すっかり満足してホテルへ戻り、洗濯物を乾燥機から部屋に移して眠りについた。

黒糖の蜜が涼しげな琉球ぜんざい


琉球王国 城下町の街並み


最大番号の国道507号線


88のTボーンステーキ



   出発(沖縄県那覇市)から 440.08 km

9日目 那覇市内
久米島・兼城 → 比屋定 → 奥武島
29.67 km
2016/05/07 那覇 −フェリー→ 久米島
 沖縄本島の旅は昨日までで終わりだ。今日からは久米島の旅へとステージを移す。天気予報では今日から雨と言われていたが、空は真っ青でよく晴れている。梅雨は来ないのだろうか。天気予報を2日も延長させてしまう天気運が恐ろしい。ホテルを出発して泊の港へ行く。那覇から色んな離島に渡る船が出入りする港なので、かなり大きい。そして色んな島の名前の窓口を見ていると旅情がかき立てられてワクワクする。さっさと久米島行きのチケットを買う。車やバイクや自転車の台数はそうでもないが人の数はビックリするぐらい多い。
 フェリーに乗り込んで屋上のデッキにあるテーブルで朝飯を食べながら出発を待つ。沖縄らしくじゅーしぃのおにぎりが美味しい。情報収集をすると、どうも港の近くで買い出しするのが良さそうだ。夕飯にちょうど良い魚屋も見つけた。久米島の地形からアップダウンが激しそうなので、島を3分の2周ほど回り周回最高地点の比屋定のバンタも越えて行く目的地の奥武島(おうしま)にたどり着ける時間が全く読めない。奥武島の近くで買い出しするプランは危険だ。
 途中の渡名喜島に船が止まると、ほとんどの客が降りていった。どこから見ても小さな島だが何があるのだろうか。時期的には観光客というよりは週末を楽しむ地元の人なので、この人気っぷりは何だか気になる島だ。デッキから降りていく人たちと島を眺めていると船は久米島に向けて出発する。多くの客が降りてガラーンとした船室はある意味では快適で、やっと床にごろ寝できる状態になった。
 しばらくすると、放送が流れて久米島に近づいてきた。島の回りは断崖絶壁や珊瑚礁など変化は多い。走りはかなりハードなものになる予感がする。港に着岸して、久米島に歩いて降り立つ。係員が自転車を出してくれるのを待つスタイルである。島に入れる貨物を下ろしながら俺の自転車も出てきた。

久米島へ向かうフェリー琉球


フェリーのデッキで
じゅーしーおにぎりを食う


那覇 泊の港


渡名喜島付近ですれ違うフェリー



渡名喜島の港に着岸
なんだか楽しそうな島


いよいよ久米島が見えてくる


久米島の港へ入っていく

 帰りの便はいつになるかを伝えて出発する。まずは飯と買い出しだ。港の近くの小さな街で店があったので昼飯にする。貼り紙にある車エビの塩焼きに惹かれて注文したが昼は出していないようだ。久米島そばと海ぶどうで昼飯にする。ここもあっさりした出汁とそばが美味しい。ソーキとスパムが1枚ずつ乗っているが、スパムも意外とそばと合う。こんな暑い日でも食べれるのが凄い。熱々の久米島そばという選択が失敗だったと思うほど外は暑さが増していた。今回の旅で最強の暑さだ。日差しはジリジリと照りつけるし湿度も高い。ヘトヘトになりながらも買い物をする。スーパーで野菜を買うが魚はない。念願のクルマエビもない。今日の向かう方向とは逆方向にある鮮魚・蒲鉾の店に向かう。ちょっとの移動でへばるほど暑い。何とか店を見つけて買い物をする。カジキと本マグロの刺身を買い、保冷のために冷凍の蒲鉾を買っていく。これを保冷バッグに詰めれば夕方までは冷えた状態をキープできるだろう。再び久米島に来ることがあるとしたら、また来たくなる店だ。
 久米島一周道路を回り始める。それにしても今日の暑さは深刻なレベルである。しのぎ様のない日差しが俺に襲いかかる。空港へ向かう道と一周走る道の分岐を過ぎて、一周の方を選ぶと本格的に上り坂が始まった。覚悟はしていたのでギアを落として登る。坂道の途中にある上江洲家(うえずけ)に立ち寄っていく。琉球石灰岩のきちんとした石垣に囲まれて古びた赤い屋根に風格がある家だ。管理は非常に大ざっぱで係員らしき人は誰もいなくて入場料を払うカゴが縁側に置いてある。払おうと思ったら細かいのがないことに気づく。一度、外に出て自販機で水を買っておつりで支払う。あまりの暑さに水もあっという間に減っていく。上江洲家を見物しつつ水道を見つけて水を頭から浴びる。そうでもしないと暑さをしのげない状態だ。暑くて見物に集中できなかった感が強い。

久米島そば


海ぶどう


派手な魚屋


上江洲家の邸宅


上江洲家のはなれ

 また島一周道路に戻って走って行く。比屋定のバンタに行くまでに峠を何本越えるのだろうか… びくびくしながら進んでみるも登り一辺倒である。途中の観光スポットへ誘う標識があるがすべて登った坂を海まで下って戻ってくるようなルートになっている。今日の俺のへばり方だと下るのは嫌だ。回避していると、どこにも立ち寄らず淡々と坂を登っている。久米仙の酒蔵とかもあるはずだが見当たらないまま通り過ぎていく。標高がだいぶ上がってくると左は海とサトウキビ畑を見下ろす景色になってきた。高台から見下ろすサトウキビ畑というのは地形的には他であまり見ないような気がする。この景色はかなり気持ちが良い。しばらく景色を眺めてのんびり過ごす。今の進捗からすると最高地点である比屋定のバンタまでは登りのみなのでアップダウンはなさそうだ。少し安心したからか気が大きくなる。
 道路の右側にはヤギも2頭見えてきた。ふざけて鳴き声を真似したら駆け寄ってきてしまった。フェンスの向こう側で葉っぱを食べたり隙間から顔を突き出したりしている。触ったり何か食わせたりすると面倒なことになりそうなので一切触れずに写真を撮っていると、一台の軽トラの中で手を振っているおじさんが来た。追い払われているような動きなので、ここを後にする。道沿いに家がなくなって傾斜も一気に急になってきた。比屋定のバンタまで2kmを切っているし、最後の一踏ん張りだろう。右が山になってやって木陰になって涼しくなって勢いを増して登っていく。
 最後の一頑張りで漕いで比屋定のバンタにたどり着いた。道もこの先で下り坂になっているようだ。広い駐車場があって自販機や展望台まであるので快適に休憩できる。今回の旅はゴールらしいゴールはないのだが、ここは一つの重要な節目だろう。気分は沖縄では無いツーリングで完走した時と同じような気分だ。展望台からの眺めも見事で眼下には複雑な地形の海があり、遠くには白い砂浜の果ての浜も見える。さらに遠くは水平線が見えている。頑張って走ってきて良かったと思える景色を存分に満喫する。

見下ろすサトウキビ畑


サトウキビ畑の向こうに海を見下ろす


高いところを走っているのが分かる
久米島一周の道


山の上に宇江城が見える


遊びに来たヤギ

 また島一周道路に戻って走って行く。比屋定のバンタに行くまでに峠を何本越えるのだろうか… びくびくしながら進んでみるも登り一辺倒である。途中の観光スポットへ誘う標識があるがすべて登った坂を海まで下って戻ってくるようなルートになっている。今日の俺のへばり方だと下るのは嫌だ。回避していると、どこにも立ち寄らず淡々と坂を登っている。久米仙の酒蔵とかもあるはずだが見当たらないまま通り過ぎていく。標高がだいぶ上がってくると左は海とサトウキビ畑を見下ろす景色になってきた。高台から見下ろすサトウキビ畑というのは地形的には他であまり見ないような気がする。この景色はかなり気持ちが良い。しばらく景色を眺めてのんびり過ごす。今の進捗からすると最高地点である比屋定のバンタまでは登りのみなのでアップダウンはなさそうだ。少し安心したからか気が大きくなる。
 道路の右側にはヤギも2頭見えてきた。ふざけて鳴き声を真似したら駆け寄ってきてしまった。フェンスの向こう側で葉っぱを食べたり隙間から顔を突き出したりしている。触ったり何か食わせたりすると面倒なことになりそうなので一切触れずに写真を撮っていると、一台の軽トラの中で手を振っているおじさんが来た。追い払われているような動きなので、ここを後にする。道沿いに家がなくなって傾斜も一気に急になってきた。比屋定のバンタまで2kmを切っているし、最後の一踏ん張りだろう。右が山になってやって木陰になって涼しくなって勢いを増して登っていく。
 最後の一頑張りで漕いで比屋定のバンタにたどり着いた。道もこの先で下り坂になっているようだ。広い駐車場があって自販機や展望台まであるので快適に休憩できる。今回の旅はゴールらしいゴールはないのだが、ここは一つの重要な節目だろう。気分は沖縄では無いツーリングで完走した時と同じような気分だ。展望台からの眺めも見事で眼下には複雑な地形の海があり、遠くには白い砂浜の果ての浜も見える。さらに遠くは水平線が見えている。頑張って走ってきて良かったと思える景色を存分に満喫する。
 景色を満喫したら坂道を下り始める。怖いぐらいに急な坂とワインディングが続く。カーブの向こうに見える下界が気持ちいい。つむぎ橋とてぃーだ橋を下る。沖縄本島のニライカナイ橋のように高い山の上から豪快に橋の上を下って海へと飛んでいきそうな橋が続く。橋を越えるとやっと下界に下り着く。かなり山の厳しい島だが明るいうちに下って来れて一安心だ。しばらく走ると大きなフクギの並木が続く。大きな葉っぱで緑が濃く亜熱帯を象徴するような木で気持ちが良い。備瀬のフクギより背が高く迫力もある。
 17時には奥武島へ渡る橋のたもとまで来た。キャンプ場も温泉もあるのは分かっているので、イーフビーチの方へ買い物に行く。民宿とコンビニはあるが店はそんなに多くない。酒とか食品を売ってる店に入ってみる。もう明日は10km弱走って港からフェリーで帰るだけなので荷物の重さに対しては強気だ。久米仙とロックアイスともずくを買っていく。ずっしり重い荷物を気にせずキャンプ場へ行く。荷物だけでいうと宴会モードである。

比屋定のバンタからの眺め
遠くにハテの浜が見える


サトウキビ畑や田畑が見渡せる


自転車を立てかけて見下ろす


宇根のフクギ並木

 風呂とキャンプは受付が同じところなので、まずは受付を済ませる。キャンプ場でテントを張る。キャンプサイトは広場から一段下がった窪地にしか張れない。藪が多いので蚊が多いし風通しも悪い。これは寝心地が悪そうだ。テントを張り終えると蒸し暑くて汗が噴き出ている。風呂にも入りに行く。海洋深層水の豪華な風呂で今日の暑さでベトベトになっている体を洗ってサッパリしてからキャンプ場に戻る。相変わらず蒸し暑い状態が続いている。
 サイドバッグとザックから食材を出して夕飯を作る。まずは米を炊く。その間にカジキを漬けにする。冷凍蒲鉾による保冷作戦が成功して魚はきっちり冷えた状態のまま維持できた。醤油と久米仙でカジキを漬けつつ刺身でも食べる。新鮮で脂がのっていて美味しい。本マグロはとろけるような旨さだ。沖縄のマグロはレベルが高い。お麩に水を吸わせて絞り野菜と一緒に炒める。沖縄そばのタレで味を付けて最後に残っていた卵を絡めて麩チャンプルーの完成だ。買ってきたもずくをマニュアル通りに水で洗うとグングン膨らんでザルいっぱいになってしまった。さすがにこれは失敗だ。モズク酢をイメージしてシークワーサージュースと醤油で絡めてみる。5口ぐらいまではスムーズに食べれて磯の香りと爽やかさを満喫できた。ひとまずは置いておく。既に俺の最終日の宴は始まっている。麩チャンプルーや刺身でオリオンビールを飲む。続いて久米仙をロックで飲む。炊けたご飯にカジキの漬けをかけて食べてみるが、さすがに久米仙は癖が強すぎて漬けには向かなかったようだ。酔っ払いながら飯を食う不思議な状態になってきた。すっかり夕飯に満足したが、モズクは大量に残った。
 ゴミ捨て場のあたりからカリカリコリコリと音がするので見に行ってみると、大きなオカヤドカリが群れている。サザエの殻に住んでいる大きなヤドカリに驚く。足が紫色のものも居る。調べてみると2種類のオカヤドカリが生息しているようだ。足の色が紫のものは見た目の通りムラサキオカヤドカリだ。沖縄でしか見れない生き物も見れて美味しい夕飯も満喫できた。空は満点の星空だ。これ以上の夜があるだろうか。最後にガスを使い果たすまでお湯を沸かし続けて、持ち帰らないものは徹底的に捨てていって片付けは終わった。荷物をまとめてテントに入って眠りにつく。
 眠れないほど暑い。とにかく蒸し暑くて風が無い。熱帯夜のキャンプは地獄そのものだ。たまらずテントから出てサイトから登った芝生の広場で横になる。ただライターを持ってくるのを忘れているので蚊取り線香に火を付けられない。蚊に刺され放題で、そっちが理由で眠れない。さらに、雨が降ってきた。慌ててテントに戻って雨をしのぎながらの眠りにトライするが眠れない。雨がやんだら再び外に出て石造りの床の上に横になる。藪から離れてるので蚊は少ない。雨もしのげている。

近海産 本マグロ
沖縄のマグロは意外と鮮度がいい


カジキを醤油と久米仙で漬けにする


麩チャンプルー


キャンプの訪問者 ムラサキオカヤドカリ
サザエを背負っている



出発(沖縄県那覇市)から 469.75 km

10日目 奥武島 → 兼城
那覇市内
14.74 km
2016/05/08 久米島 −フェリー→ 那覇
 ほんの少しだけ眠ったら朝が来た。楽勝の最終日だから良かったが通常の走行日でこの睡眠時間だとえらいことになりそうだ。眠気と暑さでフラフラしながらテントを片付けて撤収する。14時までに10km弱走って港に行けばいいというだけの気楽なルートもあって片付けが全くはかどらない。10時頃にやっと片付いて撤収する。今日もうだるような暑さの中で出発する。
 まずは奥武島の海岸を見に行く。今日も予報は外れて快晴で海の色がとんでもないことになっている。海の色がグラデーションで濃い青から薄い青や緑まで変化している。目の前の亀の甲羅のような畳石の印象すら霞むほどの色が見える。今までの海沿いの旅で見たことがないような景色は感動だ。しばらく眺めていたくなる景色だが暑さと眩しさに追い出されるように、近くのウミガメ館へと引き込まれていく。とにかく日陰でエアコンが効いてる場所がありがたい日だ。久米島を産卵地にするウミガメに特化した小さな水族館が楽しい。ウミガメの繁殖地には必ずと言っても良いほど保護施設を兼ねた水族館があるが、見て回るのも楽しい。プールを悠々と泳ぐ子亀も見れて満足である。
 ウミガメを見終わったら奥武島から久米島へ橋を渡る。この橋の上からの眺めも凄い。感動と興奮で写真を撮りまくり、橋の上から海を眺めていく。感動的な海岸を後にしてイーフビーチにも行ってみるが奥武島の海を見たあとでは感動は薄い。相変わらずの猛暑の中を港へ向けて走る。携帯で距離を調べると、たったの6kmしかない。フェリーの時間まで3時間あるので、さすがにどうにでもなりそうだ。久米島はもう1回来ないといけないと思うほどに駆け足で回ってしまったので、もうそんなに詰め込んで色々見て回ろうという欲もない。というか暑すぎて行動欲が沸いてこないというのも実情だ。内陸だがアップダウンはさほどないまま走ると、昨日 刺身を買った店の前を通り過ぎる。もう港まで戻ってきたようなものだ。

蒸し暑い奥武島のキャンプ場


奥武島 畳石
海の色がものすごい


眠気も吹き飛ぶ海の色


かわいいウミガメたち





奥武島と久米島を結ぶ橋の上


砂浜から沖までのグラデーションがすごい

 フェリーまで2時間半はあるので、久米島博物館へ立ち寄る。やはり島の自然や文化など総合的に知るには博物館が良さそうだ。道を曲がると見事に上り坂だ。背中から当たる強烈な日差しと疲れでヘトヘトになりながら坂を登っていく。ちょっと高台にある博物館に入って見ていく。走ってきて実感しているが厳しい山の地形と海岸が独特の自然や固有種も擁している。もっと時間をかけて楽しむべき価値のある島であることを、ここで初めて知ったような状態である。また来たい島で、今度はもっと時間をかけても良いと思う。沖縄の離島旅に一島あたり1日か2日というのは島の奥深さを味わうにはそもそも日数不足なのかもしれない。そう思える展示であった。
 港の近くの街で昼飯を食う。昨日とは違う店に入ってみる。久米島そばがお勧めの店だが、今日は熱い汁物を食べる気温ではない。とにかく暑さでヘトヘトなので定食にする。定食屋のゴーヤーチャンプルーが食べたくなる。ゴーヤと島豆腐とスパムと卵のシンプルなチャンプルーが身にしみる。暑い地方に合う味付けに感じる。昼飯を食べ終えたら、土産屋に駆け込んで土産を買い込む。もう走らないので紙袋を片手にぶら下げて港へ向かう。気がついたら時間が無くなってきた。たどり着いた時点で名前を呼ばれたので自転車を預けてフェリーに乗り込む。これで短かった久米島の旅も終わり、このGWの旅も終わる。
 出港するフェリーから久米島と海を眺めて旅の終わりの名残惜しさを味わう。フェリーの中で日記を書きながら沖縄本島へ戻っていく。今回の旅は本島に濃密だったと思い返しながらたまった日記を書いていると、あっという間に沖縄本島の泊に戻ってきた。最後まで気持ちの良い晴れた空を見ながら、多くの船が停泊してる港へ戻ってきた。
 こういう次の旅を思い起こさせるような場所は居心地がよい。フェリーから下りて自転車を受け取ったらフェリーターミナルのカフェでコーヒーを飲みながら旅の余韻を楽しむ。今回の旅は那覇から那覇への旅なので、どこにたどり着いたところをゴールとして完走とするかはハッキリさせづらい旅ではあるが、このフェリーターミナルをゴールとした。

ゴーヤーチャンプルー定食


兼城の街を見ながら
久米島を後にする。


久米島を後にする。
また来たい島である。


多くの離島へ向かう拠点となる泊港


久米島から帰ってきて完走のうちに終了

 泊港からホテルへ行く。初日と一昨日とも同じホテルにする。慣れた感じに駐車場の裏のスペースに自転車を置いて雨よけのためのレジャーシートをかぶせて施錠する。ホテルにチェックインして、シャワーを浴びて洗濯する。ここからは履き物もSPDサンダルからトレッキングシューズに履き替える。どうしてもサンダルは臭くなるし、空港の検査とかにも引っかかって面倒だ。洗濯物を乾燥機に移したところで、打ち上げと言うことで国際通りの方へ飲みに出かける。今日は居酒屋に入る。散々食べてるがゴーヤーチャンプルーとオリオンビールで乾杯だ。沖縄の郷土料理は身にしみるような味がたまらない。泡盛もぐいぐい飲みながら、店の大将とも話が盛り上がる。沖縄の自然と人は旅を楽しいものにしてくれたと思う。すっかり満足した打ち上げの後は、歩いてホテルまで戻る。洗濯物を乾燥機から取り出して整理して、残っていた日記も書き進めて眠りにつく。
旅の完走を祝しオリオンビールで乾杯


沖縄の味 泡盛のロック


5/8はゴーヤーの日ということで
ゴーヤーチャンプルー



出発(沖縄県那覇市)から 484.49 km

11日目 那覇市内  16.03 km
那覇 −ANA→ 羽田
2016/05/09 羽田空港 -京急→ 品川 -山手線→ 東京
-東北新幹線→ 宇都宮
 二日酔いもなくスッキリ目覚めた。ホテルの1Fで沖縄料理の朝ご飯を満喫する。もう今日は旅としての浮ついた感じはない。とにかく荷物を発送しないといけない。急いでホテルから出て行く。SPDを脱いでトレッキングシューズで自転車を漕いでヤマトの営業所へ行く。段ボールを3個買って詰め込む。段取りよくガスも使い果たして危険物はない状態で送る。最近は中身についての追及が面倒なので箱の表に品目をすべて書く。外で箱詰めしていたら暑くて汗だくになる。
 荷物の発送を終えたら空荷の自転車で牧志へ向かう。せっかくなので牧志の近くにある 壺屋やちむん通りを抜けて店先のシーサーを見ていく。那覇市立焼き物博物館に行ってみたら痛恨の休館日。諦めて牧志公設市場に向かう。実家と目に入れても痛くないほど可愛い姪っ子たちに沖縄の名産品を送る。魚屋とか青果店を見たが、アイデアが浮かばなかったのだが精肉店のアグー豚が美味しそうなので、これに決めてパッパと選んで2カ所に発送する。ラフテーとか美味しそうだったので俺にも送っても良かったのだが自分には何も買っていない。なんとなく時間をあおられてる気分で市場の外にあった寿司屋さんで寿司を食べていく。市場を回っている間はバイク用の有料駐輪場に自転車を止めていたのだが、無駄に自動化したシステムがフリーズして「しばらくお待ちください・・・」と3分ぐらい言い続けたまま進まなくなったので、近くに料金を置いて機械を放置して出て行く。
 空港に向かう途中の鰻湖の干潟を眺めて、途中の運動公園にあった自販機でお茶を買おうと自販機近くに自転車を止めたら、管理人らしきおばさんに追い出され、遠くを指さして自転車はあっちに置けと言ってきたので、「じゃあ良いです 買いません」と言い返してその場を後にするとじっと俺の方を見ている。まさかあんな形で追い出した俺が買わないのが気に入らないのか? 何がしたいのだろう。沖縄は時々ものすごく商売っ気がなく攻撃的な人間と出会うことがある。商売におけるメリットとか、そういうことを言うと今後二度と買ってくれなくなるとか、ややもするとインターネットで悪評が広がるとかそういうことを考えないのだろうか。他の旅先だとあまり見かけない光景である。明らかにイラッとする不愉快な人間と1週間で数人出会う時点で極端な場所だとは思う。その理由は浅いのか深いのかは知らないが本土との違いがあり、旅での過ごし方自体に課題がありそうだ。これが海外ともなるともっと大きな差になるだろう。

牧志公設市場でお土産を送る。
今年は豚肉をチョイス


最後は沖縄料理ではなく寿司
地ダコやマグロが美味しい


干潟が広がる鰻湖

 あっという間に那覇空港に戻ってきた。空港の前で自転車を淡々とバラしていく。キャリアも発送済みなので輪行はシンプルだ。手慣れた様子で終わらせていく。自転車をチェックインカウンターで預けたら売店に土産を買いに行く。定番のお菓子とかで土産を決めたら、セキュリティゲートを抜けて搭乗口へ向かう。飛ぶ前に夕飯を済ませるべく、また沖縄そばとじゅーしぃを食べながら滑走路を行き来する飛行機を眺める。淡々と搭乗口へ行き飛行機に乗り込む。この旅もいよいよ終わって現実に戻るときだ。また沖縄に来て行ったことのない離島とか楽しみたいところだし、沖縄本島以外の宮古島や石垣島へも進出してみたい。ただ、旅のスタイル自体は少し変えていかないとやりづらそうだとも感じる。
 昨年の夏の反省から飛ぶ時間帯は少し余裕を持たせて、20時過ぎには羽田に着く。羽田からも慣れたもので京急と山手線を乗り継いで都内を抜けていく。東北新幹線に乗り換えて宇都宮へと戻っていく。休みを多く取っているので、通勤客ともすれ違いながら改札から出ていく。宇都宮駅前で自転車を組み立てて自宅まで走ったところで、充実の旅は完全に終了した。

最後の夕飯も那覇空港で
沖縄そばとじゅーしー


乗り込む飛行機を見つめながらの夕飯



   出発(沖縄県那覇市)から 500.52 km


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