0日目 |
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宇都宮 -東北新幹線→ 東京 -山手線→ 品川 -京急→ 羽田空港
新千歳空港 -千歳線 快速エアポート → 札幌 |
2017/08/09 |
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羽田 -ANA→ 新千歳 |
昨年は熱い旅を東北で展開したが、今年はそこまで乱暴な連休拡大は厳しい。気になる場所は何カ所かあったが、あえて北海道の道東に旅を展開する。行き尽くしていて、行ってない場所が少ないぐらいである。それでも何カ所か行きたい場所が点で存在しているので、面白いコースは頭の使いようで組めそうな気がした。とりあえず、札幌に行く飛行機と札幌から帰ってくる飛行機だけを先に押さえた。
GWに適用して、すばらしい手応えを感じた最終日の半日休暇を使う。11:45で勤務終了になるので輪行移動に午後が丸ごと使えて、場所によっては出発地点まで行けてしまうのだ。今回も羽田まで行って札幌へ飛んで一泊する作戦となる。しかし、実際に実行してみると夏はそんなに美味しくない問題が分かった。暑いのだ。輪行作業なんかしてたら倒れそうになるほど暑い。宇都宮駅前で自転車をばらすと目立つわ汗だくになるわでロクなことがない。
デッキでクーラーの風が直撃する場所を探して体と頭を冷やしたまま新幹線で東京へ向かう。夕方になりそうな時間帯の東京は通勤客と空港へ向かう客でごった返している。羽田空港に着くと予定の飛行機より2時間早く到着したので、便変更を窓口で打診してみるとすぐに乗り込めることになる。さっさと預けてセキュリティチェックを済ませて搭乗口へと向かう。とんとん拍子で飛行機へと乗り込み、離陸する。
飛行機で爆睡すると新千歳空港へあっという間に辿り着く。荷物を受け取ると、まずはカートに載せてレストラン街へ行く。北海道の回転寿司が話題なので、回転寿司へ行く。前に客さばきが悪かった店はつぶれて名前が変わっていた。良いことである。どのタネも美味しいし、鮭のアラ汁も最高である。早くも北海道を満喫しているのである。
新千歳空港駅で明日の特急オホーツクの指定席券を買って、快速エアポートで札幌に向かう。22時頃という時間帯だが、意外と混んでいる。電車に乗っている間は札幌の駐車場事情とか自動車事情をできるだけ車窓から観察する。仕事が頭から抜けない。そんなことをしてるとすぐに札幌へ到着する。札幌駅からは輪行袋を持ってホテルまで歩くのだが、駅近を選んだつもりが、札幌駅は大きな駅なので意外と遠い。しかも雨まで降っている。
ホテルに運び込んだらコンビニに行ってスタンプ帳と日記帳を買って、シャワーを浴びて早めの眠りについた。 |
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1日目 |
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札幌 -石北本線 特急オホーツク → 留辺蘂 |
2017/08/10 |
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留辺蘂 → 北見 |
47.01 km |
早朝に目は覚めた。今日は寝坊は許されない。朝7時発の特急オホーツク網走行きに乗るために早起きなのだ。雨の止んだ早朝の札幌駅前を歩いていく。札幌駅で朝食代わりに駅弁を買ってホームに入り、特急オホーツクを待つ。駅でトレインウォッチングをしていると入線してきた。並んでいる人も意外と多い。
列車に乗り込むと、ほぼ満席である。もうお盆の帰省シーズンに入るのだろうか。列車が動き出すと、駅弁を広げて朝飯を食い始める。鮭のそぼろとイクラを散らした石狩鮭めしが意外と美味しい。やや甘辛に味付けをしたそぼろが古くからの駅弁らしい作りである。力強いディーゼル列車が駆け抜ける空知の眺めを楽しみながら、朝飯を食いながら旅路は進んでいく。今回の旅で言えば「時間を金で買う」という発想で女満別まで飛んでおくという手もあったが、あえて札幌を拠点にして北見へ行く途中の留辺蘂(るべしべ)から始める。北海道の鉄道旅は自転車に続いて好きだ。
旭川を過ぎると列車は峠越えを始める。ここから東へ行くには、どこから回っても峠越えは避けられない。走るのであれば北見へ抜ける石北峠や帯広へ抜ける三国峠など楽しみの多い峠がある。今回の鉄路は北見峠の方へ入って行くのだが、これは自転車では越えたことがない。Youtubeと鉄道が好きな人だと馴染みのあるタマネギ列車の峠越えの場面が楽しめるところである。徐々に山深い鉄路に入っていく。線路からたまに見える道路が良い感じに上っているので、鉄道にとっても過酷な峠であることは見てとれる。
景色を見ていると、ぜひ自転車で越えたい峠である。峠を下りていくと駅でスイッチバックとなる。ここで進行方向が変わるため座席の向きを変更する。ここからは下り基調だからかエンジンの負荷が低いのが感じられる。深い森から畑の景色へと移り変わっていく。
定刻通りに留辺蘂駅へ到着する。駅へ降り立つと、涼しいのを通り越して寒い。今日は天気が少し冴えないので寒いのだろうか。降りる客がほとんどいないし、駅には改札もないし駅員もいない。無人の特急停車駅というのも珍しい。人も車もほとんど来ない駅前で自転車を組み立てる。今回も順調な輪行である。輪行袋をキャリアに付けて出発する。 まずは留辺蕊駅から約7kmほど石北峠方面の道の駅を目指す。寒さで体が温まらないという感覚であり、やや上っていく道で本来は体が熱くなるところがクールダウンしてありがたいという感覚でもある。上り坂とは言え荷物がないので楽に進んでいく。北見名産のタマネギの畑やツル状の作物畑を見ていると北海道らしさを感じる。ツル状の植物が逆V字の紐に巻き付いている。ドイツでアウトバーンや鉄道の窓から見たホップ畑を思い出す。もしかしてホップかと期待してしまうが、何の植物だかは分からない。花の色も白や赤が入り交じっている。 |

特急オホーツク 網走行き
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大正12年からの定番駅弁
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石狩鮭めし
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留辺蘂(るべしべ)駅からスタート
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気になったままで道の駅るべしべへ到着。まずは昼ご飯にする。ホルモン焼きそばとコロッケを満喫する。夏らしくオープンテラスで食べるも少し寒い。昼飯で満腹になったら世界最大の鳩時計がちょうど13時の時報を鳴らし始めた。ここには前にも来ているようだが時報は一度も見たことが無い。からくりが立派で大きな鳩も出てくる。
続いて、北の大地の水族館へ行く。というか、元々はこれが目的である。北海道の水族館らしくクリオネやオホーツク海を再現した水槽がある。奥に入ると淡水魚がメインになってくる。小さい水族館で手作り感の多い展示が楽しめる。そして最大の見所であるイトウの水槽に来る。大きめの水槽に大きいイトウが数匹泳いでいる。イトウの生態だからか縦に頭を並べてしっぽを漂わせながら止まっている。この貫禄がたまらない。そしてラッキーなことに餌付けの時間になった。生きた魚しか食べないイトウには養殖のニジマスが餌として与えられる。これを追いかけて食べる捕食シーンは迫力があるが、そんなに狩り自体が上手くないのか逃げ切られているし、逃げ切ったニジマスが結構な大きさまで育っている。留辺蘂の温泉で温められてミネラルで体調管理されているのか元気が良い。予算がなくて瀕死の経営から立ち直ったということでテレ東の経済番組で見てから来たかった水族館なので念願を果たして満足である。
続いてキタキツネ牧場にも行く。昭和とかバブルを感じる建物の奥にフェンスで囲まれたスペースがあり、そこを歩いてキタキツネを見れる。キタキツネと人の間に隔離されるものはない。北海道を旅していると、どうしてもキタキツネはエキノコックス(人体に甚大な影響を与える寄生虫)持ちということで嫌われているが、本来は可愛く生態系の頂点近くに立つたくましい愛されるべき動物である。北海道にいれば夕方ぐらいになれば野生のがいくらでも見られるが、飼われてのんびりしているキツネを見る機会も貴重である。
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後のカーリング銅メダリスト
ロコソラーレ北見の応援コーナー
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白花豆ソフトクリーム
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世界最大の鳩時計
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道の駅おんねゆ温泉
ホルモン焼きそば
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タマネギコロッケ
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アメマス
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オホーツクの海の幸
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幻の魚 イトウ
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温泉の熱で熱帯魚も展示
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北の大地の水族館
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北きつね牧場
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キタキツネ
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キタキツネ
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道の駅るべしべで遊びすぎた感はあり慌てて出発する。しかしながら道は確かに下り坂だ。走りは非常に楽である。途中で畑に近づくと、ホップみたいな育て方をしているツルがなんなのか分かった。白花豆の畑である。地元の珍しい作物について、育て方を直に畑で見て感心するのも旅の楽しみの一つである。気持ちよい下り坂を進むと、あっという間に留辺蘂を過ぎる。その後も下り坂は順調に続いていく。1998年の旅として通った記憶のある道だが上り坂などがあった記憶は無い。気楽に走って行く。
北見に近づくと道も4車線になり車からもらう風もあり走りの快調さは増していく一方で、体は冷え込んでいく。相内(あいのない)で休憩していく。待望のセイコマことセイコーマートに立ち寄るとホットの缶コーヒーを買う。夏だというのに、そういう気温である。暖かいコーヒーで手を温めて、飲んで体の中から暖まる。次第に雨が降ったり止んだりというのが始まるようになる。寒いし冷たいし、防寒着やレインウェアは宅急便でホテルに送ってるので持ってきていなくてしのげず厳しい初日である。
北見の市街地に入ると、空に晴れ間が見えてきた。その方向に虹が見えてきた。しばらく自転車を止めて虹の眺めを楽しんで行く。幸先の良い初日である。そこからは淡々と走って北見駅に向かう。しかし、北見駅直前で強い雨が降ってきた。直接、俺の体に冷たい雨水が降り注いで打ち付ける。寒さ、冷たさ、痛さ… どれも全くしのげないが距離は短いので頑張るしかない。濡れた路面が滑るのが怖そうだが北見駅に到着した。まずは雨宿りをする。
雨が止んだところで、地図を挟むためのクリップがさびて弱くなっているので文房具屋に立ち寄ってから、駅から予約しておいたホテルへと向かう。チェックインを済ませたら預かってもらっている荷物を受け取って台車に載せて部屋へと運ぶ。慣れた手つきで段ボールを開梱して荷物をまとめていく。特に致命的な忘れ物もなく順調な旅の始まりである。
ホテルにある温泉で入浴を済ませたら、夕飯を食べに行く。北見と言えば焼肉ということでホテルの斜め向かいの焼肉屋さんへ行く。牛肉に羊肉もあり、旅に向けての鋭気を養い元気をもらっていく。 |

白花豆の畑
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白花豆 X字の柱と花
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北見から見えた虹
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2日目 |
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北見 → 美幌 → 女満別 → 網走 |
79.56 km |
2017/08/11 |
朝から雨が降っている。これで順調に2連敗となるかと思われたが、ダラダラとキャリアを付けて準備していたら雨は止んだ。1日目と呼ぶべきか2日目と呼ぶべきか迷う日だがフル装備になっての旅が始まった。天気がそんなに良くない分、景色にも見所はない。その分だけ走りに集中するだけである。目的地は網走と近場ではあるが、網走監獄資料館を見たいので早めに網走へ辿り着きたい。
美幌に近づくとアップダウンが大きくなってくる。峠と呼べるほどの坂ではないが、ジリジリと上る坂道に苦しめられる。大きななだらかな丘を坂道で越えていく。今日も寒くて暖まらない体に苦戦している。想定より遅れ気味で美幌まで来たところで昼飯にする。セイコマホットシェフの弁当にする。店内に調理師がいて調理される暖かい麻婆ナス丼は体も心も温まる。 体へのチャージが完了したら続きの走りに入る。女満別空港の近くまでは平らな道が続く。女満別から道が少し曲がったので風向きも追い風でもらえる。ややペースが上がりながら進む。こなすだけの走りは軽い方がありがたい。女満別空港へ入る分岐で地図のページを切り替えていて、ふと気づくことがある。北海道の民家にはガレージが多いのだ。家が古くても車庫だけは新しいのもある。やはり凍結や積雪を避けて楽に出発できるようにしたいというニーズが現れているのだろう。 |

北見のホテルを出発
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セイコマの麻婆ナス丼
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ちょっとした丘の上に続くリゾート的な道を進むと道の駅めまんべつに辿り着く。積極的活用が期待されそうな非常食として大空町のミートソースとスパゲティを買っていく。やはりフル装備の初日はしんどいもので、疲れた上半身をストレッチして先の走りに備えていく。順調に網走に向かって、天都山へ上る道の分岐の時点で15時前という状況である。山の上までは上らないが、網走監獄資料館までは行きたい。山の中腹なので上り坂を覚悟して気合いを入れて上り始める。しかし、ほとんど上らないまま辿り着いた。
意外と立派な建物で網走の監獄を再現している。元々の場所からは移転してきたとのことだが、山の中に広い敷地があって再現されている。刑務所らしい仰々しい門から入って、独房や風呂を見ていく。限りなくリアルを追求した展示は見応えがある。旅先でのスタンプ収集も大きな活動成果になりつつある俺にとって、敷地内のスタンプラリーも見逃せない。急ぎ足ですべてを見て回るよう歩き回る。メインの牢獄は監視室から放射状に廊下が並んでいて、脱獄を試みる人の蝋人形も再現されている。気になる監獄の歴史や作られた目的も明確で、今日の道東で旅を出来るのは監獄をはじめとした北海道の開拓のおかげであることが分かるし、鉄路で越えてきた北見峠も監獄の囚人による労働の賜である。農業や峠の開拓時に使われた宿舎など見所は多く満足感が多いまま閉館ギリギリまで見学していく。 |

道の駅めまんべつ チーズソフト
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網走湖
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風呂
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風呂もリアルに様子を再現
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中心から放射状の建物
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農業も行っている
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極寒の監獄を暖める暖房
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脱獄を試みる
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資料館から山を下って網走市街へ向かう。すっかり日が暮れて暗くなり始めそうだ。網走から実家に鮭を送ろうと思っていたが、どうも厳しそうだ。明日は峠越えなので朝は早い。再び海に出る標津まで持ち越しになりそうだ。
今日は走りきった喜びに浸る時間はないまま、網走駅前で情報収集する。残りの日数とかを考えると洗濯をしておきたい日なのでコインランドリーと風呂を探す。風呂は簡単に確保できそうだが、コインランドリーは駅前にはなさそうである。駅から南に進んだ場所とのことだ。海沿いから線路を越えて上がる場所をイメージして海沿いに出てみると、どこまで行っても陸側に上がる道はない。引き返すかどうか考えていると5km近く走ったところで踏切が現れた。ここで曲がっていくと、とんでもなくキツい坂が襲いかかる。だが、坂を登ると丘の上にもう1つの市街地が続く。誰もが名前を知るようなチェーン店の店が何軒も続く。大きめのスーパーなどもある。
公園探しには苦戦するというか、大きい公園に飛びついたら、ゲリラキャンプはしづらいものの炊事場までついてるキャンプ場がある。だが公園内の階段を上がった場所なので自転車で乗り付けるのは困難だ。よく見ると裏からアクセスする道も出てきた。有力候補の一つであることは間違いないだろう。しかしながら公園が向かい側にもあって、こっちは手軽にテントを張れてしまえそうだ。この暗さと時間なので自炊はしないので寝られさえすればどこでも良さそうだ。コインランドリーへも歩いていける。宿は決定だ。
風呂は網走駅前にしかないので、まずは一度テントを張って荷物を放り込む。空荷にして身軽にしておく。すっかり遅い時間だが、また網走駅方面へ戻る。海沿いから回らず直接丘を下っていくルートへ行く。結構な長い坂が延々と続く。ピークと思われるところを過ぎると急な下り坂が始まる。後で登ると思うと憂鬱である。日帰り入浴をやっているホテルの前に自転車を乗り付けて、風呂に入る。何はともあれ風呂には入らないと何も始まらない。
風呂から出た時点で21時半という遅い時間帯になってきた。また坂道を登っていく。空荷でもかなりしんどい坂道である。コインランドリーが坂の下にあれば、こんなところに行く必要はないのだがうまく行かないものである。日が暮れて寒くもなってきたので上り坂と言っても夕涼み感覚で坂を走っていく。
コンビニで夕飯を買ってテントに戻り、洗濯物を取ってコインランドリーへ行く。コインランドリーで洗濯しながら、外の地べたに座って夕飯を食べる。セイコマのパック入りパスタが意外と美味しい。遅れを取らないよう2日分の日記も書いておく。夜の11時過ぎに乾燥機もかけ終わる。洗濯物を圧縮袋にまとめてサイドバッグに詰めるところまでやったら眠りにつく。 |
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3日目 |
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網走 → 東藻琴 → ハイランド小清水 → 川湯 → 砂湯 |
80.65 km |
2017/08/12 |
朝から湿り気は多く空はスッキリしない。すぐ近くの木で戯れるエゾリスを見ながらテントを片付けて朝7時には出発する。網走のセイコマで朝飯を食べて走り出す。昨夜、上がってきた海からの道に下り、オホーツク海沿いに一瞬出る。網走は曇っていたが、視界の先にある知床連山と斜里岳はくっきりと晴れて見える。知床半島に続く山脈は本当に見事である。
そんな景色を長く楽しむことは出来ず、内陸へ向けて曲がる。左に湖を見ながら走りつつ写真を撮るのを忘れて通り過ぎる。ここからは晴れてきたのでサングラスを出して気持ちよく走って行く。人通りも車通りも少ない道を徐々に上っていく。最大標高は700m近くまで行くルートなので気長に対処していく。峠道の中腹にある町とコンビニが最初の目標だが、そこまでは順調に走り切れそうな状況である。ふと安心したところで、左に見たこと無い牧場が現れる。すらっと首と足が長く走り回るエミューが飼われている。鳥なので肉は美味しそうではあるが北海道にこういうのが居るというのは意外である。暖かい場所の方が飼育に向いてそうなイメージはある。 |

オホーツク海と斜里岳
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海の向こうに見える斜里岳と知床連峰
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エミュー牧場
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迫力と可愛さのエミュー
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少し走るとコンビニが見えてきた。最後まで楽な道が続くとは思えないところで、この辺りから傾斜がきつくなるのではないかと予想できる。どうせ気合いは必要なので、しっかり休んでいきたい。俺が行こうとしてる方向から下ってきたライダーさんと話をしながら状況を聞くと、ものすごい霧と風と寒さのようだ。自転車だと峠を過ぎるのは早くても4時間後ぐらいなので回復方向に向かって欲しいところだ。ここから山頂の方が見えてないので、まあ過度な期待はできないところだろう。
近くにある乳酪館に立ち寄っていく。この先は店らしい店もないだろう。今年から新導入の保冷バッグと凍ったペットボトルを冷蔵庫代わりにしていきたいのである。まずはカマンベールチーズのソフトクリームを楽しむ。わずかに効いたチーズの酸味と甘いミルクの味がよく合う。ここで、チーズとソーセージを買っていく。サイドバッグの保冷バッグに入れる。
屈斜路湖へのアクセスとしてはマニア向けのルートだからか同業者はいないし、追い越されたりすれ違ったりのバイクもまばらである。決して悪くは無いペースで坂を登りオートキャンプ場で休憩していく。営業中の割に昼飯も食べられないし、出来ることと言えば水の補給だけだが、500mlのお茶の方しか手を付けていないので、それだけを買い換える。俺みたいな一人旅には向かないが、車で買い出しも何でもできる人には良さそうだ。
中途半端なところで休憩を入れたせいかペースが落ちまくって進まなくなった。カーブをいくつか回ると下界が見える場所に出る。天都山や浜小清水の方まで見下ろして遠くには知床連山も見える。ただ、残念なことに標高はどう見ても300m程度までしか登ってなさそうな下界である。先の長さを考えるとげんなりするし、この程度までしか登ってないのに昼を回っている。どう考えてもお昼ご飯が欲しくなる時間帯で店のある場所までいけそうもないので、眺めの良い場所で手持ちのパンを食べる。水の飲み過ぎに気をつけながらパンを食っていく。北海道のソウルフードである豆パンが意外と美味しい。
ここからは森の中を走る坂道に戻るが傾斜が急になってきた。おそらく5〜7%と思われる坂道である。北海道らしくグイグイと直進で登っていく。振り返ると森と森の間の道から海まで見渡せる。ギアはインナーに入れずパワーをかけて登っていく。せっかくの坂道なので足にパワーを付けてトルクがある走りを手に入れたいのだ。なかなかきつい直登を登り切ると、カーブの続くワインディングが続く。残念ながら霧も出てきた。ヘッドライトとテールライトを点滅させて発見性をあげる。カーブを曲がって直線を登る度に標高は上がっていく。その度に気温がグングン下がっていく。上り坂だというのに体の発熱より寒さによる放熱の方が明らかに上回る。手もかじかんできたし、サンダルと短パンで走ってる足も冷えて温まらない。
やっとハイランド小清水のキャンプ場入口へ辿り着く。もう峠は近い。キャンプするのが嫌になりそうなほどの濃い霧に包まれている。カーブを数本越えて登っていくと、目の前で道が下り始めている。ようやく峠に着いたようだ。喜びをあらわそうとした時、右に曲がる分岐があり、ハイランド小清水はこの先のようだ。こんなに視界がないときに、これ以上の道を上る価値は感じないが、目標としていた峠なので入って行く。
ここまではフロントのギアをセンターで登ってきたが、傾斜がさらに急になったのでインナーに落とす。そして、ここからがきつくて長い上り坂である。追い越される車に「こいつ 何してるんだろう」という目で見られながらハイランド小清水を目指す。寒さと筋力疲労の限界が見えてきたところで、行き止まりの駐車場へ辿り着いた。この夏で最大の山場を無事に登り切った喜びは大きい。喜びをかみしめてガッツポーズをする。
登っている間は自己発熱で寒さに勝とうとしたが、サイドバッグのポケットからウィンドブレーカーを出す。空気も冷たいが風も強い。着込むと肌に直接風が来なくなるだけマシになった。展望台に建物があるので、そこに避難する。建物の中はストーブが焚かれているので暖を取る。半袖の短パンとサンダルという格好で暖を取る姿は滑稽であろう。ここには軽食を出す店があるので、暖かいコーヒーと芋餅で暖まる。熱いコーヒーと暖かいみたらし味の芋餅で本当に生き返る。一応、展望台だが真っ白な絶景が目の前に広がっているだけで何も見えない。 |

ひがしもこと乳酪館
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チーズソフトクリーム
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網走方面を見下ろすが、
標高的にはまだまだといった眺め
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斜里方面にも眺めが広がる
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まっすぐに上る急な上り坂
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ハイランド小清水725
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標高725mからの眺め
真っ白・・・
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とにかく駆け込む
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熱々の芋餅と湧き水コーヒー
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体が少し温まったところで出発する。グローブもMTB用のフルカバーに変更する。末端のコントロールが下り坂では重要だ。手がかじかんでブレーキが遅れてコントロールを失うなどという事態は避けたい。強い横風にあおられないよう踏ん張りながら自転車をコントロールして坂を下っていく。霧で視界も悪いので左寄りで走れる速度でコントロールする。
道道に出て屈斜路湖方面へ下る。ここも慎重そのものでいく。しばらく下ると雲が頭の上にいったので視界が開けてきた。これは本当に気持ちの良い眺めで左はオホーツク海方面が広がり、右には屈斜路湖が見えてくる。展望台では屈斜路湖がはっきり見えるので、しばらく景色を眺めていく。空と湖の色がきれいに出る天気だったら最高なのだが、視界があるだけでもありがたいと思おう。オホーツク海側は笹の原が続く向こうに森と海が見えている。
眺めを楽しんだら続きの下りに入る。厳しい霧の中を下って度胸がついたので、ここからの下りは大胆かつ慎重に攻め込んでいく。車がほとんどいないのでアウトインアウトで車道を広く使って速度を上げていく。坂を下りきり川湯温泉が近づくと畑と硫黄山を目の前に見ながら走る絶景が続く。最後まで楽しめる峠である。 |

下り坂から斜里方面の眺め
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藻琴山展望台から屈斜路湖の眺め
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硫黄山が目の前に見えてくる
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屈斜路湖に向かって広がる草原
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川湯温泉の街に入ると、買い出しできるところを念のため求めながら流していく。旅館が多いので店はないと思ったら、セイコマがあった。これで一気に形勢逆転である。野菜やワインを買っていく。今夜はチーズとソーセージにワインという組み合わせで晩酌が楽しめそうだ。買い物袋をぶら下げながらドロップハンドルを握って砂湯を目指す。しかし、いつまで経っても湖沿いの道に出ない。想定と逆の硫黄山へと出た。完全に逆方向へ走っているようだ。
往復8km近い道間違いをして川湯温泉へと戻ると、もう真っ暗である。屈斜路湖沿いの真っ暗な道を砂湯へと向かう。寒さも増してきた。真っ暗で何も見えない道に頼れるヘッドライト2本で走る俺にも疲れが隠せない。7km程度の道が長く感じる。
そして目の前には大量のテントの明かりが見えてきた。砂湯キャンプ場に到着だ。お盆とあって激混みである。俺の小さなテントですら張る場所が確保できるか怪しい。砂湯の湖岸を眺めるベンチの上に倒れ込む。疲労の限界が来てしまった。いつの間にかヘッドランプの電池が切れていたので自販機の明かりで照らしながら電池を交換して、キャンプ場のテントを張る場所を探しに歩く。混んでるが何とか張るスペースは見つけた。隣のテントと近いと嫌がられるのだが、これだけ混んでる時期なら仕方ないだろう。近くの木に自転車を立てかけてテントを張る。ペグもしっかり打って荷物をテントの中に入れる。
着替えと風呂セットだけを小さいバッグに詰めて、温泉へ行く。近くの池の湯温泉で風呂に入れるはずだし、行ったこともある。しかし、走っても走っても池の湯が見当たらない。場所を示す看板とかもあったような記憶がある。当時はスマートフォンなど存在しないので目視だけでいけたはずだ。明らかに行き過ぎたと思う距離でスマホの画面を見て引き返す。さらに霧雨が濃くなってきて雨と同じような感じになってきた。スマホを頼りに池の湯へ行く。すると、立て看板があって藻が生えているため入浴禁止と書いてある。終わった。雨の中を砂湯に引き返す。 |
ずぶ濡れで砂湯キャンプ場に戻る。汚いわ寒いわ冷たいわで地獄の気持ち悪さである。テントの前で着替えて夕飯にする。まずは小さいコッフェルでお湯を沸かして北見で買ってきたインスタントのオニオンスープを飲んで体をたためる。残ったお湯でソーセージを茹でる。とにかく暖かい物で酒を飲みたい。飲まないとやってられない。ソーセージとビールで晩酌はスタートする。肉の旨みや肉汁がたっぷりで歯ごたえも満点な味はビールと合う。
特大コッフェルを火にかけてお湯を沸かす。パスタを茹でるべくスタンバイする。その間にカマンベールチーズを切る。四角い箱に入ってても中身は丸だろうと思ったら、大きな四角で、ものすごくでかい。豆腐一丁分ぐらいのイメージだ。これはカマンベールだけで飽きるのは確実だ。だが、味は最高に美味い。ねっとりと柔らかい口当たりに癖の無い酸味が効いてて絶品である。その間にお湯が沸いてパスタの麺とレトルトのミートソースを入れる。7分茹でている間にチーズ盛り合わせを包丁で刻む。ミートソースに合わせる粉チーズの代わりである。ゆで上がったらお湯を切って具を麺にかける。すべて北海道の大空町産の麦や肉やトマトを使った贅沢なミートソースに、これもまた大空町産のチーズを合わせる。削るように作ったチーズでは無いので溶けないが、パスタと合う。トマトの味も肉の味も濃く麺から漂う麦の旨さは絶品である。買ってきた白ワインも飲み始める。するとカマンベールが進み出して止まらない。1本空けた。
疲れている上に、腹いっぱい 酒いっぱいでフラフラになりながら片付ける。当初の予定だと今日は高低差の勝負日、明日は距離の勝負日ということで標津まで90km近く走ろうと思っていたが、どう考えても無理だろう。ちょっと計画を見直す必要がありそうだ。ヘトヘトながらも北海道の大地から得るものも大きい夜に眠りについた。 |

凍ったペットボトルと保冷バッグで
実用的な冷蔵庫を入手?
寒かったので実力は計れず
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現地調達のワイン
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大空町ミートソーススパゲティ
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乳酪館のソーセージ
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乳酪館のカマンベールチーズ
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4日目 |
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砂湯 → 弟子屈 → 中標津 |
73.51 km |
2017/08/13 |
朝から頭が痛く体がしんどい。疲れと二日酔いだ。足もパンパンで筋肉痛である。足だけで無く上半身もきつい。腕や肩や背中も筋肉痛がある。ダラダラと撤収する。スピードが上がりようもない。10時に撤収が終わるという体たらくである。キャンプ場の料金を後追いながら支払って出発する。11時近い時間帯になっている。
昨夜の雨で濡れた路面を流して屈斜路湖沿いを走って行く。森の中なので湖はほとんど見えない。屈斜路湖は上から見る湖である。屈斜路湖から流れ出る釧路川沿いを弟子屈(てしかが)へと進む。ここに来てありがたい下り基調の道である。この道を走っていると徐々に調子は上がってきた。二日酔いは解消し、筋肉痛がありながらも軽い負荷で積極的休養として働きそうだ。昨日のトルクを付ける走りというのは決して悪くは無かったようだ。
出発して15km程度しか走っていないが弟子屈で昼食にする。ここを過ぎると中標津ぐらいまでは街がありそうもない。おそらく夕方までかかると思う距離である。蕎麦にするか摩周豚の豚丼にするか迷うところである。すると、両方ある店がある。豚丼と蕎麦のミニサイズがセットになっているので、それを頼んでみる。豚丼は肉もたれも美味しい。自分で調合して作ると単純な味になってしまうが、複雑な味が楽しい。蕎麦も香りが良い。たれだけ売ってたので、後の自炊で使いそうな気がして買っていく。 |

混みまくる砂湯キャンプ場
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屈斜路湖
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屈斜路湖畔から出発
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屈斜路湖のUMA
ネッシーからのクッシー
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早めに来たのが正解
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阿寒ポークの炭焼き豚丼とそば
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想定外だが、弟子屈からは上り坂が始まる。じわじわと登る北海道らしい坂道が延々と続く。天気は相変わらず冴えなく寒い。しんどい坂を登っていくと、森から牧場へと景色が変わり見渡せるようになる。牧場のスケールを楽しみながら坂を登りスノーシェルターの中をくぐっていくと、峠と言うほどではない峠を越える。
峠を下っても、なだらかな牧草地の丘をアップダウンする道が続く。昨日の疲労が足に襲いかかる。思い通りに走れないところだが、上り坂は我慢するしかない。予想より多い坂道で何度もダメージを食らいながら走るが、意外と早い時間帯に中標津の手前20kmまで来た。順調にいけば中標津で17時、19時まで残業すれば標津というのも見えてくる。ちょっと俺の中で色めき立った。 |

弟子屈から標茶へ向かう丘
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コンビニで休憩して出発しようとしたら雨が降ってきた。レインウェアを着ないでしのごうと思ったが、雨足はどんどん強くなる。冷たく痛い雨にレインウェアを着て走る。標津まで行ってしまおうかという気持ちが無駄に盛り上がった俺を冷やし、中標津ゴールの決断を促す。
雨が降ったとたんにペースは落ちて、中標津に入る直前のコンビニで休憩した時点で17時を過ぎた。雨をしのいでる間に中標津の風呂や公園の情報を調べる。どっちも何とかなりそうだし選択肢は多いようだ。今夜の宿は中標津に決定である。元々の計画では今日は標津で明日は野付半島往復を含む予定だったが、今日は中標津で明日は野付半島はキャンセルで別海まで直接行くルートに変更とする。
そうと決めるとペースも緩くなる。完全に暗くなった18時に中標津に到着する。盆踊りがあるようで提灯が道に並んでいる。温泉はすぐに見つかり閉館時間も確認したところ22時と余裕はありそうだ。スーパーはセイコマも含めて何軒かはあるので心配ない。公園は目を付けていた大きいところに行けば雨をしのいで寝られる場所も見つける。暗くなってからの活動だが効率よく今夜の方針が決まっていく。 まずは温泉に行く。昨日は風呂に入りそびれたので今夜の温泉はありがたい。体の芯まで温めて疲れを落としていく。次にスーパーに行き夕飯の買い出しをする。夜なので割安になっている刺身を少しずつ買う。標津産の鮭も売られている。買い物袋を下げて公園に戻り、テントを張って荷物をテントに放り込む。濡れた荷物は東屋の中の手すりで干す。 |
まずはご飯を炊く。釧路の鰯、ホタテ、タコの刺身をご飯に載せ、山わさびをすり下ろして載せて海鮮丼にする。売れ残りとは言え新鮮なので美味しい。わさびとは違う辛みがある山わさびは北海道の魚介とよく合う。フライパンにモヤシを敷いて鮭とキノコを載せてアルミホイルでふたをして蒸し焼きにする。今日も焼き加減は絶妙に仕上がった。ふわっと柔らかい鮭とモヤシは合う。
全体の走行計画を再度確認して、洗い物を済ませてから眠りにつく。 |

標津産鮭のホイル焼き
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5日目 |
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中標津 → 標津 → 尾岱沼 → 別海 |
77.52 km |
2017/08/14 |
野付半島カットとは言え、別海までは距離のある走りだし途中のポイントでキャンプできるところはないので走り切りが重要な今日である。テントを片付けようとしたら、目の前の川からカモの親子たちが上陸してきた。ひなは少し成長しているので小ガモ感は少ないが、親鳥について歩く姿は可愛い。カモの群れが俺の自転車の回りで戯れている。刺激しないようにパッキングを済ませる。ついでに緩んでしまったバーテープをビニールテープで固定し直す応急処置もする。端っこの処理が甘かったのだ。
セイコマで朝ご飯を食べて出発する。相変わらず冴えない空と寒い空気の下を走り出す。2014年の夏に逆コースを走っているので勝手が分かっていて気楽な道を流していく。ほぼ平らな道を標津へ向けて下っていく。途中にある斜里岳が見渡せる展望台にも立ち寄る。しかし、斜里岳は全く見えない。同じコースを晴れてる状態でリベンジしたいほど曇り続きで何も景色が楽しめていない。 しばらく進むと左に大きな鳥が見えてきた。なんとタンチョウだ。しかも、つがいとヒナという貴重な組み合わせである。湿原でエサをついばんでいる姿がしばら見続けられる。刺激しないように注意しながらカメラを構えて写真を撮る。タンチョウと言えば釧路湿原近辺のイメージしかなかったが、この辺りでも見られるとは意外である。 |

屋根で雨をしのぐ
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バーテープの修復と補強(赤)
周りをカモの親子が歩き回る
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牧草地でえさを探す
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タンチョウの親子
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タンチョウを見た後はスムーズに走り抜いて海沿いへと出る。これで標津に到着である。やはり昨夜のうちに走っておくのは無理だったと思えるぐらいの距離感はあった。海沿いが標津の街で、実家に送る鮭を買う店を探す。この時期ならホッカイシマエビも美味しい。しかし、思ったほど海産物の直売店がない。漁協直売を狙っていたが、ちょうど休みだ。2つ見つけて1軒目を見たら鮭はあったが塩鮭ではないし数も少ない。もう1軒見ても鮭を扱わない珍味専門店なので、実質1軒しかない。それでも人の良い主人のもとで、急速冷凍されて生でも食べられる鮭、目に入れても痛くないほど可愛い姪っ子が大好きなイクラ、この時期が旬のホッカイシマエビを詰め合わせにして実家へ送る。今ならお盆に集まっているみんなで楽しんでもらえそうである。
大仕事を終えたら、北方領土の資料館を見ていく。標津の真っ正面には北方領土の国後島が見えるぐらいの距離なので、その思いを見ていく。それを終えたら、昼飯にする。よさげな食事処を見つけたので入ってみる。ライダーや地元の人もいるようで賑わっている。鮭の漬け丼とシマエビにする。漬けになった鮭は身が柔らかく旨みも多い。鮭のあら汁も出汁に旨みが出まくっている。今が旬のシマエビは身は歯ごたえがよく頭からも身からも旨みが多い。標津の美食に満足する。店から出ると寒さに耐えているライダーとの話になるが、今年は「寒い」という話題しか出てこない年である。バイクは特に自転車と違って体の発熱が少ないのでウェアを着込むしかないだろう。
ここからは比較的平坦なオホーツク海沿いの道がしばらく続く。曇って物寂しげなオホーツク海の向こうには野付半島が見える。1998年の旅で野付半島には行ったことがあるのだが当時は快晴だった。今回のような曇りや霧だとどういう雰囲気になるのか行ってみたい気もするところだ。海抜0mに近い頼りない高さの半島ではあるが、これがどこまでも続く。半島のこっち側の海はどこまでも穏やかである。尾岱沼(おだいとう)まで行くと半島の影がなくなり、今度は湿原と蛇行する川がオホーツク海と合わさる格好になる。これも北海道らしい絶景である。 昔キャンプした尾岱沼キャンプ場を過ぎてしばらく進むと道の駅おだいとうに着く。ここには国後島を見渡せる展望台や資料館が併設されている。島は全く見えないが資料館を見たらソフトクリームを食う。寒さは我慢する。トッピングしてある蜜が絶品だ。道の駅でも寒さに耐えるライダーと話をして出発する。最寄りのユニクロ、シマムラまで軽く200km以上はあるので買うことすらできないのだ。この辺りからは寒さが厳しさを増して、海から吹き付ける風が体を直接冷やすようになってきた。ウィンドブレーカーは下り坂だけと決めていたが着ることにした。耐えられない気温である。
上半身が少し温かくなると調子が上がってきた。熱くなればフロントジッパーで空気を入れ換えて体温を下げれば良いし何とかなりそうだ。問題は足である。寒さを全く防げないまま無防備な状態で風に耐えている。真っ直ぐなオホーツク海沿いの雰囲気を楽しみながらも厳しい走りは続いていく。夕方の17時前には別海へ曲がる分岐まで来る。ここで休憩すると左足の裏側に違和感を感じ始めてきた。膝を伸ばすと痛みが走る。休憩しながらストレッチするも改善がされない。
ここから内陸に上がる道は上り坂を覚悟して走り出す。しかし、意外と平らで気楽に走らせてもらえている。海から吹き付けていた風は追い風として作用する。今の俺には助かる風である。徐々に道は暗くなってくる。車はほとんど来ないがライトとリフレクタで発見性を確保しておく。ここに来てエゾシカを何回か見かけるようになってきた。牧場や湿原を貫く川沿いの道で別海まで近づく頃には真っ暗になっている。 18時にやっと別海まで来た。今日はキャンプ場が使えそうなので夕飯の食材を買っていく。自転車にまたがる時に左膝の違和感がピークに来る。別海は今日は盆踊りか何かあるようで提灯がつるされた台が作られている。キャンプ場に辿り着くと、ものすごく混んでいるしイベントをやっている。受付に行ってみると16時までだと言ってくるが、それでも泊まると言えば一応嫌々ながら受付をしてもらえる。次から次に普通のキャンプ場なら出来ることを並べてあれをやるなこれをやるなの連発。自転車は邪魔で危ないからテントの近くの地面に倒しておけだの上から指示をしてくる。しまいにはサイト内は直火禁止だからガスを使うなとまで言ってくる。レジャーシートの上で火を使って変形したことも燃えたこともないのに何が問題なのだろう。知識が著しく欠乏してるローカルルールがひどい。もはやキャンプ場を使う意味すらない状態である。サイト内に食事をするためのテーブルだってあるし何とでもなるが、とにかく俺に何もさせたくないようだ。本当に不愉快そのものである。公園で野宿する方が100倍快適である。相手にするのが面倒なので はいはいと従うだけだ。 |

標津からの発送品
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鮭の漬け子丼と潮汁
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ホッカイシマエビの塩ゆで
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尾岱沼 湿原を流れる川
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野付半島と北方領土を望む
雪みつ(ホエー、レモン、砂糖)の
トッピング付きソフトクリーム
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銅像の向こうに国後島が見える
(今日は見えない)
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繁忙期に遭遇する田舎の客商売には2つのタイプがある。混んでる状況に慣れないという背景があるのだが、それを申し訳ないと思ってるところ、忙しさ(=自らの無能さ)を客のせいにして当たり散らしてくるところ。このキャンプ場は当然
後者である。そして都会から来ている俺はこういう”田舎”を心の底から軽蔑し見下し二度と来ないし人にも勧めない。ここはその一つである。
キャンプ場から歩いて行けるところにある温泉で暖まったったらキャンプ場に戻る。炊事場の隣のテーブルで買ってきた食材を料理する。別海産の豚肉と昨日買ってきた豚丼のたれで豚丼を作る。ご飯を炊いて豚肉をフライパンで焼く。厚切りの豚肉の筋を丁寧に包丁で切り反り返らないようにしておく。豚肉を焼き終えたらたれをかけて温める。それをざっとご飯にかけて、炒めたアスパラガスを添えて、山わさびをすり下ろして完成だ。さすが、弟子屈のくまうしの豚丼のたれだ。本当に美味い。俺が適当に作ってもこんなに美味いとはありがたい。
食器を片付ける頃には、また霧が立ちこめてきた。テントに戻って眠りにつく。 |

くまうしの豚丼のたれ
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自家製の豚丼
白いのは山わさび
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6日目 |
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別海 → 厚床 → スワン44ねむろ → 春国岱 → 根室 |
70.02 km |
2017/08/15 |
今日は何があっても達しないといけないことがある。日本最東端の道の駅であるスワン44 ねむろに開館時間中に行くということだ。構造にもよるが17時がリミットといったところだろうか。しかし、左足の痛みは相変わらず残っている。テントを片付けて、無言で受付のタグを返したが、普通の客商売ならある挨拶もされることなく、二度と来ることは無く、次に来た時に単なる公園にでもなってて欲しいキャンプ場を後にした。
コンビニで朝飯を食べてから、根室へ向かう途中にある展望台へ向かう。展望台というだけあって牧場が並ぶ丘の上へ向かう容赦ない坂を登っていく。少し晴れ間が見えてきたので眺めが期待できそうな状況に変わってきている。坂道を上り詰めると、鉄骨で組まれた展望台が見えてきた。正直、上るのが怖いぐらいフェンスが低く風も強い。一番の要因は風の強さだろうか。それでも遠くまで続くスケールの大きすぎる牧場の眺めはすばらしい。しかも、奇跡的に晴れてきた空に牧場の緑が映えている。 高さが怖いのでいつまでも居てられない展望台を降りて、出発する。マイナーな農道でほとんど車が来ない道を走っていく。ただ、アップダウンはものすごく激しく体力は削られる。しばらく進むと、左にまたタンチョウのつがいが見えた。刺激しないよう観察し続ける。エサをついばむ姿も優雅だ。見終えたら走り出すと、左カーブの右側の牧場に3羽のタンチョウがまた見えた。しかも距離がものすごく近い。道を渡りつつガードロープに寄っていくと驚いて飛び立ってしまった。脅かすつもりは全くないのだが、非常に申し訳ない。だが、空を飛ぶ姿はさらに優雅でしばらく見とれてしまう。これで今回の旅だけで8羽を目撃したことになる。タンチョウ運がすごい。 |

上るのが少し怖い展望台
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別海の大牧草地帯
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牧場を貫くまっすぐな道
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また見かけたタンチョウのつがい
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坂を下って国道に戻り、厚床を目指していく。ツーリングマップルに書いてあって気になる牧場直営のレストランでの昼食を目指している。湿原の間の道を抜けて、坂を登ると右に見えてきた。もちろん寄っていく。自転車を置いてレストランの方へ入ると席も空いていた。キャンプ場併設なので、ここでのキャンプも楽しそうだ。短角牛のステーキとカプレーゼを頼んでみる。カプレーゼはトマトの濃厚な旨みに甘みを感じるモッツァレラチーズがすばらしくよく合う。素材の良さをとことんまで感じる一皿だ。短角牛のステーキは赤身の旨さが味わえる。このランチには大満足だ。 牧場のヤギと戯れて出発する。12時に厚床まで来てるので走りとしては順調だ。ここから根室まで35kmあるが、道の駅までなら25km程度かと思われる。アップダウンはおそらく多いだろうけど頑張るしかないだろう。17時のリミットと考えれば、十分に行ける距離である。 |

見るからに楽しそうな
牧場直営のレストラン
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トマトとモッツァレラチーズ
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暖かいスープがおいしく感じる気温
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短角牛のステーキ
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人懐っこいヤギ
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厚床を出発する時点で13時半。進捗として狙いより少し遅いものの、根室まで35km、おそらく道の駅までは25km程度と思われるので、おそらく時間内にたどり着けるだろう。厚床を出ると旧標津線の廃線跡をまたぐ跨線橋があったり北海道の鉄道が徐々に廃止されていく現実を知るものがある。今回の旅では最東端を訪ねてみたいという思いもある。未踏(通った当時は道の駅がなかった)だった道の駅 日本最東端を制することで日本の東西南北を制覇したいという新たな部分もあるが、最東端までの鉄道が廃止検討されているという話もあり今のうちに再度行っておきたいというのもある。
根室に向かう国道44号線は大きなアップダウンもなく快調に飛ばしていける道であるが、刺激が全くなく自転車で走っていても少し眠くもなってくる。牧草地か湿原が続く単調な道を走っていくしかない状態で特に寄り道する場所もない。良く言えば北海道らしさを感じる道でも有り、走りに集中できるので、閉館予想時間よりは遙かに早く余裕を持ってたどり着けるのではないかと思われる。
ランドマークもないし地図上は距離の刻み方が雑で中間地点の距離が分からないので、どこまで進んだかは正確に知るのは難しいところだが、風蓮湖に面した道の駅へ近づくにつれてアップダウンも出てきた。ようやく面白くなってきたと言うところだが、景色の変化はほぼない。気になるとしたら、幹線国道だと言うのに熊出没実績を表す注意書きが何度も出てくることだろう。しかも、出没した日付が結構な最近だ。そうなってくると、出てくる熊を見てみたいという発想にもなる。自転車では角館から秋田へ向かう途中でツキノワグマを見ただけでヒグマ経験はない。知床の高架木道や観光船からは見たが緊張感がない。
アップダウンを越えて坂を下ると道の駅が見えてきた。結構、立派な建物が風蓮湖に面して建っている。左に曲がって道の駅の敷地に入り自転車を置いて建物の中に入る。最東端をもっと前面に押し出して欲しいが控えめだ。スタンプ台を見るとスタンプには最東端とかろうじて書いてある。何はともあれ、全て自走で日本最北端 稚内(北海道)、日本最南端 糸満(沖縄県)、日本最西端 豊崎(沖縄県)に続いて、日本最東端 スワン44ねむろを制したことになる。旅の途中で道の駅には必ず立ち寄っている重要な場所ではあるので、この四極制覇は達成感がある。
別海産の牛乳をふんだんに使ったソフトクリームを食いながら、ガラス越しに風連湖を眺める。湖の向こうにも深い森が続いていて自然の豊かさを感じる湖だ。春国岱(しゅんくにたい)をトレッキングするようなアクティビティもあるようだが、それも楽しそうだ。建物の外には展望台もあるので行ってみるが、湖に面しているからか蚊とアブの襲来が激しい。ハッカ油や虫除けスプレーを持たずに行ってしまったので早々に引き上げる。 |

道の駅 スワン44ねむろから
眺める春国岱
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巻きがすごいソフトクリーム
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道の駅 日本四極制覇
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道の駅から東へ向かうと、すぐに春国岱(しゅんくにたい)に面した道に出る。だが電柱や家が並んでいるため写真が撮りづらい。入り込んでいかないと楽しめなさそうだ。そこから坂を少し上るとビジターセンターがあるので立ち寄っていく。春国岱の自然や動植物の生態を展示してある。手つかずの森と湿原と湖に多くの生き物がいる。次に来るときはゆっくりトレッキングをしたいと思うような場所である。
春国岱を過ぎると、一度干潟を橋で渡り根室の市街地へと向かっていく。ここからがなだらかな丘を何度も上り下りする体力的に少しずつ削られていくルートである。しかも、日が暮れ始めていて時を追う毎に寒くなっていく。走りながら途中にある大きめの公園も見つけるが、もう1本坂を上って根室駅などとアクセスの悪さに気付いたら自ら却下しつつ進めていく。
日も暮れかかって暗くなってきた18時に根室駅へ到着した。とにかく寒いのでウィンドブレーカーを出して着込む。駅から海の方へ下ったところに公園も銭湯もありそうだ。それが分かったところで、いったん休憩した後で用事をこなしに走る。 |
今日は根室名物のエスカロップをどうしても食いたい。狙いを付けた店は21時までの営業なので、風呂に入ってからでも間に合いそうではあるが、銭湯へ行く途中で見つけたので夕飯を先にする。外の寒さと裏腹に店内はほどよく暖房が効いていて暖かい。真夏だというのに暖房が心底助かる。エスカロップに付け合わせたコーンポタージュで暖を取る。夏の旅とは思えない食事である。続いてエスカロップが出てきた。バターライスにトンカツとデミグラスソースでガッツリで暖まるし元気が出てくる料理だ。
元気をもらって風呂に行こうとすると、ちょうどエスカロップは材料切れか売り切れとなった。風呂より先に飯という選択は正しかったようだ。テントを張ってから空荷で行けば良かったと後悔するぐらいのアップダウンの上に、やや道に迷いながら銭湯を見つける。根室は銭湯を巡る巡回バスまで整備されているほど銭湯を重視している。旅人にとっては助かる町だ。エスカロップに続いて風呂でも暖まり、狙いを付けていた公園へ行き、奥まっていて人通りはなさそうな芝生の木陰にテントを張り荷物を放り込んで眠りにつく。今日の寒さは正直 旅を続ける上できついレベルだった。 |

暖かいコーンポタージュがほしくなる
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根室名物 エスカロップ
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7日目 |
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根室停滞 |
0.94 km |
2017/08/16 |
朝、悲劇が訪れる。一昨日に感じていた左膝の違和感をかばいながら右中心で頑張ったのと寒さが効いてしまったのか、右膝に激痛が走り曲げることもできないし、無理に曲げても伸ばすのに力を入れると悶えるほどの痛みが走る。左もわずかに痛みを感じる状態だ。今日は納沙布岬までの往復を予定していたが朝からは走れなさそうだ。さらに猛烈にトイレに行きたいが立ち上がって歩くだけで痛みを感じる状態である。テントから這い出て近くの木に捕まって立ち上がり、左足だけでケンケンをして事を済ませる。
とりあえずは何もやりようがないのでテントに戻り、痛みが出る場所に手持ちのバンテリンを塗りまくり、しばらくゴロゴロして安静に過ごす。2時間ほどすると痛みが少し引いてきて可動域が広がってきた。また、さらにバンテリンを塗って寝ると10時頃には起床時の半分ぐらいのイメージまで改善が見られた。あまり人が来ない公園なので、さらに安静にしてると、だいぶ良くなってきた。
少しぎこちない状態だが、何とか歩けるようにもなってきた。午後に向けて自転車に荷物を積むべく動くがパッキングまでは、ほぼ問題ない状態になってきた。しかも、よりによって今まで曇りや雨が続いたのに、今日は天気が良くて暖かい。今日走らなくていつ走ると言いたくなるところだ。パッキングを終えて芝生の上で自転車を手押しして、アスファルトに出たところで右足からまたがると、動きがぎこちなくて跨がりきれない。右足を軸に左をあげると、右膝に激痛が来る。仕方なく自転車を大きく斜めに倒して低くして右足をあげて跨がれたが、漕ぐのは無理なほど足が曲がらない。
立ちごけしながら自転車を降りて、押して歩いて寝てた公園の向かいにあるイオンのショッピングモールに歩いて行く。足にバンテリンを塗るのは忘れない。何はともあれ昼飯だ。1999年の旅でも来た記憶のある回転寿司へ入り、北海道の海の幸を満喫する。徐々に足の可動量が戻っていく。イオンモール内を歩き回りながらリハビリっぽいことをしていく。14時ぐらいになると歩きは全く問題なくなってきた。 |
ここで俺は現実に戻らないといけない。一人で旅をすれば体の異常も自転車の異常もアクシデントも全部 自分で解決しなければならない。また公園のベンチまで歩いて、ベンチに横になりながら地図を読む。1日ロスした分を踏まえてどうするかの行動計画を考え直す。当初の予定では今日は納沙布岬までの往復、明日は花咲の車石を見て太平洋沿いに走って霧多布岬までの90km近い道のりを走る。明後日は霧多布湿原や岬をトレッキングして厚岸まで、3日後は厚岸から釧路まで走って終了という予定である。1日減ったので、明日は納沙布岬への往復。明日になって再発すれば根室に滞在して釧路へ向かうのを断念する。それ以降での再発を想定して輪行撤収できるコースを選択するので海の方へ向かうのを断念とする。順調にいけば、明日は納沙布岬への往復と花咲の車石への往復。明後日は厚岸までの80kmで国道44号を走る。3日後は厚岸から釧路ということでリカバリができるだろう。ついでに、スマホで見てホテルを予約して今夜のキャンプは回避する。楽天だと見つからないがトリバゴに加入して探すと駅前に見つけた。
夕方の4時まで休んだところで、自転車を押して歩いて駅へ向かう。乗れなくもなさそうだが無理をして転倒したら、体にとどめを刺す結果になりそうなので慎重に行く。予約していたホテルの駐輪場に自転車を入れて、チェックインを済ませる。古くて安い宿だが、今日の俺には助かる。ホテルから根室駅へ歩いて、駅で記念切符を買う。日本の最東端を示す切符が多く揃っている。ホームにも上がらせてもらい、最果てのホームの写真を撮りまくる。釧路より東は廃止検討という噂もあるが、旅の風情という意味では大事にして欲しい路線ある。駅の隣にある観光案内所でスタンプ集めをし、情報も収集していく。百名城の一つが納沙布岬へ向かう途中にあるようで興味深い。
旅を20年近く続けると街の変化も旅人の変化もあるからか、駅が中心の街が徐々に減ってきたように思える。根室の駅前もそんな寂しさを少し感じるところがある。
駅での情報収集を終えて歩いてホテルへ戻る。ここでも実感するが足は回復したようだ。ホテルで少し時間をつぶしたら夕飯を食べに出かける。エスカロップの元祖と言われる店は根室の駅前にある。昨日よりは寒さにさらされてないので暖かさを求める心はないが、やはりここでもエスカロップは温かい。揚げたて熱々のカツにバターライスとデミグラスソースがよく合う。なんだか元気が出てくる一皿である。
完全休養で鋭気を養って久々のテレビを見ながら、暖かいホテルの部屋で眠りにつく。 |

根室駅前
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鉄道 日本の東の果て
日本最東端の有人駅 根室駅
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元祖のエスカロップ
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8日目 |
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根室 → 納沙布岬 → 根室 → 車石 → 根室 |
63.19 km |
2017/08/17 |
足の調子を見ながら薬は忘れずに塗っておく。朝の具合としては足は調子が良さそうだ。歩いたり階段を降りたりする分には全く問題がない状態だ。パッキングを解いてない自転車の鍵を開けて、またがってみる。ペダルを回す範囲では足は十分に動きそうだ。何かのきっかけで痛みが再発しないように、気をつけるしか無い。どう気をつければ良いのかはイマイチよく分からないが、とにかく足に優しい走りを心がけるしか無いだろう。とは言っても根室から納沙布岬までの道は過去に一度走ったことがあり、アップダウンも大したことはないのは知っている。
根室駅前から港へと坂を下ると半島周回道路が始まる。緩いアップダウンと交通量の少ない道、やや霧がかかった最果ての道という雰囲気が味わえる。1999年に来た時ほど政治的主張の看板は立っていないし、街宣車なども来ていない。そういう意味では雰囲気はだいぶ変わったように感じられる。静かになれば、左には静かなオホーツク海と背の低い草が生え広がる岬、右にはなだらかな丘が半島の真ん中を貫いている穏やかであり、少し寂しげな最果てという雰囲気になってくる。
左にノッカマップ岬が見えてきたところで、ちょっと気になっていた百名城のノッカマフ・チャシ跡の遺跡に辿り着く。自転車を置いて、城跡をトレッキングしてみる。オホーツク海の崖沿いに丸い土塁が並んでいる。アイヌの歴史は分からないが、この地は今でも国境で昔も国を分ける上で重要な拠点であったのが分かる。 ノッカマップ岬を越えると、広々とした原生花園が広がる。これも木道でトレッキングができるので、歩いてみる。1999年の旅では行き急いでいたからか、こういう途中の見所には一切目もくれず走っていたが、足の怪我もあって労りながらの走りだと発見が多い。木道はフェンスと扉で区切られていて、中ではポニーが放し飼いになっている。時々、糞が落ちてるので景色ばかりを見て歩いてると危ない。北海道の花の名所に行くと、8月のお盆過ぎには枯れてることが多いのだが、ここは結構な花盛りだ。花の名前は分からないが、あまり見たことの無い花たちを写真に収めていく。草原の向こうにぽつんと浮かぶようにある森も印象的な景色だ。 |

納沙布岬へ向かう道
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ノッカマフ城跡
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ノッカマップ岬を眺める
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北方原生花園
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すっかり堪能して走り出すと、あっという間にというかいきなり納沙布岬が見えてきた。北方領土を見渡すタワーがあるので立ち寄ってみると閉館している。諦めて岬の方へ急ぐ。駐車場の端っこの海際に、本土最東端 納沙布岬と書かれたモニュメントが現れた。二度目であり、どこかからここまで走り続けたわけではないが端っこへの到達は嬉しいものである。これで本土最南端以外は2回以上回ったことになるので、次は佐多岬へ再び行ってみたいという気持ちが起きてくる。納得いくまで走り抜いたら島を繋いで日本最南端 波照間島や最西端 与那国島の地にも辿り着きたいと思う。
納沙布岬灯台に行って海を眺めて、昼飯にする。意外と混んでて店が見つかりにくいところだが、海鮮丼が食べられる店で昼ご飯を済ませて、本土最東端 到達証明書を手に入れて行く。最近は売店で売ってる観光版と自治体が配ってる公式版があるので、貰い忘れは禁物だ。
北方領土関連の資料館を見てると、沖の方が少し霧が晴れて北方領土の島々が見え始めてきた。歯舞群島のうち最も近い貝殻島や水晶島がうっすら見えている。すぐ近くではあるが現在はそこが国境となっている。 |

本土最東端 納沙布岬
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納沙布岬 灯台
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望郷の岬公園 四島の架け橋
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向こうに貝殻島を望む
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納沙布岬を出発して太平洋側を回っていく。ここも過去に走ったルートなのでアップダウンの具合は知れている。ただ、オホーツク海側を回っている時より寒さと風の強さが増したように感じる。朝からずっと着込んでいるウィンドブレーカーがぎりぎりのところで体が冷え込むのを防いでくれている格好である。しばらく走ると、歯舞という地名が見えてきた。この辺りが過去に軽便鉄道が走っていて、駅としては日本最東端だった場所である。知る人ぞ知る跡地ではあるが、鉄道もまあまあ好きな旅人としては欠かさず寄っておきたい。ネットで探した情報だと診療所が建っているあたりとのことで道沿いを見ていると、やや大きめの診療所が出てきた。バス停に自転車を置いて写真を撮っていく。跡形もなさすぎて何の写真を撮っているのか自分でも分からなくなってくる。
最果ての岬に広がる海や自然を満喫しながら走って行くと、根室市街地へ向けての上り坂が始まる。トルクをかけるような走りは今日で唯一なので、回復具合を試すのにちょうど良い。力を入れて踏み込んで見ても、特に痛みが走ることは無い。ペースはそんなに調子よく上がっていかないが、痛みがないだけ良いと思いたいところだ。
坂を登り切ったら住宅地を通り抜けて、東根室駅を目指す。過去にも来たが、どこにあるか分かりづらい。コンビニに立ち寄ってスマホの地図で確認しながら向かって行く。すると、駅へ入っていく道に看板が立っていた。入って行くと突き当たりの広場から階段を上ってホームへ入れる無人駅である。釧路から来て東に巻いて根室へ向かう線路のうち東へ巻いたこの場所が日本の最東端だ。鉄道についても東西南北の端っこまで鈍行乗車と自転車による自走で踏破しているし、この地に来るのは二度目なので記録の変化は無い。昔と比べて列車の本数はぐっと減ったように思える。 東根室駅から南に向かって進む。地図をよく見ないとわかりにくい裏道を抜けて、花咲へ向かう。太平洋側は切り立った崖の高台が根室になる。草原と根室本線の寂しげな眺めを見ながら走って行く。16時まで開館の資料館にも何とか無事に辿り着いて、根室の歴史や自然史を見ていく。 |

旧日本最東端の駅 歯舞駅跡
右側の診療所が駅の跡地だが
痕跡や面影は全くない
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日本最東端の駅 東根室
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東根室駅のホーム
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足早に見学を終えたら、車石を目指していく。おそらく海沿いに下って、また上り直すのかと思いながら、緩い坂を下っていく。左には草原と崖と遠くまで広がる太平洋が見える。右には花咲の漁港を擁する入り江が見える。天然の良港といった地形だろう。坂を下りきる前に花咲岬の灯台と駐車場が見えてきた。風が強くて寒いのでグローブははめたままで自転車についてるものが風で飛ばされないようフロントバッグにしまい込んで鍵をかけて歩いて行く。岬は花が咲き誇っていて午前中の原生花園を思い出させる。寒い夏に満開の花、背の低い草に覆われた崖とやや荒れ気味の太平洋。険しさと美しさの両方が満喫できる景色である。海近くまで下ると陸側にタイヤの形をした岩が見えてくる。ただ、岩の方を見ると背後の波音がすごく気になってしまい、景色が頭に入ってこない。これだけの不思議な形で大きな岩がどうやって出来たのか不思議ではある。地球の偉大さが感じられる。 想像より緩かった下り坂を上り直す。しかも帰りは追い風なので楽々と上っていける。一応、納沙布岬への往復と車石への往復を走りきって、今日の目標は満額回答で達成できた。体の回復はされたものと思って間違いがないだろう。 |

花咲岬の駐車場から
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笹の間に花が咲く
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荒れ気味の海と笹の原の海岸
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荒い波が押し寄せてくる
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根室車石
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花咲岬灯台を見上げる
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根室市街に戻ったら安心したので夕飯の買い出しをする。ガスの残りからすると、今日と明日の2回分の夕食を作るのは厳しそうだ。だからといって今日で使い切るかというと少し怪しい。火を使う料理を考えながらスーパーを歩く。産地であり旬を迎えている花咲ガニが美味しそうだし安い。カニをほじるためのスプーンは常備している。買わない理由が無い。他は魚を潮汁にして大量のお湯を沸かす作戦でガスが使い切れるだろうか。今日で使い果たしたら、明日は最悪はセイコーマートで買える食品で乗り切るという作戦になるだろう。
一昨日に泊まっていた公園へ行く。寝たところの奥にBBQコーナーがある。屋根に囲まれて炭火を焚く竈もある。この寒さなのでBBQしに来る人はいないし、遅い時間なら大丈夫だろうということでBBQコーナー近くにテントを張る構えで準備をする。テントは日没からゲリラ的に張ることにして荷物をBBQコーナーに下ろす。屋根も風よけもあるので快適だ。作業をしていると一人の女性が車で乗り付けてきた。まだテントは張っていないのでBBQだと言い張ることはできそうだ… などと警戒したが、BBQやる場所を探しに来たそうだ。話し好きの人で話は盛り上がる。昆布の漁師もしながら、セイコーマートのホットシェフの料理人もアルバイトでやっているタフなお母さんだ。ありがたいことに、余っていたホットシェフのおにぎりを差し入れてでいただけた。これはセイコーマート・ホットシェフの手作りおにぎりで、コンビニなどの配送商品だと有り得ないぐらいふんわりと握られて店舗では暖かいまま売られている。 |
快適は快適なのだが、池があって蚊が多い。俺のスペースの回りを囲むように蚊取り線香と森林香を焚いて虫除けをする。荷物を下ろした身軽な自転車で銭湯まで走っていく。風呂から出ると、すっかり夜で寒くもなってくる。BBQの公園へ戻って夕飯を作る。まずはお湯を特大コッフェルで沸かしながら、大根や椎茸やネギを鍋で茹でる。そこに魚のアラを入れて塩で味を調える。あとは煮えれば終わりだし、アラからいい出汁が出そうだ。その間に念願の花咲ガニを頬張る。手に突き刺さるほど鋭いトゲを回避しながら甲羅を開けると、たっぷりの味噌が詰まっている。足もトゲの先端まで身がぎっしりつまっていて旨みが濃い。さすが産地の旬である。独り言も全く出ないほど黙々とカニを頬張っていると、あら汁も煮えてきた。しかし、目に見えて火力が落ちてきた。どうやらガスは今日までのようだ。弱火で保温して暖かいままのあら汁を楽しむ。
21時を過ぎると照明もバチンと消えてしまった。ランタンとヘッドランプで残りを食べていると、車のヘッドライトが近づいてきた。人に見つかるのも面倒なのでランタンもヘッドランプも消して気配を殺していると、さっき来た女性だった。わざわざ、家まで毛布とシュラフと段ボールを取りに行ってきてくれたのだ。返すのも、朝ここに置いといてくれれば良いとのことで本当に助かる。根室の夏は思っていたより寒く、寒さで足をやられて不安ではあったが、こういう心遣いは非常に助かる。ガスも早々に切れてご飯は炊けなかったので、頂いたおにぎりも食べて夕飯は満足のうちに終わる。 使い切ったガス缶の目立つ場所に穴を空けて、穴から水を満たして中の空気やガスを完全に抜く作業を2回ほどやってから、BBQコーナーのゴミ箱に分別して捨てる。ヘッドランプの明かりを頼りにテントを張って、借りた段ボール、シュラフを敷いて毛布をかぶって眠る。自転車だとここまで手厚い布団類を持って走ることはできないがキャンプでもここまで快適なのは助かる。体の冷えは全くないだろう。本当にありがたい心遣いである。
ここまで、なかなか思い通りに進まなかった旅に少し流れが変わりつつあるという実感、今日を無事に走りきった喜びと安心、暖かい心遣いに感謝しながら熟睡で眠りについた。 |

旬のハナサキガニ
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アラ汁でガスを使い果たす
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9日目 |
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根室 → 春国岱 → 厚床 → 浜中 → 厚岸 |
87.69 km |
2017/08/18 |
今日は朝から天気が良い。走る日の朝で空が晴れているのは、今回の旅が始まって初めてだ。日が当たる場所で、お借りしていたシュラフや毛布を干しながら準備を進める。テントを片付けてパッキングしたところで、ベンチに段ボールを敷いてシュラフと毛布を畳んで置いておく。できるだけ汚れないように風よけのビニールは引き出しておく。持ち歩いてるメモ帳からちぎってお礼の手紙を書いて出発する。
昨日のうちに花咲の車石へは行っておいたので、今日は厚岸まで地図計算で80km超という道のりを走り抜くだけだ。気合いも入っているし、あと2日で釧路まで辿り着かないと俺の社会生活が危うくなってくる。根室の港をサイクリングしながら見ていると、漁港の活気はものすごく感じられる。オホーツクと太平洋の豊かな海に囲まれている港ならではだろう。根室からなら北方領土に渡る手段があったりするのか興味があり、港の隅々まで回ってみると見慣れない旅客船がある。どうも北方四島出身者の墓参用の旅客船のようだ。入口は厳重に警備されて写真すら撮りづらい船だ。こういう厳重さから、近隣の離島へ渡るのとは訳が違う「国境」であることも感じられる。
昨夜の女性から進められた通りに、セイコーマートのポイントカードを作る。いつも北海道に来る度に、いつか作ろうと思ったまま旅が終わってしまっていたが、今回は朝ご飯のついでに作っていく。北海道在住者でもないのにポイントカードを作るのもどうかと思うが、俺は既に自転車だけで15回以上も北海道に来ている。この旅の終盤でまた作るのは何を意味するか。また来ると解釈してもらえば良い。 厚床までは3日前に走ってきた道を戻るルートである。今日は天気も良くて暖かいので3日前に苦戦した根室に入ってからのアップダウンも快適にこなしていく。旅が始まってから初装着のサングラス越しで目も守られた状態でぎらつきのない景色を楽しんで行く。さすがオークリー。 |

心から感謝
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根室での快適な一泊
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セイコマホットシェフののり弁
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あっという間に根室大橋に辿り着く。橋からは汽水湖とオホーツク海の干潟が見渡せる。よくよく見るとすらっと首の長い鳥が5羽もいる。なんと、ここでもタンチョウがいる。つがいが2組と1羽の鳥が干潟でエサをついばんでいる。タンチョウは淡水の湖や湿原や草原にいるイメージしかなかったが、海に面した干潟にいる姿は初めて見る。今回の旅は本当に野生動物運が良い。旅の神が舞い降りている。はやりの言葉で言うと、神ってる。優雅でもあり野生動物なりの厳しさの中で自由なタンチョウをしばらく眺めていく。
春国岱まで走ると、今度は湖の向こうにエゾシカの群れが見える。しかも、群れの一部は春国岱の湖を泳いでいる。バシャバシャという音がここまで聞こえる。鹿が泳ぐ姿も初めて見る。親子の鹿だがたくましく泳いでいる姿が良い。野生動物の貴重な姿を何度も目にする道東の旅は本当に深い。道の駅についても、望遠鏡付きのライブカメラを俺が軽く動かすとエゾシカとタンチョウを見つけてしまう。カメラの方向を肉眼で見てもタンチョウは見える。今度は虫除けスプレーを塗って展望台から眺める。しかし、ここのアブはハッカ油ぐらいでは逃げてくれないほどしつこいので、早々に撤収する。 |

海に面する干潟に3羽のタンチョウ
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手前のつがい
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海にタンチョウ
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海の方に進んでえさを探す
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エゾシカが泳いで渡る姿を目撃
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春国岱を泳ぐエゾシカ
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スワン44ねむろから春国岱
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望遠モニターにもタンチョウの姿
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ここからは快調そのものな走りが続く。運良く追い風を背中から受けているというアドバンテージはあるが、暑さが戻って追い風というコンディションは今の俺には本当にありがたい。軽いアップダウンは楽々とこなして行く。根室から35kmほどの厚岸ではあるが、目標通りに午前中には辿り着く。あと45kmほどを午後で走り抜くのがノルマになる。体長が万全なら十分に走れる距離だし、足の違和感は出ていない。かつては標津線へ分かれる分岐として栄えた厚床駅の前にある焼肉屋で昼飯にする。看板と昭和の雰囲気から、食わせる予感がした。よくたれの染みて柔らかい肉とご飯 サイクリングの途中では元気の出るメシだ。
午後になって薄曇りな空に変わってきた。暑さは少し低減したが、寒さを感じるほどの曇りでは無い。むしろ最高のコンディションだろう。ここからは少しアップダウンが大きくなってきた。振幅は大きいが緩い坂が続く。左右は牧草地が続く、悪く言えば変化は無くよく言えば開放的なものだ。追い風に乗って気持ちよく走って行ける景色と道を楽しむ。途中で牧場直営のカフェがあるので立ち寄っていく。本来は遠くの山々が見えたりするのだが、それは薄曇りなので見えない。窓からは牧場と牛が見える。メニューはチーズケーキ推しで、チーズケーキに合わせたブレンドのコーヒーが楽しめる。チーズの形をした木皿で出てくるチーズケーキを楽しむ。店の中にあるスタンプをスタンプ帳に押していて気づいたが、今いる浜中町はルパン三世のモンキー・パンチ氏の出身地なので、ルパンスタンプが町中にあるようだ。 しばらく牧場の真ん中を貫く国道をひたすら西へと進んでいく。厚岸までの距離は順調に減っている。俺の中では今日のゴールが見えてきたと思える状態だ。牧場の入口に飾ってあるモンキー・パンチ氏作の看板の絵を楽しみながら走って行く。厚岸までの最後の休憩ポイントと思われるコンビニで休んで、裏の目立たないところで仰向けになって体の疲れを抜く。痛めた足に無理がかからない程度にストレッチをしていく。 |

妙に風情を感じる定食屋

焼肉定食 |

やっと夏旅らしい走りが戻ってきた
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隣は牧場のカフェ
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チーズケーキとコーヒー
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アットホームで開放的な内装
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フジコさん感のある牛乳美人
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徐々に日が傾いてきて西日がまぶしい。というかまぶしさを感じる西日を浴びて走るのも今日が初になる。太陽のありがたさを感じながら走って行くと、終盤は広大な湿原に差し掛かる。自然が豊か過ぎるからか道路は高いフェンスで湿原と区切られている。フェンスのすぐ側までエゾシカが来ている光景を何度も目にする。北海道でも道東はエゾシカの数が多いような気がするし、大きなエゾシカの立てる物音は迫力はあるが、それ自体はひょうひょうとした癒やし系の顔をしている。立派な角を持つオスを見かけることがほぼなくメスばかりなので怖さは無い。車だと車の走る速度で衝突する恐怖があるのだが、自転車で平地を走っている限りは止まれないほどの速度でエゾシカと衝突することはまず有り得ない。せっかくフェンスで区切られてるなら、フェンス越しでも良いのでヒグマを見たいという衝動にも駆られる。まだ自転車での走行中にヒグマを見たことは無いので、北海道フリークとしては経験不足と思う。
湿原を縫う道まで来たら厚岸は近いかと思っていたが、走り続けてもなかなか近づかない。最後は結構しんどい走りになってくる。痛みが出ないにしても、疲れは出てくる。俺の実力からしたら当然ではある。湿原から海の方へ向かう方向性になってきて、ようやく終わりが見えてきた。道の駅 厚岸に向けての距離が2kmを切ると、安心感が出てくる。油断はせずに走っていると、道の駅へと曲がる交差点に差し掛かる。左へ曲がると10%の上り坂が来る。うわっ と思わず足を止めたが、坂自体は住宅街の土盛りの分だけのようだから構えるほどでは無い。一度は地面についた足のついでに右を見ると、驚くほどのエゾシカの群れが俺を見ている。全員に襲われたら確実に負ける… だが、こんなチャンスはないとエゾシカたちを刺激しないようにカメラとスマホを出して写真を撮りまくる。住宅地の土盛りでこんな数のエゾシカがいるのは貴重な光景だ。すると群れが一気に動いて目の前の山の斜面へと駆け上がる。さすがの野生動物で動きは素早く無駄が無い。まだ俺の方を見て警戒しているが、そこをゆっくりと通り抜けていく。 |

道の駅 厚岸近くの住宅地に
エゾシカの群れ
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こっちを警戒するエゾシカ
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一斉に向かい側の丘に移動
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すぐに道の駅 厚岸に到着する。この時点で17時半。我ながらよく走り抜いたと思う。しかも、この道の駅はすばらしいことに、レストランが大充実していて、展望台もある。営業時間が遅いのが良い。余裕でスタンプを押して、展望台へ上がる。普段だと馬鹿と煙は高いところが好きということで、上がっているのだが今日はやや策略がある。ネットで見ると公園は見つからないし、キャンプ場はやや遠い。展望台から厚岸の市街地を見たら公園ぐらい見つかるのでは無いかと期待する。今日は夕飯も作らないし火も使わないので寝られさえすればどこでも良い。上からだと割と簡単に公園を見つけた。そこからGoogle MapとGoogle Street Viewを駆使して様子を確認する。何とも便利な時代になったものだ。
寝床も決まった。銭湯は厚岸に1軒あるのも分かっているので今日の生活段取りは完璧に終わった。じゃあ次はメシということだが、道の駅のレストランに炉端焼きがある。厚岸名産の牡蠣も炉端焼きで焼ける。セルフで焼く非日常を楽しまない手はないだろう。キャンプでやろうと思ったら大変だ。焼く食材を自分で選んで会計を済ませて焼くという方式だ。まずは牡蠣を選んで、他の魚介系も選ぶ。やはりサンマは外せない。シマエビやツブ貝にじゃがバターも選ぶ。充実の夕飯だ。早速、網で食材を焼く。網に並べるワクワク感がたまらない。ただ、どこまで焼けばOKなのか分からず、レアな状態が多い。やはり、こういうのは慣れが必要だ。炭に近いので焼けるのは早いと思ってたが、そうでもないようだ。味は焼きすぎてない分だけ美味しいのだが、牡蠣、サンマが生焼けなので腹が心配だ。足の次は腹に来るという展開は避けたい。
すっかり満足したところで、すっかり真っ暗になった厚岸市街を走り、駅と銭湯へ行く。まずは厚岸駅に向かうとコインランドリーも見つけた。釧路の撤収は意外と忙しいので洗濯は厚岸で済ませるのもアリだろう。駅でスタンプを押して、気になる駅弁屋に目を付けて銭湯へ行く。銭湯で、体を洗ってお湯に浸かると日が暮れて冷えてきた空気に冷やされた体を回復できる。
コインランドリーで洗濯を始めると閉店間際になっていることに気づく。洗濯機には突っ込んでしまったので時既に遅し。日記を書き進めながら洗濯をし、自動ロックの店内で乾燥を待つ。閉店時間をやや過ぎてから畳んで撤収すると、自動ロックがかかって照明も消えた。目を付けていた公園へ行き、隠れる場所のないレイアウトでテントを張りづらい雰囲気だが、遊具の近くにテントを張って眠りにつく。 |

厚岸湖と厚岸の街
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自分で焼く牡蠣とツブ貝とシマエビ
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厚岸の牡蠣とサンマ
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レアに焼き上げた牡蠣
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9日目 |
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厚岸 → 釧路 |
51.47 km |
2017/08/19 |
足の痛みも腹の痛みも無く快適で快晴の朝を迎える。久々に暑さでテントから蒸し出されるような日差しだ。最終日に距離にして40km程度と少ないので、朝はのんびりする。シュラフやマットを干したまま、駅前で自転車で行く。目を付けていた駅弁直売所に行く。かき飯弁当を買っていこうと思ったら、イートインにもなっている。日よけもない公園で食べるのも面倒なので、ここで食べていく。甘辛くしっかり味付けした牡蠣とご飯がよく合うし、味付けしても牡蠣の磯の香りは全く失われず口の中で立ち上る。
公園に戻ったらテントを片付けながらボトムを干す。今日は天気が良いのでカラッとしている。最終日の撤収としては理想的だ。10時過ぎに撤収したら、海事資料館へ寄ってみる。漁業の歴史や牡蠣養殖の歴史や海のことが分かる資料館で、充実した内容をじっくりと見ていける。博物館を見ていると、正午になりそうな時間である。出発するついでに道の駅へ寄っていく。ここでも牡蠣三昧だ。牡蠣フライと生牡蠣を楽しんで行く。とろけるような磯の香りの生牡蠣と衣をまとって味が引き立つ牡蠣、シンプルに牡蠣塩で食べるだけでも美味しい。 |

最終日にして初めての快晴
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厚岸駅前 氏家かきめし
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駅弁のかきめし
イートインができる
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牡蠣の身はよく煮込んでも
ぷりぷりの食感と濃い磯の味
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海事資料館
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漁船のコックピット
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漁業関係の展示
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生がき
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金のかきフライ
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大粒のアサリの味噌汁
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厚岸の海の幸を大満喫して出発する。青く光る海は心地よく海沿いのわずかな道を走る。体力に余力があれば道道で海沿いに行けば良いのだが、今日は完走優先なので内陸の国道44号線を進む。地図を見て薄々は予想していたが峠道が始まる。海沿いはアップダウンを繰り返してた記憶があるが、ここはおそらく1本の峠をがっつり越えて下るタイプだろう。特に無理せずペダルにトルクをかけて上がっていく。インナーギアに落とすほどではないが、そこそこ傾斜は厳しく長い。森の中を上っていく道を耐えながら走ると、海沿いに出る農道の分岐が出てきたところで下り坂が始まる。
北の幹線国道の峠とあってワインディングは厳しくなく、スピーディな下り坂を楽しむ。広々として直線なので速度は上がる。坂を下りきると、別海の方から来る道と合流する。ここは3年前に走ったルートなのでもう勝手は知れている。やっと完走が見えてきそうだ。途中の道の駅でイベントをやっていたので、休憩してソフトクリームを食べていく。これで元気をもらって、一気にゴールを目指す。時間的には夕日までには釧路に着きそうだ。
釧路の市街地へ入るとストップ&ゴーが続いてロスが多そうなので、市街地を回避して幣舞橋(ぬさまいばし)へ向かうルートに入る。渋滞はしているが短距離かつ信号が少ない道なので快走できる。そして、釧路川を渡って市街地へ向かう道へ曲がり、左に釧路川の河口方面を見ながら幣舞橋を渡る。幣舞橋から河口を眺めるその向こうに真っ赤な大きな夕日が沈んでる! はずだが、曇ってて何も見えない。今年の天気運でそれを期待するのは無理だったようだ。非常に残念。
幣舞橋からは釧路駅まで真っ直ぐ道が延びている。今日は道沿いには祭りの露店が並んでいる。盆踊りが行われているようだ。道を1本外して釧路駅を目指す。すべての交差点が一時停止という状況だが祭りのおかげで車は来ないので快適に進む。釧路をゴールにするのは5回目になるので、見慣れたゴールだ。交差点を渡り駅前広場に辿り着いたところで、この旅は完走を果たした。今回は寒さとの戦いという俺にとっては未知の領域だ。過去には3月の春休みに走っていた時代もあったが、夏場に体が冷えるという問題は希少なことだ。体を柔らかくしたり鍛えたりと努力を伴わないと完走できない年にもなってきているし、想定外の寒さに対策する手段も考えていかないといけない。20年を越える経験がありながらも、ぶつかる課題は毎回異なるわけで、そこが自らの体力で旅をする難しさであり面白さだろう。また来年もこの旅路に立つことを考えて生きていこう。 |

太平洋に浮かぶ島を眺める
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弊舞橋から釧路川の河口を眺める
向こうの海に沈む夕日が見事らしい。
今日は全く見えず。
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釧路駅前まで到達し何とか完走
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祭りと言うことで嫌な予感がしたので、ついでに明日の特急の切符を買っていく。祭りの通りを1本避けて予約していたホテルへ向かう。駐車場に自転車を置いて、必要な荷物だけを引き取ってチェックインする。驚くぐらい広く快適な部屋でそのまま寝てしまいそうだが、温泉に入って一服したところで打ち上げに出かける。
タイミング悪く盆踊りは終わってしまった。少しでも祭りの雰囲気を味わえたので良いだろう。ホテルのすぐ近くの炉端焼きで打ち上げにする。写真も撮れない暗めの炉端焼き発祥の店もあるが、少しざっくりした雰囲気の居酒屋にする。ホッケやイワシ明太を頼んでみると、驚くほど丁寧に焼き上げている。炉端焼きは魚の旨さを最大限に引き出す焼き魚であることを実感する。みずみずしさを残しながら香ばしさを出して、魚の身の旨さが活性化している。祭りでテンションの上がっている常連さんばかりで観光客がほとんどいない居酒屋で釧路の美食を満喫し、旅の打ち上げは終わった。 |

盆踊りで盛り上がる釧路の街
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打ち上げは炉端焼き
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10日目 |
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釧路市内 |
6.71 km |
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新千歳 -ANA→ 羽田 |
2017/08/20 |
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釧路 −根室本線・千歳線→ 南千歳 -快速エアポート→ 新千歳空港
羽田空港 -東京モノレール→ 浜松町 -京浜東北線→ 上野
-東北本線→ 宇都宮 |
疲れは隠しきれないか朝はさくっと起きられない。午前中には宅急便を発送して、釧路市立博物館も見たいので少々忙しい。徐々に時間がなくなっていく焦りを感じる。まずはホテルを出て、ヤマト運輸の営業所へ行く。釧路川を渡ってすぐの所なので近いところだ。段ボールを3個買って、店の前で梱包していく。中身を問われても困らないよう箱に全ての中身を書いていく。手慣れたもので1時間もかからず梱包が終わる。リアキャリアやサイドキャリアや1.5Lのボトルケージも外し身軽な自転車になる。発送すると旅の終わりを感じる寂しさと同時に、何かスッキリした感じもする。
身軽になった自転車で東へ行き、少し坂を上る。荷物を送った後で行くのが正解だったと思う坂を上り、大学の近くを抜けると博物館にたどり着く。建物だけ見ても立派なものだ。釧路湿原を中心とした海や森などの釧路の自然や歴史の展示を見ていける。ヒグマやトドの剥製や今年は当たり年かと思うほど見まくったタンチョウの生態など興味深い展示が続いている。美食の旅を彩るには欠かせない漁業の歴史も見応えがある。
帰りの時間に向けて少し焦りながら博物館を後にする。坂を下って弊舞橋の方へと戻る。気がついたら時間がなく、途中で昼飯を食べられない時間帯になってきた。急ぎ気味に駅前に行く。切符は昨日のうちに買っているので、とにかく自転車を分解だ。急いでいても養生はしっかりして輪行はスムーズに終わる。天気がいまいちなので不完全燃焼気味ではあったが、今年の旅に思い残すことはない。
残りの数が少なくなってきた ほっかぶり寿司を買って、改札を抜けてホームへと行く。買っておいた指定席券を使って特急スーパーおおぞらに乗り込む。列車は釧路を出発する。窓の外の景色を満喫しながら、昼飯の ほっかぶり寿司を満喫する。漬け物の大根に透けて見えるイワシの旨みとさっぱりした大根が合う。すっかり満喫すると窓の外は徐々に十勝の大地を見渡す景色に変わっていく。この路線は景色の変化が北海道にしては多く、太平洋に始まって池田のブドウ園や十勝の大地やトマムのリゾートを抜け、最後は日高の原生林の中を貫いていくルートが楽しめる。そんなことを考えていると、釧路から千歳までの3時間すら短く思えてしまう。
南千歳で降りると向かい側のホームに快速エアポートが待っている。これに乗り換えて新千歳空港へと行く。空港にたどり着いたら荷物を預けてチェックインを済ませる。とにかく大きな空港の土産売り場でいろいろと見て買い物を済ませて、ゲートをくぐっていく。飛行機に乗る前に夕飯を済ませて、日記を書きながら搭乗を待つ。徐々に現実へと引き戻されていくが、今年は不完全燃焼気味なので北海道にまた来ようという思いが強いままに羽田へと帰っていく。
羽田に降りてきたが、またやっちまったようだ。どう考えても新幹線の最終には間に合わない。羽田空港からモノレールで浜松町へ行き、山手線で上野へ行く。鈍行のグリーン車を確保して、書き残しておいた日記を書き綴りながら宇都宮へと向かう。1時頃には宇都宮に着いたが自転車を組み戻して走るには手から下げる荷物が多いのでタクシーに乗せていく。ここに来て新たな課題に次々と突き当たった夏の旅は終わりを告げた。 |

釧路市立博物館
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ヒグマの剥製 迫力がある。
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こっちは海獣たち。
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特急スーパーおおぞら
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ほっかぶり寿司のパッケージ
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ほっかぶり寿司
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