旅記録

2009 夏 東北
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9日目 象潟 → 由利本荘 37.59 km
2005/08/16
 グロッキー状態で鳥海山を越えた疲れは俺の体の中に着実に残っている。しかも今夜は花火大会が開催されるそうなので連泊してしまいたい気持ちは山々だ。隣のテントのファミリーにも勧められてしまったが、洗濯できないのが最大のネックなのだ。心を鬼にして撤収!と言いたいところだが、体がついて来ないのでのんびりする。でも腹は減ったので遠刈田温泉で買ってきた白石温麺を茹でて食う。白石の市内で食うとあんなに美味いのに俺が調理すると何故こんなにってほどにゆで加減に失敗した。
 昼頃には撤収しキャンプ場をあとにした。今日は懐かしの由利本荘(旧 本荘市)を目指そう。まずは象潟の道の駅へ寄り道だ。買い出しできる感じでは無いが、象潟産の旬の岩ガキが売られている。食わずにいられない。ハンパ無く大きくて、つるんと食べると甘みと潮の香りが口いっぱいに広がる。鮮度も味も良い。また現実に戻って本荘を目指して走る。13年前に走ったことのあるルートなので厳しさも甘さも知っているつもりである。交通量が多くアップダウンも多い厳しいルートではある。しかし、山岳コースというわけでもないし単調に走れるものだ。

白石温麺と山形のつゆ
のんびりと朝食を作る


自分で作ってみたらイマイチ…
つゆも蕎麦向けで味が強すぎでした


象潟から見上げる鳥海山


道の駅・象潟の地場産品売り場


新鮮な岩ガキが売られている。
その場で殻を開けて食べられる。


象潟産の岩ガキ
粒が大きく味が濃厚で美味い

 淡々と幹線国道を北上していくと、フェライト科学博物館なんてものが出てきた。一応は車載電装系のエンジニアあである俺が意味不明ということは無いが、なぜフェライトに着目した!?という疑問はある。立ち寄らずには居られないでしょう。鳥海山をバックにやたら近代的(?)できれいな建物が鎮座しているのだ。中に入ってみるとフェライトの創始者とフェライトを使った製品例が展示してある。スマートエントリーのアンテナやノイズ対策部品など… 入っていくと展示内容はフェライトと創始者の歴史はしっかり触れているが、半分ぐらいはその他科学ネタっていう感じである意味では安心だ。フェライトだけで博物館を作るのはマニアック過ぎる。何故フェライトかというと世界的なフェライトメーカーのTDKの創始者だしTDKがあるからのようだ。
 博物館をあとにして、道ばたの華 ババヘラアイスで体をさましてみたくなった。特別だよと言って、物凄くきれいに花形のババヘラアイスを盛りつけてくれた。これをへら1本でやってのけるから凄いのだ。シャーベットっぽくさらっとした食感は真夏の秋田を走るときの冷却剤としては欠かせない一品である。
 フェライト科学博物館を過ぎたら由利本荘まではひたすら走るだけである。距離は短いので積極的休養としてはちょうど良いボリュームで必要以上に体のキレを失わずに体が回復したので良い休養となった。由利本荘の道の駅に立ち寄ってみたが買い出しが出来そうもなく、ニテコサイダー(飲んでみると普通)を飲んでスルーだ。最後に軽く坂を登って西日に照らされる日本海を見下ろして坂を下ると由利本荘の市街地へ入っていく橋を迎える。橋を越えて左折して海の方へ向かうと俺が由利本荘に来た頃には無かったオートキャンプ場があり、そこでキャンプもできて洗濯もできる。本荘はゲリラキャンプするとヤバそうな公園が1個あってそこを愛用していたが、そういうことをすると法に触れてしまう笑えない年齢にさしかかってる俺としては面倒がないところに一泊したいものだ。



フェライト子供科学館
なかなか近代的な建物だ。


フェライトの創始者 (名前失念…)


真夏の秋田 公道のオアシス
ババヘラアイス
パラソルとお婆さんの組み合わせ


ババヘラアイス

 奥の方のサイトは半額で泊まれるし、温泉も近いし夕日を見るには海岸も近いしコインランドリーも完備してるしオートキャンプ場に泊まることにした。お盆を過ぎつつあるので客は少なく奥のフリーサイトは俺のテントだけでオートも管理棟に近いところから埋まって半分も埋まらない感じである。テントを張ってから空荷の自転車で海へ行く。海岸を眺めつつ夕日が沈むのを待つ。この夏で日本海側で夕方を迎えること3日目になるが海へ沈む夕日にありつけるのは初めてである。穏やかな日本海に大きな夕日が沈み海面が黄昏色に染まっていく。夕日って都会(?)に居ると全く意識しないものだが海や山に沈むものは何故か心を大きく動かすものである。明日から再び内陸の走りになるため今年は海の夕日は最後となるだろう。その景色を胸に焼き付けて海岸をあとにした。
 海からすぐの場所に温泉施設が出来ている。そこで風呂に入り疲れを取ってキャンプ場へ戻る。まずは汚れ物を洗濯する。そして、夕飯の買い出しをするためMAXVALUへ向かう。とにかく段取りよくやらないといかん。あと使い切ってしまったトイレットペーパー1ロールも入手したい。魚をぶつ切りにした刺身が格安で売っていたのでそれを買う。漬けにして海鮮丼にでもしてしまおう。今夜も枝豆とつまみにハタハタ寿司を買ってビールを買う。MAXVALUの向かい側の薬局でトイレットペーパーを買ってキャンプ場に戻り、慌ただしく洗濯物を乾燥機へ移す。そして炊事場で夕食を作る。まずは枝豆を茹でる。秋田の枝豆と言えば「湯上がり娘」である。これも、だだちゃ豆に負けず劣らず美味い。枝豆とハタハタ寿司でビールを飲み、御飯を炊いている間に魚を醤油で漬けにする。晩酌も晩飯も充実である。
 俺が初めて挫折を味わいリベンジを果たした節目となっている本荘の街に、再び明日からの強い走りをすることを胸に誓って眠りについた。

由利本荘 日本海に沈む夕日


秋田の郷土料理 ハタハタ寿司


秋田県産 枝豆湯上がり娘



   出発(宮城県仙台市)から 455.20 km

10日目 由利本荘 → 矢島 → 雄勝 → 湯沢 91.21 km
2005/08/17
 昨日の安足日のおかげで体は幾分か軽い。それほど大きな疲れも残っていない。挫折もリベンジも味わった本荘の街で次なる強い走りを想いながら準備を進める。オートキャンプ場をあとにするころには日が昇って暑くなってきた。すっかり出遅れて9時過ぎのスタートとなり、さらにコンビニで朝食を食っていると10時にまでずれ込んだ。目標としては90km近く山間部を走り抜いて湯沢まで行きたいのだが出遅れは痛い。
 日を遮るものが全くない内陸の川沿いを徐々に上っていく。急な傾斜は無いし車も少ないので走りやすい。しかも鳥海山がちらちらと顔をのぞかせているし、道路と併走して矢島まで行くローカル線が見えてレトロな感じで楽しい。自転車乗りでありつつも鉄分も少しある自分には楽しめるものである。途中で何回かバテそうになりつつも短いローカル鉄道である鳥海山高原鉄道の終点である矢島に辿り着いた。木造で開放的な駅舎で休憩しながら釣りキチ三平のペイントをした列車を待ってみた。鳥海山の麓の法体の滝で釣りキチ三平のロケが行われたので、そのキャンペーンで色々と企画されている。ペイントされた列車や釣りキチ三平ラベルのサイダーなど… わずか2両しかない列車は駅へやってきた。鉄分の高そうな観光客と地元の人がちらほらと居るだけである。お盆の連休も終わったため観光客はまばらである。
 釣りキチ三平ペイントの列車を見たところで、続きの走りへと向かっていく。道の駅・鳥海郷 清水の里が目標地点だ。矢島を過ぎたあたりからアップダウンが多くなってきた。そしてアップダウンを繰り返しながら、徐々に標高が上がっているような感じである。山深い川沿いの道を徐々に走る。田んぼが広がったり深い谷になったり変化が多い。時々見える鳥海山も美しい。空がすっきり晴れている分だけ暑いが、2年前の酷暑の走りというほどの気温でもなく快適ですらある。
 一山越えて県道と田舎道を抜けて湯沢を目指すか、国道沿いに目指すかの分かれ道に近づいて来たが、道の駅などにも寄りたいところなので、国道沿いの道を選ぶ。ふと道路の左にある休憩所にいるおじさんが手を振って俺を呼んでいるのに気付いた。自転車を左に寄せておじさんと話し始める。しきりに泊まって行くよう勧めるが、今日はしっかり走りたい気分でもあり、断る。それでも長話もできて、親切心と気持ちは有り難いものでありうれしい。
 その場から分岐を過ぎて道の駅まで走りきった。観光客もなく閑散とした道の駅のレストランに入り昼食だ。山形を出てから離れていたが久々に蕎麦を食う。野菜の天ぷらもついている。鳥海山の清水と山麓で作られた蕎麦は甘みも喉ごしもよく美味しい。野菜の天ぷらも野菜のうま味がたっぷりだ。デザートに竜胆のソフトクリームも食べて少し遅い昼食で満腹となった。
 ここからは松ノ木峠へのトライとなり、峠自体もトンネルで体力を消耗しそうである。水道で水をしっかり汲んで足の筋肉をストレッチして筋肉痛を改めて味わって出発する。峠に向けて道は徐々に登り始めているが、そんなに急な坂でもない。インナーギアを使うほどでもない。トンネル寸前というところでわき水が出ている場所があり、何本もボトルを持って車で汲みに来ている人がいる。笹子名水と呼ばれている。量が多いことを気遣ってか俺に譲ってもらえた。水を入れているとアブが寄ってきたので、アブ寄らずを一吹き足と腕にして清涼感によるドーピングをしてわき水をペットボトルに汲んで峠にアタックする。
 わき水を過ぎて最初のトンネルにさしかかったあたりからハードな走りが続いていく。トンネル自体が前半は上り坂で迎え撃つし広くもないので後ろから来る車に対する不安とそうそう気を緩められない登りのトンネルに対する体力の消耗に苦戦する。上り坂のトンネルというのは体力も神経も消耗するものである。トンネルの手前でしっかり息を整えて一気にトンネルを越えて…というようなやり取りを続けて、1本あたり2km近くもあるトンネルを越えると道は下り始めた。
 松ノ木峠を越えて、しっかりスピードを乗せて下り、雄勝まで辿り着く。地図で見る限りは、ここまで来れば平地のみで湯沢まで行けるはずなので気楽ではある。国道13号線と合流して交通量の増えた道を北上して道の駅・雄勝まで来た。ここだけは観光客が何故か多くサッカー少年が集まっていた。土産は充実しているが自炊に使えそうな地場産品はあまり売っていない。トマトジュースとアイスで糖分と何かを補給して行く。
 夕暮れ時の幹線国道を走り抜いて湯沢に辿り着いた。意外と栄えてる湯沢の街を走って、まずは湯沢駅へ行って情報収集に奔走する。しかし、これといって情報収集源がなく駅前の看板で公園の位置を確認したぐらいである。それでもケータイで近所の温泉を探せば1軒だけ見つかった。湯沢なんて言う地名からして道を歩けば温泉があるようなイメージをしていただけに少なさに驚きだ。夕方も時間が押してきたので、風呂に行く前に買い出しして、公園をチェックして行く。スーパーはあまり充実した感じでは無く、結局のところは今日は自炊しない方向になった。
 スプリンクラーからのサビが目立つ寒冷地らしい陸橋を越えて公園と温泉を目指す。いつもの狙い通り運動公園を見つけたがテントを張って隠れて目立たない雰囲気ではない。これは日没の深夜ゲリラしか無さそうだ。テントを何とか張れそうな場所のあたりを付けて温泉へ行く。だるま温泉と名付けられた日帰り湯(宿泊可)は一言で言えばジャンキーな雰囲気を全体からディテールに至るまで醸し出している。怪しい神様が奉ってあり、派手な看板とやたらと広い駐車場。何でも施設が入っている。ジャンキーな雰囲気に合って料金も安い。ただ設備はぼろい感じで露天風呂はお湯があるかと思いきや水がたまっているだけだ。
 風呂を上がって高校野球を見つつくつろいで、夕食に行く。自転車を置いたまま歩いて行ける洋食屋でビールとハンバーグで腹を満たす。ボリュームいっぱいで、今日みたいにいっぱい走った日には助かる。ここもややジャンキーな雰囲気である。そこそこ時間を潰して遅くなった頃に、公園へ行ってテントを張る。狙っていた芝生のグランドの隅は真っ暗で外からはテントの影すら見えない状態になっていた。黙々とテントを張っていると、ウォーキングしている人から声かけられたが、それ以外は全くといっても良いほど人通りはない。今日は少し熱帯夜で蒸し暑い。眠りにくいジャンキーな夜は更けていった。

鳥海山山麓線 釣りキチ三平号


道の駅 清水の里・鳥海郷
百宅(ももやけ)蕎麦と天ぷら


道の駅 清水の里・鳥海郷
竜胆ソフトクリーム



笹子名水


道の駅 雄勝 小町アイス




ジャンキーな感じのだるま温泉


湯沢 特大ハンバーグ



   出発(宮城県仙台市)から 546.41 km

11日目 湯沢 → 横手 → 大曲 → 角館 67.11 km
2005/08/18
 こういうゲリラキャンプの目覚めは早い。しかし、今日は昼を横手焼きそばで迎え撃ちたい。横手まで20kmも無いから、いかに午前中はのんびりするかの勝負である。今回の旅は計画をヒヨりすぎて、この先は時間が余りがちなのだ。朝は早く目覚めたが早く出発しても仕方ない状況でコンビニで立ち読みしたりして時間を潰す。そして、昨日の余韻で体は力がみなぎっているが、走りすぎるわけにもいかず戸惑う。
 走り出して10kmも行かない道の駅で休憩というか時間を潰す。ここで大曲の花火の情報が入った。色々見ているが、22日と撤収前日の絶好日に開催される。色々と情報収集すればするほど大曲の花火は桁違いのスケールであることに気付く。ここまで聞いてしまうと「じゃ、行っとくか?」と心の中で旅の神が囁く。余った日は男鹿半島のリベンジとか田沢湖から乳頭温泉の方にでも行くかなどと良からぬ事を企んでいたが、大曲の花火の方が面白そうだ。
 良い情報を仕入れたことに満足して、横手へと向かう。道の駅から市街地まで平地で10kmあるか無いかの楽勝距離で何の印象を残すこともなく到着してしまった。それでも少し早いお昼という感じの時間帯である。横手で一番有名と思われる焼きそば屋さんへ行ってみる。窓から見える鉄板、ツタの葉が絡まるたたずまい、美味しそうなオーラが漂っている。何とかカウンターに座って、定番の焼きそばを頼んでみる。やや時間がかかったが焼き上がった焼きそばは出てきた。横手焼きそばらしく太めで柔らかい麺は少し汁っぽくまとめてあり目玉焼きを崩して絡めて食べるとちょうど良い。これは近々 B級グルメの頂点に立つと思われる味である。

横手やきそば

 すっかり満足して、午前中怠けた分を頑張って午後で走るべく気合いを入れて出発する。午後としてはニテコの湧水と大曲の情報収集と角館方面への走りを考えている。情報収集や観光も多く盛りだくさんである。体の調子はすこぶる良く国道を快走していく。途中の道の駅で湧水群の情報収集をして行く。ほぼ平地で軽くアップダウンしているだけの道を快調に走り抜いて六郷の湧水群に辿り着いた。泉がいくつも湧き出す街があるらしいので、国道から外れて散策がてら走り出す。まず一つ目は泉ではあるもののキレイな印象は少ない湧水があった。第一印象としてはがっかりで静岡県の柿田川湧水地を思い出したかったが、そうは行かずである。気を取り直して次の湧水へと向かう。街の中心に行くほど水が澄んでいってる感じである。街の中心にある観光施設内の泉は飲めるほどに澄んだ水がこんこんと湧いている。ここで情報収集して効率よく回れるルートを決めて走り出す。微妙に迷いつつも何とか自転車を降りて歩いたりするのも織り交ぜつつ泉を一つずつ見ていく。透明度と豊富な水量と自然な冷たさが心地よい。地元の人がスイカを冷やしていたりで風情も良い。ニテコサイダーのニテコ湧水でサイダーを飲み干して行く。
 六郷を出て大曲へ向かう。大曲へ行く目的は当然ながら花火大会に向けての情報収集である。旅の計画をささっと見直して花火大会を組み込んでしまう俺自身の即断即決ぶりに自分でも驚く。幹線国道は広々として走りやすく平地なので、どんどん進んでいく。順調に走り抜いて大曲の街に辿り着く。新幹線も来る大曲駅はキレイで立派な駅舎だ。ということは秋田から新幹線で来れてしまうので楽であるということだ。秋田までの完走は前日までに決めておいて、打ち上げなんかも済ませておいて、花火大会当日は秋田から新幹線で来るのが良いだろう。色んな行動計画が頭の中で組み立てられていく。駅内の観光案内所で情報収集だ。前日からは入れないし当日は朝から会場入りしておいた方が良いらしい点など色々と役立つ情報が入った。公式プログラムも購入してしまった。当日でも良いのだが気分を事前から盛り上げていきたい。
 大曲での情報収集で俺の旅の最高の「しめ」のプランは完全にできあがった。大曲からは国道で角館を目指していく。道幅は若干狭く徐々に登っていく道である。それでも今日は体の調子は良いのでグイグイと走れてしまう。夕暮れの日差しを背中に浴びながら進んでいく。ただ、心配事として角館のような古い街にゲリラキャンプが出来る公園などあった記憶もないので、どこで宿を決めるかを考えないといけない。途中の道の駅に休憩しつつケータイで角館近辺の公園と風呂を探してみる。町並みから外れたところに運動公園があることは発見できた。そして温泉も角館にあるようだ。ダメなら、さらに先まで行くしかないだろう。休憩に使った道の駅も建物の裏は河原になっているし、坂の上に温泉もある。泊まれない環境でもないが、角館まで頑張って走ってしまった方が良さそうな気がしてきたのだ。

六郷湧水群
地元の人がスイカを冷やしている


六郷湧水群名物
仁手古サイダー


六合湧水群 地酒ソフト

 道の駅を出て角館まで10km程度の道を気持ちよく走っていく。昨日に続いて今日も走りは快調で手応えすら感じるのだ。やはり、今回の旅が始まって厳しい山岳コースを乗り越えてきてるし、徐々に走行距離も伸ばしているし調子も上がっているのだろう。かなり余力を残して角館市街地の入り口となる橋を越えた。ここで地図はディテールまで掲載されていないものの野生の勘が働いて左折してみた。すると狙い通りに野球場があった。芝生の上で快適にテントを張れるし、雨が降ってもテントと自転車をやり過ごせるだけの屋根もありトイレもある。自炊できるだけの水道もちゃんとあって水も出る。難点といえば水辺なので蚊が多いことぐらいだろうか。
 絶好調で宿を確保できたので、今度は買い出しと風呂だ。角館の市街地の方へ行ってみる。距離にしても1kmも無いぐらいの位置である。武家屋敷街へ行く途中に温泉があり、その先にスーパーもあった。まずはスーパーで食材の買い出しをしてみる。明日は角館での観光がメインで真面目に走る気はないので朝も作るつもりでいる。まずは夕食のために買い出しだ。今日も野菜が中心の食事になってきた。秋田・山形の産物を追求すると必然的にそうなるのだ。オクラ、ミョウガ、地元の豆腐、枝豆 こんなラインナップである。明日の朝には稲庭うどんのやや高く高級品っぽいものをチョイスする。
 買い出しも済ませたところで風呂へ行く。露天風呂などは無いが温泉である。広くきれいな温泉で体の疲れも取れる。ここ最近は走行距離もちょうど良く天気も良く寒くないので疲労感は酷くないし温泉で「生き返る」というほどまでの感覚は無いが、それでも普通の風呂とは違う気持ちよさがある。温泉を満喫したら、酒屋で酒を買っていく。なんと試飲付きである。店の入り口に杉玉がつり下げてある時点で通好みな酒屋である。
 すべての段取りを済ませて運動公園へ戻る。芝生の真ん中の東屋の裏にテントを張る。食材を持ってもう一つの屋根の下へと持って行く。まずは米を研いで水を吸わせる。今日の御飯は火加減など失敗せず完成すれば、山形県産掛け干しコシヒカリを六郷湧水で炊きあげた銀シャリとなる。そうしてる間に枝豆を塩ゆでする。次にオクラとミョウガを刻む。これらをコッフェルの中でめんつゆと胡麻で和えておひたしっぽくする。次に豆腐に刻んだミョウガを載せる。そして、角館の地酒を冷やで飲む。野菜を肴にして地酒を飲む… 大地の恵みを全身で満喫する。今日は肉や魚は一切ないのに酒が進んで仕方ない。枝豆も香りも甘みも強いし、オクラもミョウガも風味が濃い。豆腐も豆のうま味とミョウガの鮮烈な香りが最高に合う。晩酌を終えたら、米だ。六合湧水は米のうま味をすべて引き出し甘みがあり粒の立ってる飯が炊きあがっている。自分で言うのもあれだが、250泊近いキャンプで炊飯も極めたベテランの味も出ている。
 夕飯に大満足して洗い物をしていると、俺が飯を食っていた建物の裏で車中泊している鮎釣り師と暗闇で遭遇してお互いにびっくりした。彼らの晩酌に俺も合流して一緒に酒を飲む。遠野から来ているおじさんから、遠野物語を語ってもらい楽しい夜は更けていった。

山形県産掛け干しコシヒカリを
六郷湧水で炊いた飯


角館の地酒


地元産豆腐とミョウガの冷や奴


秋田産オクラとミョウガのおひたし



   出発(宮城県仙台市)から 613.52 km

12日目 角館連泊 14.34 km
2005/08/19
 俺が起きたころには朝の早い釣り師たちは居なくなっていた。昨日買っておいた稲庭うどんを茹でる。佐藤養助と稲庭うどん職人の名前の書かれた和紙のパッケージがただ者でないことを表す。そして値段も高い。ツーリングキャンパーはまず持ち歩かないと言われている自慢の特大コッフェルにお湯をたっぷり張って稲庭うどんを茹でる。ダマにならないよう慎重にかき混ぜつつゆで加減を絶妙に見極めて素早くザルで水を切る。道具も腕も充実してきたことを実感する。山形で買っておいた蕎麦つゆで手早くいただく。細いのにこしがあってツルツルと滑らかで美味しい。小麦の香りも心地良い。もう一つ、豆腐カステラと呼ばれている高野豆腐のようなものを甘く煮付けた地元のお菓子もある。これも食べてみる。…俺の口には合わず2口ぐらいが限界だ。こんなこともある。
何だか高そうなパッケージ
(確かに高い)


秋田銘菓 豆腐カステラ


佐藤養助 稲庭うどん

 テントを片付けて昼前に出て行く。まずは角館の街で観光だ。武家屋敷街を軽く自転車で流してみる。俺にとってはお気に入りの街で訪問するのも3回目になるのだが、何度来ても良いところだ。今日は時間をたっぷり取って武家屋敷をすべて巡ってみよう。今まではどことなく時間に追われながら観光している雰囲気がありもったいないと思っていたのだが、ここは居心地の良い公園もあったし連泊でも良いだろう。観光してる最中に小雨がぱらついてきた。どうも天気がここから崩れる方向にあるようだ。予報を見る限りでは今日は晴れ時々雨、明日は曇り、明後日は雨、明明後日から晴れ という状況のようだ。このような予報ではどこか追加コースを入れてもおもしろみに欠ける。
 お昼時なので昼飯にする。やはり角館とか秋田の山間部に来れば、比内地鶏が良い。雰囲気の良さそうな店を見つけたが、予約客のみ受付とのことで靴を脱いで上がったあとで断られる。そこまで先に分かってるなら看板にでもそう書いとけと言い放って、他の店を探す。比内地鶏の親子丼をやってる店はいっぱいある。何となく美味しそうなオーラの漂う店を探して入ってみる。さすがは比内地鶏だ。肉の味も濃厚で歯ごたえも良い。卵も味が濃い。半熟で肉を包み込む卵と三つ葉の鮮烈な香りが最高に合う。それを乗せて甘みがある米は、あきたこまち。秋田の大地の味は素晴らしい。
 店を出るとまた小雨が降ってきた。武家屋敷街の木々の下に行けば少しは防げそうなので、そっちの方へ行ってみる。武家屋敷は端から端までじっくりと観光すべく柳生家から順に回っていく。古いが存在感がある屋敷と樹齢の進んだ木に囲まれた閑かな雰囲気が良い。屋敷の中も派手さは無いものの、粋な造りがあちこちに仕込まれている。鴨居から漏れる光と影が壁に当たると亀が泳いでいるようになっていたりでおもしろみもある。大きな木に囲まれて影になってる庭もこけが生えていて風情があり、丁寧に手入れされている。桜皮細工の展示館も見に行ってみる。山桜から取った樹皮の力強い模様と色が道具や入れ物を芸術に変えてくれる。螺鈿が入っているものや樹皮だけで仕上げたモノなどもあり見事だ。
 角館観光を満喫し尽くしたところで、もろこしソフトクリームを食べに行く。3年前の夏にも行ったが、角館の夏にはこれが一番いい。優しい甘さとほのかな小豆の香りと少し粉っぽい感じがソフトクリームと合う。ソフトクリームを食いながら同業者の大学生と会話する。この旅もGWの旅もルート自体がマニア向けなところもあり旅人と会うことは少なかったので、こういう感じで学生の旅人と話す事自体が久しぶりで、ある意味新鮮な感じである。

角館武家屋敷の街並み


比内地鶏 親子丼


武家屋敷


亀の泳ぐ影が出る鴨居


桜皮細工


桜皮細工


もろこしソフトクリーム


風情のある雑貨屋さん

 昨日と同じ温泉で風呂に入り、スーパーで食材を買って、昨日と同じ酒屋で酒を買っていく。店主が顔を覚えていてくれて「今日はこっちが良いんじゃないか」みたいな会話で盛り上がってしまう。今日は誰もいない運動公園へ戻り夕食を作る。今日は野菜の晩餐などとしゃれた事はせず横手焼きそばを自前で作ってみる。卵も4個入りというのがあったので半分は目玉焼きにして半分はゆで卵にして明日の朝食に回す。まずはフライパンで横手焼きそばを作る。焼きそばと目玉焼きと絶妙の汁っぽさが横手焼きそばらしく美味しく仕上がった。飯を食い終えたら冷や奴とミョウガで晩酌だ。これだけで日本酒が飲めるほど美味しい。
 少し早めに済んだ夕食を終えて誰もいない真っ暗な公園で眠りについた。

角館の地酒 刈穂


自作 横手焼きそば
材料はすべて秋田産


角館の豆腐とミョウガの冷奴




   出発(宮城県仙台市)から 627.86 km

13日目 角館 → 協和 → 秋田 65.01 km
2005/08/20
 何だか中途半端な日程となってしまったが、今日で秋田まで走り抜いてゴールとしてしまおう。明日はガッツリ雨だし何も楽しめないだろう。キャンプ中は雨に降られることもなく済んだので撤収は早い。テントをたたんで公園を出る。角館から秋田への道は2年前の夏にも走ったし、あのときは午後だけでたどり着けたので、おそらく楽だろう。
 そんな甘い予測の元で秋田へ向けて走り出した。しかしながら、2年前は楽勝で越えた緩い直登の峠に何故か苦戦する俺が居る。歳を順調に重ねて体力は順調に落ちて行ってるものだ。それでも十分に終わりの見えてる峠だし気楽に登っていく。足にのしかかる気怠さというか疲労感を押しのけながら何とか漕いでいく。もう50mほど走れば峠というところで足を着いたら右後ろから木が不自然に揺れる音が聞こえた。猿か何か動物か?と思って振り向いた。木から手を伸ばして折りようとしてる黒く胸に白い模様のある大きな動物である。ツキノワグマだ。幹線国道で車道越しだし遠くではある。それでも大きさと迫力はなかなかのモノだ。さすがに危険を感じて一気に峠を越えて走り出した。
 峠を越えてすぐの右側斜面で草刈りをしている作業員のおじさんに熊出没の旨を知らせてみたが、この辺では最近はツキノワグマの出没は多発しているらしい。とんでもない山奥の林道ならまだしも盛岡-角館-秋田と結んで大型車もいっぱい通る幹線国道沿いでこんな状態に、最近は自然のバランスが狂っていることを実感せざるを得ない。同時にキャンプもうっかり変なところでは出来ないものであることも痛感する。
 そんな熊の刺激を終えて峠を下っていく。緩く長く快適に下って行く。下りきったところの道の駅で昼食にする。地元産の豚を使ったトンカツと地元の野菜で作ったサラダが付いてくる。期待していなかったが美味しい昼食に満足である。昼食で元気をもらって、また秋田へ向かっていく。何度もアップダウンを繰り返す秋田への幹線国道は交通量も多く走りづらいし体力も消耗する。そして、秋田市内へ突入。と言ってもゴールまでは30km近くあるのだが、市町村合併で最近では最終目的地の市町村への突入がやたら早いのだ。それでも最終目的地の市町村へ入る歓びは大きい。秋田市内に入ると道は4車線のバイパスになる。そして道をまっすぐにして交通をスムーズにすることを狙ってるせいで、容赦なく丘を越える。そんな道でアップダウンして走っているので足を確実に消耗する。今日は宿を抑えてないし、2年前はいまいちな公園しか見つからなかったので早めに辿り着いて宿を探さないといけない。そんな焦りや現実へのプレッシャーを持ちながら市街地を目指していく。
 とは言っても走ったことのある道でアップダウンの具合も分かっており、ニュータウンを越えて下りきると平地になることも知っている。地図も最後の1ページに突入しゴールが近づいてることを強く実感する。ショッピングセンターを曲がって市街地の中心部へと走っていく。車も人も多くなってきた中心地を走ると秋田駅が見えてきた。横断歩道を渡り駅前へと辿り着いた。こうして今年の夏の旅も完走を果たした。旨に突き上げる強い達成感と歓び。たとえ余力を残していて例年より距離が少なくても、この歓びは大きい。今度はしっかり鍛えて、もっと燃え尽きるような旅をしたいという想いもあるが、今は歓びに浸っていよう。
 2年前は秋田駅の表側で公園を探してイマイチだったので、今年は裏側を中心に探してみる。地図で見る限りはいくつか数はありそうだ。しかも栄えていないのでキャンプはしやすそうだ。しかも温泉もありそうだ。陸橋を越えて駅の裏側へ回る。公園に辿り着くまでに道に迷ったが、何とか見つけた。広くてテントの収まりそうな東屋もあるし、トイレも水道もある。道路から離れていて人目にも付きにくい。公園はこれで決定だ。そして温泉は公園から近いところにあり、その途中にコインランドリーも2つある。最高の立地に喜びながら、まずは風呂へ行く。ゴルフの打ちっ放しと併設された温泉はこぎれいで快適だ。露天風呂もありくつろげる。花巻東の菊池のピッチングをテレビで見てくつろいで、コインランドリーへ行く。サンダルを洗えるシューズランドリーも付いているので洗う。若干漂い始めていたサンダルの臭みもすっきり取れるだろう。旅を終えて汚れ物をすべて洗ってリフレッシュする時がたまらない。

ちょうどこんな感じで木に
ぶら下がってたツキノワグマ


道の駅 協和
中仙産 豚肉のトンカツ


ついに秋田市に突入!!


今年も完走! 秋田駅に到着

 洗濯を終えてさっぱりしたら、公園に戻る途中にある回転寿司に行く。秋田の美味しい魚を手頃に味わえるかと期待できる。しかし、その点についてはイマイチだった。そんなハズレは仕方ないと割り切る。せっかく秋田に105円均一ではない回転寿司の店を出すなら地元の魚を使えばいいのに勿体ない。
 店を出ると、やや蒸し暑い。予報通りではあるが大雨の予感がする。栃木でスコールと呼ばれる夕立が降る直前のような重苦しい空気だ。一雨来る前に屋根の下に行ってテントを張ってしまおう。すっかり暗くなった道を公園に向かっていく。近いもので1kmも走らない。怪しい歌を歌っているシンガーが居る以外は特に人がいない公園へ行きテントを張る。雨にかからないように植え込みと屋根に囲まれた位置を選ぶ。3〜4人用と広いテントを使っているので収まりは悪いが何とか張れた。荷物を下ろして外の明かりの下で日記を書く。雨が降り出すまでに少しでも書き進めたい。今回も日記のため具合がハンパじゃないのだ。散歩している人に話しかけられたりするものの愛想良く話してれば不審者扱いされないので、なんぼでも付き合うしない。やっと話も落ち着いたところで眠りについた。そして夜中に土砂降りの雨と強い風が吹き荒れて目が覚めた。植え込みの影に入れたのが功を奏して飛ばされたりばたついて不安定になる心配はない。


   出発(宮城県仙台市)から 692.87 km

14日目 秋田市内 6.08 km
2005/08/21
 夜中から降り続いた雨は朝になっても止まない。おかげで公園には誰も来ないので落ち着いて朝を迎える。東屋側の出口から出て、朝飯にする。非常食として買い込んでおいたパスタとレトルトのカレーで朝食にする。雨が降ってるし食いに行くのも買いに行くのも面倒だ。何故か外で食う飯は美味いもので、こんな粗末な食事でも美味しく感じてしまう。計算通りというかちょうどガスなどの燃料も使い果たして、ガス抜きして捨てるだけというタイミングの良さも出た。
 相変わらず降り続く雨の中で食器も洗って片付ける。小降りになった隙を見て秋田駅の方へ向かっていく。秋田駅の真ん前にあるビルの1階のホールでたまっていた日記を書き続ける。今日は1日中に渡って日記を書くだけになりそうだ。今夜と明日の夜は宿としてホテルを抑えているので他にすべきことは何も無い。テーブルと椅子もあって日記を書く環境としては十分だ。
 午前中でだいぶ進んだので、昼食を食いに行く。また比内地鶏など秋田料理で行く。せっかくの秋田なので秋田の美味いモノを食わないと旅に来た意味がない。親子丼と稲庭うどんとトンブリがセットになった定食を食べる。やはり、ここでも比内地鶏が美味い。野のキャビアとも呼ばれるトンブリも独特の食感と香りが美味しい。よく冷えた稲庭うどんもツルツルと喉ごしがいい。
 昼食を終えて、また日記を書きに駅の裏側へ戻る。コーヒーショップでコーヒーを買って飲みながら、ソファーに座って日記を書き進める。3時間半ほど頑張って日記を書いたら、やっと昨日の日記を書き終えた。今日の分も、この時点までを書いたところでホテルへ向かう。場所的にも便利でわかりやすいので、迷わずに辿り着いた。自転車はホテルの前に置いて鍵をかけて、荷物をすべて部屋に入れて、さっと風呂に入る。最上階にある開放的な風呂は気持ち良い。
 空荷の自転車で駅前に行く。途中で秋田市民市場があることに気付いたので、明後日にでも実家に土産を送るために立ち寄ろうと決めた。しかし、この間違った甘い判断が後に痛い目に遭うのだ。駐輪場へ自転車を入れてしっかりとワイヤーロックで固定しておく。自転車は明後日の撤収まで動かさない予定である。歩いて、2年前にも行った居酒屋へ行く。長屋風の建物で古風なカウンターで飲めるのだ。おひとりさまなど少人数で秋田の郷土料理を肴にして飲むなら、この店が良いのだ。薄暗い店内で1人 旅の完走の歓びに浸りながら秋田の地酒と郷土料理を満喫する。だいぶ酔っぱらった状態で1人だけの打ち上げは終わった。酔っぱらって気持ち良い状態でホテルまで歩いて戻る。旅の完了を喜ぶとと同時に明日の花火に向けて気持ちを盛り上げて眠りについた。

秋田のトンブリ


秋田長屋酒場の表


秋田長屋酒場 店内の様子



   出発(宮城県仙台市)から 698.95 km

15日目 秋田 −秋田新幹線→ 大曲 −秋田新幹線→ 秋田
2005/08/22
 昨夜のうちに荷物を準備していたので出発はスムーズである。持って行くべきものだけをザックにまとめてある。そのザックだけを持って、出かけていく。まだ朝の8時半。少し遅れてはいるが、順調なスタートだ。コンビニで団扇を買って、秋田駅で行きの新幹線の切符と同時に俺の読みで帰りの切符も買った。終了時間から余裕たっぷりの時間帯である。この絶妙な判断が後で光る事になるのだ。
 鉄道も好きな俺はワクワクしてホームへ降り立った。狭軌の在来線と広軌の新幹線が混在する独特の線路と新幹線だけ隔離されたローカル線ムードのホームが不思議な感覚である。そこにやってきた秋田新幹線こまちである。車両の幅が狭い分だけシートが少なく2+2列であり少しゆったりしている。大曲がスイッチバックなので、大曲までは後ろ向きに走る。バックで疾走する列車に違和感はあるが、ローカル線の景色そのままに静かに走る新幹線が心地よい。
 秋田から一駅の大曲には、すぐに到着した。駅から降りたら俺の目は真剣そのものである。絶対に良い場所を取る! 場所取りも何もかもがコンパクトで足も鍛えられて歩くのが速いおひとりさまサイクリストのアドバンテージを最大限に生かしたい。お祭りを前に、大曲の街には静けさすら感じられる。ポツポツとビールやババヘラアイスなどを売る露店が出ているものの、人もまばらである。しかし、会場に近づけば近づくほど人影が多くなってきて、会場の土手の向こうには既に人だかりが出来ていた。
 そして無料観覧席は既にレジャーシートが大量に広がり場所取りが始まっていた。俺は傾斜地で人気のない場所を選んで座ろうとした。すると目の前の大きめのスペースが急にどいてガバッと場所が空いた。場所取りのポイントとして桟敷席の段差と仮設トイレに視界を邪魔されないことが重要だが、それをすべて満足する場所である。草食系男子の俺ではあるが思い切り場所を抑えた。付近から石を拾ってきて重しも付けた。この時点で朝10時。花火大会開催まで7時間ある。ハンパじゃなく暇である。真夏の太陽を浴びながら昼寝したり、周囲の人を観察したりして時間を潰していく。昼になれば秋田の名産品が並ぶ屋台を見て歩きつつビールとイノシシ焼きと枝豆で昼食というか昼間から酒を飲む。

秋田新幹線こまち
秋田駅にて


大曲 花火競技大会会場
朝10:00時点
(小さい緑のシートが俺の場所)


秋田の県産品を使った
露店が並ぶ花火大会会場
花火開始まで5時間


真っ昼間から乾杯
・・・でもしてないと時間つぶせない。


ビールのつまみに猪焼き
まだ昼です

 昼も2時ぐらいになると暇つぶしの修行も極まって来た。眠りたくても日差しがきつく寝れない。ケータイで遊ぶにしても電池式充電器を持ってくるのを忘れた痛恨のミス。ゲーム機や雑誌などの読み物も一切無い。D-SNAPも何を思ったかホテルに置いてきた。そうだ暇つぶしのためのモノは何一つ持ってこなかったのだ。3時ごろになってくると、俺の隣に母親ぐらいの年代のおばさん集団が来た。若い女性には全くもてない俺ではあるが、何故かこのぐらいの年代か子供にはウケがいいのだ。話も盛り上がりビールのつまみもいっぱいもらえたので、ビールを買ってきて飲む。
 夕方5時から始まる昼花火に備えて、ビールをさらに買い足す。やはり花火にはビールだろう。三脚にセットしたデジカメ、公式プログラム、ビールが俺の前に出そろい準備は万端である。いつでも舞い上がれ大曲の花火!!という状態になった。そして花火大会は開幕した。見慣れない俺には珍しい昼花火の部から始まる。青空に煙と光が広がり独特の趣がある。やっぱり花火は夜だろう…その声は否定しないが、昼花火には昼花火の良さがある。昼花火を見ながらビールを飲んでいると、ビールは飲み干された。パラシュートが舞ったり、色んな煙と光を楽しませてくれて昼花火は終わった。
 夜花火まで時間があるので、おしっこして次のビールを買い足すぞ…とばかり出かけたら悲劇が始まった。トイレまで長蛇の列だ。これは本格的な尿意におそわれる前にトイレに行ったのは正解だった。そして確信した。ビールなんて飲んでる場合じゃない。これ以上にビールなんか飲んだらトイレ地獄に遭うだろう。どうせなら有料のトイレを設定すれば、どうしてもって人は金払ってでも空いてる方に行くだろうと想うが、そうそう気の利くモノではない。

昼花火の部 開幕時点の会場
かなり混み合ってきた


花火大会に向けて準備万端


昼花火
青空に向かって打ち上がる


昼花火の難点は、
若干、西日がまぶしいのだ


煙のたなびくところと
空と雲と太陽を楽しむ花火

 何とかトイレ地獄をこなして、夜花火を迎える。花火師の競技大会ということで花火にはエントリーナンバーが付いていて審査員のジャッジを受けて芸術点を争うのだ。花火は音楽に乗って打ち上がる。すべて計算し尽くされており上がるタイミング開くタイミング空に残って消えるタイミングすべてが絶妙で空いっぱいに広がったり、儚く消えたりする。花火師の新作花火なので見たことのない開き方をしたり色だったり見応えがある。夢中で花火を見て写真を撮って…と花火に集中できる。儚く散る桜や子供たちの夢など色んなものを花火で表現するその内容は大きな感動がある。花火を見て迫力や美しさを感じることはあるが、このような芸術性を感じる花火は今までにない。そして座った位置がちょうど良く頭上で大きく開くのも見えて目の前は花火でいっぱいになる。ただ、大きめの花火が上がると燃えかすが落ちてくるのが大変だが、まあこれも迫力の代償でご愛敬だろう。
 大会提供の花火の時間が来た。これが最大の見せ場だろう。残念ながら無料席には地面からのスターマインは見えないのだが、空いっぱいに上がる花火は迫力も美しさもある。目の前が右から左まで上から下まで花火でいっぱいになる。俺はこの自転車での旅一つ一つを気持ちを盛り上げて洗い流して仕事や人生を頑張る節目だと想っている。この感動的な花火による旅の”〆め”というのは次の旅の時まで頑張れる一つの重要な節目として力強く飾ることが出来た。
 さて満足したし帰ろう… と想ったら、となりのおばさんに止められた。大会提供ほど凄いモノを見せられたら、これが花火大会のしめかと想ってしまう。しかし、こんなものでも前半の中締めなのだ。後半も変わらず競技大会が続いていく。テーマに沿った花火という芸術は今までにない感動を与えてくれる。どこぞのお祭りの花火とは訳が違う迫力の中に感じられる繊細さとスケールと革新的な技術と遊び心。そして、いよいよ最後の花火だ。「大いなる秋田」に乗って打ち上がる花火。これも空一面を花火で埋め尽くすほどの迫力と広がりだ。次々と上がる大きく彩り鮮やかな花火たちに俺の胸は打たれた。そしてドンドンドンと締めた花火競技大会は終わった。
 会話が盛り上がった隣のおばさんたちにお礼を言って一緒に歩いていく。なぜなら地元民で歩き慣れてるからか人混みを抜けるのが早いのだ。秋田駅に向けてすいすいと人混みを抜けていく見事さである。しかし、俺の右後ろで悲鳴と鈍い音が聞こえた。お婆さんが縁石に足を引っかけて転倒している。少し引き返して手当することにした。自動車メーカーのテストドライバーという職業柄で止血から心臓マッサージまで一通りの応急救護は知っているし、旅人なので救急用具は一通り持っているのだ。消毒薬と絆創膏を顔に貼ってあげた。擦り傷だけで大事には至らなかったのが不幸中の幸いだ。婆さんたちは観光バスで帰っていた。観光ツアーで来ると桟敷の有料席で観れるので大曲に来るなら、個人で来るよりパックツアーの方が良いようだ。
 そして俺は人の流れに従って歩いていると道に迷う。今は便利なモノでケータイで道を調べることもできるので、さすがにここまで歩いて駅じゃなかったら道が違うだろうってことに気付けば自分で調べて行けるのだ。案の定 500mほど余計に違う方向へ歩いていた。何とか駅へ戻る道を見つけた。夜になって気温が下がったからか、ビールを飲み過ぎたからかトイレに行きたくなったがトイレはどこも長蛇の列だ。仕方ないから並んで待つ。
 何とか駅に辿り着く道に入ると電車に乗るための列が延々と続いている。在来線の方向別と新幹線の方向別で列が続く。帰りの指定席券を持ってる俺はどこに行けば良いのだろう… とにかく駅の方へ歩いてみる。すると指定席券を持ってる人専用の短い列がある。チケットを持ってる俺はいきなりポールポジションだ。何だか勝ち組になった気分だ。混んで並んでる人を横目に列の先頭へ行く。時間的にも余裕ある列車なので、待ってる人も少ない。そして、新幹線に乗り込み座席に座り混雑している車内を見上げる。これも一つ学んだところで、新幹線は意地でも往復のチケットを買えということだ。
 満員の秋田新幹線こまちは秋田へ向けてバックで走り出した。秋田から男鹿方面などの乗り換えは軒並み最終だからかホームを降りたら急いで走る人が多い。俺は秋田駅を降りてホテルへ向けて歩き、風呂にでも入りたいところだが疲れ切っているので眠りについた。

花火競技大会らしく
少し変わった花火が上がる




迫力と広がりの両方が目の前に


大会提供花火
大空いっぱいに広がるスケール


俺の目の前はこの迫力!!
しかし、儚くゆっくり消えて
花火大会と秋田の夏は終わる・・・



   出発(宮城県仙台市)から 698.95 km

16日目 秋田市内 10.16 km
2005/08/23 秋田 −秋田・東北新幹線→ 仙台 −東北新幹線→ 宇都宮
 昨日の余韻もあり、何かをやりきって楽しみ尽くした旅に満足した最終日の朝だ。まずは最上階の風呂に入り体をすっきりと洗う。次に歩いて駐輪場まで行って自転車を出す。自転車でホテルに向かい、ホテルで荷物を積み込む。チェックアウトも済ませる。この手の動きも手慣れたもので淡々とこなしていく。荷物満載の自転車で、場所も記憶してる郵便局へ行く。ゆうパックの特大サイズの段ボールを3個買って荷物とリアキャリアを詰め込む。手元に残すのはフロントバッグと輪行袋と傷防止のパッドとストラップのみだ。すがすがしく晴れた空の下で郵便局の前で荷物を詰め込む。詰め方も手慣れたもので3箱ピッタリに入れて送り出す。
 荷物が無くなって軽くなった自転車で出かける。まずは秋田市民市場に行き土産を探す。市場の前に辿り着いたが、自転車はいっぱい止まってるものの活気がない。入り口から中をのぞくとシャッターが閉まっている! 日曜日だから休みなのだ。ここが秋田の商売っ気の無さである。花火大会の影響で秋田市内のホテルが全室満室になるほど他県の客が居るのに市場を開けていない。億単位の売り上げが見込めるテッパンな客すら見逃すのだ。商売っ気がありすぎるのも煩いが、ここまで商売っ気がないと、せっかく秋田まで来た観光客である我々が一番不幸である。
 そんな市場にがっかりして、結局は駅の中の店で土産を買うしかない。実家に稲庭うどんといぶりがっこを送ったところで、秋田市内を観光してみる。千秋公園と呼ばれる秋田の城跡と竿燈の博物館に行ってみる。まずは竿燈だ。重いもので50kgもある竿燈を腰やおでこや肩だけで倒れないようにバランスを取るのだ。この数字にも驚きである。説明員の爺さんが20kgぐらいある竿燈をおでこや腰に乗せてみせてくれた。しかも、これを高い下駄を履いてやったりするのだから驚きだ。東北3大祭りの時期は夏休み寸前とあって最も休めないのだが、そのうち秋田の竿燈、青森のねぶた、仙台の七夕とすべて行ってみたいものだ。

秋田市民市場 頼むよ!! (怒


秋田の竿燈

 旧家と絵を展示してるギャラリーを見て、昔の銀行跡を見て、千秋公園へ行く。城跡なので、ちょっとした上り坂になっていて登り切れば秋田市内を見下ろせるのも良い。蓮の花が咲くお堀を見て坂を上り頂上へ行く。日本海まで見渡せる秋田市内の眺めが見事である。櫓に入ってさらに高いところに行くと360度見渡せる。男鹿半島ぐらいまで見える眺めを満喫して降りていく。眺めにも満足したところで、物産館があることを知ったので行ってみる。売ってるラインナップは駅とさほど変わらないがババヘラアイスがあったので、友達で子持ちの人に送ることにした。俺用に何か買おうか迷ったが、惹かれるものがないので諦めた。
千秋公園
久保田城趾 御隅櫓


千秋公園の堀 満開の蓮の花


千秋公園からの
秋田市の眺め

 秋田駅前に戻り自転車をばらす。もう手慣れたものでフォークを外さない方法の輪行でも収まりが良くすっきりと入る。自転車を持って切符を買いに行き、指定席を仙台まで抑えて仙台からは自由席で行く。切符も買ったところで時間もあるので、夕食の駅弁を買い出しだ。しかし、駅弁はどの店も売り切れである。ここも秋田の商売っ気の無さに腹が立つところだ。秋田で観光客が押し寄せるのは大昔から花火と竿燈と決まってるのだし花火大会で客が多い時ぐらい頑張って作っていっぱい商売しろよと言いたくなる。秋田には良い物がいっぱいあるのに勿体ない。
 仕方なく夕食は買いそびれたままホームへ降り立った。秋の気配すら感じるほどに涼しくなった秋田のホームに夏の終わりを感じ、少し寂しくもある。そしてやってきた列車に乗り込んで俺の旅は終わっていく。車内販売で弁当を入手して何とか夕食にありつけた。どこまでも酒ばかりの旅で最後の飯もビールで流すように味わう。在来線併用区間を走っている間は快適な新幹線も新幹線路線に入って車速が上がって来ると揺れが酷くなってきた。やはり狭軌との共用で車幅が狭いのが走りに影響してしまうのだろうか。こまちと同じつばさでも同じ感覚だったのだ。
 仙台でやまびこに乗り換えたら宇都宮にもあっという間だ。宇都宮駅に降りて駅前で自転車を組み立てる。俺の方は淡々と組み立てが終了していく。ところが、同じく降りてきた学生は工具が足りなくて俺に借りに来た。どうも今年の旅はサイクルツーリスト同士の助け合いが多い旅となったようだ。両方とも無事に駅を出発し、俺は俺の自宅へと帰っていった。自宅に帰り着いて俺の夏の旅は終わった。


   出発(宮城県仙台市)から 709.11 km

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