旅記録

2016 夏 東北
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1日目 宇都宮 −東北・山形新幹線→ 新庄
2016/08/06 新庄 → 尾花沢 → 東根温泉 44.24 km
 夏休み寸前まで計画がハッキリしないまま時間だけは過ぎていく。今年は輪行1本で行けて当日から走るような旅で発送とか初日の宿の段取りとかを省く作戦に出ることにする。休みは今年も有休を溜めまくって17連休の豪快な休みなので、贅沢な旅ができそうな日数ではある。東北で行きたかったところをギュッと詰め込んだような計画ができあがった。
 仕事を終えると荷物をサイドバッグやザックに全て詰め込んでいく。出来た物から自転車にパッキングしていく。初日の荷物を発送して自転車とフロントバッグだけを持って行く軽量輪行を覚えてしまった俺にとっては久し振りのフル装備輪行で気が重い。夜中のうちに洗濯や戸締まりを全て済ませて出発する。明け方の宇都宮市内を走って宇都宮駅へ行く。フル装備の慣れない重さに戸惑いながら、やや蒸し暑さが出てきた早朝の街を駆け抜けていく。いつも自転車の分解をする宇都宮駅前に到着し、輪行を開始する。蒸し暑くて汗だくになりながら自転車を輪行袋へ収納する。汗だく状態のまま荷物を全て持ってホームへと上げていく。若いときは自転車と荷物を全て持って1回や2回で上がれたが、今は両手に持てる量しか持たずに何度も分割で上がっていく。
 始発の新幹線つばさが来た。座席も最後部座席を予約済みなので荷物を座席の後ろに入れてドアがあまり開かない右側のデッキに自転車を置いて鍵をかける。体力の温存と回復のため、できる限りの爆睡をする。新庄から40km走る予定なので、とにかく睡眠を少しでも取ることが重要だ。完全徹夜状態では走る自信がない。駅に停車する度に目覚めるが、基本は気持ちよく爆睡していく。せっかくの初乗り山形新幹線だが景色などを満喫することもなく眠り重視で進んでいく。十分寝てさめたところで新幹線は新庄へと近づいていく。
 新庄駅に到着すると、またゆっくりと荷物を運んでいく。ある程度は北上したはずなのに全く涼しさはない。新幹線終点というよりはローカル色の強い地方の駅という感じである。どこかのんびりした空気を楽しめる新庄駅前で自転車を組み立てていく。だが暑さと眠さで全く集中力が保てず、捗らない。自転車を組み立てて荷物を全てパッキングし終わったら、既に正午になっている。駅前に自転車を止めたまま昼飯を探す。隣の物産館も充実しているがレストランはあまり惹かれない。物産館でちょうど良い量の山形産米つや姫と丸ナスを買ってサイドバッグに詰める。
 観光案内所で聞くと近くの蕎麦屋が美味しそうだ。近くどころか、駅の建て屋の中に入っている。鴨も蕎麦も地元の物を使った俺の好きな四文字熟語である地産地消を体現している。シンプルな蕎麦と鴨肉は蕎麦の良い香りと鴨のジューシーな味わいと香りが楽しい。蕎麦の味に満足し、自転車の旅に興味を持った店主とも意気投合し気持ちよく出発する。

終点 新庄駅に到着した山形新幹線


新庄から出るローカル線

新庄から出るローカル線


新庄駅 構内


フル装備で輪行して新庄を出発



新庄駅の蕎麦屋 かもん
鴨せいろ

 だがしかし、メーターが真っ黒になって何も映っていない。出発から2mで緊急停止である。手で表面を触ってみると熱い。日向に駐輪していたら熱でやられたようだ。慌ててメーターの上に冷えたペットボトルを置いてメーターを冷やす。温度が下がると表示が回復した。初っぱなからメーター故障は勘弁して欲しいところだが、何とかピンチを免れた。新庄市内のスーパーに立ち寄って買い出しをする。都市部にいるうちに買っておきたいものがいくつかあるのだ。
 相変わらず熱い日差しの中を南に向かって出発する。新幹線をコンプリートするのを目的に終点で山形県北部の新庄まで行ったが、山形市の少し北にある東根まで40km程度は南下した後に日本海側へ動いていく計画だ。真夏の日差しの中で南方向に走るのは今までの旅の経験から厳しいのは想定している。だが、そこに寝不足も絡んで頭がフラフラしてくる。5kmも走り続けられないほど暑さが響く。真夏の盆地は想像以上に厳しい。東北に上がった緯度分の気温低下がない。とにかくよろけて車道に出たり縁石にぶつかると旅が即終了になってしまうので、無理せず足を止める。
 さすがに限界が来たところでコンビニで涼む。最近はイートインスペースのあるコンビニも増えてきたので真夏の休憩ポイントとしては最適である。水道で顔を洗いタオルを洗って水で濡らす。頭や首筋を冷やしながら体を休める。ぼーっとしてると居眠りしてしまいそうだ。そしてまた出発する。まだまだ茹だるような暑さは続いている中で過去に走ったことのある尾花沢まで来た。この辺りから距離が10kmほど増えても最上川沿いに走りたい気持ちはあったが、そんな元気はない。無理せず国道で車から追い風をもらいつつ走る。待望の道の駅に立ち寄る。尾花沢と言えばスイカの名産地だ。大きなスイカのコンテストで1位2位3位のスイカが置いてある。物凄い大きさで立派なスイカだ。カットスイカを食べたいところだが売られていない。さすがにまるまる1個買っても持ち運べないし消化しきれないので諦める。スイカソフトクリームはあったが、さすがにミルクの味に埋もれているようだ。夏のスイカはキンキンに冷やして生でかぶりつくに限る。アイスにも勝る涼を得るにはこれしかないだろう。
 道の駅を出る頃には少し日が傾いて加熱具合は下がってきた。ここからはずっと平地なのは既に走ったことがあって知っている。道も4車線になって車の流れも早いので、自分もスピードを乗せやすい。今日の目標地点の東根まで距離をグングン縮めていく。日没寸前の17時半に道の駅村山まで辿り着いた。追加の買い出しなどを探ったが買うものが見つからない。情報収集の結果、やはり東根温泉の温泉街近くで泊まる方が良さそうだ。

道の駅 尾花沢 チャンピオンのスイカ


スイカサイダー


スイカソフトクリーム

 道の駅の次の交差点で左に曲がり温泉街に入る。ちょうど良い栄え具合の温泉街で公園も2箇所見つかる。雨が降りそうもないので屋根はないが問題ない。足湯に浸かりながらスマホで風呂の場所や居酒屋を探していると、青森から子供をバレーボールの大会に連れに来た同世代のおじさんと話が盛り上がった。初日から地元コミュニケーションがよくさい先の良い旅となっている。足湯から出て風呂に向かう。大きく豪華な温泉で初日から満足する。暗くなっても蒸し暑さは残るが、居酒屋へ向かう。足湯のすぐ向かい側の和風創作料理で飲むことにする。店に入ると、さっき足湯で意気投合したおじさん夫婦が飲んでいた。この街も狭いものだ。地元野菜などの創作料理でビールと日本酒を満喫する。
 そこで左腕に腕時計が付いてないことに気付いた。慌ててさっきの温泉まで取りに戻ると脱衣所に置いてあるのを見つけた。どうも最近 忘れ物や落とし物が多い。疲れと頭が回らないのと老化だろうか。〆に地元テイストの定食屋で冷やしラーメンを食べていく。見た目はラーメンだがキンキンに冷やしたあっさりスープとしゃきっと締まった麺が心地よい。
 さっき見つけておいた公園に行って真っ暗な中でテントを張る。トイレはないが1区画離れたところにコンビニもあるので安心の宿だ。テントを張り終えて荷物を入れて力尽きたように眠りについた。

山形産の野菜と生ハムのサラダ


山形名物 冷やしラーメン



   出発(山形県新庄市)から 44.24 km

2日目 東根温泉 → 寒河江 → 弓張平 48.24 km
2016/08/07
 どっぷりと疲れが残る朝だが早めに目は覚めた。今日は40kmほど走って少し月山に登り始めた弓張平までの走行予定だが、昨日の頑張りで目標通り東根温泉まで距離を稼いだので少し気は楽である。だが、朝7時の時点で猛烈に暑い。寝不足が蓄積している俺に容赦なく照りつける。40km+上り坂ですら耐える自信がなくなってくるような勢いである。朝の8時には荷物をまとめて出発するが、さらに加熱は強くなってきた。
 蒸し暑い空気と日差しの中ではあるが、東根のサクランボ畑の中をうねりながら抜けていく道は走りとしては気持ちが良い。最上川を渡った先の道の駅で休憩する。まず日陰に入って一度ぶっ倒れておく。朝9時前だというのに暑さでヘトヘトになる。周囲を一望できるタワーに上ってみたが最上階の展望室はエアコン無しで窓締め切りなので、まずは暑い。窓を開けて景色を楽しんだら、窓を閉めて撤収する。

道の駅 河北から最上川を眺める

 道の駅から5km程度で次の道の駅に着く。だが、この5kmも地獄の暑さでフラフラになりながら走っている。この程度の間隔にある道の駅では通常はスタンプだけ押すか買い込めるものを探すだけで済ますのだが、ガッツリ休憩する。また昨日の昼みたいにメーターが熱暴走しないように気をつけて日陰に駐輪する。とにかく涼まないとやってられないのだ。ただ、さっきの道の駅よりはコンテンツが圧倒的に充実していて寄りがいのある場所ではある。地元の珍しい果物や野菜を買い込む。アイスも食べていく。サッパリと酸っぱい梅のアイスが美味しくて生き返る。
 ここからしばらくは川沿いの国道を徐々に月山に向けて登っていくようなルートになる。暑さは相変わらずで日差しが物凄く厳しくなってくる。黒いサンダルの面が日に当たって熱々になっている。足で影になっていない部分は容赦なく加熱している。なので、足がずれて熱い面を踏むと、思わずあちっと言ってしまうレベルである。体が西に向いているので左足は南に向く。その左足のサンダルの面が容赦ない。近年の温暖化なのか暑さ厳しい盆地ならではなのか思わぬところで苦戦する。

道の駅 寒河江 梅のジェラート

 一本道を川沿いに上っていく道の途中で暑さに耐えきれずコンビニに倒れ込むように休憩する。昼飯を食おうとしている道の駅までは10km弱は残っている。夏休み前のプレツーリングで得たテクニックを駆使して凍ったペットボトルを買い込む。溶けた飲み物を少しずつ摂る作戦だ。休憩しながら外を見ていると酒蔵資料館という看板がある。体にムチを打って寄り道だ。辞めときゃよかったと思うような坂をぐいぐいっと上ると酒屋と酒蔵がある。中を見学すると酒蔵だったころの道具や桶が展示されている。やはり山形や秋田に来たら日本酒は飲まないといけないだろう そう思わせる展示である。ただ、これから上り坂を越えるので今は買わない。
月山酒蔵資料館


月山酒蔵資料館の庭に展示


月山酒蔵資料館の中

 道が少しずつ川の谷間に入っていくと暑さが和らいだ感はある。川面から涼しい風をもらうような高さではなく、ちょうど太陽が上にあるのでジリジリと炙られる感覚の中を走って行く。そして、やっと道の駅にしかわに着いた。まずは日陰に自転車を置いて、売店で水分補給だ。キンキンに冷えた天然水を買って飲む。火照った体は生き返る。ついでに夕飯や今後の旅に向けた食材も買い集める。月山蕎麦の乾麺が今後の食料として楽しめそうだ。今日の夜に向けて野菜と蕎麦パスタを買っていく。この道を走っている間にずっと「この先 自転車通行禁止」という表示と貼り紙が見えていた。旧道は行けるはずだろうと思っていたので道の駅の観光案内所で聞いてみると旧道はOKなので安心だ。よほど旧道に行く人がいないのだろうと思う。
 買い出しが終わったら昼飯にする。メニューの中で一番豪華な月山のめぐみ御膳にする。西山牛の地ビール煮や山菜を満喫していく。ちょっとずつ色んなメニューが盛り合わされているのが嬉しい。満腹になると、また現実に引き戻される。日陰から日なたに出るとうわっとなるぐらいの暑さが襲いかかる。ここからは弓張平に向けて上り坂も厳しくなってきそうだ。明日上る本格的なヒルクライムである六十里越に差し掛かるわけなので油断はできない。
 暑さに耐えながら谷沿いに上る道を走っていく。徐々に傾斜も厳しくなってくる。厳しい坂とまだまだ交通量の多い上り坂のトンネルを越えると寒河江ダムが見えてきた。ちょうど噴水が上がっている。16時の噴水ショーに間に合ったのか間に合っていないのか… 確かに高さは凄いが見てるうちにどんどんパワーが落ちていく。ピークを見逃したのかもしれないが、何とか月山湖名物の日本一高い噴水が見れたようだ。ここで休憩しつつ月山湖の生き物を展示した水族館を見て、念願のスイカも食べる。山形の尾花沢まで来ておいてスイカを一口も食わないのはもったいない。よく冷えた甘いスイカが美味しい。
 そろそろ出ようかと思ったら17時の噴水が始まった。さっき見たのがMAXなのかどうかが気になり、結局終わりまで見ていく。ダムから吹き上がった噴水がかなり高くて迫力はあるが、さっき見たのがMAXだったようだ。それが確認できたところで出発する。ここからは上り坂が始まるので気合いを入れていく。自動車専用道路に向かう直進から右に曲がると車通りの少ない山道へと入っていく。まず、順調にワインディングを上り始める。こういうのがあると峠という感じがするし、GWの旅では最大でも200mも上っていないので、本格的な上り坂は北海道のオロフレ峠以来なので久し振りで、今はまだ萎えるよりはワクワクする。

月山のめぐみ御膳


月山湖(寒河江ダム)の噴水


念願の尾花沢産すいか

 徐々に標高が上がると左に見える寒河江ダムの湖面や有料道路からの標高差が増してくる。正面には月山が鮮やかに見えている。峠の醍醐味を十分に味わえる坂道を楽しんでいく。自然公園を囲むように上り坂が続く。今年はクマが多発しているので、自然公園の入口にあたる場所にはクマへの注意を促す看板が次々と出てくる。ツーリング中のクマというのは見たいような遭遇したくないような複雑な気分である。見れれば嬉しいが襲われる距離で接近するとかキャンプ中に出るとかだと恐怖は底知れない。ツキノワグマは過去に峠で遭遇経験はあるのだが写真には収めていないので、安全な距離でもう一度見てみたいとは思っている。そんなことを考えていると弓張平の自然公園を進む上り坂もキャンプ場が近づいて終わりが見えてきた。
 まだ日没まで時間もありそうだし、気持ちの余裕は出てきた。虫がもの凄く多いわけではないが、目の周りを飛び回るメマトイが鬱陶しいので、今年から投入した新兵器を試してみる。山で作業するようなプロの皆さんが使う森林香とそれをカラビナでひっかけておけるような入れ物を使って虫除けを図る。飛んできたところで顔の近くに森林香の煙を漂わせてみる。効果があるような気配はない。どうもこの虫だけは何をしても効かないような気がするのだ。アブは頻繁にハッカ油をベースにした虫除けを吹けば一時的には来なくなる。蚊は普通に売られている虫除けで問題ない。もう1つ鬱陶しいのがメマトイで低速で走っていると目の周りにたかってきて最悪の場合は目に入って走りが完全に止まってしまう。涙で洗い流せないと飲み水を手に出して目に当てないといけないので被害が大きい。どうも対策への道はまだ遠いようだ。
 弓張平という地名通りに平らで快適な道が始まった。キャンプ場への距離もグングン稼ぐ。受付終了になりそうなタイミングだがキャンプ場に辿り着いた。まだお盆休みは始まってない平日とあってオートキャンプ場だがガラガラだ。俺には広すぎるほどのサイトを確保する。テントを張って荷物を放り込んだら、売店で酒と明日の朝食を買う。今日は地元の野菜とか蕎麦パスタなのでワインを買っていく。一段落したらシャワーを浴びる。サッパリしたところで既に周りは真っ暗だが、空にくっきり見える月山の稜線と星と月は見応えが十分にある。

徐々に傾斜を増してくる月山への上り坂


月山の山並みに向けて上っていく


新兵器 森林香

 まずは枝豆を茹でる。半分はビールのつまみにして食いながら、オリーブオイルとニンニクを炒めて香りを出して新庄で買ってきた丸ナスを入れる。そこにプチトマトも4分の1に切って入れる。プチトマトはコンパクトで火の通りが良くて味も濃くて日持ちもするしで、旅先での自炊イタリアンをやるときに重宝する野菜だ。あとはゆで汁を加えて乳化させれば完成というところまで作って、蕎麦パスタを茹でる。作り方はパスタと同じだが、茹でていくうちに蕎麦の香りが出てくる。トマトやニンニクやオリーブオイルのようなイタリアンの香りと合わさるとどうなるのか楽しみである。ここで彩りに枝豆を散らすというアイデアも浮かんだ。茹で上がったパスタをソースに混ぜて、最後に枝豆を散らして完成だ。キャンプだというのに彩りも鮮やかで地物の野菜をふんだんに使った贅沢で個性的なパスタが出来てしまった。
 キャンプ飯の初日としてはできすぎというぐらいの美味さで、ガラガラのキャンプ場で笑ってしまうぐらいである。明日は峠の上りだというのにロゼのワインを飲みながらパスタと枝豆で豪華な晩酌をし、星空と月山を見ながら満喫する。昨日までの下界の熱帯夜と違い、山に上り始めた弓張平は少し涼しく快適でもある。ようやく本質的な旅が始まって、明日には山場も迎えるワクワク感で何とも言えない気持ちの良い夜を過ごす。

向こうに月山の山稜を見るキャンプ場


月山山麓ワイン(ロゼ)


新庄の丸ナスと山形の野菜


山形の枝豆


トマトとナスと枝豆の月山そばパスタ



モモとサクランボのモモランボ(右)と
プラム・アメリカンチェリーの混合種(左)



   出発(山形県新庄市)から 92.48 km

3日目 弓張平 → 六十里越 → 鶴岡 55.86 km
2016/08/08
 まず最初の勝負日ということで気合いは入る。朝もびしっと早く目覚めた。天気も上々で月山には雲一つない晴天だ。暑さは覚悟しないといけないところだが、ここ数年は峠の天気には恵まれていないので、まずは晴れてスッキリ見渡せる峠を喜びたいところだ。とにかく水分補給は重要だし、峠を越えて湯殿山に行くか下手すると下りきって道の駅に行くまで水場はない。しかも連日の猛暑だ。1.5Lのペットボトルは水で満タンにし、500mlのボトルも2本買っていく。
 キャンプ場を出ると、まず順調に上り坂が始まる。少し上ると志津温泉に出る。日帰り入浴あったならシャワーじゃなくて空荷でここまで来ても良かったかなと思えるほど近くて雰囲気も良い。小さな温泉街を進むと休憩ついでに温泉旅館の前で向こうに月山の山稜を眺める五色沼があるので眺めていく。もう少し片付いていると風情があるのだが、頭の中で切り取ると沼に映る月山と鮮やかな夏の緑の月山が見事である。ここからは本格的に傾斜も厳しくなってくる。良い感じに木陰であり標高も徐々に上がっているので、昨日までのような炙られて蒸し焼きにされる暑さは感じない。
 月山の登山口へ向かう分岐を離れて六十里越の旧道を上り始めると道も1車線程度の幅しかなくなって、傾斜も厳しくガードレールも頼りないポールとロープだけでその下は谷に向かって落ちていく地形である。山側は岩や木がむき出しで、落石防止のための整備のためコンクリートで固められたいわゆる国道の峠という雰囲気は無い。自然のままの峠道を楽しみながら上っていく。今の俺にはまだその余裕はある。今日は登りさえすれば良いというわけではなく、下りの途中にある湯殿山へ行きたい。調べた限りでは3時間ほどトレッキングすると往復できるようだ。峠越えとトレッキングがセットになったような1日ととらえている。湯殿山は自動車専用有料道路なので自転車では上がれず、そこに行く交通手段はバスだけだが本数がほとんどない。
 峠道にもかなり苦戦するが上れば上るほど、月山は見えなくなってくるが下界と遠くに見える山々が折り重なる姿が見事である。まだそれを楽しむ余裕のあるまま上り詰めていくと徐々に自分の目線より高い山がなくなっていく。そろそろ峠が近い…と思ったら地面に赤い線がスプレーで一本引いてあるだけでそこを越えると下り坂だ。さすがに旧道だと○○峠 標高○○m この先 ○○市 と書いた標識とか峠を演出する物は何もない。だが、峠の先は谷と山々が遠くに見渡せて気持ちの良い景色が広がっている。
 メットをかぶって虫と日差しをよけるためのサングラスを付けてブレーキを確認したら、下り坂に入る。久々にバイクに追い越され、車とすれ違ったが旧道に入って人を見かけたのは、この1回のみだ。旧道の峠はカーブも傾斜も容赦なくテクニカルな下り坂が続いていく。落下と旋回のGとライントレースを楽しみながら下っていく。

雲一つない空の下、出発


五色沼越しに眺める月山


谷の向こうに見る朝日岳連峰


月山を見ながら六十里越へ上っていく


六十里越を越えて日本海側の眺め


自転車の横の赤線が峠

 悪天候時の通行止めゲートを過ぎると、つぶれた旅館と広いスペースが現れた。右には湯殿山へ登る有料道路、左には高速道路へ降りる道が出てきた。ここで自転車を置いてトレッキングシューズに履き替える。虫除けや水を持って歩く体勢に入る。つぶれた旅館の裏ぐらいから登山道があって湯殿山へ向かえるという情報がネットにあったのだが登山道のアプローチが全く見えない。すべての方向は藪でふさがれている。アドベンチャーレースとかの知識は無いので藪こぎをして登山道を探すテクニックはない。見て回った末に諦める。湯殿山は一度は見ておきたいと思っていたのだが、車で再び来るしかないようだ。
 トレッキングシューズをSPDサンダルに再び履き替えて、脱いだトレッキングシューズをパッキングして出発する。ここからも旧道で車の数は少ないが道は少し広くなって走りやすくなる。それでも、今まで越えた峠の中では比較的テクニカルな方になるだろう。しばらく走ると滝と集落を見下ろす展望台に着いたので小休止をしつつ景色を眺めていく。山深い谷を落ちる七ツ滝となぜか懐かしく思える景色を楽しんで行く。
 集落に一度下ると谷底で再び上り始める。これが思っていた以上にきつい。これを登り切ると有料道路と合流し、旧道感のない普通の国道に戻る。もう休憩予定の道の駅も近い。道の駅の手前に滝を眺める展望台とレストランがあったので立ち寄っていく。ここで昼飯でも良いんじゃ無いかとも思うし、地場の野菜とかあれば買いたい。なぜかカレーバイキングとハーゲンダッツ食い放題に惹かれたので、ここで昼飯にする。カレーは作りが本格的で地元の野菜や米も惜しげ無く使っている。これが意外と美味しくてはまってしまう。暑くてヘトヘトなのに熱くて辛いカレーがやたら進む。やや食い過ぎ気味で昼飯を終えて、滝を眺めて2km先の道の駅へ行く。昼飯の場所は休憩はしづらいので道の駅で休憩しながら情報収集をする。この道の駅も昔は色々と充実していたのだろう。川の向こうの洞窟でワイン保管庫になっていたり、道の向こうには博物館もある。地元の文化や生物が展示された資料館を見て、疲れが取れたら出発する。

六十里越沿いから見える七ツ滝


カレーバイキングのカレー

 今日は3時間ほどのトレッキングを見越していたコースなので早めに鶴岡へと下ってきた。産直を巡りながら買いだめをして夕飯の食材を探す。走っては産直に寄るというのを繰り返しながら徐々に鶴岡の市街地へ近づいていく。庄内平野の向こうには鳥海山がどーんとそびえ立っている。鳥海山の稜線は日本で一番好きと思うほどに好きな山である。これからしばらく鳥海山の眺めと付き合いながら日本海を走って行くと思うと楽しみだ。まだまだ時間帯は明るい。品揃えの良い産直で枝豆や野菜を買っていくと16時過ぎには鶴岡に着く。
 温泉と運動公園が近場に並んでいる場所があるので、ここが今夜の宿になりそうだ。明るいうちに行動は起こせないので、まずは温泉で疲れと汚れを落とす。温泉自体が産直にもなってる。ここで夕飯まで済ましてもいいのだが、買った食材は夕飯で消費しておきたい。肉などの生鮮食品はこれから買い出し場所を探そうと思っていたので、温泉併設の産直で手に入るのはありがたいことだ。とにかく風呂に入って温泉を満喫したら産直を見る。野菜と豚肉を買い、念願の日本海の岩ガキを買う。店内で殻を剥いてくれるそうなので、頼んで剥いてもらう。というか、その場で食べていく。口いっぱいになるというか一口では食べきれないほどに大粒な牡蠣からは磯の香りが出る。これを食べてしまうと他の牡蠣は物足りなくなるほどの味わいだ。夏の岩ガキは日本海の名物なのでこれから男鹿半島を抜けて白神山地へ登り始めるまでの海沿いでは満喫できそうで楽しみである。
 今日は洗濯をしておきたいところだが近所にコインランドリーが見つかったので洗濯をする。日記を書いていると夕立でどばっと雨が降ってきた。慌てて同じ敷地内の閉店してるパン屋の軒先に自転車を移してコインランドリー内に移って日記を書いていると、パン屋の店主が戻ってきて自転車を訝しげに見ているので、「すいません 雨降ってきたので置かせてもらいました」と平謝りでばたばたした洗濯になる。
 洗濯を終えたら真っ暗になってきたので公園に行く。寝床の目処も概ね付けておいたので、そこに自転車を乗り付けたら夕飯を作る。まずは枝豆を茹でる。有名なブランド枝豆になりつつある鶴岡産のだだちゃ豆だ。良い香りが漂ってくる。お湯を捨てたら新庄の丸ナスと豚肉を焼く。ビールとナスと肉と枝豆で1つ目の山場である六十里越の走破を祝う。今日は米は炊かず、蕎麦を茹でる。山形は蕎麦の名産地でもある。きりっと冷やしたざる蕎麦は香りものどごしもよく美味しい。すっかり満足して夕飯を終えて食器を一通り片付けてテントを張るとライトもなしに消灯されて真っ暗な公園で競歩のような歩き方で猛突進してくるアスリートがいる。しかもテントの前を何周もしている。ちょっと歩いたところにあるトイレでも一緒になってしまう。真っ暗な中で人に会うのは少し怖い物がある。盆地から日本海側に出たら少しは涼しくなるかと根拠も無く期待したのは外れたような蒸し暑い夜になっている。

鶴岡産の岩ガキ


沖縄の鰹節と山形のオクラ
野菜専用の醤油で和える


鶴岡産のだだちゃ豆
沖縄の藻塩でまぶす


新庄の丸ナスと豚肉のソテー




   出発(山形県新庄市)から 148.34 km

4日目 鶴岡 → 加茂水族館 → 酒田 → 遊佐 → 象潟 80.27 km
2016/08/09
 今日は距離的にも頑張りが必要な上に加茂水族館と酒田と見所も多い。泊まっている場所がよくないので早めにテントを畳んでする。平日の朝という感じの慌ただしさがある鶴岡市街地を抜けて日本海へと向かう。狭くて交通量が多い通勤時間帯の道なので注意が必要で緊張しながら走って行く。5kmほど走ると車の数もだいぶ少なくなってきた。田んぼの向こうに山が見えて、その向こうが海だ。右に曲がると加茂水族館という標識が見えたので右に曲がるとトンネルに向かって上り坂が続く。緩いのでローギアまでいかなくとも上っていける。ただ、なぜかやたら速いママチャリの若い女の子がいたのでトルクUPのために休まずギアも落とさずグイグイと走って行く。息も切れ切れにトンネルに突入し、下り坂に入るときには後ろを見ても距離がだいぶ空いたようだ。
 坂を下って漁村を抜けると水族館の前に辿り着いた。まだ開館前なので混雑は見られない。自転車をガードレールにくくって鍵をかけて開館前の列に並ぶ。この並んだ行動が正解で俺の後ろには学校の生徒と思われる団体がずらっと並び始めた。団体の後ろだとクラゲを見てるのか人を見てるのか分からない状態になるだろう。開館したらさっとチケットを買って見物に没頭する。ここは面白いぐらいにクラゲ一辺倒な水族館である。それでもクラゲが美しく見えるような背景や照明の当て方は見事だ。小さくて色が変わるような光方をするものや、大きくて白濁した透明のクラゲや足の形が不思議だったりで見所はすごく多い。団体がいるとは言え、まだ平日なので余裕をもってクラゲウォッチングを楽しめる。大きな水槽にクラゲがふわふわと回っている水槽は圧巻されるものがある。

加茂水族館


巡回するクラゲが幻想的

 1時半ほどで水族館を見終わったら次は酒田へと向かう。日本海をひたすら北上する。単調かと思いきや意外と景色の変化が激しいルートだ。日本海を左に見ていたと思ったら温泉街に入り、空港の下をくぐったと思ったら砂丘と松林が続く。砂丘で育てたメロンがここの名物のようで、農家の直売所が何カ所も続いている。走りに集中したいところだが誘惑が多い。カットメロンでも食べられるところがないか気にしながら走っているとメロン地帯は抜けてしまった。それでも続く松林は走っていて気持ちが良い。砂丘と松林を抜けて住宅街のアップダウンに入ったところで、一度休憩を入れる。今日はここまで加茂水族館から集中して入って来れた方だと思う。
 最上川の長い橋を渡ると酒田市街地へと入る。橋を越えたらすぐに山居倉庫がある。ここで観光と休憩をしていく。古くからある米蔵を観光施設にしたもので、最上川の三角州に作られて倉庫に面した川が運河の役目を果たし、倉庫に沿って並ぶケヤキの並木が良い雰囲気を出している。山居倉庫内の店も土産やレストランで充実しているが特に買える物は見当たらず、ケヤキ並木沿いに倉庫を一周してみる。奥の方に庄内米の資料館があったので、立ち寄っていく。庄内米の歴史や風土が見れて見応えが十分にある。山居倉庫の隣の産直で野菜を買う。また欲望に勝てず枝豆を買う。これで3日連続の枝豆が確定だ。

酒田 山居倉庫
ケヤキ並木と黒壁の倉庫が良い風情


酒田の祭りの山車


表側は白い壁の山居倉庫


庄内米歴史資料館

 お腹も空いてきたので酒田港へ行き、海鮮丼とか刺身定食とか魚を食いに行く。港に海産物の直売所と2Fにはレストランがある。既に行列が出来ている状態だ。ここまで来たら並ぶしかないだろう。だが回転は意外とよく列は進んでいく。海鮮丼を手に入れて窓際のカウンター席へ行く。後ろに並んでいる人が気になるポジションだが構わずに食べる。魚の新鮮さが感じられる。海沿いを旅するなら、こういうのは欠かせない。同じ建物に入ってる海の博物館を見ていく。これが建物とか什器は古いが無料とは思えないほどに生態や船舶などが充実している。
 食事と遊びが過ぎて時間がだいぶ押してきた。15時まで過ごしてしまった酒田に焦りを感じつつ出発する。スタンプを押しに酒田駅へと寄る。何度か日本海側の鈍行を乗り継いだときに乗り換えのために降り立った記憶はあるものの街の記憶がないので立ち寄っておきたかった。ここからは秋田まで海沿いの国道7号線をひたすら北上する旅に入る。しばらくは2車線ずつで車の流れが速く道が広い状態が続く。こうなってくると自転車の高速道路とでもいう調子でスピードは乗る。明日は是が非でも秋田まで辿り着きたいので、今日は秋田県の象潟(にかほ市)までは辿り着きたい。前に走った時はアップダウンもなく一気に遊佐まで行けたので、何とかなるだろうと予想している。

酒田港の海鮮丼


酒田の岩ガキ


意外と見応えある
酒田港 海の博物館


船の操縦室を模してある


 良い勢いのまま遊佐の道の駅まで辿り着いた。前にここに来た時は遊佐から鳥海山ブルーラインを上ったので、峠の前夜ということで遊佐で終わりにして温泉に入ってキャンプした記憶があるが、今回はあと10km以上も先までは行きたい。遊佐で休憩して体を休めつつ道の駅を見て回っていると、魚の直売や焼きたての新鮮な魚を味わえるブースもある。行き急ぐ旅がもったいないと思うところだ。
 国道7号から一度海の方に外れて無駄な上り坂を避けて、懐かしい鳥海山ブルーラインの入口の前を過ぎて、また国道に戻る。ここからは本気を出していきたいところだ。日本海沿いらしくアップダウンはそこそこあるが道は比較的広いので緊張無く走れる。追い越される車から風をもらいながら調子よく走って行く。内陸側を高巻きしそうな時は海沿いの道に出たり頭を使いながら走って行くが、国道7号を見下ろすほど上ったりで上手くはいかない。しばらく進むと海の向こうに飛島が浮かんでいるのが見えてきた。今日は鳥海山も見えないほど曇りなので海の鮮やかさはないが、奇跡的に島を照らすように雲の隙間から太陽の光が差し込み始めた。夕暮れ近くに海と空を絡めてくると日本海は絶景がある。自転車を駐めてしばらく高台から海と飛島と天使のはしごを楽しんで行く。

束の間の日本海の眺め


沖に浮かぶ飛島に降りる天使の梯子

 今日は終盤までペースは落ちず、17時過ぎには象潟の市街地へ辿り着く。前にも泊まったことはあるので、キャンプ場も温泉もだいたい勝手は覚えている。キャンプ場は今でも営業中、途中にスーパーがあるのも記憶している。温泉は少し進んだ先にある道の駅併設だ。段取りは完璧である。まず、スーパーで夕飯の食材を買う。選んでるそばから魚を片付け始めたので、慌ててメバルと岩ガキを選ぶ。今日は煮付けにトライしてみよう。それにしても商売気のないスーパーだ。ネギなどの野菜も買い込んで準備は万端だ。一度、海沿いに出てキャンプ場に行くと、先客は既に何組かいる。猫もいる。受付は閉まっているが、テントを張る。テントに荷物を放り込んでペグも打って入口に森林香を炊いて、風呂に行く。
 暗くなった国道7号線を北上し、道の駅に行く。自転車を置いて風呂に入る。建物の4Fまでエレベーターで上がる道の駅離れした構造だ。風呂を終えて降りてくるとグローブがないことに気づく。どうやら風呂に忘れてきたようだ。どうも物忘れが多くなってきたようで良くない。コンビニでビールを買ってキャンプ場へ戻る。
 キャンプ場に戻ったら夕飯を作り始める。まずは魚を捌く。流し台で鱗を落として内臓を取り除いてゴミをまとめる。今年から折りたたみでありながらも刃渡りが家庭用の包丁ぐらいある物を買ったので調理は強化されている。牡蠣の殻剥きにには苦戦する。やはり剥き慣れてないので、どこに刃先を入れて力をかけるか加減が分からない。何とか殻を剥いて岩ガキはOKだ。米を研いだらテントの前に戻って夕飯を作る。まずは枝豆を茹でてビールのつまみが完成だ。ビールと岩ガキをつまみつつ料理を進めていく。しかしどちらも美味しすぎて集中力が落ちてしまう。真夏の象潟の岩ガキは味が濃厚でたまらない。飯を炊いて蒸らしてる間にフライパンにメバルをのせて醤油と酒とみりんで味を付ける。フライパンよりメバルの方が大きいのではみ出してるというハプニングはあったが何とか煮付けを作れるだろうか。メバルが浸るほど調味料や出汁は入れてないのでスプーンでかけながら、ひっくり返して煮込む。何とかメバルに火が通ったところで煮付けも完成だ。料理は絶品なレベルで美味しい。メバルの素材の良さに救われたところはあるが、雑な味付けでも濃厚な旨みがある。
 今回はしっかり走らないといけないコースが続くが、明日の秋田に向けて弾みが付くような走りと内容だったと振り返りつつ満足の夜が過ぎていく。

象潟産の岩ガキ


メバルの煮付け



   出発(山形県新庄市)から 228.61 km

5日目 象潟 → 由利本荘 → 秋田 71.13 km
2016/08/10
 そんなに大きな疲れを残すことなく目覚めた。曇りだった昨日とは違って日差しは厳しいので暑い日になりそうだ。テントを片付けていると受付が開いたので、キャンプ料金の支払いを済ませる。象潟市街地を抜けて、また道の駅に立ち寄る。道の駅で見つけたパンフレットに白瀬南極探検記念館というのを発見した。TDKのフェライト博物館も面白いが、これも面白そうなので立ち寄ることを決定。朝から岩ガキを食べて出発する。
 出発してすぐに白瀬南極探検記念館が見えてきたので立ち寄る。南極探検の歴史や現在の探検装備、昭和基地、タローとジロー、南極で発見される隕石… わかりやすく展示してある。とにかく内容も展示方法も大充実で極地へのあこがれや科学に対する知識欲があっても無くても楽しめる。素晴らしい博物館であることは間違いないのだが、地方でやるレベルでは無いという感想すら持つ。かなり満足して博物館を出たが出発も遅いし、見学に時間もかけすぎて、既に11時になっている。秋田までは約80kmもあるのに先が思いやられる。

サイトは快適だが蚊対策に失敗


白瀬南極探検隊記念館


白瀬南極探検隊記念館の内部


南極探検車

 国道7号線は日本海沿いの地形ならではでアップダウンが多いのは既に何度か走っているルートなので知っている。TDKのフェライト科学館は前に行ったのでスルーして、思いの外で走りは調子よく昼飯の目標地にしていた由利本荘も近づいてきた。市街地の手前の道の駅に辿り着いてスタンプ集めをしたところで昼飯にしようと思い始めてきた。地元の肉を使ったハンバーグ定食で腹を満たす。一昨日の鶴岡で見たものの写真を撮らなかったことを後悔するぐらい昨日は見えなかった鳥海山が姿を現してきた。これより先は見えないかもしれないので写真に納める。花がこっちを向いてないがヒマワリ畑と鳥海山をバックに自転車を入れて撮ろうとするが立てかけやすい段差がなく苦戦する。何とか写真には納めた。
 輪行や走りで4回目の来訪で、ゴールになった&した、宿泊地にした… 俺の中では一つの節目と思っている由利本荘の市街地に入る。今回は4回目にしてやっと自転車で通過するということになる。大学1年生の夏に由利本荘(当時、本荘市)でリタイヤしなかったら一人旅になってなかったかもしれないし、原点のような場所に思えるところである。通り過ぎても走りは調子よいが、本格的に暑さが戻ってきたので体力は削られる。北に向かって走っていると背中がジリジリと太陽で炙られる感覚であり、傾いてくると海から西日として照りつけてくる。
 調子よく走って道の駅で休憩する。海水浴場にも降りられるしオートキャンプ場も併設されている。風呂もある。宿泊地としては理想的な道の駅だが、秋田のホテルを予約しているし、余力と時間はまだあるので走りたいところだ。しかし、ここはしっかり休憩してソフトクリームで体を冷やして、日陰で入念にストレッチをする。凝り固まった筋肉をじっくりと伸ばしていると、ライダーに話しかけられる。ビッグスクーターの着座姿勢は振動が尻に直撃なのか、しきりに尻を痛がっている。自転車だとみんなから「尻が痛くならない?」と聞かれるが、意外と痛いこともなく、大きなイボ痔が出来ることもなく健全な尻状態なのだ。痛みが来る順番で言うと、足、手、足の裏 という順番のような気がする。最近はレーサーパンツ2枚でローテーションしていて距離が長いとか峠越えだとレーサーパンツなので痛みを感じる状況においては尻が守られているのかもしれない。堅いけど尻になじむブルックスの革サドルも良い効果を発揮しているのかもしれないが、この組み合わせは一つとして欠けてはいけないと思う。

道の駅 にしめ ハンバーグ定食


ひまわり畑の向こうにかろうじて鳥海山


道の駅 岩城 プラムソフト

 海沿いを楽しみつつ徐々に傾く西日を見ながら走っていると、海沿いに秋田港へ抜ける道と市街地へ向かう道へ分岐に入る。市街地方面に入ると一つ丘を越えて交通量の多い道に入る。快適とは言えないが日本海側では大きな街になる秋田の市街地なので仕方が無いところだ。丘を越えて坂を下ると秋田の市街地が見渡せる状態になってきた。車が多い夕方の市街地は走りにくいが着々と秋田中心部への距離を詰めていく。歩道が立体交差になっているところでトイレに行きたくなったが、なぜかない。探しているときに限って見つからないツーリングあるあるに翻弄されて、体育館のトイレを借りて事なきを得る。ホテルまでの道を改めて調べ直して、まずは秋田駅へ向かう。
 秋田自体も自転車で来たのが4回目なので見覚えのある景色も出てくる。秋田城のお堀を抜けていくと秋田駅が近づいてくる。ゴールというわけではないが秋田到着はなぜかうれしく達成感がある。駅内で情報収集をしたら商店街の店で切らしてしまったジップロックなどを買い込んでから、ホテルへと向かう。夏休み感のあるお客様が多くなってきたホテルだが駐車場の裏手でしっかり自転車も預かってもらえて、汚れ物と着替えをサイドバッグから出してホテル内で洗濯できる準備をする。チェックインして風呂に入ったらホテルのコインランドリーで洗濯していく。洗濯が終わって乾燥に移ったところで、歩いて飲みに出かける。駅前の長屋酒場が好きだったのが、歩くと少し遠いので向かい側の郷土料理屋にする。
 賑やかな居酒屋で一人カウンターで飲んでいると、頭の中に孤独のグルメのBGMと松重豊の独り言が流れる。メニューや張り紙を見ながら悩んでいると、店員が「男鹿産の岩ガキが残りあと少しです」と言ってきたので、まずは枝豆と岩ガキを頼む。この2品が馬鹿の一つ覚えみたいになってきたが、外せない美味しさである。走りが調子良いのは岩ガキのタウリンと枝豆のおかげでは無いかと根拠も無く信じておこう。ここ最近は日本酒離れして焼酎派だったのが、年を取ったせいか日本酒の味にも再び目覚め始めているので、秋田の日本酒が美味しい。秋田は、魚、米、野菜、酒、水のどれもが美味しい。
 ホテルに戻って洗濯物を乾燥機から回収して部屋で整理したところで眠りにつく。今回もやや飲み過ぎたようだ。

秋田の居酒屋で中じめ


最後の1個に飛びついた男鹿産の岩ガキ


秋田も枝豆の名産地



   出発(山形県新庄市)から 299.74 km

6日目 秋田 → 男鹿 → 男鹿桜島 62.59 km
2016/08/11
 今日は男鹿半島リベンジの旅でもある。前々回の旅で秋田から男鹿半島の寒風山を越えて海岸沿いを走って、海沿いの男鹿桜島キャンプ場を目指したものの、二日酔いと寒風山の上り坂で苦戦して、下りでコントロールミスをして事故を起こし、海沿いを断念して内陸をショートカットした苦い経験のある男鹿半島へ再び向かう。今回は寒風山はスルーして海岸沿いだけは何とか走りきりたいのだ。
 大曲の花火の次の日に来たら閉店していた秋田市民市場にも行っておきたいところだ。駅方面の途中にある市民市場は今日は開いていて活況だ。新鮮な魚や野菜が並ぶ市場は心地よい。市場の中の定食屋で親子丼を朝飯に食べてから出発する。何だかんだ言って10時に迫る時刻になっている。

念願の秋田市民市場


意外と賑わっている秋田の台所


秋田市民市場の親子丼

 走っていると秋田港も寄りたくなる場所だ。秋田港や秋田市街を見下ろせるタワーがあるので立ち寄る。夏休みに入ってるからか車も人も多い。お土産屋さんや食事処もあるタワーだが、まずは上に行く。馬鹿と煙は高いところが好きだ。驚くのは、これだけ立派なタワーと眺めであるのに入場無料なのだ。気前が良いにもほどがある。上ってみると海や秋田の市街地、秋田港への鉄道の引き込み線の造形など圧巻の景色を見下ろせるのだ。満足して下に降りてきたところで、ババヘラアイスではなくババヘラソフトクリームに目が行く。夏の秋田と言えば路上でお婆さんがアイスを売っていて、へらで形を作ってくれるのでババヘラアイスが風物詩だが、そのテイストをソフトクリームにしてある。確かに味はババヘラアイスだが、シャーベットのババヘラとは雰囲気が違う。
秋田タワーから見下ろす秋田港


秋田の街の方を見渡す


秋田港への引き込み線の形が美しい


ババヘラソフトクリーム


晴れた空を写す秋田タワー

 寄り道が過ぎた自分に「いい加減にしろ」と渇を入れて出発する。まずは男鹿半島へ曲がる手前の道の駅を目指す。道は平らで天気は良く暑いぐらいの日差しで走りは順調だ。道の駅には着いたが、特に買い物も食事も無くスタンプだけを押して走り出す。なまはげの写真とかは撮るが基本は走りに集中していく。寒風山には登らなかったので、順調に進んで男鹿市内に入った。
 市街地のすぐ手前に海鮮市場があるので、そこを目指す。夕飯の鮮魚も買いたいし、昼ご飯もそこで海鮮丼か刺身定食が食べたい。ただ、あまり遅いと閉店するので、14時を過ぎないペース配分は必要だ。男鹿市内まではアップダウンもないので快調に走って市場に到着した。昼時は過ぎつつあるが2Fのレストランは行列が出来ている。ウェイティングボードに名前を書いて、1Fの市場を見に行く。さすがは男鹿半島の市場とあって新鮮な魚が充実している。買う魚の目星を付けたところで2Fに戻る。しばらく待つと名前を呼ばれてテーブルにつく。刺身定食と岩ガキを頼んでしまう。混んでるので店側も混乱しているのか、やや待たされてから刺身定食が来た。刺身の旨さに感動して満足したいところだが、岩ガキが来ない。たぶん忘れてると思い、「岩ガキはどうなりました?」と聞いたら「岩ガキはまだ来てませんか?」という問い合わせが違う人から2回来て、2回とも「まだです」と答えたら2個来た。さすがに1個で良いので1個は下げてもらった。すぐに売れるだろう。産地の岩ガキはさすがの美味しさと新鮮さだ。食事に大満足して1Fの市場へ行き、魚を買っていく。氷と新聞紙で包んでもらえて大丈夫だと思うが、100円で買った保冷バッグにも入れて行く。既に14時過ぎだし、キャンプ場に着くのも遅くても19時だとして暑さのピークも過ぎてるし問題ないだろう。

日本海と男鹿半島の眺め


苦い思い出 寒風山の眺め


JR男鹿駅


男鹿海鮮市場


新鮮な魚が並ぶ


男鹿海鮮市場の刺身定食


男鹿産の岩ガキ

 一度、男鹿駅へ行って男鹿線の終点を見てから、男鹿半島外周路へと進んでいく。ここからはアップダウンが激しいはずで、地図で見る限りでも200mを越える標高まで上っている。覚悟はしているので気合いが入る。しかし外周も前半は平らで穏やかな道が続く。凪で鏡のように静かな海岸に突き出る磯と海で遊ぶ親子たちの光景が微笑ましい海岸線である。海水浴場がしばらく続いた先の磯にゴジラ岩があるらしいのだが、遠目にはどれがゴジラか分からなかったのでスルーしていく。
 ここから一気に道が上り始める。覚悟していたアップダウンが来た。だが、距離はだいぶ少ないので、桜島までなら1つか2つぐらいアップダウンをこなせばOKかもしれないという期待はある。桜島のキャンプ場に併設されたホテルの温泉が17時までしか使えないという情報もあり焦りもある。今からグイグイ走って17時ぎりぎりにでも風呂には入りたい。坂道は坂道なりの対処の仕方でギアを落としてゆっくりと上っていく。だんだん海面を見下ろすような景色になり、海の向こうも見渡せて美しい。静かで青い日本海と傾き始めた夏の日差しが映る光景は夏の日本海の旅の醍醐味である。ただ、上り坂のボリュームは結構なもので、苦戦を強いられる。上れないことは無いが調子よく上れるわけではないというのが実情だ。
 坂道に苦しんだが、峠っぽいところを越えた。桜島キャンプ場までの間にもう1つ上るかどうかというところだが体力は正直残っていない。下りはなだらかだ。距離もグングン稼げて桜島キャンプ場までの距離はグングン減っていく。もう1山あってもたかが知れてるだろう。そんな期待通りに坂を下りきったらキャンプ場とホテルが見えてきた。17時は過ぎたが何とか到着できた。ホテルでキャンプ場の受付をすると、風呂の時間はキャンプ場利用者は19時まで使用可能という話しなので一安心だ。
 キャンプ場内で自転車を押してテントを張る場所を決める。ちょっとファミリーが多いが炊事場に近いところに張る。隣のテントの子供たちが興味深そうに見ている。まずはテントを張って荷物を放り込む。着替えと風呂道具を持って風呂に行きつつ展望台で夕日の写真を撮ろうとしていた。テントを張りつつも太陽が真っ赤になって沈みつつあるのは分かっていたが、展望台に向かう途中で沈みきってしまうという痛恨のミスだ。夕日はちらっと見たが写真を撮っていない。眺めながら黄昏れてない。日本屈指の夕日スポットで絶好の夕日日和だというのに何というミスだろう。
 俺は何をやってるんだろう…という後悔を抱きながら温泉へ向かう。何はともあれ風呂には入れて満足である。風呂から出たら、隣のテントの子供たちから「自転車のおじさん」「自転車のおにいさん」と呼ばれて、子煩悩の俺としては楽しくなってくる。売店でビールと日本酒を買っていく。地酒の大吟醸 5合瓶と共に旅を続けていこう。テントへ歩いて戻る最中に、もう1つの絶景に気づく。海に当たる満月の月明かりがこっちまで筋となって続いている。写真にも撮れるほど月明かりは鮮やかだ。夕日だけが日本海の魅力では無いと教えられることが多い今回の旅だと実感する。
 テントに戻ると夕飯を作り始める。規定演技になりつつあるが、まず枝豆を茹でる。買ってきたカワハギを3枚におろす。醤油とレモン汁でポン酢を作ってカワハギを刺身で食べる。これが絶品の美味しさだ。頭と骨に残った身が多すぎるので、アラ汁を作る。そうしないと魚がもったいない。3枚おろしはまだまだ修行が必要そうだ。
 夕飯に満足し、日本海の景色にも満足した。良い夜であるが、明日もタフな走りが必要で能代までは走りきりたい。その先は白神山地ということで山岳ステージへと雰囲気が変わる。海を楽しみ、山を楽しむ今回の旅の変化に思いをはせながら眠りにつく。

鏡のような海面に映る空


岩がごつごつと迫る海岸線


男鹿半島のアップダウン


男鹿半島 桜島の夕日
・・・を痛恨のミスで撮り逃す


日本海を照らす月明かり


田沢湖ビール



鳥海山 純米大吟醸
しばらく旅の友になる


今日も秋田産の枝豆


男鹿産 近海マグロの漬け丼


カワハギの刺身
三枚おろししたが骨に身が残る


カワハギのあらを
塩と醤油ですまし汁に仕立てる



   出発(山形県新庄市)から 362.33 km

7日目 男鹿桜島 → 入道埼 → 釜谷浜 → 能代 84.28 km
2016/08/12
 今日も暑いぐらいの好天に恵まれる。夏は天気が良くて暑い方がいい。テントを片付けて出発する。昨日はばたばたして気づかなかったが、この桜島という場所は海と岩の景色が最高に美しい。このアップダウンに耐えてもう1回来てもいいと思えるほどの場所である。今日も走り出して峠1つ分を越えたあたりに水族館がある。加茂水族館に行った時は開館前を狙っていたが、今回は出発が遅れて全然間に合いそうも無い。それでも坂を上りながら見下ろす日本海は透明度が高く海底まで見えている。晴れた真夏の日差しを浴びる海面と岩が心地の良い景色を演出している。
 昨日の1本目のアップダウンが標高やボリュームでは一番で今日のは1山分で昨日よりは小さい。坂を下りきると、水族館に辿り着く。加茂水族館のように特定の魚種が集まっているわけではないが、最近は旅先の水族館がマイブームになっているので、逃さず立ち寄る。前回の加茂水族館と違い連休まっただ中とあって混んでいる。男鹿半島付近の魚の生態が展示されている。北の日本海を見れる水族館は唯一なので、特徴的な魚種に魅力を感じる。なんと言ってもハタハタの情報が気になるところだが、せっかくのビデオ上映は通路沿いで見る気もない人が座って大声で話すので何も聞こえず台無しだ。どうせならちゃんとドアと壁は付けて欲しいところだ。
 水族館は混雑で不完全燃焼気味に終わった。水族館も見所が混んでて見づらいし、まだ朝飯を食べていないのだがレストランは開いてないし売店も食事になりそうなものはない。水族館から出てすぐに出店していたババヘラアイスが朝飯代わりになってしまう。甘いシャーベットは元気が出る。

意外と居心地のよかったキャンプ場


見下ろす透き通った海


男鹿水族館GAO


水族館のアイドル シロクマ


秋田の夏を象徴する
ババヘラアイスのパラソル


ヘラで盛り付けた
ババヘラアイス(メロン味)

 男鹿水族館を出発すると民宿が建ち並ぶような平らな海岸が続く。その後に急激な上り坂を迎える。前回の男鹿半島ツーリングでは内陸から展望台経由で合流してきたが、今回は合流した場所まで上る形だ。びっくりするほど急な坂でインナーの1速に入れてもペダルを回すような感覚では無く、グイグイと踏み込みながら踏み込んだ分だけ上がっていくような厳しい走りになる。うっそうとした森の中を上る道なので日差しは直接は受けないがものすごく暑く、ヘトヘトになりながら坂を登り切る。
 男鹿半島の西の端である入道崎へ向かう一本道に入ると、過去に走ったことはあって苦労した記憶がないので気楽である。ここからは男鹿半島の根元の大潟村で半島を抜けるまでは記憶のある道が続く。少しアップダウンしながら坂を下りきると草原と海が見えてきた。岬に草原と芝生が広がるのが入道崎の特徴で、ここまで来ると男鹿半島の先端である入道崎に辿り着いたことを実感する。しばらくすると入道崎の白と黒の灯台と駐車場と草原が見えてきた。前回の男鹿半島で行き逃した海岸沿いでの一周がやっと過去との合わせ技で終わったような気になり、忘れ物を取りに来て取り返せた気分である。
 まずは昼飯にする。つぶれてシャッターが閉まってる売店の前に自転車を置いて、飯を食えるところを物色する。観光客向けの食事処や土産物屋が立ち並ぶ中で光る物を見つけたいところである。ハタハタ丼の店があったので、そこで昼飯にする。混雑になれて無くてテンパってる感じのある店だが、その間に体温を下げる。そんなに待たされずに料理は来た。付け合わせのハタハタフライがやたら美味い。ほくっとした白身から良い味が出ていてさくさくの衣ともよく合う。男鹿半島の恵みであるハタハタを満喫して昼飯を終えた。
 昼飯を終えたら草原を歩いて灯台の方へ行く。灯台と海岸線は二度目なので省いても良いところだが、もう1度行っておく。緑の草原と端のごつごつした岩と磯、白と黒の灯台が印象的な眺めで、日本海にしてはなだらかな地形である。岬を見終えたら、走り出す。今日は能代まで行くので走行距離の余裕はない。前回の旅では手前の大潟村までだったので、今日の方がキツい。小さいアップダウンを何度も繰り返しながら岬から離れていく。男鹿半島で走りに焦るというのは俺の中では絶対に禁止したい行為だが気持ちは落ち着いてくれない。なまはげラインと海岸沿いの分岐で海岸側に行くと、また大きく坂道を上ったり下ったりする厳しいルートが続く。

ハタハタ丼とハタハタのフライ


男鹿半島の先端 入道崎

 車通りがほとんどなく単調とも思えるルートを走りきり、男鹿半島一周の旅は無事に完走し、男鹿半島は終わった。前回の男鹿半島の旅では八郎潟を目指してもう1本内陸の道へと入って行ったが、今回は海沿いをひたすら走る。大潟村を抜ける道の方が幹線国道で車の数も多い。今回の道はとにかく人気がない。そしてアップダウンが激しい。海から内陸に入る部分の上り坂は予想していたが、その先もずっと激しく登りと下りを繰り返す。海沿いではあるが1km弱内陸である道は砂丘の地形をそのままアップダウンでつないでいるようだ。元々は平らだと想定したことと、ここまで距離をしっかり走る走りが続いて疲労もたまっているので、本格的に参ってしまう。
 激しいアップダウンに翻弄されつつも何とか力強く走って、国道7号線に再び合流する。これは能代まで平らなのは経験済みではあるが、昨日は痛恨の見逃しをしてしまった夕日を能代で見たいという希望はまだある。2日ぶりのコンビニで休憩しつつ道を確認すると、能代市街地に行く手前で海岸線に出られるルートがありそうなことが分かった。コンビニを出て国道7号線を飛ばしていると日が傾いてきた。ここだと勘が働いたところを国道から左折して海へ向かう。おそらく当たっているのだが、道はだんだん狭くなっていく。人が全くいないがクレー射撃場へ向かう看板が立っている。地図にはクレー射撃場とは書いていないが、俺の勘を信じて道を突き進む。すると砂丘を越えていくのだが、その部分は狭いダートになっている。ランドナーでのオフロードは頻度が少ないのだが、時間に迫られている中での走りはかつてない経験である。
 走りづらいし蜘蛛の巣に引っかかり不快な走りがどこまでも続く。どかどか揺れながら下り坂をこなすと海に出られそうなルートを見つけて進んでいく。何とか日没に間に合って海と夕日を見ることができた。昨日は写真を撮れなかった分だけ今日は必死だ。海の向こうに沈む夕日と夕暮れに染まる男鹿半島とそこにつながる砂丘の眺めが見事な場所である。ただ、ダートの走りの激しさで靴と輪行バッグのパッキングが崩れたのは課題である。
 ここからは砂丘を越えずに海沿いの道を北上して能代を目指していく。日没を先ほど迎えて暗くなっていく一方である。宇宙開発関連の施設や火力発電所が並ぶ通りは休み中は最低限の人数で稼働してるからか不気味な静けさである。走って行くほどに暗くなり、終盤は自分の自転車のライト以外では前が見えないほどに真っ暗になった。一度、道が突き当たったところで右に曲がり砂丘を貫いて能代市街地へと向かう。国道に再び合流して、能代駅を目指す。ここまで来れば店もあるしコインランドリーも見つけた。まあ何とかなるだろう。なぜか駅までは追い風か下り坂かと思うほど走りが順調で、すっかり真っ暗な19時半に能代駅へ到着した。
 とにかく疲れた。その感想が今日は第1で次に到着できた安心感だろう。だが、現実はまだまだ続く。風呂、洗濯、宿の段取りがまだだ。コインランドリーはちらっと見て23時まで営業してるのは確認したので、それまでに風呂を済ませることが大事である。ネットで調べると銭湯があるようだ。公園も何個か調べて候補にしておく。特急リゾートしらかみが通り過ぎるのを見送ったら、能代市内の調査に向かう。駅前の旅館に泊まってしまうのが手っ取り早い気がするがスルーして、まずは風呂の位置を確認できた。次に公園探しだが、さすがに日没後で真っ暗な時間だとはかどらない。探した場所は神社だったので避けるしかない。川沿いの公園で何とか候補地を見つけた。昔ながらの銭湯で体を洗い流してサッパリすると夜は涼しくなってきた。だいぶ北に上がったからだろう。
 次に空腹を我慢して洗濯へ向かう。来る途中で見つけていたコインランドリーに行く。慣れた手つきで洗濯して乾燥する。しっかり乾かそうとすると営業時間ギリギリではある。とにかく作業をする。その間に貯まっていた日記も書き進めていく。乾燥が終わってCool Downの状態に入ると、店から閉店を知らせる自動放送が流れ始めた。それが次に不気味な警告音に変わった。店主が閉めにくる方式ではないようだ。何とか乾燥した衣類を圧縮袋に詰め込んで店から出て自転車に詰め込んでいると明かりが消えて自動的に施錠されたようだ。
 この時点で23時だが、まだ夕飯を食べていない。選択肢は自ずと居酒屋に限られてくる。地元に親しまれてそうな小さな小料理屋で夕飯にする。野菜たっぷりで滋味あふれる夕飯でビールを飲んでいると、地元のおじさんに話しかけられて話は盛り上がってくる。いろんなふれあいのある旅は良い物だ。居酒屋は早めに勝負を決めてしまったので〆のラーメンも食べていく。アサリ出汁の利いたラーメンが美味しい。
 あとはさっき見つけていた公園に寝に行くだけだ。人のいるはずのない深夜の公園で人の物音が聞こえたが構わずテントを張る。荷物もテントに放り込む。自転車を東屋の柱に固定して施錠し、疲れ果てた夜で眠りについた。

能代から男鹿半島を眺める


今日は撮り逃さない
能代から眺める日本海の夕日


水平線に沈む夕日


男鹿半島海岸線のリベンジと
タフな1日を終えての一杯


地元産の馬刺し


あっさりと茄子味噌炒め



   出発(山形県新庄市)から 446.61 km

8日目 能代 → 二ツ井 → 藤里 51.54 km
2016/08/13
 今日からは日本海海岸ステージから白神山地・岩木山・十和田・八甲田山の青森県 山岳ステージへと足を移していくことになる。だが、今日は30kmほどの藤里までの走りと言うことで安息日である。白神山地のトレッキングとかタフなコースも組めるが、最低限 目的地までの走りに限ってしまえば、30kmで100mほど上るだけの道になる。今の俺にはそれで十分すぎるだろう。
 起きたらまず自転車のメンテをする。ボトルケージのボトル固定部のゴムが切れてしまっているのをタイラップのリング2つで暫定処置をしてボトルが落ちないようにする。昨日のパッキングが崩れたトレッキングシューズと輪行袋も見直す。まずトレッキングシューズの左右で固定して形を決める。そこに輪行袋を重ねてストラップで閉めて形を決める。それを防水袋に入れて空気を抜いて形を決める。この作業をする前は物同士は独立したままで積み重ねて袋に入れてパッキングしていた。1つでもくずれると一気に崩壊する構造になっていた。今回は内部でもガッチリ結んでおくので崩れにくい。明日は昨日以上に長い7kmのダートが待っている。物が脱落すると輪行できない、トレッキングできない、落ち方によっては回収不能というリスクもあるので対処しておきたいのだ。最後にチェーンへ注油する。
 今日や明日から始まるハードでタフな走りに備えて自転車のメンテは万全となる。テントも自転車も撤収して出かけるころには、強烈な暑さになっていた。コンビニで軽い朝飯と一緒に、これから行く先の二ツ井で昔から親しまれていた じゃっぷう というアイスを食べていく。イチゴのシロップが利いたシャーベットではあるが味は濃厚ながらシャリシャリして冷たい食感はなんだか懐かしい。
 これから秘境に入っていくので補給のための買い物も能代で済ませていく。もう正午にもなろうかという時間帯に出発していく。能代から内陸へ入っていく奥羽本線と併走しながら快調に走って行く。山形ほどではないが暑さが戻ってきた今日は右からの日差しに苦戦しながらも進めていく。峠を登りそうな箇所はすべてトンネルで処理された整備された国道を走って行くと、二ツ井に出るためICのような形の道を降りる。二ツ井の道の駅へ向かおうとしたら通行止めで、先ほどの国道のICみたいな坂を上ってトンネルを一つ越えるようだ。よくよく見てみると車は通行止めだが歩行者や自転車はOKっぽい。行くだけ行ってみると橋が工事中のため二ツ井へ行けないだけで自転車は問題ない。歩道を抜けて500mほど走ると道の駅に辿り着いた。

1.5L用ボトルケージ
ボトル固定部が破断


切れたゴムを捨てて
タイラップでリングを形成


この袋にトレッキングシューズと
輪行袋を詰めているが崩れてきた


袋の内部で荷物をストラップで縛る


リジットな取り付け感が出てきた


アイスコーナーをびっしり埋める
じゃっぷう


能代のアイス
さっぱりしたシャーベット

 ここでやっと昼飯にありつけると思ったら、レストランはやたら混んでいて1時間待ちとかいう札が下がっている。軽食の店は閉店寸前だ。とにかく軽食に飛びついて、うどんとおにぎりにする。稲庭うどんを思わせる細い麺のうどんと、ふきのとう味噌の具が効いたおにぎりが美味しい。東北の素朴な美味しさを味わえた。
 ここから藤里へと上っていく。明日は藤里から先の峠を抜けて白神山地へと入っていく準備のような位置づけである。まずは藤里の市街地を目指していく。公園や買い出しを確保したい。白神山地の方から流れてくるサラサラときれいな川が印象的な道を川沿いに上っていく。これから向かう先にワクワクしている。住宅地の隅にある小さな公園を見つける。まず一つ候補を確保した。さらに進むと藤里の市街地に大きめのスーパーを見つける。ここで夕飯の食材を買い込む。新庄の丸ナスを使い果たしたいと思っていたのだが、ちょうど1人分のピザ用チーズがあったのでトマトと一緒に焼くアイデアが浮かぶ。そして、また枝豆を選ぶ。朝飯のためにあんこ餅も買っていく。買い出しは万全である。
 市街地から5kmほど先に白神山地ビジターセンターがある。明日の峠攻めは早朝から行く予定なので、ビジターセンターは今日中に見ておきたい。そんなに厳しくない緩い上り坂を進むと、ビジターセンターと温泉が見えてきた。出来れば市街地には戻りたくないので、野宿できそうな公園も同時に探しつつ走っていたが、見つからない。諦めるしかないようだ。
 まずビジターセンターに入ると、白神山地の生態系やトレッキングルートの情報がある。無料の割にものすごく見応えのあるビジターセンターだ。集めているスタンプも6本ぐらい一気に揃うし、小冊子も無料で何でも配っている。明後日は暗門を基点にして白神山地をトレッキングしようと思っているので、ガイドブックはありがたい。いろんな生物が白神山地には住んでいるが、クマゲラはなんとしても見たい。ここまで沖縄のノグチゲラ、奄美大島のオオストンオオアカゲラなど天然記念物のキツツキは何度も見てきたので、白神山地でも見逃したくない。ビジターセンターと同じ敷地にある森の駅でも買い物をしていく。ここは買い出しが充実している。能代のご当地カレーのレトルト、ばっけ味噌、白神産のマイタケの佃煮… これから秘境へ入っていく俺には充実の買い物ができる。
 明日は勝負日なので観光はあまり残したくない。ビジターセンターから1km上流に滝があるので、そこまで行って戻ってくる。まだゆっくり上る道が続くので苦労せずに辿り着いた。きれいな水が滝から流れてきて池が出来ている。小さいが見栄えのする滝である。段取り系で言うと、ここが峠に登り始める前の最後のトイレスポットとみた。

道の駅ふたつい
うどんとばっけ味噌おにぎり
細麺のうどんが気持ちいい


白神山地ビジターセンター


峨瓏(がろう)の滝

 滝を見終えたら風呂に向かう。ビジターセンターの裏に温泉がある。坂道を上っていくと、なんだか車が多くて賑わっている。誘導のための警備員まで立っている。温泉に一番近いところでは祭りが行われているようだ。露店や舞台まであって楽しめそうな雰囲気である。一度、祭りはスルーして風呂に入る。混んでて芋洗い状態を想像したが、意外とそうでもなく風呂は穏やかに済ませることができた。湯上がりもじっくり休憩できて溜まった疲れも落とせたような気分である。
 祭りを楽しんで行こうかと思ったら、引換券を買わないと露店で買い物をできない方式なのでスルーして自転車に戻る。せっかくの風呂上がりだが着替えや荷物を詰めているとアブが寄ってくる。ハッカ油を足に振りかけて追い払う。微妙に思い通りに行かないようだ。藤里市街まで下るのだが、上るときに苦労しなかったとは思えないほどスピードに乗った下り坂になる。夕暮れでわいてきた虫がバシバシと俺の体に当たる。

温泉で祭り 演歌歌手のライブ

 寝床の候補はさっきの住宅地の公園だけだが、かなり目立つ。市街地のちょっと丘の上に総動公園があるので、そこの片隅を狙いに行く。真っ暗になった坂道を上って運動公園を目指していく。暗い中で標識を見つけながら進んで公園を見つける。敷地内は誰もいなくて真っ暗だ。その中で寝床の候補を探す。ここまで人がいなければ安心して寝れそうでもある。水道やトイレが開いているところが見つからない。野球場の芝生のスタンド付近で使える水道を見つけた。ここにさっとテントを張って早朝に誰にも見られず撤収する作戦で行く。
 まずは、自転車から荷物を下ろして枝豆を茹でる。俺の目も野生化しているからか月明かりだけですべての作業が出来てしまう。枝豆を食いながらビールを飲んで、次にナスとトマトを輪切りにしてフライパンに乗せてオリーブオイルで焼く。片面が焼けたところでひっくり返してピザ用チーズを乗せて焼く。とろけて良い香りが出てきた。溶けた端に焦げ目が付くか付かないかのところでフライパンを火から下ろす。寒河江で買って、そろそろ傷みそうな梨を剥いて切って、山の駅で買ってきた生ハムと一緒に食べる。メロンとかイチジクはよく聞くので梨もいけるだろうと思ったら、見事にバラバラである。別々で食べた方が良かったのは確かだ。ナスとトマトとチーズは大地の味でベストな組み合わせそのものである。
 トイレがないのが課題の夜だが、夕飯に満足して、明日からの山岳ステージ完走に思いを馳せて眠りについた。

森の駅で見つけた生ハム


メロンやイチジクは無いが
梨と合わせてみる


やはり枝豆は欠かせない


新庄の丸ナスとトマトとチーズ



   出発(山形県新庄市)から 498.15 km

9日目 藤里→太良峡→釣瓶落峠→白神山地 暗門 51.48 km
 2016/08/14
 5時に起きて片付けを始めたが、6時前には人が来る。何か言いたそうな係員をよそに撤収を続ける。続々と野球のユニフォームを着た人たちも来る。何という朝の早さだろう。グラウンドの整備がこの時間帯に始まる。6時半にはパッキングが完了する。買っておいたあんこ餅を朝ご飯に食べて、ちょうど出発前に開いたトイレで準備を済ませる。野球チームの人たちと話しになるが、俺が行こうとしているルートは相当な秘境で熊も出るし、通行止めになっているのではないかという説もあったが、通行止めではないようだ。なんと朝の7時にプレイボールで、そこに向けて全員集合のグラウンド整備という弾丸野球だ。
 暗い時間に探したので、これ以上はどうしようもなかったが、早朝出発を狙ったとは言え、朝になっても目立たない場所選びは重要だ。痛恨のゲリラキャンプ失敗で出発する。ビジターセンターまでは昨日も走った道なので記憶もあって慣れている。今日も天気は良く朝の涼しさの中で快適に走って行く。昨日以上のペースで走ってビジターセンターに到着した。おそらく最後と思われる自販機でスポーツドリンクとお茶を1本ずつ買ってボトルケージとサイドバッグに詰め込んでいく。
 今日は勝負日だと覚悟して臨んでいるからか、昨日見た滝もスルーして調子よく走って行く。沿っている藤琴川の流れが上流に行くにつれて、さらに透明度を増してくる。気持ちよく晴れた夏の日差しを浴びた川は底まで見通せるほど澄み切っている。上や横に目をやると鬱蒼とした杉林が広がっている。しばらくは白神山地へと誘う自然豊かな峠を楽しんで登っていく。車に追い越されることもすれ違うこともない自然の道は楽しい。
 とにかくランドマークが何もない場所なので地図上で進捗が分からない。だがペース自体は決して悪くは無いと思いながら走って行く。とにかく今日は白神山地の世界遺産としての入口である暗門の滝が目標地点でそこまで辿り着かなくても、他に宿を取れる場所は無い。ペース配分が大丈夫かも気にしながらの走りである。トレッキングもできるルートとの分岐に着いた時点で出発から2時間。決して悪くは無い。地図上ではゴールも見えてくる場所まで来ているし、午前中に峠を越えてしまうことも可能なペースだ。まあ、この先で疲労でスローダウンするのは目に見えているが、出だしが順調なのは重要だ。この分岐で初めて知ることになったが、ここは秋田杉の天然林で、この鬱蒼とした杉林は原生林なのだ。針葉樹というと植林して木材を採ることを目的とした人工林をどうしてもイメージしてしまうが、杉の原生林というと屋久島ぐらいしか記憶には無い。

藤琴川の清流を見ながら走る


川の流れは澄み切っている。


藤琴川の横で小さな滝


山深くなってきて川の透明度は増す


秋田杉の自然林を行く

 上れば上るほど山深くなってくると同時に傾斜も徐々に厳しくなってくる。今日の走行ルートは秘境なので熊除けの鈴をサイドバッグにぶら下げていたが、こぐ度にチリンチリン鳴るのが鬱陶しくなってきたので、紐を引いて音を止めた。マナーモード付きの鈴は扱いが楽で良い。時間帯も進んで日が昇るので暑さに参る時間も増えてくる。背中をジリジリと炙られながら坂道を上っていく。本格的に坂道で苦戦する時間帯が続いていく。順調すぎたペースも徐々に遅れていく。補給ポイントがほとんど無いと思われている水もグングン減っていく。秘境の峠は俺には当然ながら楽はさせてくれない。この峠の最後は長い直登で大きく往復した後で短いワインディングを昇ると峠を越える。直登の1本目に差し掛かる。道幅はここで広くなっている。この直登は長くて傾斜がきつい。道が広い分、南側がぽっかり空いてるので真夏の日差しが容赦なく照りつける。ヘトヘトになりながらも力をかけて坂を上る。
 ここで右側の山の斜面に整備された塩ビのパイプから出てくる水がある。おそらく湧き水だろう。500mlのボトルに汲んで飲み干す。節約してきた水だけに体に染み渡る。1.5Lのボトルも半分ぐらい消費していたので継ぎ足す。ここに来て山の恵みで水が得られたのは大きい。この先の結果からしても、この湧き水が無かったらどうなっていただろうかと思うほど重要である。直登の1本目の先には大きな岩と杉の森があり、険しい岩に杉が生えている自然の光景に圧倒される。ここでヘアピンカーブを折り返すと2本目の直登が始まる。ヘアピンの内側にトイレはあったが水道はない。六十里越えもそうだったが、とにかく水補給に苦しむ旅である。
 2本目の直登に入ると上ってきた谷底の道が見下ろせる。上がれば上がるほど杉の原生林の景色が豪快さを増してくる。深い谷を見下ろす恐ろしさを楽しみながら坂を登る。だいぶ苦戦しながら2本目の直登を登り終えて折り返すと、くねくね曲がるワインディングを登るが傾斜はだいぶ緩んできたように思える。道の方向が変わり山の尾根に近いところを走っているので、道の右にも左にも深い谷があり崖を見下ろすような景色になっている。谷の向こうの大きな岩山と原生林もまた豪快な景色で、おそらく谷の向こうの山々は世界遺産ゾーンに入っているのでは無いかと思われる。
 厳しい行程を意外と調子よく登った先にトンネルが見えてきた。地図で見る限りではトンネルが秋田と青森の県境であり、今回の峠である釣瓶落峠(つるべおとしとうげ)である。ラストスパートする元気は既にないが、トンネルまで無事に辿り着くと一息ついて、谷を振り返る。この白神山地と秋田杉の原生林を見下ろす谷は何度見ても何時間見ていても飽きない景色である。

川沿いから離れると傾斜が増す


見下ろす崖が高い

終盤のまっすぐな急登が印象的


峠が近くなると展望がすっきりしてくる


前方の山の高さを感じなくなる


最後は尾根伝いで谷を見下ろす


谷の向こうの岩山

 トンネルを越えたところで、買っておいたランチパックで昼ご飯にする。よりによって喉が渇きやすいパンを昼飯に選んだのも失敗だ。あっという間に1.5Lのペットボトルも半分まで消費していた。ここから先がすべて下り坂なら750mlの水で十分だろう。だが、登り返しがあったり、峠を下りきったあとで暗門まで上り坂だと750mlという残量はややリスキーである。途中に寺と神社が1つずつあるが、そこで補給できれば暗門までが上り坂でも大丈夫だろう。高低差が1500mとかになってくると1.5Lを2本とか持つし標高が上がれば気温が下がるので水不足の心配がない状態にするのだが、今回は1000mもない高低差なので2本を持つようなことはしていない。この辺も考えないといけないのだろうし、先々で海外進出しようとしたら大きな課題になるだろう。
 何はともあれ下りということでメットをかぶってサングラスをかけて下り坂に臨む。どこかでダートになるはずなので、そんなには飛ばせず慎重に下っていく。しかし、なかなかダートが始まらない。事前に調べた情報だと7kmぐらいはダートなのだが、もう残りが7km程度というところまで下ったようにも見える。そう思ったら舗装路が終わって砂利道が始まった。砂利の下の土は固まっていて粒も小さいので走れないことは無い。オフロード慣れはしていないので慎重に下っていく。ここで遭難すると人と遭遇することもまず無いし崖から落ちていたら発見はされない。ガードレールも何も無い1.5車線程度の狭いダートを下っていく。尻を浮かせてバランスを取りながら段差や水たまりで削れた後をいなしていく。傾斜が収まって川沿いになったところで足を止めた。やはりダートは疲れる。ただの下りとは全然違う疲れがある。
 ここから、まさかの登り返しが始まる。ダートのまま登り返すのでペダルを踏み込んでも後輪のグリップが効かない。ローギアだとズルズルと空転する場面が出てくる。後ろに体重をかけてペダルにも力をかける。あまりしたことない力のかけ方で疲労感は増す。水も消費する。結構な長い登り返しを耐えて、再び下り坂になる。下りの先にダムを越える橋が見えてきた。峠の下りもいよいよ終わりが見えてきたようだ。落車すると被害が大きいので慎重に下って、舗装路に戻って路面からの入力がマイルドになったところで大きな安心感が出てくる。

トンネルが釣瓶落峠710m


川沿いのダートを下る


川面に近いところを通るダート

 ダム湖に沿って白神山地の暗門に向かう整備された道に出た。ここに来て舗装路のありがたさを実感する。俺の中で当面の問題は水である。もう1.5Lボトルの底にわずかな水が残っているだけだ。300mlもないだろう。どこで水分補給をするか、はたまたどこまで行けば飲みきっても問題ないのか。水を欲しがる体、期待される補給ポイント、ボトルの残り、水を消費させる気温と傾斜… 水を巡る駆け引きが続いていく。しかし、体はまだまだ好調で暗門へ向かう道を順調に突き進んでいく。道は確実に上り坂なのに、平地か下り坂でも走っているかのようにスピードが乗る。地図上で神社や寺があったはずの場所を通り過ぎてしまうが、そのような物は全く出てこない。残り3kmを切るとアクアグリーンビレッジ暗門までの距離を示す看板が出てきた。残り2kmで急激な坂を登り始めた。ここで地図のページをめくるのと同時に水を一口飲む。もう、あと1口分しか残っていない。距離は2kmを切っている。最後の力を振り絞って坂を登って下ると、右側に川とキャンプ場が見えてきた。ようやく課題にも目処がついた。
 意外と車が多いアクアグリーンビレッジANMONの駐車場に辿り着いた。立派な売店や観光案内所やガイド詰め所もトイレも何でもある場所だ。俺も人間であり動物なのか本能的に水道に行ってボトルを洗って水を満タンにした。生き物は水がなければ生きていけない。まず、そこだ。売店でキンキンに冷えた炭酸飲料を飲んで水分と糖分を補給し、やっと一息付ける状態になった。試飲のリンゴ酢がやたら美味しくはまってしまう。売店の隅にある受付でキャンプ場の受付を2泊分済ませる。風呂など色々と説明を受けて、快適なキャンプ生活が始まりそうな予感である。一安心したところで、ここの名物であるリンゴのソフトクリームを食べる。リンゴ酢をベースにしてあるので、ほどよく酸味が利いてサッパリして美味しい。フルーツ味のソフトクリームでは1位か2位を争う味だ。疲れ切っている俺にとっては、これ以上に美味い物は見当たらない。
 時間帯もまだ16時前と十分に明るくキャンプの準備なども快適にできる時間帯だ。ガイドセンターで情報収集をして、暗門の滝だけは行けるかと思ったが、ヘルメット着用のガイド同行でという説明だったので、そこは逆らわず今日は無理せずキャンプだけをして明日にトレッキングは回すことにする。キャンプサイトでテントを張る場所を探す。何しろ2泊なので場所選びは慎重にやりたいところである。大きな木の下で日差しを除けられそうな場所を選んだ。ささっとテントを張って荷物を放り込む。着替えと風呂セットを持ってテントから出ると、ライダーさんから背中にキンカンを塗って欲しいと頼まれたので塗ってあげる。
 風呂に行く最短ルートが急な階段なのだが、今の俺の足にはズンズン バキバキと響く。やはり釣瓶落峠の坂はきつかったし、日本海沿いアップダウンの連続で足には疲労が溜まっている。コテージの並ぶ道を過ぎて受付の建物に戻って風呂に入る。温泉では無いが白神の湧き水をわかした贅沢な風呂である。天然水を沸かしたのであれば温泉とほぼ同等の効能があると言っても良いのではないだろうか。体の汚れを落として白神の水で疲れを落として入浴を終える。ここでコインランドリーがあるのを発見した。次の洗濯予定地は弘前だが、ここで洗濯できると弘前到達のMUST具合が下がる。売店で酒を買ってテントへと戻る。
 テントに戻ったら食材をテントから出して炊事場へ行く。炊事場は完全に建物になっていて網戸で虫を食い止めている。炊事場の中で食事するのが手っ取り早そうである。買って持っていたオクラやミョウガがそろそろ傷み始めているので無事な部分を切って醤油と混ぜて食べる。ミョウガはヤバい臭いがしてきたので取り除いてオクラだけにする。やはり真夏に3日前の生野菜で冷蔵庫無しはダメなようだ。明日の朝飯もあるので多めに米を炊いて、お湯でレトルトのハンバーグを温める。能代のご当地グルメで軟骨を練り込んだ挽肉のハンバーグだ。雰囲気を出すためにフライパンに開けて、弱火で保温しながら食べる。軟骨のコリコリ感が利いていて、肉とソースがよく合う絶品だ。売店で買ってきたビールやワインを飲みながらの、山奥の贅沢な夕飯を楽しむ。

白神山地 アクアグリーンビレッジANMON
リンゴのソフトクリーム


青森産リンゴの
ニッカ シードル


能代の豚なんこつハンバーグ

レトルトだがフライパンに開けてみた



出発(山形県新庄市)から 549.63 km

10日目 アクアグリーンビレッジANMON → 津軽峠
 2016/08/15 白神山地 ブナ林散策路
津軽峠 → マザーツリー → 高倉森 → 暗門
 早朝の6時前に目が覚めた。せっかくなので、トレッキングを楽しみたい。昨日残しておいたご飯に藤里で買ってきた味噌とマイタケの佃煮を載せて食べる。山形産のつや姫と贅沢なおかずでご飯がいくらでも食えてしまいそうな味わいだ。ザックを空にして1.5Lボトルを入れて、糖分補給のためのチョコをジップロックに入れて、売店で買った服にかけておくと虫が寄ってこなくなる虫除けとハッカ油を持ち、SPDサンダルでは無くトレッキングシューズを履いて出発する。
 まずキャンプ場から橋を渡って川沿いの上流にある暗門の滝に向かって歩いて行く。暗門の滝には行かないが、手頃なトレッキング周回コースがあるのでそっちを目指していく。まずはコースの入口にある水場でペットボトルにわき水を汲んでいく。贅沢なぐらいに大量に湧きだしていて1.5Lボトルがあっという間に満杯になるぐらいだ。白神山地の名水をミネラルウォーターとしてペットボトルで買うと、結構なお値段がすると思うと贅沢なものである。すっきりとして美味しい水である。
 歩きやすいように整備された階段を上っていくと、いよいよ世界自然遺産のゾーンへと入っていく。初心者用のルートではあるが階段を上りきるとブナの森から差し込む真夏の朝の日差しが幻想的で別世界のようである。南日本の森は屋久島や奄美大島や沖縄のヤンバルで歩いたが北日本の森は雰囲気が異なる。厳しい自然を生き抜いたブナの木はぎっしり詰まったような力強さを感じるし、木そのものがシンプルにも見える。ブナの森の中を上ったり下ったりしながら見ていけるので、少し見下ろす展望や地面ごと木を見上げる展望を楽しめるトレッキングコースである。森のトレッキングコースの一番奥にも湧き水が渾々と湧きだしている。贅沢な美味しい水をブナの森の中で飲む贅沢は何にも代えがたいものだ。その湧き水は小さな川となって森の中を駆け下りて行く。小川沿いに下ってくるとトレッキングは終わる。

ばっけ味噌とマイタケの佃煮
ご飯がどこまでも進みそう




朝のブナの森
木々の間から差し込む日が気持ちいい


ブナの森から湧き出る水


ブナの森を流れる清らかな小川

 コッフェルを洗ってテントの中に片付けて、またトレッキングの準備をする。ジップロックに昼食のパンを3枚入れて味つけのピーナツクリームも入れる。食い物を持って歩くことになるのだが、においを出来るだけ放出しない工夫だ。今回の旅から新調した日帰り登山用の30Lザックに防寒具を兼ねたレインウェアと昼食と1.5Lの水を入れる。バス停に向かいつつ売店に立ち寄って、服の上からかけられる虫除けスプレーを買う。ぶっかけるとひんやりして気持ちいいし、いかにも効きそうなにおいが漂う。
 しばらく待つと、津軽峠行きのバスが来た。弘前から出てここを経由して青森県と秋田県を結ぶ県道の峠へと入っていくバスで白神山地トレッキングの定番の足となっている。バスが出発すると、早速ダートへと入っていく。秋田県まで50km近く走る道で40kmはダートというハードなコースだが、いつかは自転車で走ってみたいと思っていた憧れの道でもある。1日で踏破できるだけの体力とオフロード走行能力が問われる屈指の道ではないかと思われる。ここだけはランドナーではなくMTBでトライすべきかもしれない。想像していたよりは踏み固められたダートをバスはグイグイ上っていく。外に見える自然林や遠くに見える山々の景色は手付かずで美しい。
 バスが津軽峠バス停に着いたら乗客は全員降りる。ほとんどの人は近くのマザーツリーなどを見てバスで引き返すのだが、俺はキャンプ場まで約7kmをトレッキングして戻るプランなので、特に急いで行くこともなくまずはバス停の奥にある駐車場から谷と遠くの山の景色を楽しんでいく。他の乗客から遅れて森の中の登山道へと入っていく。まずは山頂まで登りになる。入ってすぐのところにマザーツリーがあり、その奥には展望台がある。マザーツリーは見物客がたまってるので、展望台に行き人がいなくなるのを待つ作戦に出る。それでもマザーツリーの前を通り過ぎて展望台に行くので、人のいないところで大木を見て感動するという流れは失われてしまう。展望台に辿り着くとブナの森が広がる谷と向かい側の山の眺めが雄大で、湿気が多く霞んでいるが岩木山も遠くにそびえ立っている見事な絶景が広がる。
 展望台を楽しんでマザーツリーに戻ると、ほとんどの観光客は見物を終えてバス停か高倉森の方へ歩いていったのか居なくなっている。白神山地では有名なマザーツリーと一対一で向き合える。秘境にそびえ立つ一本の大木はずっしりと構えている。ただ、自然が厳しすぎるのかブナの元々の寿命なのか樹齢400年というもので、屋久島の杉や神社の境内にそびえ立つ神木などと比べると数字だけ見ると短い印象を持ってしまう。しかし、こんな秘境で凍てつく真冬を毎年乗り越えながらの400年というのは数字以上に貴重なもので、木の幹もみっちりと詰まって固い印象も受ける。
 高倉森へと上っていく登山道へ一人で入っていく。ここからは緊張感のあるトレッキングが始まるだろう。今年の東北地方は熊ラッシュの年なので、熊除けの鈴をONにしてチリンチリン鳴らしながら歩いて行く。ゆるめの傾斜を尾根伝いに上ると、手付かずのブナの森が広がる。トレッキング経験は決して豊富ではないが、寒さで引き締まった幹のブナが立ち並んで落ち葉がフワフワと広がる光景は他の山では見たことがない景色のように見える。ブナの木陰で柔らげて差し込む真夏の日差しが森と幹をきれいに照らしている。
 時々、左側の木の隙間から展望があり遠くの岩木山が見える。開放感と森の箱庭感の両方を交互に味わいながら尾根伝いを歩いて行く。しばらく進むと頂上に当たる高倉森に辿り着いた。手付かずの自然の中なので座って休む場所などないので立ったままで山頂を表す標識の上にパンを入れたジップロックを出して、そこでパンの上にピーナツクリームを塗ってほおばる。上るべきところまで上ったので甘塩っぱさが有り難い。のどが渇く組み合わせのパンとクリームを白神山地の名水で流し込む。

津軽峠に向かってダートを走るバス


津軽峠からの眺め


マザーツリー奥の展望台から
岩木山を眺める


白神山地にそびえ立つマザーツリー


マザーツリーを見上げる


高倉森の尾根伝いを歩く


白いブナの木が並ぶ森


においが出ないようにした山奥ランチ


高倉森からの岩木山の眺め

 飯を食い終わったらザックを背負って歩き出す。今年の旅から新調したザックは背中にフレームが入っていて形が決まるので体に密着して負担が少なく、背中にきっちりホールドされて動きもなくて背負いやすい。登山道具の時代進化は素晴らしいものがある。歩きのペースは順調なので、ここからはペースを落として楽しんでいく。鳥の声が聞こえたら、その方向も確認する。ここで気付いたのだが熊除けの鈴が鳴る度に野鳥が逃げているようにも思える。今回の山歩きでは、クマゲラ、ツキノワグマを見れるものなら見たいと思っているので、鈴で熊を遠ざけるよりは俺の野生の五感で動物の気配を感じながら歩く作戦に切り替える。すると歩く度に鳥たちが逃げる現象は解消した。
 ブナの木々や森と見かける鳥を見ながら、ゆっくりと歩いて行く。これこそ白神山地でのトレッキングの醍醐味だろう。準備は整った。あとはクマゲラを見るだけだ。少し傾いてる木の下側の面をよく見ながら歩いて行く。キツツキのドラミングの音や鳴き声も聞き逃さない構えで慎重に進むと歩みがとにかく遅い。それでも見たこと無いような小さい鳥が目の前を横切って、枝から枝に渡り歩いてたり自然の営みを十分に満喫できるトレッキングである。途中からは下りの傾斜がもの凄く厳しくなってくる。木に捕まりながら足を滑らせて下に降りていく。そうでもしないと加速してどこかに飛び出してしまいそうだ。それでも時々は踏み外して転倒する。足首をひねったりもして明日以降に痛みが悪化しないことを祈るしかないような踏み外し方もする。この辺りが登山をしている人とにわかの違いなのだろう。
 急な下りを歩いている谷の向こう側で物音と気配を感じて立ち止まる。今年流行のツキノワグマかと思ったが、ニホンカモシカだ。見かけてもすぐに逃げてしまうイメージのある野生動物だが、谷を1つ挟んでいるからか落ち着いてくれている。さすがは山で生きてるだけあって崖でもトコトコと構わず上っていく。しばらく見ていると藪の奥へと消えていった。
 また下っていくと、今度はポツポツと雨が降ってきた。キャンプ場までの距離は1km程度なので、大丈夫だとは思うが、登山慣れしていないので焦る気持ちが出てくる。木がある程度は雨を遮ってくれるので、レインウェアを着込むほどではない。地面もまだ乾いた状態なので歩きづらさは出て来ない。本降りになる前にできるだけキャンプ場に近づいておきたいのでペースを上げていく。下りの歩きで靴擦れした足に激痛が走るのを我慢しながら下へ下へと降りていく。そろそろ全身がクタクタになってきたと思ったら下界にダートの道とキャンプ場が見えてきた。雨が本格的に降る前に下りきって一安心である。
 このままキャンプ場へと帰っても良かったが、せっかくなので朝 歩いた森の方に行き、水だけは満タンにして戻る。ここのベンチでやっと足を休めることができた。今日は合計で10km近く歩いたので我ながら頑張ったものだと思いたい。山から湧いたばかりの冷たい水を一口飲んで1.5Lボトルを満タンにしていく。

谷の向こう 真ん中の木の下に
ニホンカモシカがいる


カメラのズームでニホンカモシカと目が合う


水くみ場


豊富な水量で湧き出る水

 キャンプ場に戻ったら、昨日も美味しかったリンゴのソフトクリームを食って 一息つく。今の時点で足がバキバキに痛い感じなので、明日は筋肉痛を覚悟しないといけないだろう。歩いてテントに戻って、着替えと汚れ物が入ったサイドバッグを持って風呂に行く。キャンプ場から風呂までは急な階段を上るのだが、両足の筋肉にずーんと疲れが響く。風呂に着いたら脱衣所で着替えて、さっきまで着ていた汚れ物もコインランドリーの洗濯機に放り込む。着替えが弘前まで足りないわけではないが、何かの都合で弘前行きが遅れた時のプレッシャーがなくなるので安心だ。風呂で汚れと疲れをサッパリと洗い流したら、洗濯が終わるのを待ちながら日記を書く。今回は長旅ながら何とか大きな遅れもなく書き進めている。フェリーなどの長時間移動もないし、帰りの輪行も3時間程度で到着してしまう距離なので、こういう時に書き進めるのが重要である。
 乾燥が終わると20時過ぎになっていたが一安心だ。サイドバッグに詰め込んでキャンプ場へと歩いて戻る。荷物をテントの中に放り込んだら、米と夕飯のおかずを持って炊事場へ行く。テントの前で作っても良いが、面倒でもある。炊事場は屋根と網戸に囲まれていて虫も来ないので快適である。まず米を湧き水で炊く。山形県産のつや姫と白神山地の名水という贅沢な組み合わせだ。炊き終わった蒸らしに入ったらお湯を沸かす。今日はレトルトのカレーを夕飯にする。レトルトのカレーというと非常食感が満載だが、これは能代のご当地カレーなので少し楽しみでもある。
 洗い物の手間は増えるが見栄えがするようにフライパンにご飯をよそってカレーをかける。昨日のハンバーグと同じで軟骨を練り込んだ挽肉を使ったキーマカレーで、コリコリとした食感と肉の旨味とスパイスの味がよく効いてて美味しい。レトルトのカレーは調理する生鮮食品の買い出しも外食も全くできない時の非常食想定の持ち物で、使わずに旅を終えることが多いのだが、ご当地とかプレミアムなレトルトを使う「積極的非常食」という考え方も有りだと今さらながら気付く。去年のGWみたいに積極的非常食を手に入れるより前に初日から使う場合はどうするか?という課題はあるものの新しい攻め口と旅の楽しみの一つであるのは間違いないだろう。夕飯に満足し、まだまだ発見もある旅、白神山地のトレッキングに満足した1日は終わった。

今日も歩き終わりのりんごソフト


能代の豚なんこつキーマカレー


こりこりした軟骨と豚のコクが
絶妙のカレーライス



出発(山形県新庄市)から 549.63 km

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