旅記録

2016 夏 東北
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11日目 白神山地 暗門 → 岩木山神社 → 嶽温泉 66.00 km
 2016/08/16
 テントを打つ雨音で目が覚めた。予想通り足と腰はバキバキに痛む強烈な筋肉痛に襲われている。ダート走行でバランスを取るために使って登山でも使った普段使い慣れていない腰と全部の荷重を一次的に受ける足… 筋肉痛にならないわけがなく、歩くのと自転車では使う筋肉が違うことを実感する。雨で捗らない中、ヨボヨボのお爺さんのような動きでテントから荷物を出して屋根のある炊事場の軒先まで持って行く。それを何度か繰り返してテントが空になったところでペグを抜いてフライシートの水気を振り落として、テント内にたまった雑草の欠片を落として片付ける。
 自転車に荷物を積み終えると、一時的に雨はやんだ。レインウェアを着ることも無く出発する。来た時から覚悟はしていたが、いきなり急な坂が迎え撃つ。筋肉痛の足から来る疲労感を押し殺しながらペダルを踏み込んで上がっていく。長くないのは分かっているので耐えるしかないだろう。坂を乗り越えると、道は下り坂に入って道幅もゆったりと広がる。きれいに舗装された緩い下り坂を気持ちよく下っていく。まるで俺の体力が増強したかと勘違いするほど、傾斜も感じないが速度は伸びる。そんなに快調に下れる道を、一昨日は調子よく上っていたように思える。30代最後の夏にしては悪くないとも言える。
 ダム沿いの道が終わってトンネルを抜けて急な坂を下ると、それでも下り基調でグングン距離を稼いでいく。好調を維持したままで、ビジターセンターに到着した。白神山地の自然を体だけでなく頭で理解するためにはビジターセンターは欠かせない。自然の情報より何より一昨日の朝以来の2日ぶりの携帯電話通話圏内である。藤里から峠を上り始めたら圏外になって、ダムに降りてきても圏外、暗門も津軽峠もずっと圏外だったので、久し振りに情報社会に帰ってきたことになる。…と言っても普段からスマホジャンキーではないので旅の記録を連発で残したら、ビジターセンターを楽しむ。ブナの根っこや生息する生き物を展示してあって、藤里側と同じく見応えが十分にある。
 ビジターセンターがあまりに深くて見学に時間をかけてしまったら11時半になった。向かい側の土産屋とレストランで情報収集しつつ見ていると、白神のハチミツを使ったソフトクリームがめちゃくちゃ美味しそうなので食べる。甘さとコクがあるハチミツが柔らかなミルクの味に合う。デザート系を食べたあとでなんだが昼飯にする。白神産の舞茸の天ぷらと蕎麦を楽しむ。香りがとにかく濃厚に立ち上る。ビジターセンターで時間を掛けすぎたが、この後は集中して走って行こう。そう心に決めての早めの昼飯で満足する。

キャンプ@アクアグリーンビレッジANMON


見応えがある青森県側のビジターセンター


白神産 ハチミツをかけた
ソフトクリーム on コーヒーゼリー


ブナの幹と根っこを展示


ブナの根っこの内部を見る


白神産マイタケの天ぷら


白神十割そば

 出発すると上り坂が始まる。この先は岩木山一周ルートに入ろうと思っているが、どうも丘を一つ越えるようだ。急な狭い坂道を登り切って下ると、素朴な温泉宿が1軒あって通り過ぎると一周道路に出た。車道を挟まずに岩木山を楽しめる逆時計回りを選択する。1kmも走らないうちに岩木山神社が見えてきた。まずは、ここで旅の無事を感謝していきたいところだ。
 駐車場の隅に自転車を置いて、境内を歩いて行く。本当は参道が真っ直ぐと本殿に続き、その先に岩木山がそびえ立つらしいのだが、天気が悪くて山は見えない。一周回っている間に奇跡的に見えることを願いながら走るしかないだろう。境内の雰囲気は厳かで自然を奉る神社らしく立派な杉の木が並んで、古くて風情のある石畳が続く。正面には決して鮮やかな赤ではなく大きな神社にしてはシンプルな本殿が見えている。自ずとこの景色に気が引き締まる思いである。本殿に入る前に右に逸れると湧き水が渾々と湧く泉がある。水量も豊富で憩いの場にもなっている。ここで身を清めて山に登るのだろう今日はさほど熱を帯びていない俺の顔を洗うと冷たい水が気持ち良い。手も顔も洗ってお参りする。まだ終盤も山岳コースが続くので、ここまでの長旅の無事を感謝し、この先の無事もお祈りしていく。

岩木山神社の参道
まっすぐ長い石畳と渋い朱色の門


渋い朱色の山門


岩木山のわき水


不思議な形の狛犬


厳かな岩木山神社 本殿


社務所も厳か

 お参りを終えると、岩木山一周道路へと戻っていく。一周道路は山の裾野の少し高めを回っているので、右には津軽平野が見渡せるだけの広がりがある。下界に広がる田んぼやリンゴ畑、その向こうの弘前市内の眺めは素晴らしい。これ以上天気が悪いと見えないだろうけど、ギリギリのかすみ具合で楽しめる。すると左に岩木山山頂まで見渡せるほど雲が空いた。この隙にと言わんばかり自転車を止めて景色を眺めまくって写真を撮りまくる。きれいに整備されたリンゴ畑とその向こうにそびえ立つ荘厳な岩木山は見事な景色である。一周道路の醍醐味がようやく出てきたようだ。
 この先も一周道路のアップダウンをこなしながら走って行くが山側も津軽平野側も展望があるタイミングはごくわずかである。それでも車通りが少なく、牧場や畑の中を抜けていく道は心地よい。岩木山一周道路は途中で大きな谷間と山場を迎えるのだが、おそらく谷に落ちていく手前で最後と思われる自動販売機で水を買ってペットボトルを満タンにする。とにかく水不足に対する備えを大事にしたい。
 自販機を過ぎると車の数が少なくなるどころか、ぱったり消えた。悪天候時の閉鎖ゲートもあるので険しい部分に入っていくのが実感できる。山深くなってきたからか足を止めるとアブが寄ってくるようになる。落ち着いてハッカ油を足にふって服の上からも虫除けをふって走って行く。そろそろ谷底に落ちていくのだろうと思ったら上り坂の傾斜が増してくる。谷はまだ?と思いながら、どこまでも上っていく感覚である。地図を見る限りでは300m近く谷底に下って上り直すはずなので、このアップダウンはハンパではない。それは分かってるので、さっさと谷に下って欲しいところだが上り坂は続く。下界の眺めもなく岩木山も見えないストイックな坂を上り、道が下り始めた。
 一度、自転車を止めてヘルメットをかぶり下っていく。これもどこまで下るんだろうかと思うほど下り坂は長い。さらに結構な急カーブが続く。飛ばしていけばテクニカルなコースだが慎重に下っていく。左側の車線を広く使ってアウトインアウトしながら進むも、なかなか谷底まで辿り着かない。下る手前でずいぶん上ったし、下りの長さには納得せざるを得ない。しかし、また同じボリュームを上るのが分かっているので純粋に楽しめない。

リンゴ畑越しに見下ろす津軽平野



整然としたリンゴ畑の向こうに
そびえ立つ岩木山


これこそ津軽の象徴と言える景色

 坂を下りきって集落に下りてくると、鰺ヶ沢の海沿いへ向かうか岩木山一周を上るかの分岐に出た。前に岩木山一周にトライしようとしたときの起点であり、すでに半周以上は回りきったことにもなる場所だ。数年前の落とし物をやっと拾えたような思いはするが、一周回っている間にほとんど岩木山が見えていないのは残念なことだ。ここからは覚悟しているが上り坂が始まる。どんより曇っているが海の方から吹いてくる風がちょうど追い風として働くので意外と踏ん張って上って行けている。今朝の筋肉痛もだいぶ楽になった感覚でもある。上り坂を進むと森が深くなってきてワインディングにもなってきた。ちゃんとした峠道という様相を呈してきた。すでに時間も17時を過ぎている。2時間掛けて上ると19時で、そこから30km走って弘前まで下る元気はない。坂を上りながら計画変更を考え始めていた。
岩木山一周道路
上り坂の途中で雨が降ってきた。

 そんな考え事をする余裕もないほどの雨が突然 降り注いできた。森の木陰で雨粒をしのげるかというと無理なレベルの雨になってきた。奇跡の天気運で乗り切れるかと思ったが、この旅の自転車走行中としては初めての雨となる。新庄を出発して10連勝を飾り11連勝の天気になるかと思ったが、さすがに今日は逃げ切れなかったようだ。2016年の旅は天気運が出来すぎなレベルでGWの3時間程度の雨に曝されただけなので感謝したいところだ。仕方無くレインウェアを着込んで坂を上っていくと霧が徐々に濃くなっていく。雨で低く垂れ込めた雲の中に入って行ってるのだろう。
 雨の日は暗くなるのも早いので、すっかり夕暮れの終わりのような暗さになってきた。ライトを点灯しても霧で反射して明るくはならない。リアの自発光式リフレクタだけが俺の存在を知らせるのに頼りになる存在である。周りの景色が山の森から霧の中で見えるトウモロコシ畑に変わってきた。もう峠も近いのだろうか。トウモロコシの穂が霧の中で印象的な風情を出している。峠という意識はさせられないもののピークは過ぎたようだ。一気に下り坂に入る。厳しいワインディングでは無く左右にトウモロコシ畑を見ながら薄暗くて車がいない道を下っているような感じである。あと25km先の弘前まで走る余力は体力的にはあるのだが、この暗さと霧の中を行くのもきついし、やや危ない。
 途中にある嶽温泉で泊まりたいと思い始めてきた。日帰り入浴+キャンプというプランも無いこともないが、雨の中でキャンプというのも正直しんどい。買い出しもしてないから決して楽しいキャンプにはならないだろう。そうなると宿を探すという選択になるが、この時間から飛び込みで泊まらせてくれるところがあるかどうかは未知数だ。自転車は通行禁止だが岩木山の上の方まで行く有料道路の分岐を過ぎて、しばらく走ると民宿や温泉宿のある温泉街が見えてきた。
 1軒目はやたらきれいなところにトライしたが断られる。2軒目は大きくて古くからの雰囲気のある宿で、元々は素泊まりがない宿で食事は提供できないが…ということではあるものの渋々 受け入れてもらえた。泊めてもらえると決まれば、フロントバッグとサイドバッグに雨がかからないようレジャーシートで覆って穴にカラビナを通して固定し、着替えと充電セットなどを持って部屋に入る。
 とにかくずぶ濡れで冷え切った体を温泉で洗い流していやしたい。シャワーは壊れていて温泉のお湯で洗うしか無いのだが、温泉は酸性が強いので石けんが使えないと言うことで、大きな桶にお湯を沸かして持ってきてもらっているとのことだ。去年の恵山の温泉を思い出すところだが、温泉のお湯と水で石けんでも何とか泡立って体はきちんと洗えた。源泉掛け流しの温泉はとにかく気持ちが良く、今日みたいに体も疲れて雨で冷え切ってる日には本当に助かる。
 部屋に戻ると、おにぎりと味噌代わりにカップラーメンを準備してもらえた。俺には十分すぎるほどの夕飯である。ゆっくりと旅館の食事を味わえるとベストだが、俺の体力と走行能力だとこれが限界である。自販機でビールを買って飲めば完璧な夕飯になる。充電すべき物をコンセントに繋いでテレビを見ていたら力尽きた。

飛び込みだが出してくれた
夕飯がありがたい



   出発(山形県新庄市)から 615.63 km

12日目 嶽温泉 → 弘前 29.94 km
 2016/08/17
 朝になっても天気は回復せず、雨が降り注いでいる。2連敗は確定で、俺の天気運は終わったようだ。天気予報では1つめの台風が近づいている。昨夜の夕飯は間に合わなかったものの朝はちゃんと間に合って準備してもらえた。炊きたてのご飯とマスの塩漬けと津軽の郷土料理である貝焼き味噌と宿の主人が八戸で見つけてきた杏のしそ巻きで、とにかくご飯は進むし、素朴な味が美味しい。心が温かくなるような津軽の郷土食で朝ご飯を満喫する。
 いよいよ現実に戻るわけだが、宿の外の自転車を宿の玄関内に移動して頂いたようで、有り難い。乾いた荷物を開けて着替えや電気製品をしまっていく。何度もお礼を言って宿を出る。素朴な温泉街だったが、また今度はじっくり楽しみたい場所である。自転車の旅だと時間ギリギリまで走って泊まれるところを選んでしまうので、どうしても宿のおもてなしを楽しむことができない。その代わりがキャンプなのだろうけど天気の悪い日ぐらいは、そういうのを楽しめる計画にするのも必要な気がしてきた。
 岩木山一周道路も終盤というところで、せっかくなので産直のトウモロコシ屋さんに立ち寄る。嶽温泉近辺のトウモロコシは嶽きみと呼ばれてるブランド品で有名である。茹で置きのトウモロコシをかじりながら山の方のトウモロコシ畑を見てると、雨だというのに奇跡的に岩木山が姿を現した。とにかくジューシーで濃厚で歯ごたえもあるトウモロコシを楽しみながら岩木山を見る… 贅沢な旅の醍醐味を味わう。

嶽温泉 旅館の朝食


津軽の郷土料理 貝焼き味噌


お世話になった嶽温泉 小島旅館


嶽きみ畑の向こうにかろうじて見えた岩木山

 もう思い残すことはないほど満足した岩木山一周道路も、いよいよ終わりで出発地点だった岩木山神社の前まで来た。お参りは昨日済ませたので一礼して通り過ぎていく。ここからはすっと国道で弘前に戻るルートと、リンゴ畑を満喫させてくれることを想像できるアップルラインを抜けるかの2択だ。計画変更で距離を短縮しても今後の計画が成り立ちそうなことが分かって、今日は安息日に決めたので、目的地は20kmもない弘前と決めて少し遠回りのアップルラインから行く。
 強く降り注ぐ雨の中でリンゴ畑の隙間を抜けるようなアップダウンをこなしていく。大きな山や峠はないものの坂道の一発ずつがじわじわと効く。下り坂の途中でブレーキに違和感を感じて自転車を止める。左(後輪)のブレーキレバーを引いても、すっと戻ってこない。よくよく見るとブレーキレバーからトップチューブまでのアウターワイヤーがフレーム近くで折れてしまっている。曲がり具合を調整すればブレーキは普通に使えるので、次のキャンプ時にでもタイラップで位置決めすれば良さそうだ。ブレーキが利かない側だと雨の中でも修理が必要だが、騙し騙しで行けそうだ。
 思ったほどリンゴ畑を抜けないアップルラインが終わり、弘前市街地に入る前に昼飯でも食べたいところだが、なかなか店が無い。津軽の郷土料理とかが理想的だが飲食店自体が見つからない。飲食店の前にホームセンターに立ち寄って電池式の虫除けを買う。次の十和田湖や八甲田山の峠に向けて、目の周りにまとわりついてくる小さい虫(通称:メマトイ)の対策を検討したいのだ。飯にありつけないまま走り続けると弘前城の近くまで来てしまった。
 もう14時だというのに昼食もまだで空腹感がある。観光案内所で情報収集と雨宿りとスタンプ収集をして、腹が減ってるというのに2Fのギャラリーで津軽塗の作品を見ていく。伝統工芸は伝統を守るだけでは無く、意外とモダンな作品や漆器で見たことも無い色使いが見られる。仕事柄、樹脂の加飾部品を目にすることは何度もあるが、本物との質感の違いは大きい。こういう和モダンなデザインも選択肢の一つでは無いかと思う。それが成り立つまでの工程の数も驚くほど多い。
 観光案内所を出て店を探すも、なかなか見つからないというかランチタイムが終わった様な気配もある15時前という状況だ。中三デパートの地下でぱっと買って食える総菜とか無いかと期待したが、それはない。フードコートのラーメンとかが現実的な選択肢になってきた。というか、何か野生の勘が働くような味噌ラーメンの店に惹かれて、味噌ラーメンを頼んでみる。遅い昼飯を食べている人は俺だけでは無く賑わっている。出汁とコクが効いてパンチのある味噌スープにしゃっきり炒めた野菜と太い麺… これぞ味噌ラーメンの醍醐味というか、絶対に根強いファンが居そうな味である。弘前に来たら食っておけと言いたくなるような味だ。
 思わぬ味噌ラーメンの美味に満足し、中三デパートを出たら空に晴れ間が出て雨がやんだ。すでに15時を過ぎているので急いで弘前城へ向かう。市役所前に自転車を置いて、城内へと歩いて入っていく。どこまで自転車で行って良いのか分からない構造だ。城内は驚くほどに木が立派で桜も年老いて貫禄のある木ばかりだ。春は東北屈指の桜の名所になる弘前城の桜は夏の緑でも迫力や存在感を感じさせて、春を期待させるものがある。自転車でも入れたが歩いたことで返って城内の雰囲気を楽しめたので、城外に自転車を置いてくるという選択は正しかったとも言える。

絶品の嶽きみ塩ゆで


観光案内所 ねぷたの屋台


観光案内所  津軽塗り


中みその味噌ラーメン

 お濠を越えると入場料が必要だが、払っていく。16時リミットかと思っていたが、時間はまだ大丈夫なようだ。そんなに高台に建っていない本丸へ上がっていくと天守閣に辿り着いた。これが弘前城!?とガッカリするような土台の上で本丸の隅っこに天守閣は建っている。写真を撮るための足場台も工事用の鉄パイプと板で風情がない。城内の雰囲気は好きだったのに天守閣の作りは残念だなぁと思いながら天守閣に入ってみると、背景が理解できた。石垣の工事のために天守閣を曳家して移動している暫定の位置だ。ある意味、今しか見られない貴重な姿とも言える。工事が終わって元の場所に戻った時にまた見に来なくてはいけないという宿題も同時に残る形となった。高さ自体は変わってないはずだが、天守閣の上からの眺めは周りの木が立派すぎて、他の城ほど城下町を見下ろして眺める感覚は薄い。
 城から下りてきて、また城内を歩いていると木々の表情も長い年月で大きく差が付いているし、何本かは柵が付いて大事に管理されている桜の老木もある。GWの時期に桜と城を楽しめることで有名な弘前城だが、単なるお花見スポットでは無い崇高な場所に思える。GWはどうしても南の方へ旅してしまうので来る機会は無いが、何かの間違いで管理職にでもなってしまってGWにショートトリップしかできなくなったら桜の時期に訪れたい場所である。

曳家で移転中の弘前城天守閣
この姿を見られるのは今だけ


立派な桜が立ち並ぶ城内


立派で守られている桜の古木


蓮が生い茂る弘前城のお濠

 16時半ということで見学スポットは軒並み終わってしまう時間になった。藤田記念庭園にも行ってみたが入場は断られた。自転車に乗って、ねぷた村にも行ってみたがここも閉館。まあ今日は観光については打ち止めのようだ。今日はまた雨かと予想して宿を抑えたので風呂や寝床や買い出しなど現実との戦いはない。しかも、明日は午前中ぐらいは弘前で過ごしても、十分にたどり着ける距離しか走らない。弘前駅前に展示してあるねぷたを見て、情報収集とスタンプ収集をしていく。
 もうすっかり乾いてくれた路面を快適に走ってホテルに辿り着いた。自転車から荷物を取り出して、駐車場の隅で見えないように隠して自転車をロックし、チェックいんする。大浴場で温泉に浸かってから、汚れ物を洗濯する。明後日の十和田湖のキャンプ場でも洗濯はできるのだが、青森まで無洗濯でいけるので安心だ。洗濯と乾燥をしながら溜まっていた日記を書き進めて、乾燥が終わると21時を過ぎた。ホテルから歩いて夕飯を食べつつ晩酌できそうな店を探す。弘前駅前が市街地というわけでもなく、市街地が分散しているイメージである。ちょっと雰囲気の若い居酒屋に入り、津軽の郷土料理 イガメンチをつまみにする。イカの食感と香りがありながら、刻んでまとめて焼いた香ばしさでビールが進む。夕飯を終えてすっかり満足してホテルまで歩いて戻り、明日以降の走りの作戦を考えつつ眠りについた。

古い建物を生かしたスターバックス


弘前駅前のねぷた


弘南鉄道


弘前名物 いがめんち


嶽きみの天ぷら


ビールにもよく合う



   出発(山形県新庄市)から 645.57 km

13日目 弘前 → 黒石 → 黒石温泉 37.42 km
 2016/08/18
 十和田湖の南の発荷峠から十和田湖に下って滝ノ沢峠に上がって北岸の山を回ろうとしていたプランをやめて、弘前から30kmほどの黒石温泉郷で一泊、そこから滝ノ沢峠アタックと十和田湖の北岸の山越えルートを1日で制するプランに変更して、ネットの調査で寝られそうな場所も見つけたので、今日はだいぶ余裕が出てきた。昼前から30km走れば取りあえずOKだ。
 雨で落ちたチェーンの油を注し直して、ブレーキワイヤーの曲がり癖をタイラップでフレームに固定し自転車の不調に対して対策を行った。新車からメンテしていない領域は色々とガタが出始める時期に来ている。ホテルを出発し、まずは朝飯ということで津軽そばを食べに行く。朝から営業しているのは弘前駅の蕎麦屋しかないようだ。麺は大豆が練り込んであって1日熟成する他の蕎麦とは異なる製法だ。魚の利いた出汁に少し豆腐か大豆のあっさり感もある蕎麦は、なかなか美味しい。
 駅から弘前城方面に向かいつつ、途中の最勝院へ立ち寄るが道が分かりづらく迷いつつ進む。弘前大学の学生寮や下宿のあるエリアなので、弘前大学OBではないが何となく懐かしい雰囲気の中を行く。途中に湧き水の湧いている小屋があったり自然の豊かさがある青森の内陸を感じていく。最勝院を見つけて自転車を置いて見物していく。日本最北となる五重塔が建っている。すっきり晴れた青い空に渋みの入った朱色の塔が映える。岩木山神社も同じような色味だったが、この渋みのある朱色は東北の寺社の特徴だろうか。手水舎では龍の口から水が出ていたり、狛犬がウサギだったり何となく個性的な寺に見える。

弘前駅で津軽そば


龍の口から水が出る取水舎


日本最北 最勝院の五重塔


ウサギの狛犬


最勝院 本堂


弘前の青森銀行記念館

 続いて、昨日行けなかった藤田記念庭園へ行く。庭自体は弘前城と比べてそんなに歴史が長いわけではないが、滝や池があったり広々として立体的な造形の庭と向こうにそびえ立って見下ろしてくる岩木山の眺めは見事だ。津軽平野にそびえ立つ独立峰が津軽で愛され尊敬される山であることが分かる。山様は見事としか言いようがない。晴れた空と津軽平野の組み合わせの中にあるのが似合う山だ。庭園の中にある喫茶に入る。弘前はリンゴの大産地なので、アップルパイを色んな喫茶店で出している。ここの喫茶店は一つの店でいろんなのを選べるようになっている。濃厚なリンゴジュースと、サクサクのパイ生地に包まれてしゃりっとして甘酸っぱいリンゴが見事な味だ。甘い物はそんなに得意ではない俺だがアップルパイは好きなスイーツの一つである。
リンゴジュース


藤田記念庭園


藤田記念庭園と岩木山


藤田記念庭園の喫茶室


絶品のアップルパイ

 庭とリンゴに満足しても、まだ時間はあるので次の観光に行く。やはり昨日は閉館していた弘前ねぷた館に寄っていく。大型の観光施設なので土産なども大充実しているので見て飽きない。建物の中ではねぷたがいくつも置いてあり、迫力と美しさの両方を楽しめる。この祭りも一度は生で見たいところだが、東北の三大祭(仙台の七夕、秋田の竿灯、青森のねぶた)+弘前のねぷた いずれも夏休みの直前なので参加が難しい。サラリーマンであるうちは見れることはないのだろう。
 これで弘前に思い残すことは今のところなくなった。一つの市街地をこれほどじっくり観光できたのもスタートやゴールの街以外では久し振りだ。これぐらいの急がないっぷりが大事だろう。台風の影響が去ったこのタイミングで暑さが戻ってきた。明日からの燃料や食料の補給も考えないといけない。今持ってる燃料でキャンプ3回やるとガス欠しそうだが1本買い足すのは多すぎる。積極的に火を使うしかないと思われるが、足りないのも困るので買っておく。日差しも厳しく蒸し暑いが道自体は黒石へ向かって4車線なので速度の高い車たちから追い風をもらいながら走る。青い空と強い日差しの中で走るのも、藤里の峠越え以来だし速度がしっかり出る走りで言うと、能代から藤里へ向かった日以来なので、久々という感覚でもある。
 街の名前に田舎と言い切ってしまう大胆さには頭が下がる思いの田舎館(いなかだて)の道の駅まで走ったところで遅めの昼飯にしたいところである。まだまだ連休の混み具合が抜けて無くて、レストランは待ち時間が長い。軽食も良い感じのがない。ということで、ここでの昼食は諦めることにする。ちょっとした遊具もあったり公園か遊園地のような道の駅には展望タワーがある。有料だがこれを上ると田んぼアートが見られる。シンゴジラが写真に収まりきらないスケールで見事である。どうやって作ってるのかと思ったら、稲の葉の色が違う品種を絵柄に合わせて植えているのだ。苗のうちから出来映えを予測するのは凄い職人技であり、驚きを隠せない。
 空腹に耐えながら道の駅を出て黒石の方へ走り出す。ここまで来たら黒石名物のつゆ焼きそばを食べていくしかないだろう。国道から曲がって黒石の市街地へと向かう。ちょっとした上り坂と狭い市街地を抜ける。店を探しながら走ってみるが、ランチタイムを過ぎた時間帯なので開いている店は飲食店以外になってくる。駅の前に開いている店があったので入ってみる。今日は暑いので汁物は避けたい気分ではあるが、つゆ焼きそばを頼んでみる。普通の焼きそばと同じぐらいの時間で出てきたが、香ばしいにおいは店には漂っていないように思える。ソース混じりの和風の醤油出汁と食べてみると確かに「焼きそば」と思える麺が不思議な味わいである。しっかりした濃い味つけは意外とはまる味である。

ねぷたの造形美


ねぷたの大きさと美しさ


田舎館の田んぼアート展望台


田んぼアート シンゴジラ


黒石駅前のつゆ焼きそばの食堂


黒石つゆ焼きそば

 暑い日に熱々の汁物を食べてバテそうになりながら店を後にする。この旅でゴールに辿り着く前では最後の市街地と思われる黒石で生鮮食品を買っていく。荷物に詰め込んだらパンパンになってしまう。食材のコンパクトかつ野菜が傷まない収納方法は一つの課題である。黒石の市街地を出て進むと徐々に道が上り始める。国道のICを過ぎたら道は4車線から2車線になり、またしばらく進むと温泉街が見えてきた。
 温泉街の一角にある津軽こけし館に立ち寄る。営業時間はまだ大丈夫そうだ。土産物屋の2Fが展示館になっているので階段を上っていく。階段の上にはずらっと東北各所のこけしが並んでいて不思議な迫力がある。暖かみのある木を丸く削ってシンプルな造形に柄や顔が描いてあるだけのものだが、個性や愛情を感じる。

津軽こけし館の こけしたち

 こけしを見終わったら、黒石温泉郷で風呂に入っていく。温泉街を少しずつ上りつつ日帰り入浴をやっている宿を探すと、1軒の温泉旅館が見つかった。平日とあって客のいる気配はないが営業はしている。駐車場の隅にある小屋に自転車を立てかけてワイヤーでロックをしておく。固定相手はいないので後輪とフレームだけを括っておく。まだ誰も入ってない明るい時間帯の一番風呂は気持ちが良い。この後でダムの上まで自転車で走らなかったら最高なのだが… さっぱりして外に出ると小雨がぱらついた跡がある。宿の人が倉庫に自転車を入れてくれたのは良いのだが、ワイヤーがついたまま入れたので、ワイヤーロックがチェーンホイールと絡まっている。もの凄く被害が大きい状態でワイヤーをほどくと湯上がりで火照っているので汗をかいて手が真っ黒になってしまう。風呂に入った意味はなく、ベースにある加齢臭を落としただけのことでしかない。温泉旅館で水道を借りて手を洗って出発する。
 旅館から国道まではきつい上り坂が続く。ここはダムの下なのでダムの上まで上る必要がある。それでも夕暮れで日が傾いたら涼しくなってきて、意外といつものように大汗かかずに坂を登り切る。ダム沿いの比較的平坦な道を走ると道の駅にたどりつく。スタンプを押そうと思ったがすでに閉館していた。道の駅の奥にやたら広い公園がある。池があってカエルの鳴き声が大きく響く。広い芝生の隅のベンチに自転車を立てかけて、完全に真っ暗になった広場の隅でテントを張る。日没で人が来ることはまず無いだろう。ヘッドランプを点灯すると虫が寄ってくるので消灯して月灯りだけで作業を進める。何というか、完全に野生動物と同じ感覚だ。
 テントを張り終えたら夕飯を作る。黒石のスーパーで買ってきたナスと豚肉を炒めてご飯のおかずにする。道の駅の駐車場の隅っこで野宿というのを想定していたのだが、意外と快適な一泊になる。明日はこの旅で最大の山場ということで気合いも入るところだが、意外と気楽な気持ちで眠りについた。

久々に買い出し自炊で枝豆



ようやく使い切った新庄の丸ナスと
青森産のアスパラガス



   出発(山形県新庄市)から 682.99 km

14日目 黒石温泉→滝沢峠→御鼻部山→十和田湖子ノ口 46.39 km
 2016/08/18
 朝は早く目覚めた。さっとテントを畳んで撤収する。道の駅なのでトイレも完備されていて自販機もあるので補給も万全である。ダム沿いの道は意外と長く平坦な道が続く。道の駅沿いだけでなく公園が何カ所か整備されている。ダム湖が終わると渓流沿いの道を上っていくような雰囲気になってきた。ふとここでオリンピックの結果が気になって携帯電話が圏外になる前に…ということで調べる。何と吉田沙保里は銀メダル。ネットのニュースを見るだけでショックは隠せないところだ。4連覇をして欲しかったが、あの人も「人間」だったんだな…と少し安心したような気持ちではある。
 徐々に日が昇ってくると暑さが増してきた。だが、地図で見る限りでは順調なペースで上がっている。途中で2箇所ほど快適な休憩所があって休憩もできて上りは順調だ。旅の終盤で疲れが隠せない場面も十分に想像できるところだが、意外と力強い走りが出来ている。すぐそばをサラサラと流れる川のせせらぎを逆流しながら気持ちよく走って行く。途中は深い森の中をずっと進むため下界の眺めも上の方の山の眺めもなく、ひたすら峠だけを目指して走り、外界からの情報も無いストイックな走りになる。
 予想していたペースより早く上って行ったが、やはり滝ノ沢峠の手前まで上り詰めると一気にペースが落ちてきた。ペースが落ちてくると体の周りにアブやメマトイが寄りついて来る。あまりに鬱陶しくなって森林香を焚いてフロントバッグの上に載せる。顔の近くに煙が来るように構える。そこまでしても森林香が落ちない程度のスピードしか出ないので問題は無い。だが、残念ながら全く効果がないようだ。目の前に持ってきて煙を直接浴びせてもメマトイは離れない。絶滅させたい生物の一つである。
 11時には分岐の看板が見えて、滝ノ沢峠に辿り着いた。広い転回所と道路を挟んで湖側の崖に小さな展望台がある。それ以外は森に囲まれ眺めはない。展望台のそばに自転車を止めて展望台を上る。木々の間から十和田湖を見下ろせる絶景がある。ただ、木が多いので視界は広くない。やはり景色は今日の最高地点 御鼻部山まで待てという感じである。ネットの情報だと、この辺りに自販機とか売店とかありそうだったが、全くない。改めて調べようと思ったら携帯電話は圏外… まあ仕方が無いだろう。

さらさら流れる川に逆らって上る


十和田湖の外輪山へ登る


滝ノ沢峠から十和田湖の眺め

 水分補充は諦めて、十和田湖を囲む外輪山沿いの道路を上り始める。外輪山の尾根伝いなので道路の右と左はいずれも傾斜が付いて下っている。右は木々を挟んで向こう側は十和田湖へと落ちていく崖、左は原生林が広がっている。湖を右に見ながら走っていくシチュエーションを想像していたが、湖が見えることはほとんど無く森の中の上り坂を延々と上っていく。問題のメマトイの数も多い。手で追い払いながら、森しかみえない変化のない上り坂に苦しみながら走って行く。
 御鼻部山に地図上では近づいたと思われるところで、尾根伝いの道が山へ登るワインディングに変化してきた。やっと本領発揮と言いたいところだが、もう標高も900mを越えているからか体が言うことを訊かないところまで疲れが出てきた。西側にせり出したカーブで一度休憩をする。十和田湖側は見えないが、岩木山方面の下界が見下ろせる。広がっていく原生林の眺めが心地よい。ただ、天気は芳しくなく岩木山までは見渡せない。だいぶ高いところまで上ってきたという実感は十分に感じられる景色に満足する。
 もう御鼻部山(おはなべやま)は近いだろうと思って進めて行くも、傾斜もきつく体力も残っていないので苦戦する。なかなか頂上に着かないという印象である。深い森の中で続く坂をグイグイ上っていく。傾斜も尾根伝いと言うよりは完全に山登りになっている。昼の2時頃にやっと御鼻部山の展望台に辿り着いた。標高1011mなので今年初めての1000m越えとなる。一昨年GWの仁田峠以来なので、ここまで本格的な峠は久し振りだ。満足感と達成感でぱーっといきたいところだが、ペットボトルに残された水はわずかしか無い。このまま子の口(ねのくち)へと下るだけとは予想しているが、上り返しがあると一気に消費しそうなのでキープせざるを得ない。
 展望台からはご褒美とも言える景色が見渡せる。静かな湖面に空と雲が映り、湖に浮かぶ島や突き出た半島の森が印象的で美しい絶景である。上ってきた甲斐が十分にある御鼻部山の眺めをしばらく独占する。すると車で上がってきた夫婦が来たところで、霧に隠されてしまった。もうしばらくすると、これから下る方向からロードレーサーが上がってきた。サイクリング大会のコースを巡る旅を趣味としている ややストイック系の旅人で話が盛り上がる。ただ、景色は回復することは無いまま雲の切れ間を待つ。
 残念ながら雲の切れ間が訪れることはなく、霧の中を下っていく。メットをしっかり被ってライトを点灯して急な坂を慎重に下っていく。こんなところで遭難したら、ほぼ人は来ないだろう。しばらく進むと、やっと霧は晴れた。というか雲の下に入った。道は狭くてカーブは鋭いのでスピードを上げることはなく、ブレーキで踏ん張りながらの下り坂が続いていく。
 滑り止めの段差を何段か越えたあたりで、後ろから異音が聞こえ始めた。輪行袋とトレッキングシューズをまとめて入れていた防水袋がキャリアから外れてしまって、ぶら下がっている。休憩中に立てかけて置いた自転車が倒れたのが原因だろう。路肩で荷物を修正して、また下っていく。今度は雲もなく眺められる低めの展望台から眺めてみるが、御鼻部山の方が感動が濃い。

外輪山の尾根を回りながら上る


白樺などの原生林が気持ちいい


岩木山方面の原生林を見下ろす絶景


登り切った御鼻部山 1011m


御鼻部山展望台からの十和田湖


下りの途中から見る十和田湖

 やっと十和田湖の湖面沿いに下ってきて、平地を落ち着いて走って行く。子の口の食事処に辿り着いたところで、遅めの昼飯にする。さっきのロードレーサーの人もここで昼飯にしているようだ。閉店時間間際だが、山菜とヒメマスの天ぷらが載った奥入瀬そばとヒメマスの塩焼きにする。疲れた体に出汁と醤油の塩分が染み渡る。ヒメマスも清らかな湖で育ったからかクセも無く澄んだ味である。遅い昼飯にすっかり満足すると、店側も慌ただしく閉店準備を始めていく。
 もう1本坂を上ってから下るという元気なローディーを見送ったら遊覧船の乗り場でスタンプ収集をする。夏の十和田湖は大学生ツーリングのメッカでもあるので学生の集団はいっぱいだ。キャンプ場もいっぱいにならなければ良いが、もう少し進むのだろうか。それでも夏休みの繁忙期はすでに過ぎているからか遊覧船乗り場の職員も暇と言えば暇で俺との話に花が咲く。住んでるところ、出発地、出身地 全部説明してると面倒なので、ついつい山形を出発した山形の人という体で話をしてしまい、山形の話がいっぱい出てきた。正直、地元では無いので話に戸惑いが隠せない。うまくコンパクトにそこを説明する方法を手に入れたいものである。
 最終の遊覧船を見送ったらキャンプ場へ向かう。情報収集をしてみたところで、この辺りに店は無く、岬の峠を越えた向こうにようやく店があるぐらいだ。手持ちの食品で今夜と明日の夜は乗り切りたいところだ。肉や魚などの生鮮食品はないが、野菜とインスタント食品なら手持ちは十分にある。ほぼ平らな湖沿いの道を進んでいく。遊覧船の拠点にもなってるので、船のドックなどもあって湖とは思えない景色もある。
 しばらく走ると岬を通り抜けるトンネルと湖沿いにキャンプ場へ向かう道に分かれる。キャンプ場へ向かう道へ進み、さらに行くとダートが始まる。26HEとは言えオンロード仕様なので慎重に進む。受付とトイレとコインランドリーがある立派なキャンプ場管理棟に着いた。受付を済ませて、ほぼ自由といった感じのサイトへ自転車で入っていく。まだ明るい時間なので場所選びも快適にできる。せっかくなら湖に面した場所が良いので、隣との距離をギリギリで保ってテント場所を決める。

奥入瀬そば


十和田湖のヒメマス


十和田湖の遊覧船


子ノ口から十和田湖と御蔵山


念願の十和田湖畔でキャンプ

 テントを張ってから気付いたが、この辺りは蟻が多い。作業してる時に置いた荷物や俺の足につきまとってくる。虫に入られないよう気をつけながらテントに荷物を放り込んで、着替えや風呂セットを取り出す。管理棟に歩いて行ってコインシャワーを浴びて出てくる。コイン1枚でシャワーを浴びるテクニックも俺の中では当たり前になってきた。峠で汗臭くなった体をさっぱりさせたらテントに戻って夕飯の準備をする。炊事場で水を汲んでテントの前でパスタを茹でる準備をする。まずは具の部分を炒めていく。オリーブオイルでニンニクを揚げ炒めにして香りを引き出して、ナスとプチトマトを入れていきます。しかし、点灯してるランタンに羽アリが集まって来ます。消しても集まってくる数は減らず足元やフライパンにバンバン入ってきて追い出すという作業が続き、さすがに鬱陶しくなります。
 テント前での夕飯作りを中断して、炊事場へ移動する。床がコンクリートの分だけアリの巣などもなく羽アリの数が減る効果を期待したのだが、灯りがあることで集まってしまい大差ない状態だ。こまめに追い払いつつ進めていく。具は目処が付いたところで、月山で買ってきた月山そばパスタのフェットチーネを茹でる。茹でてる鍋にも羽アリが飛び込んで来る。スプーンですくっては捨てて作るもとにかく集中できない。虫除けや森林香など全く効かない。ネットで調べても有効な防御策がないようだ。出来上がったものの俺の集中力の無さがそのまま味に表れてしまい残念なパスタとなってしまった。何だか食材に申し訳ない気持ちである。奥入瀬地ビールだけを楽しみつつの虫を追い払う作業に追われて慌ただしい夜である。今日は800m UP、明日は600m UP 苦手だった山岳コースを積極的に走り、2日連続の山場に向けて気合いの入る夜である。

十和田湖 奥入瀬ビール


虫との格闘をしながら作った
月山そばパスタ



   出発(山形県新庄市)から 729.38 km

15日目 十和田湖子ノ口→奥入瀬渓流→十和田温泉
→八甲田山 谷地温泉
32.24 km
 2016/08/19
 昨夜の羽アリとの格闘から一夜明けて、すかっと晴れた穏やかな湖面がきれいな朝だ。昨日の御鼻部山に登れば湖の眺めも良いだろう。また上るか。いや冗談。買っておいたパンで朝飯を済ませて出発する。2日連続の山場と言っても前半は湖畔と奥入瀬渓流の下りなので気分は楽である。昨日の夕方以上にすかっと晴れているので、湖面の眺めは素晴らしい。前回の旅でも秋田県から下りてくる峠で眺めたのを最後に、十和田湖は雨だったのでこの景色は気持ちいいし、十和田湖に来た意味が成せたと思う。
 観光案内所に寄ってみると奥入瀬渓流を片道11km歩く遊歩道が人気のようだ。俺も歩きたい気分はあるものの、やはり後半の山場に向けて寄り道のしすぎは禁物である。湖から流れてきたとは思えないような澄んだ渓流や豪快な滝を楽しんでいく。道の右へ左へと川が移り、川面は道路からも近くて気持ちが良い。上を見上げれば夏の原生林が青々として気持ちが良い。途中の見所にも全く事欠かない素晴らしい道で、しかも下り坂というのが有り難い。

静かな十和田湖畔の朝


鏡のような湖面と御蔵山


渓流沿いを下っていく道



鏡のような十和田湖越しに
外輪山と御鼻部山を眺める


銚子大滝












 車の数は少なくないので下りとは言え速度は上げられない。傾斜は緩いので体力を消費せずに走りと景色を楽しむというユルいサイクリストとしては理想的な走りで進んでいくとビジターセンターまで下りきった。ここで本格的に休憩をしていく。奥入瀬渓流の写真が展示してあったりで休憩の拠点としては良い。白神山地以来のアイスを楽しんで出発する。しばらく進むと、また奥入瀬渓流の観光拠点である奥入瀬渓流館に着いた。十和田湖や奥入瀬の自然が展示してあるビジターセンターで見応えがある。ひょうたんから穴をくり抜いたランプも印象的である。
ひょうたんのランプ


奥入瀬渓流でソフトクリーム


結構、緻密な造り

 もうすぐ正午というところで十和田温泉郷に辿り着く。ここからは八甲田山に向けた上り坂が始まるし、峠の途中で飯を食う場所があった記憶がないので、ここで昼飯にする。メニューは即決で十和田バラ焼き定食だ。B-1 GPのチャンピオンにもなったことのある一品なので楽しみである。牛肉を醤油と砂糖で焼いて多めのタマネギがある。味はやや濃い目だが、溶き卵を絡めて食べるとあっさりとする。元気が出る味で美味しい。ただ、一言で言うと反則である。これはB級グルメではない。AとBの境目がどこにあるのかは分からないが、Aに差し掛かっているクオリティだ。
 早めの昼飯で満腹になった状態で、八甲田山に向けて登っていく。今日は少し時間シバリがある。目標地の田代平(たしろたい)に温泉がなさそうである。作戦としては上り詰めたところにある谷地温泉で日帰り入浴をして、坂を下って田代平に行こうという作戦である。ただ、谷地温泉の日帰り入浴は17時までということで、16時半には辿り着かないと入浴できないことになる。汗をかく峠の後で入浴できないと、臭みが出てくるので避けたいところである。気分的な焦りとは裏腹に今日は汗が吹き出るどころか流れまくるほど蒸し暑い。なかなかペースも上がらず、600mUPを4時間半というリミットで上り始めた時間がどんどん消費されている。
 途中にある蔦温泉で入浴はしないが小休止していく。キンキンに冷えた飲み物が有り難いほど暑さでバテている。汗を吸いまくったタオルも水道で洗って濡れタオルにする。蔦温泉の時点で1時間半が経過している。高低差を地図で見る限りではペースは決して悪くはない。道路から蔦沼を見下ろしたあたりで、サイドバッグにポツッという音が鳴る。見たことのない形をしたクワガタがいる。子供の頃だとテンションが上がるところだが、今でもテンションは上がる。指に止まらせたりで戯れたあとで、車に轢かれないよう森へと戻す。
 突然、雨がボツボツと降り始めてきた。深い森の中を上っているし木々の葉に雨を防いでもらいつつ今日は晴れのまま走りきりたいという願いも空しく、雨足が一気に強くなって背中に打ち付ける雨粒が痛く冷たいのでレインウェアを着る。こうなると雨モードに頭を切り換えるしかないが、意外と気分は悪くない。いつもと違いハンドルの手前では無く奥の方をつかんで前傾姿勢でペダルを踏み込んでいく。最後の山場に土砂降りの雨、風呂に入るための時間シバリ… かなりの試練だと思ったのだが、意外と気持ちは明るい。今日は蒸し暑くてしょうがないので、ちょうど水浴びをしたかったところで理想的なコンディションだ。夏休み前に実家に帰った時に姪っ子たちとプールで遊んで、水のかけあいになった時のハイテンションに近い状態である。クールダウンされる体と前傾姿勢が良いのかペースは上がるし足が地面に着く頻度が大幅に減る。

十和田バラ焼き
甘辛の牛肉とたっぷりのタマネギ


ポツッと落ちてきた珍客


八甲田山への上り坂

 ブナやヒバの森の中を雨に打たれてグイグイ走って行くと、ついに谷地温泉へ行くか田代平に下るか傘松峠に登るかの分岐に辿り着いた。時間も15時半と予定でありリミットより大幅に前倒しできている。最後の最後に強い走りが出来たというのは本当に喜ばしいことである。相変わらず降り続く土砂降りの雨の中を谷地温泉の方へ少し坂を上る。坂の奥に素朴な温泉宿があり、無事に最高地点となる谷地温泉まで登り切った。
 雨が比較的当たらない軒先に自転車を置いて、着替えなどを取り出して風呂に入るべくフロントへ行く。ここで俺に魔が差した。どうせ雨だし田代平に下ってキャンプしても楽しめる要素はゼロだ。いっそ宿に泊まってしまうか?という悪魔の囁きというか野生の直感が働いた。フロントに空室状況と値段を聞いてみる。空室はある。値段も1万円少々ということで、現金としては十分持ってるし不可ではない。15秒ほど深く悩んだ結果、日帰り入浴をやめて宿泊へと切り替えた。そうと決まれば気持ちは大きい物である。自転車の防水を強化して、充電セットなども持って一度部屋に荷物を置いてから風呂に入りに行く。露天風呂も何もあるわけではないが、檜と石の浴槽には贅沢な掛け流しの温泉が溢れている。ぬるいお湯と熱いお湯を使い分けて、のぼせやすい俺でもじっくり楽しめる温泉である。
 風呂を満喫したら部屋で日記を書いて晩飯を待つ。携帯電話も圏外で雑念は全くない状態になる。宿に引き込んでいる水も八甲田山の湧き水なので、ひんやりとして柔らかな飲み心地である。何とも贅沢な一泊だ。徐々に日が暮れて19時には天気が悪いこともあり真っ暗になる。待望の夕食は贅沢な旅館の料理で、山の中とは言え海に囲まれた青森の魚とイワナと十和田の地酒で大満足の夕飯は進んでいく。日本三秘湯と言われる温泉宿で贅沢な一泊を満喫する。自転車で走ってキャンプで自然そのものや自分の料理の腕を楽しむ一泊も好きだが、たまにはこういう温泉宿の贅沢なおもてなしを楽しむのも良いだろう。天気が悪いと分かっている日や天気が悪い日は多少の計画変更があっても温泉宿を活用するのも旅を楽しむ手段として良いという今さらながらの発見だ。夕飯の勢いは収まらず部屋に戻っても酒を楽しむ気の抜きっぷりである。
 明日は長い旅 そして30代の最後まで走りきった旅の最終日。最後まで楽しみ気を抜かずに走りたいところである。

やっとたどり着いた谷地温泉


谷地湿原の眺め


十和田の地酒で晩酌を楽しむ


谷地温泉の豪華な夕飯


イワナの塩焼き



   出発(山形県新庄市)から 761.62 km

16日目 八甲田山 谷地温泉→田代平→青森 43.24 km
 2016/08/20
 最終日の朝も雨はやんでいるものの空はどんよりと曇って濡れた地面を見るスッキリしない天気のまま迎える。天候は良くないが霧など視界不良ではないのでウェットの路面にだけは気をつけて行けばよさそうだ。自転車に荷物を詰め込んで八甲田山の天然水をペットボトルに充填する。ここで宿を出発地にしたトレッキングをしようかとも思ったが、雨上がりの一人歩きも危なっかしいので取りやめて下ることにする。
 谷地温泉から国道に合流し、田代平の方へと下っていく。ウェット路面なので走りは慎重だ。だが、ほとんどの車は傘松峠方面へ行くので、こっちの車通りはほぼない。過去に行き残していたルートばかりで組み立てた今回の旅はこういう展開が多い。車が多い国道をひたすら走ったり、車の通過の度に神経を研ぎ澄まさないといけない峠よりは気が楽で良い。

最終日も冴えない天気の中
谷地温泉を出発

 坂を下りきると田代平の高原に出る。広々とした牧草地帯の真ん中を貫く道を緩くアップダウンしながら進む。本来は左に雄大な八甲田山を見上げながらのルートなのだろうけど、さすがに全く見えない。まあ仕方無いだろう。
 昨夜泊まろうしていたキャンプ場の前まで来た。雨を防ぐこともできず草が生えてテントが濡れ放題でキャンプは見送って正解だろう。日帰り入浴はキャンプ場のすぐ側の土産物屋さんで出来そうだが営業時間など詳しい情報はない。十和田温泉以来の携帯電話通話圏かと思ってスマホをいじってみるがアンテナ本数が1と圏外の間をさまよっている。もしかしたらと思ってトライしてみたがダメだ。
 田代平の高原を抜けると、また道は深い森の中に入っていく。坂道はさほどきつくもなく5kmほど順調に走って行く。すると右の田代平湿原へと向かう分岐に出る。せっかくなので田代平湿原はトレッキングしに行く。上り直すのが面倒だから下らないでくれという願いも空しく坂道は下っていく。少し下ったところで八甲田温泉と湿原の駐車場に出た。温泉は長期休業に入ってしまっている。やはり昨夜は谷地温泉で正解だったことを確認する結果となる。
 湿原のトイレの建物の陰に自転車を置いて、トレッキングに出かける。コースは木道がありそうなので、トレッキングシューズには履き替えずSPDサンダルのまま歩いて行く。しばらくはガレ場を歩いていくが、木道と共に湿原を真っ直ぐな道で抜けていく遊歩道が整備されている。今日は天気が悪いので景色らしい景色はないものの雨と霧で濡れる湿原も晴れた日の湿原よりは風情がある。色んな湿原を見に行ったが天気が良すぎると単なる草原と見た目に違いはない。それでも草の間に見える水がたまった池は単なる原っぱと違う湿原を感じさせる。ウメバチソウやサワギキョウの花を見ながら夏の湿原をトレッキングするのは気持ちが良い。
 周回路の半分ほどを回ったところで右には背丈を越える高さの藪が表れる。そこを歩いているときに獣の息とグルルといううなり声が聞こえた。背筋が凍るほどの恐怖である。小さい動物でもないし聞き慣れた犬でもない。まさかツキノワグマ!? ささっと藪の横を通り抜けて見通しの良いところまで歩いて振り返る。藪から何かが出てくる気配もないし、藪の草が動いてる様子もない。単なる聞き違いにしてはリアルだ。今年は遭遇事故が多発しているツキノワグマにビビりつつもいつでも写真が撮れるようデジカメと携帯電話を両手に持ってしばらく藪の方を見る。根拠のない野生動物としての自信の現れである。危なくない距離であれば、一昨年の知床、2009年の東北 角館から秋田へ向かう峠で2回ほど熊に遭遇したことはある。うなり声が聞こえるほどの距離での遭遇はさすがにない。せっかく声が聞けたなら見たいところだが、単なる思い違いだろうか。首をかしげつつ続きの遊歩道を歩いて行く。ただ、大きな緊張感と周辺への神経を尖らせて歩いて行く。本当は湿原越しに雄大な八甲田山を見て、向こうを歩くツキノワグマなども見ることができる湿原だろうけど、霧こそ出てないが視界は残念な結果である。

田代平の池


どんより曇った空の下でトレッキング


湿原らしい水たまり


ウメバチソウ


湿原の眺め





 本当にツキノワグマと接近したのか知りたくてしょうがないところだが、トレッキングを終えて自転車に戻ってきた。少し進んだところにタンポポコーヒーが飲めるカフェがあるようなので、立ち寄っていくことにする。自然いっぱいと言った感じの雰囲気で手作りっぽいログハウスとツリーハウスがある。表には八甲田山の湧き水も湧いている。これがコーヒーを入れるときに使う水だそうだ。ログハウスの中も手作り感のあるテーブルやイスが並んでいて、趣味の物が飾ってある。タンポポコーヒーとブナの実が入ったクッキーとゼリーが付いてくる。タンポポコーヒーは初めての体験ではあるが、思ったほどタンポポの根の土臭さとかはない。香ばしく仕上げたブナの実が美味しい。
たんぽぽコーヒーのカフェ


手作り感のカフェ



タンポポコーヒーと
ブナの実クッキーとゼリー

 カフェを出ると空は晴れ始めている。夏の強い日差しと雨上がりで蒸れた空気がコラボしている。まだ少し上り坂が続きそうなので、このコンディションは少し苦手である。蒸し暑く感じるようになってきた空気の中でさっき下りてきた道を上り直す。また県道に戻って、次は雪中行軍像を目指して走って行く。進むにつれて森が深く霧が濃くなってくる。途中には露営地と書かれた雪中行軍の何かと関係ありそうな史跡がある。霧の濃さがピークになってきた時、分岐と共に右側に大きな駐車場と銅像茶屋と書かれた建物が見えてきた。今日は買い置きのパンで昼飯になってしまうかと思ったら、食事処や土産物もある店である。雪中行軍記念館なども併設されているが、まずは昼飯にする。おでんのセットととろろ蕎麦で腹を満たそうという作戦だ。おでんがとにかく美味しい。ショウガの香りの効いた味噌がよく合う。ショウガでハッキリした味になりそうだが、具材と合わせると味は優しい。具材もタケノコなど珍しい。
 飯を食い終えたら、雪中行軍の内容が分かる記念館を見ていく。どういう経緯で山に入って行ったのかと、なぜ八甲田山は標高が高くないのに厳しい気候になって大惨事になったのかという情報やいきさつが分かる展示になっている。しばらく見入ってから、銅像へと歩いて行く。濃い霧が立ちこめる山の中の階段を上っていくと、大きな銅像が立っている。本当は八甲田山を背にしているのだろうけど、景色は全く無く霧の中に浮かぶようにしか見えない。
 もう後はゴールである青森に下るだけである。銅像茶屋を出て少し坂を上ったら、急な下り坂が始まる。雨は降っていないものの霧は濃いし、路面は依然としてウェットなので慎重に進む。標高が下がれば霧はなくなるかと思ったが、なかなか無くならない。しばらく進んで国道に合流しても霧は立ちこめている。国道に入ると交通量は多くなるし、相変わらず坂もカーブも急なので怖さはある。そこは走り慣れたテクニックで車を前に流しながら速度と安定感を維持して下っていく。本来なら八甲田山と青森が見える展望台がある場所に立ち寄る。やっと携帯電話が通話圏内に戻ってきた。SNSとかやりまくるわけでもなく、LINEしまくるほど友達がいるわけでもなく、今はビジネスしてるわkでもないので、ほとんどスマホを見ない俺でも圏外が1.5日も続くと気になってしまうものである。現代人の性だろう。

青森のおでん
ショウガの効いた味噌が独特の味わい


とろろそば


八甲田山 雪中行軍の銅像

 体を休め情報社会に復帰した安心感を持って、さらに坂を下っていく。大学時代に酸ヶ湯温泉から下りを満喫した記憶はあるが、今だと車の多さも気になるし車の速度に完全に追従してるわけでもないので恐怖感の方が強い。それを克服しながらカーブをこなしていく。徐々に森から丘の景色に変わってくる。下りの直線でスピードを上げて交差点で信号に引っかかって止まったところで絶好調のダウンヒルは終了した。景色は完全に青森の市街地へ向かう感じで住宅街や店が並ぶ。交通量も多くなり速度も上がらない。秘境からこういう場所に帰ってくると、旅の終わりも実感し始める。
 新幹線が出来てから青森の玄関口は新青森に変わりつつあるのだろうが、俺のゴールはやはり青森駅である。新青森の駅前を通過して市街地へと走って行く。30代最後の旅も完走のうちに終わりそうだが油断は禁物である。いよいよ見覚えのある青森駅へ向かう商店街に入る。人も車も多い地方都市の都会という感じの道を走り、徐々に青森駅へと近づく。
 駅前のロータリーを回って駅の玄関口に着いたとき、やっと俺の今年の旅が完了したと実感する。思えば、山岳連発のタフなコースと登山やダート走行や岩木山一周など充実したアクティビティを織り込んだベテランらしい良い旅が出来たと思う。30代の最後が思ったより元気な走りと旅が出来たことを喜びに感じ、完走の喜びをかみしめる。
 すでにホテルも予約済みなので、段取りに悩むこともない。まずは予約しておいたホテルへ向かう。駅のすぐ近くで分かりやすい。建物の陰に自転車を駐めてチェックインを済ませる。ホテルは温泉浴場と併設されているので、豪華な風呂に入り放題という特典もある。旅の疲れを温泉で癒やして、洗濯物をホテル内のコインランドリーに入れて洗濯する。その間に部屋で日記を書き進めていく。こういう動きにも手慣れたものである。
 乾燥まで終わったところで、ホテルを出て打ち上げに出かける。今日は日曜日でやや遅い時間となったからか開いてる店がもの凄く少ない。飲み屋街は閑散としている。それでも焼き鳥メインで郷土料理が食えそうな店を見つけて入る。山形県から始めて青森まで行くような長丁場の旅ができるのも、あと数年というところだろうし、タフなコースを走りきった喜びで酒が進む。ここ数年は北海道連発だったが、改めて東北の奥深さと楽しみを思い出す旅であり打ち上げとなる。

青森駅前に到着し、今年も完走!



   出発(山形県新庄市)から 804.86 km

17日目 青森市内 3.17 km
 2016/08/21 青森-青い森鉄道→新青森-東北新幹線→仙台→宇都宮
 天気予報を見る限りで、3つめの台風が東北地方に向かっている。岩木山一周の日、一昨日の夜に続いて、今日の午後にも東北地方に大雨をもたらしそうである。段取りはテキパキと済ませて、午後イチには新幹線に乗り込みたいところである。まずは仙台に向かいたい。仙台にさえ辿り着いていれば、昨年の経験から明日の朝の新幹線で宇都宮に帰っても出勤は可能だ。ただ、また水飲めない、何も食べてはいけないの健康診断モードにはなるので避けたいところだ。
 ラストスパートということで、青森魚菜センター名物の のっけ丼を朝から食う。朝市なので早朝から営業している。釧路の勝手丼とシステムはそっくりでご飯を買って、好きな魚や具材を買って載せてもらう。さすがの青森でマグロを中心として魚の切り方が豪快で大きい。マグロとホタテを中心に魚を盛りつけて完成した。勝手丼よりだいぶ安いようにも思える。新鮮で旨味が濃い。
 テキパキと進めていく。すぐ近くのAUGA新鮮市場で実家と目に入れても痛くないほど可愛い姪っ子たちと甥っ子に青森の名産品を送る。やはり鮮魚が良いので、青森産の本マグロとホタテを詰め込む。ちびちゃんたちにはシャイニーのリンゴジュースも付ける。リンゴのブレンドによって味を変えていたりして、ねぶたのパッケージが楽しく、さすがの青森クオリティで美味しい。朝の10時には発送の段取りを全て終わらせた。

青森魚菜センター名物 のっけ丼


産地のマグロとホタテ


大ざっぱな雰囲気に惹かれる


雰囲気の良い市場

 続いて、ヤマト運輸の営業所に行き、自転車以外の荷物を全て発送する。台風前の晴天で蒸し暑い状態の営業所の表で箱詰めをする。これも慣れたもので、テキパキと詰め込んでリアキャリアも外して箱詰めして、梱包を終わらせて発送する。お金も今は現金ではなく電子マネーが使えて便利だ。12時前には発送手続きも終わった。
 今回は青森市内の観光は一切しない。とにかく台風との競争である。ヤマトから青森駅に自転車で向かい、駅に辿り着いた時にちょうど大粒の雨が降り始めてきた。自転車も慣れた手つきでさっさとバラして輪行袋に詰め込んでいく。安定度も抜群で準備は終わった。油まみれになった手を洗って、駅内で土産も買って新青森行きの電車に乗ろうと思ったら、ちょうど乗り遅れた。新幹線の座席は予約してないので、青森駅で昼飯も食べて行こうということで、駅の中にあるレストランで食事をする。津軽海峡で養殖したサーモンとホタテのバター焼きで東北の旅最後の食事を楽しんでいく。歯ごたえと甘みや旨味の多いサーモンにぷりっぷりの食感が楽しめるホタテで大満足する。
 新青森を通る普通電車に乗り込んで、いよいよ撤収である。一駅で新青森に到着し乗り換える。本数が少ないからか立ち乗りがデフォルトになっている新幹線はすでにホームに行列が出来ていた。指定席券は買っていないので座るのは諦めているが、自転車込みで乗りこめるかが課題である。デッキは人でごった返しているが何とか乗り込んだ。あとは仙台まで走りきってくれれば帰路が見えてくる。こんなに青森の余韻を楽しめない帰りは未だかつてないだろう。また、この地には旅で訪れたいものである。台風で雨が降っていても320km/hで1分たりとも遅れることなく走っている。+20km/h分の差なのか山陽新幹線の のぞみ/さくら/みずほより車窓を流れる景色にスピード感がある。宇都宮近辺では260km/hしか出してないのでシルキーな乗り心地だが、300オーバーになってくるとモーターのうなり音や振動は感じられる。

自転車を詰め込んで旅は終了


焼きたての南部せんべい


列車に乗り込み撤収


津軽海峡のサーモン


ホタテのバター焼き

 盛岡でさらに人が乗ってきて満員状態になり、仙台に到着。仙台でやまびこに乗り換える。さっきのはやぶさの混み具合がウソのように空いている。仙台を定刻通り発車した。これで帰路の見通しが明るくなってきた。福島県あたりで風雨が明らかに激しくなっている。ホームに打ち付ける雨が横殴りなのが見えて、電車も横揺れを感じる。だが、それでも1分たりとも遅れない高速タフガイの東北新幹線は凄い。風雨は郡山あたりでピークを迎えるが、全く動じることなく逞しい走りを見せている。
 早めの出発が良い判断だったか、夕方には宇都宮に到着した。まだ雨と風が強く台風の余韻が感じられる。土産などの荷物も多いので輪行のままタクシーを拾って帰る。夕方7時には自宅へ帰り着いた。忘れ物を取りに行ったような旅でもあり、30代最後の集大成とも思える旅は満足のうちに無事に終わりを告げた。


   出発(山形県新庄市)から 808.03 km

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